たまらなく愛おしい貴女へと伝える想い



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SHINE

「じゃあな空浜(そらはま)!」

 

「ああ!…ってもう放課後か」

 

いつの間にか授業も終わってしまったようだ。周りの人たちもすぐに帰り始める者、部活へ行く準備をする者、教室に残って談笑をする者など様々だった。俺は部活をやってないし長時間話すような友達もクラスには数人しかいない。そしてバイトも休みということで選択肢は帰ることしか残されていなかったが、そんな気分にはなれず、物思いにふけることにした。

 

そんな俺の脳裏に1人の女の子の姿が映る。長めの黒髪を揺らしてギターをかき鳴らす姿は芸術作品のように美しく、クールな見た目に反して友達思いでとても優しい子。小さい頃から知っていて幼なじみという関係であるが、俺があの子に抱いている感情はそれ以上のものになっていた。

 

「…今何してんのかな」

 

そんなことを思っていると俺の名前を呼ぶ声と同時に教室のドアが開いた。そこには日頃お世話になっている幼なじみのお兄さんと同じクラスの同級生がいた。

 

「よう深幸(みゆき)!これから冬弥と買い物に行くのだが、よかったら来ないか?」

 

「司さんに冬弥…わざわざ迎えに来てくれたんですか?」

 

「ああ!お前と冬弥には妹に贈るものを一緒に考えてほしいと思ってな。無論お礼はするぞ!」

 

「そういうわけだ。一緒に行かないか?」

 

いつも面倒を見てくれて感謝してもしきれない人からのお願いだ。断る理由なんてなかった。

 

「もちろん。お付き合いしますよ」

 

「そう来なくてはな!では行こうか!」

 

 

────────────────────────

 

 

俺たちは司さんに連れられてショッピングモールにやってきた。向かう最中も司さんのミュージカルに関する話や冬弥の仲間について聞くことが出来てとても楽しい時間だった。

 

「そういえば咲希たちの様子はどうだ?一緒に練習していて関わっている時間も長いだろう。変わりはないか?」

 

「ええ、日に日に上達しているのがわかりますよ」

 

司さんの妹ではある咲希は幼なじみ4人でLeo/need(レオニード)というバンドを組んでいる。俺はメンバーではないが、同じ場所でDJの練習をしているのだ。

 

「深幸のDJは安定感があって技術も優れている。よければだが今度俺たちが出るイベントで曲をかけてくれないか?」

 

「ああ、機会があればいつでもやるよ」

 

「あっ!お兄ちゃん!」

 

「むっ!この声は咲希か?」

 

声が聞こえた方を見ると女の子4人がいた。その中の1人が司さんの妹である咲希だ。

 

「やっぱりお兄ちゃんだ!それにとーやくんとみっくんも!」

 

「咲希さん、お久しぶりです。お変わりないですか?」

 

「うん!すっごく元気だよ!」

 

「驚いたな!ちょうど深幸に咲希たちの様子がどうかと尋ねていたところだ」

 

司さんと冬弥は咲希と話し込んでいた。手持ち沙汰になった俺はあとの3人に話しかける。

 

「今日はこれから練習?」

 

「うん。だけど咲希がどうしても寄りたいところがあるって言うから練習前に来たんだ」

 

「そっか。やりたいことリストとか作ってたもんね」

 

「ふふっ、少しでも多く達成出来たらいいなぁ」

 

一歌と話すのはやっぱり楽しい。もちろん司さんや冬弥との会話も楽しいがこの子との会話は心が踊るような感覚がしてくすぐったい。俺はこの愛おしい時間を噛み締めるように味わった。

 

「…ねぇ、深幸と話さなくていいの?」

 

「え、だって特に話すこともないし…一歌ちゃんと楽しそうにしてるから…」

 

「穂波…」

 

 

 

 

 

「あっ!そろそろスタジオに行かなくちゃ!3人ともまたね!」

 

「ああ!気をつけて行ってこい!」

 

「それではまた」

 

「4人とも、また次の練習で会おうな」

 

4人は俺たちとすれ違うように歩きだす。すると一歌が俺の横を通り過ぎて行く時にそっと耳打ちした。

 

「それじゃ、またセカイで」

 

セカイ。それは人々の”想い”から生まれる不思議な世界らしい。俺と幼なじみ4人はそんな場所に行くすべがあり、練習場所として使っている。

 

バーチャルシンガーであるミクの話によると想いの数だけセカイは存在して姿もそれぞれ違うとのこと。俺たちのセカイは学校と青春がテーマのようになっている。

 

「…ああ」

 

「ん?一歌が何を言ったのかよく聞こえなかったぞ?」

 

「はは、こっちの話なんで気にしないでください。それより買い物を続けましょうよ」

 

「おおそうだな!」

 

その後の買い物は順調…とはいかず司さんがとんでもない物を持ってきたりしたので俺と冬弥が全力で止めた。

 

 

────────────────────────

 

 

後日、俺はDJの練習をするためにセカイへ来ていた。音の出る機械の練習は近所迷惑にもなるしあまり遅くまで出来ないからここは練習場所として最適だ。

 

「カイトさん、この曲の繋ぎについて教えてほしいのですが…」

 

「うん、ここはこうするといいよ!」

 

目の前にはバーチャルシンガーのカイトがいる。今でこそ慣れたが、最初は夢や幻かと思ってしまった。別次元の存在だと思っていたバーチャルシンガーのいるセカイが実在するなんて誰も思わないだろう。

 

「ありがとうございます!カイトさんに練習を見てもらうとすぐに上達出来るし教えてもらえて嬉しいですよ」

 

「ははっ、僕もそう言ってもらえて嬉しいよ」

 

このセカイにいるバーチャルシンガーは演奏に詳しく、それぞれに得意な楽器がある。今教わっているカイトさんはDJの知識が豊富なのだ。

 

「深幸くんと練習していると楽しいなぁ。レンも来ればもっとよかったんだけど」

 

「レンは自由気ままですからね。またどこかでサックスでも吹いてるんだと思いますよ…っと司さんからメールだ」

 

スマホには司さんから感謝のメールが届いていた。正直心配だったけど咲希が喜ぶものを選べたみたいで安心した。

 

「その司くんって人は咲希ちゃんのお兄さんなんだよね?」

 

「ええ、俺もお世話になっていて感謝しているのですが、独特な感性の持ち主で…俺や冬弥がついてないと変な物選んでくるから大変なんですよ…」

 

昨日も司さんは咲希に本気で銅像を贈ろうとしていた。今回は俺と冬弥もお手上げかと思ったよ…

 

「面白い子だね。けど咲希ちゃんを大切に思っているってことは伝わるよ」

 

「俺もそれは自信を持って言えます。司さんが咲希のために色々努力してたのを見てきましたから」

 

大切な人のためなら努力を惜しまない。俺もそんな司さんみたいな人間になれればいいなと強く思っている。

 

そして俺も一歌のことを守れるようになりたい。今まで誰にも気付かれずに過ごしてきたつもりだけどもう我慢出来なかった。

 

「…カイトさん、もう1つ相談したいことがあるんです」

 

「なんだい?」

 

「俺…一歌のことが好きなんです…ずっと前から」

 

カイトさんに話したところで解決することではないし自分でなんとかしなくてはいけないことはわかっている。それでも誰かに話すことで少しでも気を楽にしたかったんだと思う。

 

「そうなんだ。でも自覚しているならやることは1つなんじゃないかな?」

 

「…ですよね。俺も何となくわかってましたよ」

 

「ちゃんとした相談に乗れなくてごめんね」

 

「気にしないでください。カイトさんに話せて気が楽になりましたから」

 

別の教室で練習している彼女の姿が浮かぶ。この想いは必ず伝えよう。そんなことを考えていたら教室の外から話し声が聞こえ、その声はドアの開く音と共に俺たちのいる教室へと入ってきた。

 

「疲れたぁ…しほちゃん厳しすぎるよぉ…」

 

「言っとくけどまだ足りないからね?これでも優しい方だから」

 

「まぁまぁ2人とも…」

 

相変わらず志歩は厳しい。決して妥協しない芯の強さは尊敬する部分でもあるんだけどね。

 

「みんなの演奏はこっちの部屋にいても聴こえていたけどとても綺麗だったよ!」

 

「確実に成長しているよ。志歩もそう思うでしょ?」

 

「ミクにカイトさん…確かに3人ともブランクあるけど悪くないレベルには仕上がってる。それは認めるよ…」

 

「うぅ…しほちゃん!」

 

「ちょっと咲希!?抱きつかないで!」

 

またこんな風に笑い合うことが出来て本当によかった。俺の隣では一歌が同じように笑っている。

 

「…咲希は変わらないな」

 

「うん。だけど私たちも根本的には変わってないよ。志歩は強く自分を持っていて穂波もいつも優しい。深幸もそんな私たちのことをずっと見守ってくれているしそこは昔と同じだね」

 

「それは一歌も同じだよ。誰よりも友達思いで優しいところを俺は昔から尊敬しているんだ」

 

「そう…なんだ。なんだか照れるな…」

 

くしゃりと笑う顔を見て胸の高鳴りが更に増していくのを感じた。今すぐにでも抱きしめたい。逸る想いと共に一歌に声をかけた。

 

「一歌、あのさ…」

 

「ごめん深幸くん!…少し話がしたいんだけどいいかな?」

 

遮られるように穂波に呼び止められてしまった。何となく急ぎの雰囲気だしこちらを優先した方がいいのかもしれない。俺は断じてチキンではないからなうん。

 

「深幸、今私のこと呼んだ?」

 

「うん。けど急ぎの用事が出来ちゃったから後で話すよ」

 

「そっか。じゃあ待ってるね」

 

一歌が残念そうに雰囲気を醸し出しているように見えたのは俺だけなのだろうか。いや、俺だけだよな。

 

「お待たせ。話って何かな?」

 

「うん。だけどここだと話しにくいから別の部屋で話してもいいかな?」

 

「…わかった。じゃあ行こうか」

 

 

────────────────────────

 

 

このセカイには教室が数多く存在している。行きなれた俺たちでさえいくつあるのか把握してないくらいだ。その中のひと部屋に俺と穂波はいた。

 

「やっぱりこのセカイは落ち着くな」

 

「うん。私たちもそう思う」

 

特に教室からでも見える夜空が何よりも綺麗なのだ。俺もこのセカイに来てから天体観測にすっかりハマってしまった。

 

「それで穂波、話って何かな?」

 

「…少し待ってね」

 

そう言うと穂波は深呼吸をひとつして、ゆっくりと話し始めた。

 

「中学校のこと覚えてる?私がクラスの子と関係が悪くなっちゃって深幸くんに相談したこと」

 

「覚えてるよ。あの頃はみんな大変だったよな」

 

中学生の頃、俺たち幼なじみはすれ違い、距離が離れていった。特に志歩とは会話も出来ないくらい疎遠になってしまってそのことを俺も一歌も気にしていた。

 

そんな中俺は穂波からの相談を受ける。原因はよくある友人間での勘違いからの仲違いだったが、誰にでも優しく接していた穂波はそれに深く傷ついた。

 

「けど深幸くんは私と友達の間を取り持って関係を改善しようとしてくれたよね」

 

「幼なじみが困っていたんだからさ、そりゃ放っておくわけにはいかなかったんだ」

 

結果として、亀裂を完全に埋めることは出来なかった。穂波はそれがトラウマになって更に俺たちとの距離が広がってしまったようにも感じる。

 

「…ごめんな。完璧に元の関係に戻せなくて」

 

「そんなことない!深幸くんがいなかったら私、1人で抱え込んでもっと酷いことになってたと思う。だから自分を責めないで…」

 

「ああ、ありがとう…」

 

「でも深幸くんに伝えたいのはそれだけじゃない。もっと大切なことなの…」

 

「…話してみて」

 

「深幸くん………貴方のことが好きです。ずっと前から…」

 

 

 

 

 

 

 

…実は何となく気づいていた。穂波が俺に好意を持ってくれていたことも、呼び出した理由が俺に好きだと伝えるためということも。

 

だけど俺の心は既に決まっているから穂波の気持ちを受け入れることは出来ない。俺には穂波の恋をここで終わらせる責任がある。

 

「穂波…俺はその気持ちには応えられない」

 

「…ッ!どうして…?」

 

「俺は一歌のことが好きなんだ。他の誰よりも」

 

そう伝えた刹那、穂波の両目から涙が零れ落ちる。俺は自分の唇を噛んだ。想いを拒絶することを覚悟していたとはいえ、女の子をこんな形で泣かせてしまった自分が憎くてどうしても許せなかった。

 

「い…いや…嫌ッ…!」

 

俺の胸に飛び込んでくる穂波をそっと受け止めて頭を撫でる。目の前で泣いている女の子を無視することは出来ない。どうかこれだけは許してほしい。

 

「…ごめん…ごめんな」

 

「ううん…これだけは伝えさせて…深幸くん、貴方を好きにならせてくれてありがとう…!私のことを救ってくれて…ありがとう!」

 

「穂波…ありがとな」

 

俺の胸で涙を流す穂波をそっと抱きしめるがその涙を拭うようなことはしない。自分にそんな資格はないのだから…

 

 

────────────────────────

 

 

「穂波…ありがとな」

 

最初は自分の目を疑った。けど腕をつねった時の痛みが目の前の光景が現実であることを証明してしまった。

 

 

 

 

 

ことの始まりはセカイにどれだけの部屋があるのだろうという好奇心からだった。咲希も志歩もそして私もこのセカイがどこまで広がっているのかを知らなかった。それを確かめるため練習が終わった後に廊下を散策していた。

 

(本当に不思議な場所だなぁ…ミクたちはどうやって生活してるんだろう)

 

そんなことを考えながら歩いているとひとつの部屋のドアが開いていることに気がついた。誰かいるのかな?そんな考えで私はその部屋を覗き込むと

 

(あれは深幸と…穂波!?)

 

私は見てしまった。深幸と穂波が抱き合っているところを。想像もしていなかった出来事で私の頭が混乱する中、深幸が言った。

 

「穂波…ありがとな」

 

そして気づいてしまった。2人がどのような関係なのか。男女がこっそり抱き合っているところを見てそう思わない人はいない。

 

あの2人…付き合ってるんだ…

 

そう思った瞬間、私の胸が酷く痛むことに気がついた。そして同時にドス黒い感情が私の心を埋めつくす。なんで…?幼なじみ2人が幸せそうにしているんだから祝うのは当然なのに…

 

ここにいてはダメだ。そう思った私はすぐにその場を離れる。けど胸の痛みと黒い感情は消えてくれない。なんで…なんでこんなに苦しいの…?どうして涙が溢れてくるの…?

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「一歌!?どうしたの?」

 

それからのことは覚えていない。無我夢中でその場を離れて気づいたらさっきまで練習していた教室に戻ってきていた。そこには残ってベースを弾いていた志歩とミクだけがいた。

 

「え…えっと…」

 

何故だか上手く話せない。胸が苦しい。2人のことを考えるとこんなに辛くなるのはなんでなの?

 

「一歌、まずは深呼吸して。話すのは落ち着いてからでいいよ」

 

「はい水。これ飲んで」

 

ミクが言う通りに深呼吸をし、志歩から差し出された水をひと口飲むと少し落ち着きを取り戻せたように感じた。

 

「どう?落ち着いた?」

 

「うん。2人ともありがとう」

 

「それで何があったの?ゆっくりでいいから話してみてよ」

 

私が見たことは話していいことなのかわからないけど胸の中に押し留めておくのは無理だった。私は2人にゆっくりと話し始めた。

 

「そんなことがあったんだ…」

 

「穂波…」

 

「志歩は知ってたの?」

 

「いや、私が知ってたのは穂波が深幸のことを好きってことだけ。関係が進展してたなんてことは聞いてない。それに穂波ならそういう関係になったら話してくれると思う」

 

志歩は何か引っかかるといった表情をしていた。私は2人が抱き合っていた部分しか見てないしそれ以前に何があったかまではわからない。

 

「まぁ、私は2人が付き合うことには賛成だよ。穂波から何度も相談受けてたし深幸なら穂波を幸せにしてくれると信じてるから」

 

確かに深幸は優しいから穂波を不幸にすることなんてしないと思う。だけど2人が仲良く笑っているのを想像するとまた胸が痛くなってきた。なんだか幼なじみの幸せを祝えないみたいで自分が嫌になる。

 

「もしかして…」

 

ミクが私の顔を覗き込んでこう言った。

 

「一歌は深幸のことが好きなの?」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、さっきまで痛かったはずの胸が高鳴り始めた。こんな感情になるのは初めてのことではない。

 

 

私たちのことを優しく見守る深幸。

 

 

DJの練習中に真剣な顔を見せる深幸。

 

 

そして一度すれ違い、元の関係には戻れないとまで思っていた幼なじみと引き合わせるために必死で行動してくれた深幸。

 

 

咲希と穂波、志歩やミクたちのことも大好きだけどそれとは違う。友愛としてじゃなくて恋慕としての感情。

 

 

それに初めて気がついた。

 

 

「そっか…私、深幸のことが…」

 

 

好きなんだ。

 

 

 

「ミク!志歩!どうしよう…穂波に深幸が取られちゃう…」

 

「それ穂波から恋愛相談受けてた私に言う?」

 

「アハハ…まぁあの2人が付き合ってることが確定したわけじゃないんでしょ?それなら一歌にもまだチャンスはあるよ」

 

「…穂波を裏切るつもりじゃないけど、私は一歌にも幸せになってほしい。穂波にも同じこと言ったけどフラれたらやけ食いにでも付き合うよ」

 

「ふふっ、なにそれ…」

 

いつの間にかちゃんと笑えるようになっていた。今日はゆっくり休んでまた明日深幸に伝えよう。胸に溢れるこの想いを………

 

 

────────────────────────

 

 

「はぁ…」

 

昨日は全然眠れなかった。穂波からの好意に気づいた時から断ることは決心していたけどこんなにキツいものなんだな…

 

「おーい空浜…空浜!」

 

「あ、はい!」

 

「ここの問題答えられるか?」

 

「え、えっと…すみません。わかりません」

 

「おいおい、ちゃんと俺の話聞いとけよー」

 

…授業中ってことすっかり忘れてた。

 

 

 

 

 

「はぁ…終わったか…」

 

「深幸、さっきは上の空だったが何かあったのか?」

 

顔を上げるとそこには冬弥がいた。あの問題も代わりに答えてくれたし悪いことしたなぁ…

 

「まぁ色々あってな。それと冬弥にひとつ聞きたいんだけどいいか?」

 

「なんだ?」

 

「自分に好きな人がいるとします。そんな中で別の子に告白されました。冬弥ならどうする?」

 

「断るな。その子が自分を好きになってくれたことは嬉しいが、だからこそ中途半端に応えるわけにはいかない」

 

「だよな。サンキュー」

 

やはり俺の判断は間違ってない。あのまま付き合ったとしても穂波に失礼なのだから。そう自分を納得させてもすぐにあの涙を忘れることは出来ない。

 

(どうしたものか…って一歌からメール?)

 

一歌からメールが来ることはそう多くないから驚いた。内容は話したいことがあるからセカイに来てほしいということだった。

 

『わかった。すぐに行くよ』

 

好きな人からの呼び出しなのだから断る理由はない。俺はすぐに人目のつかぬ場所へ移動し、セカイへと向かった。

 

 

────────────────────────

 

 

セカイに行くとそこにはミクとカイトさんがいた。

 

「いらっしゃい深幸、一歌なら屋上だよ」

 

「ミク…なんでそれを?」

 

「さぁね。それは深幸の目で確かめないと」

 

答えになってない気もするけどまぁいいや。俺はミクに言われた通り屋上へと繋がる階段へ向かおうとする。

 

「深幸くん、頑張って。応援してるよ」

 

「…ありがとう。カイトさん」

 

この階段の先には一歌がいる。これからどんな結果になるかはわからないけど俺は行かなくてはならない。この想いに決着をつけるために。

 

 

 

 

 

「さて、もう出てきてもいいんじゃない?3人とも」

 

「ミクちゃん気づいてたのー?」

 

「何となく気配がしたからね。深幸に見つかったらどうするつもりだったの?」

 

ミクは隣の教室に隠れていた咲希と穂波、志歩を呼び寄せる。常にこのセカイにいるミクにとって訪問者を見破るのは容易いことなのだろう。

 

「それにしてもいっちゃんが恋かぁ…しかも相手はみっくん!上手くいくといいなぁ…」

 

「…そうだね」

 

志歩は複雑だという表情を浮かべて答える。深幸が一歌の想いに応えるということは即ち、穂波が失恋することを意味する。前から穂波の恋愛相談に乗っていた志歩としては素直に喜ぶことが出来なかった。

 

「ねぇ、志歩ちゃん」

 

「なに?穂波」

 

「今度やけ食い、付き合ってほしいなぁ」

 

「…!うん、わかったよ」

 

 

 

 

(2人とも、お幸せに…)

 

 

────────────────────────

 

 

このセカイには満天の星空が広がっていてその星空をより鮮明に見ることが出来るのがこの屋上だ。俺もよく望遠鏡を担いでここに来る。

 

そんな慣れ親しんだ場所となった屋上には俺ともう1人。俺がずっと想いを寄せている女の子の姿もあった。

 

「…来てくれたんだね」

 

「ああ、断るわけないよ。隣座ってもいいかな?」

 

「…うん」

 

しばらく無言の時間が続く。隣に座る一歌は星空に夢中といった感じだ。そのまま横顔を見つめていると照れからか頬を赤くした一歌が俺の方を向いて言った。

 

「もう…そんなに見つめられると照れるよ…」

 

「あっ…ごめん…」

 

「ううん。ねぇ深幸、あの赤い星の名前なんだっけ?」

 

「ああ、さそり座のアンタレスだね」

 

「…あの星が見られなくなるかもしれないってことは知ってる?」

 

「うん。あそこまで赤く大きくなってるんだ。星としての寿命は近いんじゃないかなと思うよ」

 

生き物のように短いわけではないけど星にも寿命がある。今当たり前のように見えている星も明日には消えてしまっているかもしれないけど悲しむことではない。いつか終わりを迎える日まで懸命に輝こうとする姿が限りある命の美しさだと俺は思う。

 

「…深幸、話したいことがあるんだけどいいかな?」

 

「一歌、それは俺も同じだ。昨日言えなかったことを君に伝えたいんだ。先に話してもいいかな?」

 

女の子から呼び出しを受けた時点で何が起こるかは昨日知ってしまったからこの後どうなるかは何となくわかっていた。けど俺は自分の言葉で伝えたい。それが長年抱いていた想いへのけじめだから。

 

「そういえば昨日は話せないまま別れちゃったね。じゃあ深幸から話してよ」

 

「わかった…」

 

俺は目を閉じて深呼吸をする。目の前にいるこの子に長い時間温め続けていた想いを伝えるために。

 

「………一歌、好…」

 

零れた言葉を最後まで言い切ることは出来なかった。好きだと言いかけた俺の口を柔らかな感触が塞ぐ。それが一歌の唇だと気づくのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

一瞬とも一生とも感じられる時間が流れ、一歌は離れた。

 

「一…歌?どうして…」

 

「…ごめん。自分の気持ちが抑えられなかった…深幸、好きだよ」

 

絶対先に伝えようと決心していたのに…この子は本当に卑怯だ。けど不快には思わないし寧ろ嬉しいと感じる自分もいた。

 

「…ずるいよ。一歌は」

 

「ごめんって。でも、想いは伝わったでしょ?」

 

「…ああ。一歌、俺も好きだ」

 

これから俺は一歌の手のひらで転がされる生活を過ごすかもしれない。けど惚れた弱みなんだから諦めよう。そう心の中で結論付けた。

 

「深幸、もっと近くに来てよ」

 

「もちろん」

 

「そのまま抱きしめてほしいなぁ…昨日穂波にやったみたいに」

 

「なっ、なんでそれを…」

 

「ふふっ、ほら早く」

 

言われるがまま一歌を抱きしめる。昨日は無我夢中だったからわからなかったけど女の子の身体ってこんなに柔らかいんだな。それに俺よりも暖かい…

 

「深幸って結構筋肉あるんだね。それに思ってたより背も高い…」

 

「まぁ男だから。一歌は逆に小さいね」

 

昔よりも広がった身長差はどれだけの月日を共に過ごしてきたかを物語っている。これから更に伸びるかはわからないから次は何で月日を数えようか。

 

「本当に大きくなっちゃって…」

 

「一歌…?」

 

一歌は俺の胸に顔を預け、匂いを堪能するように押し付けた。

 

「けど、この匂いは昔から変わらないよね。安心する…」

 

「そっか…」

 

甘えるように寄り添ってくる一歌。俺はそんな彼女がたまらなく愛しくなってしまい、無意識に言葉が出ていた。

 

「…もう一度キスしたい」

 

それを聞いた一歌は顔を赤く染めて俯いたが、すぐに顔を上げて上目遣いで言った。

 

「いいよ。私も深幸ともう一度したい…」

 

抱き合っていた2人は名残惜しそうに離れ、手を握り合う。照れからか一瞬目線を外すが、すぐに向き合って見つめあった。

 

互いの瞳には愛しい人しか写っていない。

 

「一歌、愛してる」

 

「私も愛してるよ。深幸」

 

再び2人の影が重なる。満天の星空は2人の新しい門出を祝福するかのように輝きを増し始めていた。

 

 

 

 

 

この時間がいつまでも続きますように…

 


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