どこまでも。
こんなところに呼び出すなんて一体何の用なのだろう?
幾何学的な鏡面仕様のオブジェが青色のLEDの光を不規則に反射させ、
美しい光のアートを創り上げていた。
外周はガラス張りになっており、そこからはバーチャル東京の夜景が一望できた。
リゼ・ヘルエスタの元に手紙とチケットが届いたのは昨日のことだった。
『二人だけで話したいことがあるので、明日指定の場所まで来てください。 戌亥』
リゼが
通話かチャットじゃ駄目だったのかな? と戌亥からの珍しい呼び出しの理由について
リゼはぶつぶつと独り言を呟きながら考えていた。
考え事をする時は癖でアスファルトを眺めることがのだが、試しに地上二百五十メートルから
アスファルトを見てみようとガラスに近づいてみた。
うん。アスファルトは見える。でも違う。そうじゃない。
リゼが思い描くアスファルトを見ることは叶わなかった。
「リゼはん。」
突然、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。
アスファルトが見えないことで幾分、精神的不安定な状態にあったリゼは短く、
大きな声で悲鳴を上げた。
「キャッ! 」
驚きの余り勢い良く振り返った拍子にガラスへ後頭部をぶつけてしまった。
プッと噴き出す声がした。後頭部の痛みに耐え、目の前の人物の顔を確認した。
それは間違いなく戌亥であった。
戌亥はいつものように柔らかい笑みを浮かべていた。
「とこちゃーん。驚かさないでよ。」
「いやいやいや。名前読んだだけやん。」
リゼの慌てふためく顔を見て、戌亥は尚も楽しそうに笑っていた。
「ところで、何でこんな場所に呼び出したの? 」
リゼがそう言うと、戌亥は不思議そうに首を傾げた。
「え? それはこっちの台詞や。」
そう言うと戌亥は一枚の紙をリゼの方へ差し出した。
それを受け取ると、リゼは書かれていた文字に目を通してみた。
『二人だけで話がしたいから、明日指定の場所まで来てください。リゼ』
驚くべき事にそれは自分に届いた手紙と同じ内容のものだった。
「とこちゃん。これ! 」
リゼは自分に届いた手紙を取り出すと戌亥に同じ様に手渡した。
戌亥も手紙を受け取り中身を確認した。しばらく手紙を眺めた後で戌亥は一言呟いた。
「まさか...。」
その時、並んで手紙を見合う二人の背中に何かがぶつかった。
正確に言えば、ぶつかったのでは無く、何か円柱状のものが押し当てられた。
「動くな。」
それと共に背後から静かで低い声が聞こえてきた。
二人が振り返ると、よく見慣れた人物が両手にペットボトルを持っていた。
そこに立っていたのはアンジュ・カトリーナであった。
「やっぱり...アンジュはんかいな。この手紙。」
戌亥がじっとりとした目と呆れたような表情でアンジュを見つめた。
一方のアンジュは嬉しそうにニコニコと笑いながらリゼと戌亥の顔を交互に見ていた。
「ねぇ! ビックリした? ねぇねぇ!」
「もー。何でこんなことしたのよ。」
「えっ? 二人を驚かせようと思ってさ。あのさ。今日。」
リゼの問いにアンジュがそこまで答えると、そこで戌亥が割って入ってきた。
「リゼはん。今日は何月何日やったっけ? 」
戌亥の言葉にアンジュは嬉しそうな、でもどこか残念そうな顔を浮かべていた。
日付を確認するためにスマホの画面を確認してみた。
「ああ。そっか。」
「だから東京タワーってわけなん? アンジュはん? 」
「流石いにゅい! ナイスサプライズじゃない? 」
子供のように無邪気にはしゃぐアンジュと冷静にでも誰よりも楽しそうに笑う戌亥。
ふっと近くにあったオブジェに、そんな三人の姿が映っていた。
リゼはそれを見るまで気付いていなかった。
幾何学的な鏡面のオブジェに映る自分の口角が上がっていることに。
「いにゅいー。惚れちゃった? アンジュに惚れちゃった?」
後ろから話しかけるアンジュには目もくれず、戌亥は夜景を眺めていた。
「どうせやったら...スカイツリーがよかったな。」
戌亥の視線の先にはここより高くそびえ立つ美しいブルーの塔が見えていた。
「えっ。東京タワーだからいいんじゃん! 三百三十三メートル。私たちの象徴の三が三つ
並んでるしさ。何かエモいじゃんよ!」
あたふたと慌てながら、アンジュは何故か戌亥に一生懸命に弁明を述べていた。
「ねぇ! リゼもそう思うよね。」
アンジュが必死の形相でリゼに訴えかけてきていた。一方の戌亥は我関せずと尻尾を嬉しそうに
左右に揺らしながら夜景を眺めていた。
「...アンジュ。残念ながら東京タワーの正確な高さは三百三十二メートル六十センチなの。」
「え。知らんかったのだが。ってそうじゃなてさ。気持ちじゃん! 大事なのはさ!
三人でこれからもガンバローってさ...。」
美しいオブジェが青の光を反射させるようにアンジュの言葉がいつまでも二人の間を
反射するように行きかっていた。
戌亥とリゼには聞こえてないのか、それとも聞き心地の良い音なのか、
何も言わずに嬉しそうに、そして楽しそうに夜景を眺めていた。
リゼの握り締めているスマホのホーム画面のウィジェットにはあるスケジュールが表記されていた。
『2021/3/23 さんばかデビュー記念日 』
いつか自分たちを追い抜くスカイツリーが建設されるかもしれない。
それでも自分たちらしく立ち続け、地元の人に愛されるような東京タワー。
そんな存在になれたら嬉しいな。
これからも。三人でバカをしながら。
...なんてね。
別のにじさんじ創作作品『ワンドのA』を構成中に思いつきました。
下書きなしで、そのまま勢いで書いてしまいました。
さんばか二周年おめでとうございます。
これからも末永く楽しい配信を期待しております。
タイトルの意味は作品の中のリゼが最後に行った数字からつけました。
短編も思いついたら、合間を見て投稿していきたいと思います。