ヒーローが活躍するエロゲー世界でヒーローになれず燻っていた俺が、二周目の隠し要素だった件。   作:西京屋

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 今から十年と少し前、この世界で災厄が起きた。

 とあるヴィランが起こしたその災厄は、都市一つを飲み込んで、多くの死傷者を出すこととなる。

 

 その目的はヴィラン達の親玉、大首領ラグナロクの後継者を探すため。

 

 そのために一つの都市全てに、「人間をヴィランにする」薬を放ったのだ。結果、暴れだした人間が暴徒とかし、さながらゾンビ映画の如く、人々は傷つき、街は崩壊した。

 結局、()()()()()ではその災厄で人が正当なヴィランに覚醒することはなかった。この世界において、歴史上人間がヴィランに覚醒した例はないのである。

 ヴィランとは、本来人の悪意から生まれる存在だ。人をヴィランにする研究はヴィランの中でも行われているが、通常の人間ではヴィランになるための練度が足りない、という考えが現在は最も主流である。

 

 代わりに、その災禍によって育まれた悪意の中から一人のヴィランが生まれることとなる。これがゲーム「ヒーローズ・ラインオーバー」の主人公であった。

 また、この災厄は「終末事件」と呼ばれ、ゲームにおける一つの重大な出来事となるのだが、

 

 この世界では鉄十字小太郎と()()()()()()もこれに巻き込まれた。

 

 結果、そのうち一人が命を落とし、もうひとりと鉄十字小太郎は――

 

 

 

 <>

 

 

 

 ――ウィズ・スイッチとミラールックの戦闘、そしてそこに乱入した鉄十字小太郎の戦闘を観察する、一人の女性の姿があった。

 二十代の、凛とした長身の女性である。

 

 ピッタリと身体に張り付いたスーツと、たなびくマフラーの如く長いリボンでまとめたポニーテールが特徴的な、黒髪の彼女は、言うまでもなくヒーローである。

 戦場が行われていた、見慣れた廃工場を遠くから眺めていた彼女は、戦闘が終わったことを確認して一つ大きく息を吐いた。

 

「……良かった」

 

 何に対してそういったのか、少しだけ鉄面皮に笑みを浮かべた彼女は、ふと後方から近づいてきた気配に気づき、振り返る。

 

「ここにおられましたか」

「……スライドアウトか」

 

 気配の主は、壮年の男性だ。ひょろ長いもやしのような体型をしているが、実際にはよく引き締められた筋肉であることが、スーツの奥に隠されている男である。

 ――彼もまた、ヒーローだ。この場における彼の立場は単純、

 

「ウィズ・スイッチは勝利した、よかったな」

 

 見習いヒーローウィズ・スイッチの教師兼監督役である。

 

「……よかった、ですか」

 

 スライドアウトは、そんな彼女の言葉にどこか苦々しい顔をした。理由は、今の状況が雄弁に語っているだろう。

 

「これほどの異常事態、僕の教師生活でも初めてですよ」

「そうか?」

「そうですよ。本来、ウィズ・スイッチはミラールックに勝てないはずだった。この戦闘は、試験という名目ではありましたが、実際には()()です。ヒーロー適正のないヒーローに現実を教える、惨い儀式だ」

「……土壇場で覚醒し、優秀なヒーローになることもあるが?」

「貴方に言われると、返答に困るのですが……ウィズ・スイッチは()()()()()()、状況を打破できる能力はありませんでした」

 

 肩をすくめるスライドアウト、教師生活でも初めての経験というのは、本当にそうとしか言えない事態だった。

 

 先程までウィズ・スイッチが行っていたのは、ヒーロー養成学校で行われる「進級試験」である。ヒーローになりたいという人間は多いが、実際に優秀な適正を持つ人間は非常に少ない。

 適正があったから、なんとなく養成学校に入ったというような者は、案外多い。そんな学生に現実を見せヒーローとしての道を諦めさせることが、この進級試験の本来の目的である。

 もちろん、万が一がないように、こうして教師であるスライドアウトと最上級ヒーローである彼女がいつでも戦闘に介入できるよう待機していたわけだが。

 

「ウィズ・スイッチは実力こそないが、ヒーローとしての精神性は完璧でした。いい後方支援者になると思っていたのですがね……」

「人手不足はどこも同じだ。……ヒーロー活動の経験がないものも、人間性次第では受け入れればいいのでは?」

「そういう訳には行きませんよ、たとえサポートでも、我々は命を賭けます。()()()()()()()()()()どもに、そんな役割こなせるはずがない」

「……そうかな。――いや、そのことは今はいいか」

 

 彼女は、そう言って少しだけ不機嫌そうに視線をそらしてから、話がそれたともとに戻す。

 異常事態は、もう一つあった。

 

「問題は……あの一般人だな?」

「そうです! アレはどうかしている! 何故一般人がここにいるのです!? サポート企業は何をしていたのか!」

「少し調べたが、どうやらヴィラン側の妨害があったようだ。何故、わざわざ一般人が紛れ込めるようにしたかまではわからないが」

「……結果として乱入してきた一般人は、更にわけのわからない存在でしたがね」

 

 鉄十字小太郎のことだ。

 スーツ姿の、おそらくは就活生だろうか、フレッシュな雰囲気の青年だ。少し髪型が古臭く感じるが、どこにでもいる青年だ。

 ただし、ヴィラン――ミラールックを一撃で吹き飛ばした、という事実さえなければ。

 

「加えて、その後起き上がったミラールックに対し、ウィズ・スイッチが双銃モードで攻撃を加えましたが、それも異常だった。先程まで、ミラールックにあの銃弾はダメージを与えることもできていなかったのに」

「……」

「ヴィランがサポート企業を攻撃し、一般人があの場に近づくことができるように成っていたのも問題です。思うに、ヤツはヴィランの差し金なのでは?」

「…………」

「見習いヒーローであるウィズ・スイッチに取り入り、ヒーローを内部から破壊しようとしているようにしか思えません。撃破したのも、所詮は再生ヴィランのミラールック、使い捨てるには最適な出がらしです」

「……………………」

「ですから――」

 

 そこで、スライドアウトは、自身よりも上級のヒーローであり、この場における最高決定権を持つ彼女に向かって、提言した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()です」

 

 

 ――それは、地雷だった。

 

「……()()()()は、ヴィランでもない」

 

 ぽつり、と女性の声音が変わった。落ち着いた年相応なものから、少しだけ少女らしい、高めの声に。

 

「……?」

「でも、ヒーローでもない」

 

 彼女は、朗々と語る。

 

「そもそも、ヒーローって何? 誰かを守るために戦う者? 違う、()()()()()()()()()

「それは……ですが、結果としてそれが人々の平和を守るために」

「間違っているとは言わない、ただ、ヒーローの定義がソレというだけ。だから、ヒーローはコタローではない」

「……ですから、何を言っているのですか?」

 

 スライドアウトにとって、それはわけのわからない言動にしかならない。

 彼女はあの男を知っているのだろうか。あの男の名前はコタロー? 何故彼女はそれを知っている? 疑問が答えにならないまま、彼女は畳み掛けてくる。

 

「世の中には、ヒーローになりたくても、なれない人もいる。ただ適正がないからというそれだけの理由で」

「それは、そうでしょう。適正がないということは、結局ただのヒーローオタクでしかないのですよ。我々の世界に関わるべきじゃない」

()()()()()()()

「……!?」

 

 直後、スライドアウトは何かを感じた。それが何かすらわからないが、ふと、彼は後ろを見てしまった。こういった感覚は大抵、後ろから襲ってくるものだから。

 その感覚を名付けるなら、「殺意」と呼ばれる感覚だった。

 

 そして後ろになにもないことを確認すると、目前に彼女の姿があった。

 

「あなた達ヒーローが定義した適正という勝手な枠組みの中から漏れた者の中に、本物の精神を持っている人がいた可能性をあなた達は考えたことはある? その誰かがヒーローになれなかったせいで、人生を違えてしまった可能性を考えたことはある? ヒーローなんて言葉で、誰かを守りたいという想いを定義してしまったせいで、ヒーローになれないことでその想いを否定された人のことを考えたことはある? ねぇ、ねぇねぇねぇねぇ――()()

 

 ――彼女は、決して無口ではないが、口数は少ないタイプだった。

 そんな女性が、突如としてまくしたてるようにスライドアウトに殺意を伴った言葉をぶつけてくる。男の混乱は、もはや最高潮に達していた。

 

「その場合、間違っているのは彼じゃなくてヒーローの方だ。つまり、あなた達――私達ヒーローは間違っている。彼がヒーローでない以上、私達は虚飾でしかない!!」

「――――か、ハ」

 

 スライドアウトは、息を零した。

 心臓が締め付けられうような感覚に、呼吸を忘れていたのだ。それが、彼女の叫びとともに一瞬解き放たれる。

 

 だが、それでもスライドアウトの恐怖は終わらなかった。

 

「ヒーローを導く教師が、彼を否定する時点で――ヒーローは間違っている」

「ぐ、ぅ」

 

 ――彼女は何もしていない。何もしていないのに、彼女は今、スライドアウトを殺そうとしていた。

 意思だけで、想いだけで、ただのヒーローでしかないスライドアウトは、殺されそうになっていた。今にも弾け飛びそうな心臓の幻覚。

 それを常に脳裏に焼き付けられたまま、スライドアウトはその場から動けなくなる。

 

 そして、ゆっくりと彼女はスライドアウトへ手を伸ばした。

 

「彼のことは、本部には伝えない。この場で起きたことは、ウィズ・スイッチが覚醒し、ミラールックを撃破したという事実。サポートが機能していない以上、私とお前がそう本部に伝えれば、()()()()()()()()()()()()

「それ、は――」

 

 そこで、ようやくスライドアウトは彼女の考えを少しだけ理解することができた。

 彼女は隠蔽するつもりなのだ、この事態を。彼女の言う「コタロー」――ヒーローになれなかった本物、と彼女が崇拝する存在を、ヒーローという虚飾から遠ざけるため。

 

 そして、それは――

 

「――だから、スライドアウト」

 

 彼女なら、可能だ。

 

 

()()()()()()()()

 

 

「パ――」

 

 スライドアウトは、彼女の名を呼びかけた。

 そこに、何の意志が宿っていたかは、もはや次の瞬間のスライドアウトには解らなかった。しかし、ただ事実として、一つだけ言えること、それは――

 目の前の彼女、名を――

 

 

  パストオーバー

 

 

 ――現行最強ヒーロー「パストオーバー」、かつて最強であった「ギルティング」を一方的に叩きのめし、文字通り最強であることを知らしめた少女は、

 

 

 本気で、あのコタローという青年のことを、ヒーローであると信じているということだった。

 

 

 直後。スライドアウトの記憶、過去が改変される。

 パストオーバーの能力によって。

 

 彼の記憶は、パストオーバーが伝えたとおりの()()に置き換わっていることだろう。

 

 そして、パストオーバーはそれを終えた直後、まだ廃工場にいる()()()に対し、ぽつり、と想いを伝える。

 

 

「まっててね、コタロー。私がすべてのヴィランを殲滅し――」

 

 

 それは、

 

 

「――この世界から、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ヒーローという虚飾に彼女が身を置く最大の理由。

 パストオーバーの、最大の行動原理でもあった。

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