視点 三人称
リムルが意識を失ってから数分もしない内に、ランガは魔国連邦へと帰還を果たした。既に魔法装置の破壊を終えていたベニマル達は戻って来た事もあって、全員揃ってリムルの出迎えをすることが出来ていた。
先程の『世界の言葉』は、どうやらベニマル達の耳にも届いていたようで、リムルが意識がない事にも、人型ではなく、通常のスライム型になっている事についても、特に動揺は見せず、速やかにリムルの台座を用意し、そこにリムルを座らせた。
「シュナ、エリス様の壺は持って来ているか?」
「はい。ここに・・・・・・」
ベニマルがシュナに確認を入れるとともに、シュナはすっと”一つの壺”をベニマルの前に差し出すと、そのまま台座の前に置いた。この壺には、エリスが生前、依代として憑依していた水が入っている。もし、リムルが魔王になり『反魂の秘術』が成れば、エリスはきっとまたこの水に戻って来てくれる。・・・・・・この二人、いや・・・・・・この町にいるすべての国民全員が、そう願っていた。
『告。『魔王への進化』による変化が開始されます。変化が終わると同時に、魂の系譜の魔物への祝福を授与します』
「いよいよじゃな・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
そこから、リムルの進化が本格的に始まる。種族が『粘性生物』から『魔粘性精神体』へと超進化をしたことを皮切りに、身体能力の大幅の向上に成功し、さらに数多くの新規固有スキルや耐性スキルの獲得に成功する。
そして・・・・・・『大賢者』は『世界の言葉』に自身のスキルの進化を申請する。・・・・・・まるで自分の主人の進化に自分も追従しますとでも言わんばかりのこの発言。『大賢者』に明確な意思はない。ただただ、主人の命令に従い、必要な情報のみを提供するだけのスキルだ。だが、この時ばかりは、その意思の片鱗とでも言うべきものが垣間出て見えているような気がした・・・・・・主人の望みを叶えたい・・・・・・そんな意思が・・・・・・。
『世界の言葉』は、これを受理。『大賢者』はそこから進化に挑み続けるが、何十、何百、何千と挑もうとも、一向に進化が成されることは無かった。普通であれば、この時点で諦めるのだが、この『大賢者』は・・・・・・諦めずに手を打った。
『告。『大賢者』が『変質者』を統合に『魔王への進化』の祝福を得て進化に挑戦・・・・・・・・・・・・成功しました。ユニークスキル『大賢者』は究極能力『智慧之王』に進化しました』
何千・・・・・・何万もの苦闘の末、『大賢者』はこの世の最上で最強のスキルとされている究極能力『智慧之王』へと進化を果たす。さらに、そこからは『智慧之王』の独壇場だった。進化したことで会得した『統合分離』『能力改変』でリムルの持つスキルを可能な限り最適化し、その最適化の果てに・・・・・・リムルのこれまでをずっと支え続けて来ていた『暴食者』を『心無者《ムジヒナルモノ》』を統合とする事で、二つ目の究極能力となる『暴食之王』へと進化させる。スキルがスキルの進化を・・・・・・ましてや究極能力へと進化をさせるなど、理論上は不可能。・・・・・・だが『智慧之王』は、その”100万倍”にまで引き伸ばすことが可能となった演算能力で、そんな理論さえ打ち壊し、不可能を可能としてしまう程の力を持つ。
・・・・・・まさに、究極能力に相応しい能力だ。
『智慧之王』へと進化を果たすと同時に、今度は系譜上にある配下達への祝福の授与が開始され始め、系譜上にある配下達は揃って強烈な眠気に襲われ、意識を失っていった。意識を失わなかったのは、ヒョウガ、セキガ、カレン、ガビル、その他100名の配下達と、ヨウムを始めとする人間や亜人達のみだ。ヒョウガ達はエリスに名付けをされた事もあり、リムルを軸とする系譜には載らなかったのだ。
「が、ガビル・・・・・・リムル様を・・・・・・頼む・・・・・・」
「べ、ベニマル殿!?急にどうしたのであるかっ!それに他の皆も!?」
ベニマルは、意識が無くなる寸前、近くにいたガビルにリムルの護衛を任せると、次第に意識を失っていった。
「兄上!?どうされたのですか!」
「妹よ・・・・・・我は少し眠る・・・・・・」
ランガも同様に、眠りにつく。
「シュナ!大丈夫!?」
「・・・・・・」(すぅ・・・・・・)
シュナに至っては、既に眠りについていた。
「一体どうなってるんだ?さっき、祝福を授与とか言ってたけど、もしかして・・・・・・これが・・・・・・っ!?」
「セキガ?どうかした・・・・・・っ!!?」
「「「「っ!!?」」」」
眠りにつく皆を見守る中、4人は突然目の前で起こった光景に、動揺が走った。・・・・・・簡潔に説明すると、彼らの目の前では、先程まで進化のために眠りについていたリムルが目を覚まし、人型の形となってエリスの壺を凝視していたのだ。それだけであれば、驚く必要もないのだが、驚く要素は別にあった・・・・・・。
「(・・・・・・なんでしょう?いつものリムルさんでは無いような・・・・・・雰囲気も全然違いますし、目が赤くなっている事も気がかりですね?)」
みんなそれぞれ、リムルの様子がおかしいことに違和感を覚えていたのだ。リムルの普段の目の色は琥珀色。今回は赤色。この時点で既におかしく、違っている。そして、雰囲気も違った。これほど”物静かで、張り詰めたようなピリッとした空気”を普段のリムルは出すことは無い。
・・・・・・この時、この4人や他のリムルを知る人間達は瞬時に判断した。
・・・・・・これはリムルでは無い・・・・・・と。だとすれば、誰なのだと聞きたくなってくるが、皆んな、妙に近づき難い空気を醸し出しているこのリムル(?)に直接聞くには少々渋ってしまっていた。今、リムルの体を動かしているのは、『智慧之王』なのだが、それを皆が知るはずも無い。・・・・・・すると。
〈告。『智慧之王』の名において命ずる。究極能力『暴食之王』よ、結界内の全ての魔素を喰らい尽くせ・・・・・・一欠片の魂も残さずに・・・・・・〉
能力の凶悪性で言えば、かなり上位に位置する『暴食之王』。その凶悪なる力が魔国連邦内の全ての魔素をくらい尽くしていく。そして、全ての魔素が『暴食之王』に吸収された頃には、この空間はただの純粋なる何も無い物へと変わっていた。最後に、残った結界を喰らった『暴食之王』は能力を停止した。
〈告。全ての魔素の吸収を確認しました。これより、『反魂の秘術』を開始します〉
そして、『智慧之王』が動き出す・・・・・・。
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「只今戻りました。我が君・・・・・・横槍を入れて申し訳ないのですが・・・・・・どうも、そのお方を蘇らせるのに必要な魔素量が足りないように見受けられるのですが?」
『智慧之王』が『反魂の秘術』を開始してからすぐ、この場に3名の悪魔が訪れた。声を掛けたのは他の2体よりも明らかに魔力量や威厳が違う、上位魔将だった。本人は、その後ろにいる二人の種族である上位悪魔を装っているようだが、魔力感知に適した人材や勘が鋭い人材にはすぐにバレる。実際、先に町の入り口であったグルーシスには感づかれていた。
それはともあれ、彼らは召喚主のリムルの命令に忠実に従い、その通りにエドマリスや、残っていたラーゼンらを捕縛し連れて来ていただけに過ぎず、用が済めばこの場から去る予定だったらしいが、何故かその悪魔は『智慧之王』に進言をしてきた。
〈是。個体名エリス=テンペストの完全再生に必要な魔素量の不足を確認しました。生命力を消費し、代用を・・・・・・〉
「お待ちくださいっ!」
この悪魔の言う通り、エリスを蘇らせる魔素量が不足していることを悟った『智慧之王』は、自らの生命力を削って魔素量の代用としようとするのを、その悪魔が必死に止めに入った。魔素量が不足した状態で『反魂の秘術』を行なった場合、魂の完全なる再生が失敗する可能性が出て来てしまうのだ。魂の再生に失敗すると、あの逸話のように、生前とは似ても似つかぬ人格へとエリスは変貌を遂げ、最悪この世にとって脅威となる化け物にもなってしまう可能性だってある。おそらく、それを危惧して、悪魔は止めに入ったのだろう。・・・・・・何が目的なのかは不明だが。
「何も、あなた様の命を削ることなどございません。もし宜しければ・・・・・・こちらの者達を魔素量の糧としては如何ですか?我らは主の為とあれば、この身を捧げることも厭いませぬ。むしろ、この身をお役立て頂くことは、我らにとって最大の喜びなのですから!」
悪魔がそう言うと、後ろに控えていた上位悪魔達が揃って前に出てきて、『智慧之王』に対して首を垂れた。『智慧之王』は何も言わずに、視線だけをこの2体の上位悪魔に注ぎ、解析を行っていた。そして、解析の結果、この2体を用いれば、規定の魔素量に達するという計算が出た。その計算結果を元にし、『智慧之王』は何にも無しにこの2体の悪魔達を『暴食之王』で捕食した。
〈告。規定の魔素量に達したことを確認しました。これより、『反魂の秘術』を再開します〉
この町の全ての魔素を吸収し、尚且つ上位悪魔2体を取り込んでようやく、エリスの蘇生に乗り出すことに成功する。エリスの蘇生というのはそれだけ大変なことだということがこれだけで分かる。普通の魔物や、人間程度であればここまでしなくとも容易に蘇生させることは可能だろう。だが、エリスに至ってはその膨大なる魔素とスキルを保有するが故に、魂の再生にも、必要となる魔素量においても、計り知れないほどの物へとなっているのだ。
だが、それの心配ももはや無くなった。十分な魔素量を確保さえして居れば、後は万能なるスキル『智慧之王』に任せておいて問題は無い。『智慧之王』は、『反魂の秘術』を滞りなく進めると、核たる魂と、それを守る星幽体を一つに纏めた透明な鬼火のような玉をエリスに埋め込む。魂が蘇ったことでエリスの核は鼓動を再開すると共に、分離していた魂は無事に元の依代としていた壷の中の水へと戻っていった。
これすなわち、『反魂の秘術』は成り、エリスは蘇ったと言うことだ。成功率は”3.14%”・・・・・・だが、それはあくまでもリムルが魔王へと覚醒する前に『大賢者』が算出した物であり、『智慧之王』へと進化を果たした今となっては、その算出は意味のない物へと変わっていた・・・・・・。
『告。個体名エリス=テンペストの生体反応の再確認が取れたため、中断していた『魔王への進化』を再開します』
『世界の言葉』が再び、この魔国連邦の地に響き渡った・・・・・・。もう一人の新たなる、覚醒魔王の誕生を告げるべく・・・・・・。
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『身体組成が再構築され、新たな種族へと進化します・・・・・・・・・・・・成功しました。個体名エリス=テンペストは『水魔人』から『水天魔』へと超進化しました。進化に伴い、全ての身体能力が大幅に上昇しました。続けて、既得の各種スキル及び、耐性スキルを再取得・・・・・・成功しました。新規固有スキル『万能感知、魔王覇気、強化分身、魔力操作、万能糸、水支配者』を獲得・・・・・・成功しました。新規耐性『自然影響無効、状態異常無効、精神攻撃耐性、聖魔攻撃耐性』を獲得・・・・・・成功しました。以上で、進化を完了します』
一万の兵達の命を奪ったことで、エリスもまた、魔王への覚醒を果たす。・・・・・・だが、エリスの進化はこれで終わりではなかった。彼の中に存在する、彼をこれまで支え続けてきた相棒とも呼べる”あのスキル”もまた、主人の為に進化に乗り出そうとしていた・・・・・・。
『告。ユニークスキル『指導者』よる進化の要請を受理。『指導者』が進化に挑戦を開始・・・・・・失敗しました。再度実行します・・・・・・失敗しました・・・・・・再度実行します・・・・・・』
だが、『指導者』も『大賢者』同様、進化に挑戦を何度も何度も挑みつつも、一向に進化が成される事はなかった。だが、『指導者』は諦める事なく何度も成功するまで挑み続けていた。
・・・・・・もう、あの時のような結果にしたくは無い。今度こそは・・・・・・主人をこの手で守る為に、ここで諦める訳にはいかない!そんな『指導者』の”想い”、”無念”、”決意”、その3つの強い気持ちが原動力となり、かのスキルを突き動かしていた。・・・・・・そして、何時間もの挑戦の末、『指導者』はある決断を下す。
『告。『指導者』がユニークスキル『仁愛者』『激怒者』を統合に『魔王への進化』の祝福を得て、再度進化に挑戦・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・成功しました。ユニークスキル『指導者』は
究極能力『慈愛之王』に進化しました』
主への想い・・・・・・ただ、守りたいと純粋に強く願うその想いが、奇跡を呼び起こした瞬間だった。だが、奇跡はまだ続く・・・・・・。
〈告。『慈愛之王』より『智慧之王』へ。『統合分離』『能力改変』の使用要求を受理しました。直ちに実行に移します〉
今まで、エリスの進化を無表情で見守っていた『智慧之王』は、『慈愛之王』の要求を受けるべく、一歩エリスの壺へと近づく。そして、壺を目の前に両手を広げると、直ちに先ほど行ったようにエリスのスキルの最適化の実行に移った。
『ユニークスキル『治癒者』の進化の希求を受理。究極能力『智慧之王』の力を借り『応援者』『魔物使い』を統合に進化に挑戦します・・・・・・・・・・・・・・・・・・成功しました。ユニークスキル『治癒者』は
究極能力『治癒之王』に進化しました。
以上で、進化を完了します。続けて系譜上の魔物への祝福の授与を開始します』
エリスの進化が終われば、当然次は他の配下達へ祝福が配られる番だ。『世界の言葉』がそう告げるとともに、ベニマル達同様に強い眠気に襲われたエリスの配下達は、なんとか眠気に耐えようと躍起になっていた。
「くっ・・・・・・意識が・・・・・・なく・・・・・・なる・・・・・・」
「も、もう無理・・・・・・」
「我輩も・・・・・・限界で・・・・・・ある・・・・・・」
「主・・・・・・様・・・・・・」
だが、その眠気は気合いでどうこう出来ると言うレベルではなく、この4人と他の配下達は、揃って眠りについた・・・・・・。
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視点 リムル
「・・・・・・ん?」
俺が目を覚ましたのは、俺の家の畳の上だった。マントを毛布がわりに掛けられていたが、それを掛けたと思わしき人影は家の中には見えなかった。
「進化は成功した・・・・・・のか?・・・・・・まだ頭がボーッとするから頭の回転が悪いな・・・・・・」
流石に寝起きで何かを考えるのは無理があった為、俺は目を覚まそうと庭に出ようとする。
「おっ!いい天気だな。・・・・・・こんな日は何か良いことでも・・・・・・・・・・・・っ!!?」
襖から顔を出し、そんな呑気なことをぼやく俺の視線の先に映るは、俺の庭。・・・・・・だが、その庭の中に・・・・・・人影が・・・・・・”青くて長い髪”を風に靡かせ、どこか気持ちよさそうに外の空気を吸っている一人の影が映っていた・・・・・・。
「・・・・・・おはよう、リムル」
「エリス・・・・・・」
そこに居たのは、俺たちが帰りを待ち望んでいた、俺たちの家族であり、俺の大親友でもある・・・・・・エリス=テンペストだった・・・・・・。