ヒーローが活躍するエロゲー世界でヒーローになれず燻っていた俺が、二周目の隠し要素だった件。 作:西京屋
幼い頃、俺はヒーローにあこがれていた。
その年頃の男子なら、至極当たり前のあこがれで、誰もが一度は強い力でヴィランに勝利する空想に耽るものだ。
他人と少しだけ違ったのは、俺の場合、本当にヒーローになるつもりだったということ。
例えヒーローに憧れたとしても、実際になりたいと言う人間は、十人に一人もいればいいほうだろう。
俺はその十人に一人の側だった。それだけの話。
だから、少しだけ違った。少しだけ違って――
そして多くの人間と同じように、俺はヒーローになれなかった。
ヒーローには適正が必要で、それがなければヒーローを目指す資格すら与えられない。
俺はそれが、悔しくてならなかった。ヒーローになれないと知った時、俺の人生は一度終わってしまったのだろう。
そんな終わりを迎えたはずの俺は、ヒーローになる夢を、ヒーローへのあこがれを諦めきれず、ヒーローをサポートする企業を就活で志望した。
結果は惨敗。
一つとして掠るものはなく、俺はヒーローという夢を夢のまま終わらせようとしていた。
今日、この日、この瞬間までは。
――本来、ヒーローの戦場に一般人が立ち寄ることは許されない。というよりも、普通はできないようになっている。サポート企業が一般人が立ち寄らないよう監視しているし、一般人を近づけないようにする装備も色々と存在する。
だから俺は、本来その場に居ないはずの存在だった。
なのにどうしてか、俺の目の前ではヒーローが戦っていて、ヴィランが応戦している。
それを見て興奮しないといえば嘘になる。
テレビの向こうにしかなかった憧れの光景が、生で目の前に広がっていて、それを間近で見ることができるのは、幸運という他ない。
しかし、そんな興奮も、いつしか俺の中から消えていた。
目の前でヒーローが戦っているという光景は、否応なく自分の中の憧れが刺激される。
直視できない、眩しいものが広がっていて、俺はそれに焼かれて消えてしまうのではないかと錯覚するほど、
――遠いものだったのだ。
そんな遠く思える戦いの中、俺は決して疑っていなかった。
何を、といえば言うまでもない。
ヒーローの強さ。
弱き者を守るためにその力を振るう、俺はそんなヒーローの強さを信じている。
俺の憧れたのは、そんなヒーローで――
そして――
――故に今、俺の目の前でヒーローが、
完膚なきまでに、敗北していたとしても。
その事実を、俺は認めようとすらしなかったのだ。
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「――弱い! 弱いぞウィズ・スイッチ! 威勢の良さはただの虚勢か!? お前のどこがヒーローだというのだ!!」
「う、ぐ……」
――ヒーロー、ウィズ・スイッチは倒れていた。
土埃にまみれ、傷だらけになって、未だ無傷のヴィランを見上げていた。
「ミラー……ルック!」
ヴィラン、ミラールック。
ウィズ・スイッチでは叶うはずのない強さのヴィランだった。そもそもウィズ・スイッチは半人前、ヒーロー養成学校を卒業している一流のヒーローではない。
ヒーロー見習い。
どころか――
「分かる、分かるぞウィズ・スイッチ! お前――落ちこぼれだな?」
ミラールックは指摘した。
少女ヒーローの、どうしようもない真実を。
「うる……さい!」
「ククク! お前以外にここにやってこれるヒーローがいなかったのか。哀れだなぁ、お前はそのせいでここで死ぬ! このミラールックに敗れて消える!」
嗤っていた。
ふざけた顔の、道化のような男は嗤っていた。
見下ろしながら、見下しながら、
「落ちこぼれのまま、何も出来ずに死んで行け!!」
俺はその光景を――見守っていた。
どうする? どうすればいい?
無駄死にするだけだ。たとえそれでヒーローが一瞬時間を得られたとしても、彼女はヴィランが言うように半人前、その一瞬で正しい判断ができるかも解らない。
いや、例え一流のヒーローでも難しいことなのだろう。
むしろ、一流のヒーローでも、出来ないことが多い、と聞いた。
戦場に一般人が入ってくることはありえない。それだけイレギュラーなことだ、一般人の乱入は。
しかし、だからといって見捨てるのか?
それがヒーローに憧れた男のすることなのか?
できることはないか?
するべきことがあるんじゃないか?
何より、俺を苛む既視感は、一体いつになったら晴れるんだ?
悩む中、動きを見せたのはヴィラン、ミラールック――ではなかった。
「……落ちこ、ぼれ?」
「んん……?」
ウィズ・スイッチが、傷つきながらも、立ち上がろうとしていた。
それに、ミラールックの手が止まる。ヤツにとって、もはや勝利は決定していた。だから、そこで手を止めても構わない。
――慢心だった。
そして、それができるくらいに、両者の実力差は明白だった。
「知ってるわよ、そんなこと……!」
「クク……ヒーローらしくなってきたな……!?」
「うるさい……! わかりきったことを、いちいち並び立てるな! アタシが半人前どころか、見習い未満の落ちこぼれなんてこと、言われなくたって解ってる!」
――知っている。
俺は、彼女の叫びを知っていた。
既視感が訴えかける。
「でも、それが立ち上がらない理由になんてならないのよ! ヒーローになった以上! ウィズ・スイッチを名乗った以上!」
「クク――!」
「アタシは確かに……ヒーローだ! だから――!」
そして、完全にウィズ・スイッチは立ち上がった。
その光景を、
俺は見たことがあった。
そして俺は――口にする。
その、続きを。
「――――ヒーローは、止まらない」
直後、彼女が同じことを口にした時。
俺は――
過去に、呼びかけられていた。
『――コタくんは、ヒーローになるんだよね?』
ふと、呼びかけられた気がして振り向いた。
そこに、人の姿はない。けれど、その声を俺はよく知っていた。
懐かしい声だ。
彼女に、ヒーローになりたいと話した時、彼女はそう問いかけてきた。
それは――
「ククク、ヒーローの真髄、みせていただきましたよ! ですが、もはや問答は不要でしょう! 死になさい、ウィズ・スイッチ!」
「――ミラールック! 教えてあげる!」
――ずっと、過去に置き去りにしてきた言葉だった。
『ヒーローは、負けても、立ち止まらないんだ』
ウィズ・スイッチは、
「アタシは、止まらない! 負けてもまた、立ち上がる!」
――過去の少女は、
『コタくんは、きっと前にすすめるよ。だって、たとえ世界がコタくんをヒーローだと認めなかったとしても』
――――ウィズ・スイッチは、
「なぜなら、世界の誰もが、アタシをヒーロー未満だと見なしたとしても!」
――――――――過去の少女は、
『コタくんがヒーローだって、私が疑ってないんだもん』
「アタシは、アタシをヒーローだと、疑ってない!」
傷つきなお立ち上がる、ウィズ・スイッチの背を見た。
その少女の姿に、俺の背中を押してくれた幼馴染の姿を幻視した。
その時俺は、
「ククク!! 愚か! 愚かなり、ウィズ・スイッチィィィイ!」
――目の前の憧れに手を伸ばし、過去の応援に背を押された。
気がつけば、
「これで死ね、我が名を刻んでいけ! 我が名は――」
<ミラールック>
「ちょっと待ったぁ!!」
――その一瞬、俺は自分が何をしているのか、解らなかった。
名乗りを上げながらウィズ・スイッチへ襲いかかるミラールックを、
そのことを認識したのは、ミラールックが、凄まじい勢いで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたときだった。
「な――」
俺は、思わず伸ばしていた手を、何度か開閉して、確かめる。
変化はない、普段と変わらない俺の手だ。
じゃあ俺は、何をしたんだ?
わけがわからない。
混乱したまま振り返り、唖然とした顔でこちらを見る、ウィズ・スイッチの姿を視認した。
「――アンタ、何者よ!?」
その問に、俺は、ポツリと。
「俺は、鉄十字小太郎だ」
自分の名前を返して、
そして、思い出した。
鉄十字小太郎。
そういえば、その名前は――
ゲームの登場人物の名前だ、と。