ヒーローが活躍するエロゲー世界でヒーローになれず燻っていた俺が、二周目の隠し要素だった件。   作:西京屋

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「……ミラールックが倒れてからケガが治ったから、練度(レベル)が上がってたのは解ってた。でも、この練度向上(レベルアップ)は絶対におかしい。……それがアンタのせいだって言うのね」

 

 ウィズ・スイッチが、双剣と双銃を何度も入れ替えながら問いかける。

 訝しむように、俺を睨んでいるのだ。無理もないだろう、現実的に考えて理解できない状況だが、つけられる説明が一つしかないのだから。

 

 ヒーローの強さは、適正と練度で決定する。ゲーム的に言えば、キャラクターごとのステータスには格差があって、この格差が適正として表現される。

 適正はEからAランクの五段階。例えばウィズ・スイッチは適正最低のEランクだ。ゲームにおける最強ヒーロー、ギルティングはAランクである。

 

「それで、アンタって一体何なのよ」

「お――」

「やめろ!」

 

 何故か名乗ろうとすると止められてしまうが、まさかゲームのように名乗るとすごいエフェクトがついてボリュームも大きかったりするのだろうか。

 いや、まさかそんなことはないはずだが。

 

 ゲームの鉄十字小太郎と俺は、前世の記憶もあってか人生からして別物だ。

 

「何と言ってもな、俺は鉄十字小太郎だ。ヒーローでもなければ、ヴィランでもない」

「それがありえないって言ってるのよ! この世界で特殊な力を使う人間は全員ヒーロー、そうでないやつはヴィラン! これ以外には存在しないわ!」

 

 あくまで常識としての話をウィズ・スイッチはしている。しかし、鉄十字小太郎は常識で語れる男ではないのだ。

 

「鉄十字小太郎とは鉄十字小太郎でしかない。理不尽なヤツを理解するのがそんなに大事か? 納得できないものは納得できないものとして、流したほうが精神衛生上よくないか?」

「自分で言うな!」

 

 鉄十字小太郎に、能力の理由や由来は存在しない。設定されていないのだから当然といえば当然だ。ただのお助けキャラ、世界観を無視した異物といえばそのとおりである。もちろん、しっかりとした世界観でそんな異物、場合によっては受け入れられないのも無理はない。

 ただ、二週目から加入させることができるようになる鉄十字小太郎は、加入させるとそこそこイベントが発生する。すでに二週目に突入していることもあり、世界観に愛着が湧いているプレイヤーの前に現れる世界観を無視したキャラクター、最初は何だこいつと思いながらも、能力は強力だから使わざるを得ない。

 

 そして、小太郎を加入させた場合に発生するイベントだが、このイベントは決して作品の世界観を壊さず。それでいて一周目で感じた、プレイヤーがかけてほしかった言葉を的確に投げかけてくれるものだった。

 このゲームの主人公はヴィランであり、周囲から侮蔑されたり、嫌われたりすることが多い。時には誰かが悪いというわけでもないのに、主人公が傷つくこともあった。

 そんなときに、周囲の人間はそのキャラクター性や知識から、彼に的確な言葉を投げられないこともある。しかし、鉄十字小太郎は違った。

 彼はプレイヤーが思ったことを代弁してくれる。そのことがプレイヤーにとっては非常にすっと胸に入ってくるものなのだ。

 

 結果、彼はゲーム内で確固たる人気を得た。ファンディスクに得票数トップに追加のルートが実装されるというファン投票で、最後までウィズ・スイッチと人気を二分したのは、そんな理由があるわけだ。

 ウィズ・スイッチも最初に仲間になる女性キャラで、弱いが可愛い非攻略キャラという個性から人気が強い。

 

 ともあれ――

 

「俺としても、正直説明できることはそう多くない。俺と一緒に戦うと通常よりも多く経験値を得られるということ。俺は俺の能力故に、ヴィランと戦える練度を有していること、それだけだ」

「……なんでそれが使えるかとかは、アンタでも説明できないってことね」

「そういうことだ」

 

 じゃあ、とウィズ・スイッチは俺を指差した。

 

「アンタの変なところは全部差っ引いて、今のアンタに対して言ってあげる」

 

 それは、

 

 

「アンタはヒーローじゃない。だったら、アンタが戦うことをアタシは認められない」

 

 

 ヒーローとして、当然の言葉だった。

 

「……」

「いい? これはアタシだから言うんじゃない、ヒーローなら誰だってそう言うわ。()()()()()()()()()()()()のよ。どれだけ強くても、ヒーローとしての適性を有さない以上」

「……そうだな」

 

 この世界におけるヒーローの条件は、適正を持つことだ。適正を持たないのなら、どれだけ精神が高潔だろうと、どれだけ強い力を持っていようと、世界はそいつをヒーローとは認めない。

 

「理由はいくつかある。例外を作らないため、とか。適正っていう定義で縛っておいた方が普通の人間は安心するとか、色々。でも、アタシが一番自分の中でしっくり来る理由は――」

 

 ウィズ・スイッチが語るのは、この世界の常識だ。それはヒーロー養成学校でなくとも、ヒーローについて書かれた本ならば、必ず記載されていること。

 そして、彼女が指摘するのは、()()()()、自分がヒーローではないことを、最も自覚する理由でもあった。

 

 

「誰かを守る力を持つということは、その人に責任まで押し付けてしまうから」

 

 

 適正は言い訳だ。

 それがなければ人は誰もが武器を取り責任を負う。大切な物を守るために。しかし、適正という理由があれば、こうも言えるのだ。

 戦えないのは、しょうがないことだ、と。

 

「戦うのは、言い訳ができない人間だけでいい。――アンタは、誰かのために傷つく必要はないのよ、鉄十字小太郎」

 

 そう、ウィズ・スイッチは正面からいい切った。

 ああ――

 

「――まったくもって、同感だ。……君は、俺が憧れるヒーローそのものだよ」

「なっ……」

 

 俺の言葉に、ウィズ・スイッチは驚いたように顔を赤くして。

 

「そんなおべっか、通用しないから!」

「おべっかなもんか。少なくとも俺は、君が本物のヒーローだと思うよ」

 

 でもね、と続ける。

 

「でもね、俺はたとえ偽物でも、ヒーローになりたかったんだ」

「……それって?」

 

 かつて――

 

 

「俺には、責任じゃなく、誰かを守りたい理由があったからな」

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「…………」

「守りたかった。守れると信じていたんだ。ヒーローになれれば」

「それは……大切な人を亡くした、ってこと?」

「一人は……そうだな。結果、もうひとりとも疎遠になったけど」

 

 ウィズ・スイッチは黙りこくる。

 大切な人を失う。ありふれているとは言えないが、しかし生きていればどこかで起こりうる事だ。たまたまそれが、俺に起きたというだけのこと。

 やがて、顔を上げたウィズ・スイッチが俺に核心を問いかけた。

 

「亡くなったその子のために、アンタはヒーローになりたかったってことかしら」

 

 それを、

 

「……それも無いわけじゃないけど、でも、それだけじゃない」

「…………聞かせて」

「いなくなっちまった幼馴染にさ、言われたんだよ」

 

 ウィズ・スイッチはその言葉に、一瞬顔がこわばったように見えた。

 

「俺はヒーローなんだってさ。そいつは、絶対にそれを疑わないんだと」

「そんなの……呪いじゃない」

 

 ぽつり、とウィズ・スイッチは零す。

 こわばった顔は、気のせいではなくなっていた。

 

「アンタは、そいつに呪われてるのよ! その呪いのせいで、アンタはヒーローを目指さなくちゃいけなくなった! 結果適正がないって言われても、アンタはまだヒーローを諦められてない!」

「……かもな。でも、その呪いを解けるヤツは、もうここにはいないんだ」

「…………っ」

 

 ――ウィズ・スイッチは、こういう亡くなった人の遺した思い、呪いってヤツに対して、思うところがあったんだったな。

 彼女の()()を思い出し、納得する。

 そういうところは、()()でも変わってはいないようだ。

 

「それに……理由ったってそれだけじゃない。ヒーローを目指すことは、行動だ。その結果はどうあれ、行動しなくちゃ、その呪いは()()になっちゃうんだよ」

「……それも、呪いじゃない!」

「……かもなぁ」

 

 ウィズ・スイッチは、限界だといいたげに、俺から距離を取る。

 

「――でもさ」

 

 俺はそれを止めるつもりもない、ヒーローになれなかった男の言葉なんて、どうあってもマイナスだ。ウィズ・スイッチの言う通り、それは呪いだ。

 だけど、

 

 だからこそ、

 

 

「俺はそういう俺にしかなれないんだから、それを止めるのは違うだろ」

 

 

「――っ」

 

 ――鉄十字小太郎になって、解ったことがある。ゲームの鉄十字小太郎と俺は、どこを切り取っても別物だ。そもそも、ゲームの小太郎はわけのわからない存在だ。

 存在理由も、どうして生まれてきたのかも、過去も何もわからない。しかし、俺には確かに過去が存在していて、俺には二人の幼馴染がいる。

 だから俺はゲームの鉄十字小太郎にはなれないが、俺だって鉄十字小太郎だ。俺の能力はそれを証明している。

 

 だったら、俺は俺として生きるしかない。

 

 前世の記憶を思い出した時、別世界の俺の存在を知った時、俺ははっきりとそれを悟ったのだ。ヒーローになって燻ってる俺も、ヒーローでもヴィランでもないのに特別な能力を持つ俺も、また俺だ。

 

「だからウィズ・スイッチ、俺は――」

 

 そうだ、俺は――

 

 

「俺は俺として、俺にかけられた()()を、()()にしたい。呪いという虚飾ではなくしたい」

 

 

 ――そう、いい切った。

 

「…………そ」

 

 ウィズ・スイッチは何も言わなかった。善いとも、悪いとも。それは、彼女がまだ迷っているということの証明でもあるだろうが、俺が言っても止まらないということを理解したということでもあるようだ。

 

 だから、この話は一旦ここでおしまい。現実的な問題に戻るべきだろう。

 

 ヒーローの戦場に乱入してしまったこと、俺の能力、ウィズ・スイッチの急激な練度向上。問題は多いし、考えるべきことも多い。

 

 とはいえ……一つは、今は考えても仕方がないことだ。切り替えて、俺はまず最初にするべきことをする。

 

「なぁ、ウィズ・スイッチ」

「……何よ」

「――一つ、頼みたいことがあるんだ」

 

 ソレが、始まり。

 前世の記憶を思い出した俺の、新しい第一歩だった。

 

 

 しかし、その時。

 

 

 そんな俺のことを見る、()()()()()に、俺はまだ気付いてはいなかった。

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