やりなおし   作: 虗 

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支部に上げた物をあげることで小説書いた気になるやつです。


再会

「はぁっ…!」

 

 目が覚めると辺りは背の高い木に囲まれていた。しかし、辺りは薄暗いわけではなかった。

 

 真後ろに光源があるようだ。振り向くとそこにはコンセントに繋がっていないテレビが明滅していて、しばらく眺めているとブツリ、と消えた。

 

 辺りは光源を失い、当然と言うべきか、先程よりも暗くなった。

 

 改めて辺りを見回すが、変わらず鬱蒼としている森が目の前に広がっていただけだった。

 

 ここは…どこだ?

 

「うぐっ!」

 

 急に頭痛に苛まれ、目眩もしてきた。心臓は脈打ち、嫌な汗が垂れてくる。

 

「…そうだ。思い…出した。」

 

 最後の最後で、彼女に手を離された時に言われた言葉。

 

『最初からずっとそうじゃない。』

 

『はじめて会ったときだっていきなりドアを破って入ってきた。』

 

『わたしはひとりでオルゴールを聴いていただけなのに。』

 

『【助けて!閉じ込められてるの!】なんて誰が言ったの?』

 

『あなたはいつだって自分が正しいことをしてると思ってる。』

 

『今だってわたしのこと救ったと思ってる。』

 

『あのオルゴールはわたしの宝物だったのに。』

 

『なんて傲慢なの……。』

 

 

 

『さよなら。』

 

 

 

「……。俺は…。俺は、今度こそ…間違えない。」

 

 

 

41周目、開始。

 

 

「…とりあえず、急ごう。」

 

 つい独白を零してしまう。それ程迄に話し相手を求めていたのか。

 

 一回はやった仕掛けだ。蝿が集っている排水溝の場所を飛び越えたり、倒木を渡ったり、靴を罠に投げたり…正直ハンターの家までは楽勝だった。

 

 強いて言うなら二周目(・・・)でも転がってくる木の幹にはヒヤヒヤした。

 

 暫く歩くと、小屋が見えてきた。窓から侵入し、キッチン兼ダイニングルームに到着する。

 

 ここに用はない。扉を押し出すと廊下に出た。正面の扉は俺一人が何とかギリギリ通れるほどの隙間が空いていた。

 

 微かにオルゴールの音も聞こえる。

 

「やっぱり同じ…か。」

 

 出てきた扉から正面に向かわずに右に二度曲がり、玄関のようなスペースに出た。

 

 目の位置に穴が空いている紙袋を畳んで懐に仕舞い、カーペットの中心にある毛皮の帽子を被った。

 

「顔を見せるだけで紙袋とは雲泥の差だろうな…。」

 

 そのままキッチン前の扉まで戻り、正面の扉に何とか入る。

 

 目の前は階段で、踊り場では直角に右に曲がるようになっていた。

 

 やはりここはかなり埃っぽく、一段一段降りる度にギシギシと音を立てている。

 

 階段の下二段は完全に潰れており、役割を果たしていない。

 

 地下室の床を踏みしめると、右側には下半分が老朽化なのか少し縦に隙間が数本出来ており、手首ほどの穴が何個か空いている。

 

 左側の扉は開ききっていて、謎の器具が奥の壁にかかっていた。机の上には大量の動物や人間の皮が重なっていた。

 

「助け…連れ出す前に聞かなきゃだな。 」

 

 心臓は少しばかり早く鼓動し、それに呼応するかのように早足になっていく。

 

 隙間のある扉の前に立ち、気持ち強めに扉を叩いた。するとミシミシと扉が揺れ、脆かったであろう一部分が折れて、通れはしないものの会話するには十分な穴が空いた。

 

 深呼吸。

 

「…ここから、出たい?」

 

 

 

⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸

 

 

 

 目が覚める。

 

「…また、か。やっぱり…。」

 

 月の薄明かりが窓から入ってきて、部屋に待っている綿埃を照らす。雪のように幻想的な光景ではあるが、何度も見慣れている上に、埃であるという点で寧ろマイナスである。

 

 壁に描いた線を数える。

 

「1、2、3、4、5、6、7、8。」

 

 41周目、か。

 

 前回の最後に、最早諦めからかかなり強くあたった。

 

 どうせ彼はなんにも覚えていない。言ったところで無駄ではあると分かっているが、言わずには居られなかった。

 

「…また、斧でこの扉を破ってくるんだろうな…。」

 

 なんて、なんて傲慢なんだろう。

 

 手を繋ぐと言いつつ強引に引っ張るし、毎回毎回ことある事に呼びつけるし。

 

 呼びつけに関しては40回同じことしてるんだから言われなくても行くよ…。

 

 そう言っても仕方ないだろうけど。

 

 40回も同じことをずっと繰り返されたらさすがに諦めもつく。

 

 「…オルゴール……。」

 

 彼に壊された大切なオルゴールは、ここにしっかりとあった。

 

 暫く回してれば、彼も来るだろう。

 

「はぁ…」

 

 思わず溜息を吐いてしまう。一体あと何回、この無駄な作業とも言える逃走劇をすればいいのか。

 

 その時、階段を誰かが降りてくる音が聞こえた。

 

 しかし、それは遠ざかることなく、こちらに近づいてきた。

 

 おかしい。それは、おかしい。ズリズリとした斧を引き摺る音も聞こえない。

 

 すると、扉がミシミシと音を立てて揺れ、下半分の一部がポキリと折れた。

 

 隙間から見えた人物は、いつもの不審者丸出しの目の位置に穴を開けた紙袋ではなく、何かの毛皮で作られた、焦げ茶色の帽子をしていた。

 

 彼じゃない…?別人…?

 

 戸惑っていると、謎の人物はひとつ深呼吸をして、言った。

 

「…ここから、出たい?」

 

 正真正銘、聞き慣れた彼の声で問われた。

 

 …は??????

 

 もし……もし、ここから出なかった場合、餓死かハンターに殺されるかの二択。もう40回もループして、前回の最後に次で諦めると考えていた。

 

 しかし、どうだろう。今回は…完全なイレギュラーだ。正直言うと、イレギュラーはイレギュラーなだけあって不確定要素しかない。

 

 運が悪ければ完全に閉じ込められるなんてことも有り得るかもしれない。

 

 しかし、しかしだ。希望があるのも事実。

 

 彼の示す『ここから』というのはこの部屋のことなんだろうか。それとも『ループ』のことだろうか。

 

 もし『ループ』であるなら…出れるなら

 

「出たい…かなぁ…?」

 

「分かった。なら少し待ってて。すぐ戻るから。」

 

 …あ。

 

 あっ…。

 

 声に…出てた?

 

 …まあ、いいか。どうせここにいても何も変わらないんだ。これが最後の希望にしようかな。

 

 

 

⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸

 

 

 

 やはりと言うべきか、彼女は困惑していた。そりゃそうだ。いきなり扉の一部分がかけたと思ったらそこには人が、しかもあいつらみたいにでかい訳ではなく、同じくらいの人がいたのだから。

 

 そして、暫く考える素振りを見せた。

 

「出たい…かなぁ…?」

 

 とかなり曖昧な返事を貰った。

 

「分かった。なら少し待ってて。すぐ戻るから。」

 

 後ろに振り向き走り出す。

 

 向かうのは扉が開ききっている部屋だ。そこで箱に刺さっている斧を体重をかけて抜き、それをズリズリと音を出しながら引き摺っていく。

 

 朽ちかけた扉の下半分に振りかぶって当てること三回。ガラガラと音を立てて下半分が崩れた。

 

 斧を脇に退けて、彼女に声を掛ける。

 

「…行こう。それと、俺の名前はモノ。よろしく。」

 

「…シックス。」

 

 知ってるさ。今回こそ、2人で脱出するんだ。この電波塔に支配された青く寂れた、太陽の登らないこの場所を。


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