ヒーローが活躍するエロゲー世界でヒーローになれず燻っていた俺が、二周目の隠し要素だった件。   作:西京屋

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「――――貴方の今後のご活躍をお祈りしております」

 

 落ちた。

 ものの見事に、面接に落ちた。

 今の季節は夏の終り、面接に落ちたのは、軽く二桁を越えている。祈られた活躍の場は、現状どこにも存在しなかった。

 

 はぁ、とため息が溢れる。

 この時期に未だに内定が一つも取れていないこともそうだが、受けた企業の面接官から、尽く言われるのだ。どうしてウチを志望したのか、と。

 

「……そりゃ、ヒーロー活動の経験もないのに、ただヒーローを支援したいとか、ただのヒーローオタクにしか見えないよなぁ」

 

 まったくもって、それは正しいことなのだけど。

 だからといって俺はそれにハイと頷けるかと言えば、そうではなかった。

 

「仕方ないだろ……なれなかったんだから」

 

 世の中には、どれだけなりたいと望んでも、なりたい職業に就けない人はいくらでもいる。それはありふれた話で、例えばトップアイドルとかトップアスリートとか、慣れる人間は地球上の人口に1パーセントにも満たないだろう。

 そして俺の場合は、そもそもなる資格を得られなかったという話。口の聞けない講談師。目の見えない写真家。

 そんな適正のなさゆえに、俺はそれを、目指すことすら許されなかったのだ。

 

 ビルのガラス越しに、街を歩く自分の姿を見た。

 そこに写っていたのは、希望に満ちた夢を追う人間の顔ではなく、絶望をにじませる燻った男の顔だった。

 

 キッチリとクリーニングされたスーツが、その表情とは逆に浮いている。

 

「……何やってるんだろうな、俺」

 

 そう零す俺の後ろで、歓声が上がった。

 なんとなく、それが何であるかは察しが付いた。

 

 

『またやってくれました! 最強()()()()、パストオーバーが、またもヴィランを撃破!』

 

 

 ――覚えのある名前に、ふと顔を上げれば、そこには街頭テレビ。今まさに、ヒーローがヴィランを撃破している映像が映し出されていた。

 

 ヒーロー。

 人々を苦しめるヴィランを退治して、多くの人の希望となる存在だ。

 

 そして俺が、かつてなりたかったモノでもある。

 

 多くの人々が、それに視線を奪われていた。

 歓声を上げる者もいれば、ヴィランが撃破されたところで、そそくさと自分の日常に戻るものもいる。

 

 そんな当たり前の光景を、俺は遠巻きに眺めている。

 映像ではヴィランを倒した女性が、戦闘痕を涼し気な顔で見下ろしていた。その顔や服に傷一つなく、戦闘が何一つ問題なく終わったことを示していた。

 

「相変わらずだな、“パストオーバー”」

 

 どこか余所余所しく、見知った名前を、よく知っている彼女の名前を零しながら、僕はそんな彼女から目をそらした。

 見ていたくなかったから。

 見ていられなかったから。

 

『パストオーバー、何かコメントをお願いします!』

『……私は』

 

 そうして目をそらした先で、ガラスに反射した自分の顔を再び視界に納めてしまい、俺はもう一度ふかく、ふかく溜息を零す。

 

『ヒーローとして、当然のことをしたまで。……私は、ヒーローだ』

 

 そして、街頭から響くリポーターの声が、俺の脳裏にこびりついた。

 

『ヒーロー時代の中心に立つ英雄! パストオーバーを止められるヴィランは果たしているのか、否、いない!!』

 

 ――ヒーロー時代。

 この世界に、人ならざる力を持って現れたヒーローと、それに敵対するヴィラン。そんな存在が当たり前になって、果たしてどれほどの月日が立っただろうか。

 人々は、世界の希望であり、ヴィランの魔の手から日常を守るヒーローに熱狂した。

 中にはヒーローに憧れ、それに志願する者もいた。俺もその一人だ。

 

 しかし、ヒーローには適正が必要だった。

 

 その適正が存在しなければ――人は、ヒーローになる資格すら与えられない。

 

 どれだけヒーローになりたいと願っても。

 

 俺もまた、適正を持たない、ただの一般人だった。

 

『続きまして、ヴィラン警報です。セントラルシティにて、正体不明ヴィランによる被害が続出しています。市民の皆様は、くれぐれも夜間の外出、戦場となる地域への不用意な接近を控えますよう……』

 

 ――ふと。

 

 パストオーバーの映像から、ニュース映像に切り替わった街頭モニター。

 ありふれた、決して違和感をおぼえるような内容ではない。

 

 ただ、俺はどうしてか、その内容を――

 

「なお、被害の特徴として、被害者は行方不明となり――」

 

『なお、被害の特徴として、被害者は行方不明となり――――』

 

 

「――鏡だけが、その場に残されている」

 

 

 ――知っていた。

 

「……っ!?」

 

『鏡だけが……』

 

 俺の告げた言葉を、一字一句、違わずアナウンサーは告げた。

 

 既視感。デジャヴュというヤツが、一気に違和感となって体中から溢れ出してくる。

 おかしな感覚だ。自分の中に、ありえない別の何かが存在しているかのような、異物感、そして莫大な既知感だ。

 

「何だ……?」

 

 自分でも、ありえないと思うようなことが起きた。

 それをありえないと思うのは、この世界では常識だ。

 ヒーローとして適正の無いものに、超常的な現象はどうやっても起こらない。だから、これはありえないことだ。

 

 ありえないことに――

 

 俺は……期待、しているのだろうか。

 

 もしもそうなら、俺はとんだバカ野郎だ、ありえない可能性に浮かれて危険に飛び込むような真似をしようだなんて。そんな考えが浮かぶ時点で正しいヒーローの在り方とはかけ離れているだろう。

 

「づ……」

 

 頭を抑えながら、壁によりかかる。ガラス越しの顔は、相変わらず死人のようだが、今は単純に体調が悪い。既視感がどうにも拭えず、頭にずしりと重りを乗せられているかのようだ。

 そして俺は、痛む頭を誤魔化すように周囲に目をやった。

 

 周囲の人々は、それを、壁によりかかる俺を無視して、歩き去っていく。

 見てみぬ振りをする者もいる。単純に気付かない者もいる。ああ、当然だ。彼等はただの一般人なのだから。

 

 ――だから、だろうか。

 

 俺はその場にいたくなくて、街頭モニターから聞こえるヒーローの情報に触れたくなくて、ふらりと道を曲がった。

 そうすると、少しだけ既視感が、違和感が和らいで、俺はそのままフラフラと足をすすめる。

 

 そうすることで、何とか正気を保とうとするかのように。

 

 ゆらり、ゆらりと。

 

 そうして気がつけば――

 

 

 ――俺の目の前には、ヒーローがいた。

 

 

 それと相対するように、ヴィランも、また。

 

 一人の少女と、おかしな顔をした、異形としか言いようのない男が相対している。

 すぐに分かった。

 

 少女がヒーローで、

 男がヴィランだ。

 

 少女の年の頃は16かそこら、身長はおそらく平均程度だが、発育は良い。そして制服は、近くのヒーロー養成学校の制服。

 見た目の良さも相まって、まさにヒーローと言うべき出で立ちだった。

 

「そこまでよ、ミラールック! アンタの横暴も! そのふざけた顔も!」

 

 対して、彼女の言う通り、ふざけた顔のピエロのような男は、

 

「くくく……ふざけているのは顔だけですよ、私は!」

「お前は…………いや、そういっているでしょ!」

「ククククク……! 来なさい、ヒーロー!」

 

 それに、少女は構えてから答える。

 

「言われなくともっ! アタシの名は――」

 

 

   ウィズ・スイッチ

 

 

 言葉とともに、体中を赤く染め上げ、その両手に短剣を一本ずつ握る!

 

 世界には、ヒーローとヴィランが溢れていた。

 ――彼等はヒーローになった時から、もう一つの名前を得る。

 

 既視感。

 ――どうしようもなく、俺は既視感に襲われている。

 ああ、まただ。俺は頭を抱えてうずくまる。警鐘のごとく、ガンガンと痛む頭を押さえる。何故だ、何故だと己の心に問う。

 しかし、わからない。

 

 解らないが――知っている。

 俺はそれを――画面の向こうから、知っている。

 

 画面の向こう。

 

 プロローグ。

 

 すべての始まり。

 

 

 俺は、これを知っている?

 

 

 この戦いを、知っている?

 

 

 彼女の名前を、知っている?

 

 

「覚悟しなさい、ミラールック!」

「往生しなされ、ウィズ・スイッチ!」

 

 

 彼女たちは、まだ俺に気付いていない。

 

 そして、俺は彼女を知っている気がしてならない。

 

 無名の、聞いたこともないようなヒーローの少女を、俺は――

 

 

 ゲームの知識で、知っている。

 

 

 俺はそのことに、まだ気が付かない。

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