最近。彼女の様子が変だ。
「オタク〜! ふざけんな〜?」
「ちょ待て、それは駄目だろ⁉︎」
「「あはははは!」」
ゲスト達の笑い声を聞きながらコントローラーを操作する自分。その横に座る彼女は笑顔で操作するキャラクターを暴れ回しながら笑い続ける。
「やしきずぅ、覚悟!」
「ってオイィィィィィィィィ!!」
今日も笹木咲は煽り、笑い続ける。
それが彼女に許された彼への唯一のコミュニケーションだったのだから。
でも。そこにはいつの間にか。
最初の頃とは違うニュアンスが込められていると社築は感じていた。
「・・・はい。お疲れ様でした〜!」
レバガチャダイパンの収録現場。
ディレクターの声で現場の緊張が解ける。弛緩した空気の中、レギュラーの二人とゲストは口々に労いの言葉を掛け合った。
「お疲れっした〜」
「お疲れ様」
収録は滞りなく終了して片付けが始まった。社と笹木もスタッフと共に機材の、自分達の遊んでいたゲーム機の片付けを始める。誰が言ったわけではないが何度かの収録を経て、二人はその纏めをする事を率先して行うようになっていた。
「よし。笹木はコードまとめてくれ。私は本体運ぶから」
「はい!」
収録中は暴走娘な彼女。
だが一度収録が終わると、とても真面目だ。そのギャップは番組を見てくれる視聴者にはきっと伝わっていないだろう。
画面の中の彼女は自分の事をオタク君だの囲碁将棋部だのと煽りまくる、傍若無人なキャラクターだ。
でもそれは彼女を形作る・・・否、彼女が作り上げた一面でしかないのだ。
むしろ自分の知る彼女、笹木咲はその対極の存在だと思える。
レバガチャの打ち合わせには時間より早くに現れ、誰よりも真剣にメモを取り、自分やゲストを始め、スタッフにも話を聞くと収録内容のゲームのテストプレイもしっかりとする。
とても真面目な少女が、そこにいた。
そんな少女はコントローラーの配線を律儀に纏めながら、チラチラと此方に視線を送っている。それを気が付かない社ではない。
いつしか彼女からの視線に彼は気がついた。
最初はコラボする事になった自分への不安からかと思っていた。でもある時からそれが持つ意味が変わった事を流石の社も気がついたのだ。
秘められてはいたが熱の帯びたその瞳。
やり過ぎた収録の後で素直に頭を下げると、謝罪の言葉を告げてくるその顔。
懇願するその顔。
初めは自意識過剰だと思った。でも一度目ならず、でも二度三度四度と続けば流石に経験の浅い自分にも理解る。
『彼女』が『自分』に願っている事を。
『嫌いにならないで』と切に願うその顔を見て、流石の自分もしかと気付いてしまったのだ。
笹木咲は私、社築に並々ならぬ好意を抱いているのだと。
それでも。
それに気がついてやるわけにはいかない。
私には既に心を許した人がいるから。
自分が心を許した『彼女』を裏切れない。
『彼女』と『家族』を裏切る事は出来ない。
だから私は今日も言うのだ。
「あぁ、ありがとな。『笹木』」
彼女の名前を呼びながら、私は顔を背けた。
その好意に気が付いていないフリを今日もする。
ごめんな、笹木。
俺は、それに応えられないんだ。
酷い男ですまない。
嫌いになってくれても構わない。
でも俺の事を好いてくれて、ありがとう。
ありがとう、『咲』