ヒーローが活躍するエロゲー世界でヒーローになれず燻っていた俺が、二周目の隠し要素だった件。   作:西京屋

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 「ヒーローズ・ラインオーバー」と言うエロゲーが、かつて人気を博していた事がある。ジャンルはRPG、熱いシナリオと歯ごたえのある難易度が人気のゲームだった。

 

 ヒーローをテーマにした作品だが、日本的なイメージの強い、仮面を被ったバイク乗りであったり戦隊を組んだりするタイプではなく、ミュータント的な異能力を操る、いわゆる星条旗な国のコミック的世界観に近い。

 それこそ、ヒーローになるために学校に行くマンガに雰囲気は近いだろう。

 

 主人公は、はぐれものの()()()()。この物語は、ヴィランだった主人公が本物のヒーローになるまでの話だ。ストーリーとしてはありふれている題材だろう。ただしこの世界では、主人公は特別な存在である。

 この世界では、ヒーローはヒーローであり、ヴィランはヴィランである。例外は一つとしてなく、この世界が始まった時から決められた絶対の法則だ。

 そんな世界で、主人公が疑問を抱くことで物語が始まる。

 

 やがて、そんな主人公の疑問は世界を巻き込み、ヒーローの時代に波乱を巻き起こすこととなる、というわけだ。

 

 ゲームとしては、非常に良く出来たRPGと言えるだろう。個性豊かなユニットを前衛と後衛に配置して、それぞれの役割や特性を活かしながら戦う。

 非常に高い戦略性は、間違いなくこのゲームの人気を確固たるものとする要因だ。

 

 ただし、よく耳にする評判として『難易度が高い』ということが挙げられる。スタッフ達がなかなかに拗らせたゲーマーであり、難易度は高ければ高いほどいい、という思想のもと、最高難易度は非常に難解なことで有名だった。

 幸い、多少のブレーキ役は存在していたようで、最低難易度ならばゲーム初心者でも多少の試行錯誤でクリアできる難易度に落ち着いていた。しかし戦闘をスキップしたり、チートが使えたりはしない。全てはスタッフが拗らせているためであり、ユーザーフレンドリィという言葉とは真逆の位置にいるスタッフ達だった。

 

 さて、そんなこのゲームに登場するのは、そのほぼ全ての人物がヒーローかヴィランだ。ヒーローと敵対したり、ヴィランが仲間になったりすることはあるが、一般人が戦闘に参加したりはしない。

 唯一の例外が、何を隠そう、この俺『鉄十字 小太郎』なのである。

 

 とはいえ、鉄十字小太郎を一般人と呼ぶことははばかられる。鉄十字小太郎はヒーローでもヴィランでもないが、特殊な能力を持っているし――

 

 何より、端的に言って鉄十字小太郎はその厳しい名前にそぐわないほどに、ネタキャラだった。

 

 

 

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 ハッと意識が覚醒する。

 俺はどうやら既視感から来る頭痛にやられて、意識を失っていたようだ。前世の記憶なんていう信じがたいものを取り戻したことも、要因に思える。

 まさか、そんなマンガやアニメでしか見たことのないような事態が俺の身に起きるなんて、想像したこともなかった。

 

 ただ、この世界は前世の記憶曰くゲームなのだから、そういったこともありえないわけではないのかもしれない。

 というか、思い出してもそこまで自分が変わった気はしない。この世界で二十年以上生きてきて、自我も確立しているということだろうか。

 

 もっと言えば、ゲームにおける鉄十字小太郎と、今の俺を比べて、その精神性が大きく違うということも理由の一つであるはずだ。

 

 そんなことを考えながら目を開けると――

 

 

「あ、やっと起きた。大丈夫?」

 

 

 真紅の少女が、視界に入った。

 赤を基調とした、学生服の少女。

 

 彼女は――そうだ。

 

「――ウィズ・スイッチ」

「……ん、そうよ。アタシの名前を知ってるのね、アンタ」

 

 彼女の私物らしいリュックサックを枕にして寝かされていた俺は、ゆっくりと起き上がる。

 先程までヴィランと戦っていた少女が、心配そうにこちらを見ていた。

 先程までボロボロだったが、ケガはなさそうだ。

 

「まぁ、知ってるさ。さっき名乗ってたからな」

「うぇ……さっきの戦闘、最初から見てたの? ……アタシのダメダメな戦闘、見てたんだ」

「ダメなものか、ヒーローとして正しい姿だったと思う。何か悪いのか?」

「いやいや……じゃなくって」

 

 俺の無事を確認すると、ウィズ・スイッチは恥ずかしそうにしながらも立ち上がった。いや、確かに一方的に敗北してしまったが、あの啖呵はカッコよかったと思うのだが。

 こほん、と咳払い一つ。

 

「それで、アンタ一体、何者よ」

「――俺か」

 

 俺のことを問いかけられ、それに応えながら俺も立ち上がる。

 不思議な話だが、前世の記憶を思い出し、この世界をゲームの世界だと認識しても、俺の現実感は何一つ変わらなかった。目の前にいるのはウィズ・スイッチ。ゲームにも登場するヒーローなわけだが、それはそれ、これはこれという意識が強い。

 

 ちなみに、ウィズ・スイッチはヒーローではあるがヒロイン――主人公の恋愛相手としての意味――ではない。あくまで名有りのモブのような存在である。

 理由は単純に弱いから。序盤のうちは前衛と後衛を名前の通りスイッチできる性能から重宝するが、中盤以降は使うのに愛が必要なスペックである。

 

 ただし、中盤の終わり、ゲームにおけるトラウマポイントの一つとされる最強ヒーロー『ギルティング』との戦いにおいて、意外な特性が有効活用されたりする。

 それでもまぁ、あくまで選択肢の一つ、といった程度だけれど。

 

 話を戻すと、そんなゲームキャラのウィズ・スイッチを目の前にしても、俺は彼女をゲームキャラだとは思わない、確かに意思を持ち行動する、一人のヒーローだ。

 しかし、それが鉄十字小太郎となると、話が変わる。

 

 なぜなら、鉄十字小太郎と俺の人間性がイコールで結びつかないからだ。そう、鉄十字小太郎とは名前を問われた時、存在を誇示するようなポーズをとって――

 

 

「俺は鉄十字小太郎だ!!」

 

 

 非常に、暑苦しいことをいう人物なのである。

 

 少なくとも、俺のように冷静で、理性的な会話を繰り広げたりはしない。

 

「……なんて?」

「…………?」

 

 そして、そんな俺の名乗りに対し、ウィズ・スイッチはなんとも言えない顔をしてから、聞き返してきた。不思議に思いつつも、俺は続けて答える。

 こほん。

 

 

「俺は鉄十字小太郎だ!!」

 

 

「うるさい!」

 

 何故かお叱りを受けてしまった。

 

「うるさいとは失礼な。俺は誠実に答えているんだぞ」

「うっ……いやでも、なんかこう、全体的に圧が強かったのよ」

 

「俺」

 

「もういい! 解ったから!」

 

 ――気を取り直して、と行った様子でウィズ・スイッチは更に問いかけてくる。

 改めて、

 

「それで、貴方はヒーローでも、ヴィランでもないはずなんだけど、一体何者なの?」

 

 頭の天辺からつま先まで、俺の姿を見てから問いかけてくる。今の俺はスーツ姿のフレッシュな就活生であり、どう見ても一般人な鉄十字小太郎だ。

 ヒーローになりたかった俺がなったのは、鉄十字小太郎だった。

 

 なんとも、不思議な話である。

 

 なにせ、鉄十字小太郎なのだ。

 わかりにくいので簡単に言うと、鉄十字小太郎とは、鉄十字小太郎なのである。鉄十字小太郎であるということは鉄十字小太郎であるということにほかならないので、つまり俺は鉄十字小太郎なのだ。

 

 そういうことだ。

 

「俺は――」

 

 しかし、言葉にするとなると、少しむずかしい。

 少し迷って、ふと思考がそれた。

 

 ――そうだ。

 

 俺の既視感の原因は、そもそもここがゲームの冒頭に当たる場所で、このゲームはウィズ・スイッチとミラールックの戦闘から始まるのだが――

 そうなると、一つおかしいことがある。

 

「なぁ、そういえば一つ聞きたいんだが――」

 

 それを、問いかけようとしたときだった。

 

 

やってくれましたねぇ!!

 

 

 瓦礫が吹き飛び、そこからヴィランが姿を表したのだ。

 ――ミラールック。

 先程、俺が吹き飛ばしたはずの異形の男が、まだ生きていた。

 

 そりゃそうだ、ヴィランなのにお約束の爆発していないんだから。

 しかし、だからといって間が悪い!

 

 俺は慌てて振り返り――この男の厄介な能力を使わせる前に、もう一度()()()()()()()()()()()で殴りかかろうとした時。

 

 

危ない!!

 

 

 彼女が動いた。

 ――ウィズ・スイッチの、スイッチとは自身の武器をスイッチさせる能力に由来する。彼女は一対の双剣を、くるりと回転させ双銃に変化させたのだ。

 

 つまり彼女には遠距離からでも攻撃手段がある。そして――

 

 

 ウィズ・スイッチは、一撃でミラールックに風穴を開けた。

 

 

「――が?」

 

 一瞬。自身の身体に起きた変化を理解できず、ミラールックは視線を下ろし、

 

「……なんで?」

 

 そう、つぶやいた後、爆発した。

 

「――――――――え?」

 

 その出来事に驚愕した者はヴィランだけではない。ウィズ・スイッチも不思議そうに自分の銃を見たあと、ミラールックが爆発した跡を見た。

 

「……今の、私がやったの?」

「ああ、そうだな」

「……なんで?」

「答えは、とても単純だ」

 

  ――「ヒーローズ・ラインオーバー」のスタッフは拗らせている。一周目をクリアしても、そのレベルを引き継ぐことはできない。代わりに、二週目からの育成緩和手段として、とある存在が用意されている。

 それが隠し要素である俺、鉄十字小太郎だ。

 

 その能力は、単純明快。

 

 

「君が強くなったんだ」

 

 

 ()()()()()()()

 

 ――それが、この世界でヒーローになりたくてもなれなかった俺が手にした、この世界ではありえるはずのない()()()()だった。

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