アリナレコード〜光と闇の小夜曲〜   作:選ばれざるオタクⅡ

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「知らない天井………じゃないわね。見慣れた天井だわ。」

(もはやここが実家なのでは無いか?)と錯覚しそうになる程に見慣れた天井に迎えられて
 私、『チーほむ様』こと『始まりの暁美ほむら』は目を覚ました。

 まだ寒さが残る3月初めの早朝、少し乾いた空気の病室に夜の終わりを告げる朝日が突き刺さる中、私はうまく動かない身体に鞭打ってトイレまで移動する。

 気持ちが悪い、吐き気がする
 頭が割れんばかりにズキズキと痛む
 一歩、たった一歩進むだけで、滴り落ちる程に脂汗が滲み出てくる。
 頭が熱を放ち、息も荒くなっているのに、寒気が体全体を包んでいる。
 全く力が入らず、廊下の手すり沿いでしか動けない。

 やっとの事でトイレへとたどり着いた私はここまで我慢していた吐き気を遠慮なく便器へと開放した。
 喉の奥から際限なく溢れ出るのは中身の無い胃液のみ
 口の中が酸っぱくなり、歯が胃液でちょっと溶けて気持ち悪い感触になる。 
 何度やっても、時間遡行後のこの身体の変化には慣れない。
 いや、慣れるべきでは無いのだろう。
 なんせ自分だけの勝手な理由で一つの世界を壊したのだ。
 当然の報いとでも言うべき……いや、違うな。


 これ、普通に二日酔いだわ。


 だからといって、いつまでもくよくよしては居られない
 こうやって吐いている間にもこの世界のタイムリミットは迫っている
 他の魔法少女達のイベントが進行していて、場合によっては取り返しのつかない状況になっているかもしれない。
 ただでさえ、時間遡行直前は環境が整っていない分、時間的余裕など無いのである。

 だから、私は心を切り替える。
 胃液が垂れる口元を拭い、間延びした独特のイントネーション(ゆっくりボイス)でこの言葉を口にする

「はーい、よーいスタート」

 それは始まりの合図

 かつて、こことは違う時間軸の、とある「鹿目まどか」との思い出の一つだった。


アナザーストーリー(ほむら編) 第一章「見滝原という街」
その1「最強のまどかを育てるRTAはっじまーるよー」


 ハイ、どうも。

 昨日のあけみ屋でのやけ酒が響いてる暁美ほむらです……うぉぇ

 今回はタイトルにある通り、どんな魔女にもウワサにも人間にも負けない!最強の鹿目まどかを育成するRTAを走っていこうと思います。

 走る前にざっとすぺーどるん(あけみ記録室)を確認したのですが、大抵がまどか契約を阻止するRTAばかりで、まどか契約を前提とするRTAは存在していなかったので、自動的に私が世界一位です。

 先駆者様がいないので探り探りのRTAになってしまいますが、「始まりの暁美ほむら」である私にとって『そんなこと』はいつもの事ですので、好き勝手やらせていただきました。

 計測区間は、病院で目を覚ました瞬間にタイマースタート→限界育成値に到達した瞬間にタイマーストップとなりますが……

 どうせこんなイカれたRTA走るような暁美ほむらは私以外いないので、ぶっちゃけかなりアバウトでも問題ありません。

 このRTAはそんな事(タイム)よりも完走する事自体に意義があるので、「RTA」というよりも「極限攻略」といった方が正しいかもしれませんね。

 だが私は訂正しない。(鋼の意思)

 

 さて、現在の状態ですが、集中治療室で治療を受けています。

 

・・・なんで?

 

 と、言うのも

 この状況は私こと『始まりの暁美ほむら』特有のイベントとでも言いましょうか……

 他の暁美ほむらは時間遡行(時間軸移動)直後から魔法少女の力フルパワーを余すこと無く使えるので、病院脱走したり、なんやかんや好き勝手できるのですが

 私みたいに永い間周回を繰り返して総魔力量が1億あたりを超えると(おおよそ八百万の神々と素手で殴り合えるレベル)、時間遡行(時間軸移動)先の『暁美ほむら』の身体に力が全て収まりきらず「パァン」って破裂しちゃうバグ(仕様)のせいです。

 だから、一度あけみ屋を挟んで時間遡行(時間軸移動)する必要があったんですね。(メガトンあけみ屋)

 ですので、今ここにいる私は『チーほむ様』と呼ばれる力の1%も継承出来ていない一般魔法少女でしかなく、

 つまる所、クソ雑魚です。

 最初は遡行先の許容量ギリギリの力を送って(時間軸移動)、その後は肉体の許容量が増える度にあけみ屋の方に預けてきた力を送ってもらう仕様なので、こちらの世界で魔女や魔法少女と戦って鍛えれば順次、力の方も開放されていくのですが……

 今回の時間軸の身体は平均以下どころかぶっちぎりで最低値を引いてしまったようで(ガバ)、さっきのトイレ移動からの嘔吐で体力を使い果たしてそのまま気絶…

 そのまま集中治療室にブチ込まれたというワケです。

 まさか二日酔いでゲームオーバーになりかけるとは……

 魔法少女になっても病弱とかコレ詐欺では?(インキュベーターへの露骨なヘイトスピーチ)

 これが普通のゲームならばキャラガチャ失敗といった所でリセット案件なのですが

 あくまでもコレは現実(ゲーム)

 この回でしか経験出来ない貴重なイベントもあるかもしれませんので決してA(慌てず)S(騒がず)O(落ち)T(着いて)丁寧(てーいねい)丁寧(ていねい)丁寧(ていねーい)に走っていきましょう。

 足りないステはプレイヤースキルでカバーだ。

 とは言え、魔法少女としての最低限しか継承出来なかった以上、火力も耐久も持久力も体力も、何一つ期待出来ません。

 例えるのなら調整の力も固有武器のスカーフも持っていない頃の八雲みたまさんレベルで期待できません。

 こんなんで修羅の街MTKHR(見滝原)を駆け巡らないといけないとか

 いやーキツイっす………

 とは言え、コレもまどかと一緒に一変の曇りも無い明るい未来を掴むためです。

 ぐっと我慢して走っていきましょう。

 

 画面の方ではなけなしの魔力を最大限使ってなんとか身体の改造が終わりました。

 心臓の血管を治して、貧弱な身体を一般人レベルにまで底上げした所で魔力が尽きたあたり、本当にこの身体はクソ雑魚ナメクジですね……

 いつもお世話になっているお医者さんが急に元気になった私に驚いているいつもの風景を眺めながら今後の予定(チャート)を考えましょう。

 先程ちらっと見えたカレンダーで確認した限りだと、現在は西暦2011年3月1日でした。

 ワルプルギスが襲来してくるのが11月22日なので、いつもよりも半年ちょっと前ですね。

 まま、えやろ。

 

 補足すると、魔法少女になったばかりの暁美ほむらは皆一律で一ヶ月間しか時間遡行出来ないのですが、魔法少女として力をつけていくに当たってだんだんと時間遡行出来る範囲も増えていきます。

 マミと同棲してる暁美ほむら(見滝原☆アンチマテリアルズ)とかは一年以上時間遡行してましたね。

 余談ですが、彼女はあの時間軸で無事にワルプルを倒して(2つの意味で)ゴールインした後に、「年越しもバレンタインも経験しやがって」と遊びに来たあけみ屋メンバーに恨みつらみをぶつけられていました。

 当時のようすもあけみ屋のすぺーどるん(あけみ記録室)にあるので、気になった人は見てみると面白いかもしれません。

 彼女の何百倍もの力を持っている私は、勿論一年以上の時間遡行なんて楽勝です。

 本気を出せば私が存在していなかった時代に(魂だけですが)飛ぶことも可能です。(フランスでのあの戦い(魔法少女たると☆マギカ)は当時の私には良い勉強になりましたわ。)

 が、やはり力を持ちすぎた代償といいますか……時間遡行の調整が十年単位でしか出来ないんですよね。

 「時間遡行したらまだ幼稚園児だった」なんてザラにあります。(どうしようもないのでリセット(時間遡行)案件)

 ですので、今回のような半年時間遡行はむしろ当たりの部類

 適度に準備期間が与えられているので、周辺の魔法少女の魔改造とワルプル討伐がやりやすいという良い時期です。

 やっぱ希望(半年時間遡行)絶望(クソ雑魚素体)は差し引きゼロ。ハッキリわかんだね。

 

 と、解説している間に病室に戻ってきました。

 早速ですがベッドの中に潜り魔法少女に変身します。

 どこで誰が見てるかわからないですからね。(1敗)

 いつもの相棒(小型ラウンドシールド)から前回から引き継いだグリーフシードを取り出して身体改造に使った魔力を回復させましょう。

 ここで回復しないと精神状態に関わらず魔女化してゲームオーバーです。(0敗)

 ついでに相棒の中の荷物を一応確認。たまにイタズラほむらがトンデモない物を混ぜていたりしますが………今回は以上無し。ヨシッ!(現場ネコ)

 次は変身解除して今度は部屋の荷物を漁ります。

 出来れば日記があるとベストです。

 一体この時間軸のほむらはどんな生い立ちなのかを知るのは大事ですからね。

 もう経歴ガバは沢山なんじゃ……(53敗)

 と言うのは建前で、本当はある事を確認する為に日記を開いています。

 さっき話半分に聞いていたお医者さんによると、明日一日検査して問題が無かったら退院との事なのですが、いつもならお母さんへの連絡を入れたりでバッタバタしてるはずなのです。

 ですが、今回そのような素振りは無く、あっけなく病室に戻されました。

 コレが意味する事は・・・・・・っと、ありましたね。

 ふむ、やはり両親は他界済みですか。

 親戚も軒並み全滅…

 いわゆる天涯孤独というヤツですな。

 両親が居ないパターンは割とよくあるパターンですが、今回のように親戚も全滅となると少しばかり面倒ですね。

 この日記によればこの病院の院長が未成年後見人になったようです。

 うーん……いつものアパート(ほむホーム)借りれるかな?

 あそこ気に入ってるんだけども……

 ま、日記によれば良い人だって話だし、なんとかなるやろ(楽観視)

 

 粗方の荷物を漁った所で日が暮れてきました。

 天涯孤独以外には特にコレといった友人もいないようなので経歴確認は終了!

 それでは皆さんお待ちかね、ここからは魔法少女の時間となります。

 

 再び魔法少女に変身し、なけなしの全魔力を使って身代わりを作成

 ただ眠っているように見せかけるだけの身代わりですが、今の魔力ではコレが限界ですね…

 とは言え、病院側に脱走がバレなければ無問題(もーまんたい)

 さっさとバレないように窓から外にでましょう。

 

 イクゾー!!デッデッデデデデッ!!カーン!!デデデデッ

 


 

《さぁ、キミの魔法(チカラ)を試してごらん》

 

 その声と共に、私は己に刻まれた手順通りに魔力を操作し、固有魔法(チカラ)を発現させる。

 

「ここは……見滝原なの⁉」

 

 初めに出た言葉は、そんなありきたりな物だった。

 宙を舞うビル、叩きつける大雨、建物を丸ごと持ち上げる強風

 

「街が崩れていく…なんて力」

 

 それらが巨大な魔女を中心にして見滝原を襲っていた。

 一件するとバレリーナの衣装のようなシルエット

 だが、頭には大きな角……いや、耳か?

 よくわからない突起が2つ生えた頭を()()()()()()

 下に存在する紺色のスカートから下は存在せず、代わりに大きな歯車がスカートから顔を覗かせていた。

 

「あれが魔女…?」

 

 それは、初めて見るにはあまりにも巨大で、途方も無い存在だった。

 そして、その巨大な魔女に立ち向かう魔法少女が一人

 奇しくも似たような、されど全く違う桃色の衣装

 遠く離れたこの位置からはわかりにくいが、弓を魔女に向けて引き絞っている。

 

「これが私の運命というならば

 なんとしても止めてみせるわ……」

 

 見た所立ち向かっている魔法少女は確認出来た。

 立ち向かえるという事は、乗り越える事が出来るという事。

 決して無謀な事ではない。

 

 視界の先で、桃色の魔法少女が弓を放った。

 崩れ落ちていく紺色の巨大魔女

 そして、暴風雨が収まっていき……

 

 次の瞬間、世界は光に包まれた。

 

「あ」

 

 光はすぐに収まった。

 いや、()()()()()()()()

 

「あぁ…」

 

 口から情けない声が漏れる。

 が、仕方ないだろう。

 あんな事を魅せられては…

 

《願いは叶ったかい?》

 

 キュウべぇが聞いてくる。

 

「ぅあ……あ……あぁ……」

 

 あの光景

 巨大魔女を斃した魔法少女が、更に巨大な魔女へと変貌する光景

 見ただけで理解した。

 いや、理解(わから)させられた。

 あれは誰にも倒せない。

 あれを解き放ってはいけない。

 

《どうしたんだい、織莉子?》

《顔が真っ青だよ。具合でも悪いのかい?》

 

 何を呑気に…と思ったが、彼はこの光景を見ていないのだ。

 故に仕方ないと飲み込む。

 それよりも、どうすればいいのか……

 今にも割れんばかりの頭を必死に動かし魔法で見える光景の中を探し回る。 

 何か、

 何かないか

 何かきっかけになるようなもの

 なんでもいい。

 彼女を魔女にしてはいけないんだ。

 彼女を魔法少女にしてはいけないのだ。

 コイツ(キュウべぇ)に会わせてはいけないのだ。

 どうすれば阻止出来る?

 

 見つけた

 

「キュウべぇ、良い知らせよ。」

 

 そんな訳があるか。お前は私の敵だ。

 

「私の魔法は貴方の役にも立つみたい。」

 

 だが、そんなお前が私の手のひらで踊ってくれるのならば、やりやすい事この上ない。

 

「貴方にとってとてもいい、魔法少女の素体がいるようよ」

 

 いや、実際はそんなに甘くはない。

 コレは賭けだ。

 分の悪い賭けなのだ。

 でも、どれほど細い綱でも、渡らなければならない。

 

《へぇ…それは楽しみだね》

 

 それが、私の運命なのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、それは私の役にも立つようね」

 

 

 

 

 

 背筋が凍るとは、このような事なのか

 今まで後ろには誰も居なかったハズ。

 それどころか、ここは我が家の屋上で、私は外を背にしている。

 しかし、声は聞こえた。

 後ろから、ハッキリと聞こえた。

 私の耳元から、聞こえてきたのだ。

 

 恐る恐る、振り返る。

 

「どうも」

 

 目と鼻の先にいたのは、腰まで伸ばした黒髪の少女

 身を包む衣装はセーラー服というには少し奇抜で、左腕に輝くラウンドシールドは彼女が魔法少女である事を示している。

 が、一番驚いたのは、その眼だ。

 

「私の名は暁美ほむら」

 

 深く、深く、吸い込まれるような漆黒の眼

 それは私が見てきた中で最も多くの叡智を蓄えていた。

 

「まぁ、調整屋っていうのをやらせてもらっているわ」

 

 その眼が、まっすぐに私を貫いてくる。

 いや、決して相手は睨んでいたりする訳では無い。

 しかし、この、私の内側に入り込んで、全てを暴いていくかのような瞳は…

 

「貴方の名前は?……と、言っても知っているのだけれどね」

 

 現実がどうであれ、私に決して小さくない衝撃を残した。

 

「美国織莉子」

 

 何故、知っているのか

 そんな疑問は浮かんでこなかった。

 何故ならば彼女の瞳は『知っていた』から。

 どこで、どうやって、どうして

 詳しい事は何も分からない

 だが、彼女は私の事を知っている

 それ以外の情報は必要なかった。

 

「貴方のその運命、私にも背負わせてもらえるかしら?」




 暁美ほむら

・二日酔いチーほむ様、疲れからか純白の魔法少女の契約現場に追突してしまう。
 後輩を庇い、全ての責任を負った三浦に対し
 車の主、暴力団員谷岡が言い渡した示談の条件とは・・・

 A.調整

・ちなみに二日酔いになるまで飲んだのはアルまど様が来てくれなくて、ちょっと不安になったから。
 酒蔵が3つ程無くなるレベルで飲んでいる。


 美国織莉子

・《織莉子》は一発変換出来るのに、《美国》は一発変換出来ない人。
 《美国織莉子》でも無理
 《呉キリカ》は一発なのに…

・今回のシーンは無印第一話より
 浅古小巻生存√に入る為にはこのタイミングでの介入が必要だった。

・織莉子「彼女を魔法少女にしてはいけない」
 チーほむ様「うん。確かにこのタイミングで契約させちゃダメだね。(魔法少女にしないとは言っていない)」

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