ヒーローが活躍するエロゲー世界でヒーローになれず燻っていた俺が、二周目の隠し要素だった件。 作:西京屋
鉄十字小太郎には二人の幼馴染がいた。
後にパストオーバーとなる少女、彼女はもともと、小太郎と同様にヒーローを志していた。それが歪んだのは、二つの要因がある。
一つは、小太郎がヒーローになれなかったのに自分がヒーローになってしまったこと。
本物のヒーローは小太郎だと疑わなかった少女にとって、その事実はあまりにも非情な現実だった。何より、今のヒーロー業界が、適正のないものはどれだけ行ってもただのヒーローオタクという思想に凝り固まっていたから。
それ自体は間違いない、小太郎という存在を知っているパストオーバーという少女以外には。
何より――ヴィランがヒーローとなることはありえないこの世界では、当然の考えだった。
そして、もう一つ。
それこそが、少女にとっての決定的な歪みとなった。
「終末事件」、三人が巻き込まれたその災厄で、当時ヒーローではなかった三人は大きな人生の転機を迫られる。結果、ヒーローとなることを固く誓った残された二人の前に突き付けられたのは、片方がヒーローとしての適正を持たないというあまりにも惨すぎる事実。
これが、ふたりとも適正を有していたら。
これが、適正をもたないのがパストオーバーの方だったとしたら。
これが、ふたりとも適正をもたなかったとしたら。
――きっと、パストオーバーは歪まなかっただろうに。
しかし、そんな歪みの原因は、小太郎とパストオーバーだけではなかった。
すでに述べた通り、人間はヴィランになるには練度が足りない。しかし、仮にこれを鉄十字小太郎の経験値十倍の能力で、
そう、パストオーバーが本来の歴史においては最強であったギルティングを小太郎の能力で練度を上回ることで越えてしまったように。
死んでしまった
大きすぎる転機を迎えていた――
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くらい、どこともしれない場所。
なにもない漆黒の部屋、そこに少女が一人いて、目の前にある悪趣味なドクロのモニターに映された光景に見入っていた。
少女は幼い、年の頃は十と少し、どこをどう切り取っても子供としか言いようのない容姿で、銀髪の長髪は透き通る糸のようだ。
人形、と言ってもきっとほとんどの人間は信じるだろう。
白いドレス姿に、どこか不気味な蜘蛛のぬいぐるみを大事そうに抱えている。
何より特徴的な眼、赤と白のオッドアイは、くりくりと好奇心に揺れていた。
映像の内容は――鉄十字小太郎とウィズ・スイッチの会話である。
「――♪」
楽しげに口笛を吹きながら、少女はさながらイタズラが成功した子供のようであり――実際、その背格好は子供以外の何物でもないのだが。
そんな少女に、声をかけるものが居た。
「――大首領様」
どこか威厳を感じさせる、老齢な男の声だった。
現れたのは、闇という言葉を現実に出現させれば、こんな姿をしているだろうという、恐怖を想起させる面妖な老人。彼はその少女を、確かにこう呼んだ。
――大首領、と。
であれば彼女が――と誰もが思う。
そう、彼女こそが、すべてのヴィランの親玉、この世界の言ってしまえば黒幕だ。
そんな彼女が、男に対して呼びかける。彼の名を呼んだのだ。
「なぁに?
ラグナロクと呼ばれた男――
「作戦の完了を無事、確認いたしました。ヒーローサポートへの攻撃は成功、あの一般人は戦場に紛れ込みました」
「んふふ、私の狙い通りだったねぇー」
「は……さすがの慧眼かと……」
くすくすと笑う少女に、ラグナロクは敬服したように頭を垂れる。少女はそれを見てすらいないが、彼女の視線にあるのは、あくまで映像の中の小太郎だけだ。
「しかし……あの男は何者なのですか? いかにミラールックとはいえ、一撃で吹き飛ばされることなどありえないのですが……」
「ん? 話したことなかったっけー? コタくんだよぉ。コタくんはヒーローなんだぁ、とってもすごいんだから」
少女は、恋する乙女のように、楽しげに小太郎の名を挙げる。
「はぁ……いえ、あの……」
「んふふ、見てよこの、赤いヒーローちゃんの言葉で思わず前に出るコタくん。あのヒーローちゃんと同じことを、昔私が言ったんだ。それで止まれなくなっちゃったんだね。コタくん偉いよ、昔と何も変わってない」
「いえ、ですから……」
――しかし、ラグナロクが聞きたいのはそこではなかった。
あの男はおかしいのだ。なぜなら彼は一般人なのだから。ヒーロー側でパストオーバーが問いかけたことを、ラグナロクは同じように少女へ問いかけていた。
とはいえ、少女はそんなことへ一切興味はなかったのだが。
その空気をなんとなく察したラグナロクは、本題に入る。ラグナロクとスライドアウトの最大の違いは、あの男のことなど、ラグナロクは微塵も意識していないことだ。
だからすぐに、彼は話題をそちらからそらす。
「……そうですね、しかし、ヒーローサポートを攻撃したということは、ついに大首領様は、世界への攻撃を決定したということでしょうか」
もちろん、それは大きな間違いなのだが。
「――なんで?」
少女からは、心底不思議そうな返事が帰ってきた。
とはいえ、その返答は想定できたものだった。ラグナロクはそのまま続ける。
「先の終末事件にて、貴方様を見出してより、我らヴィランは大きな停滞……準備期間に邁進して参りました。全ては大首領たる貴方様の御心のままに」
「ふーん」
「ですが、我々はヴィラン、この世界の疵にして闇! 人類にとっての大敵であり、人類という栄光ある種族の最大の天敵として、その牙を振るう者であります!」
少女が興味を持たなかったとしても、構わずラグナロクは続ける。
「ヴィランとは、即ち人類がより輝き、その強さという栄光を謳歌するための証明! 我々は強くなくてはならず、それを打倒できない人類に価値はないのです!」
「へー、すごいね?」
「そして、貴方様こそ、そんな人類より見いだされた本物の希望!
興が乗ったのか、ラグナロクは立ち上がり、大演説を始める。
「ヴィランとは、――人類の敵だ。人は悪意だとか、災厄だとか、そういうものを前にした時しか団結できない存在だ。事実、ヒーローとヴィランが現れる前は、人同士が戦争を行っていた時代があるという。
なんと嘆かわしいことか!!
――ヴィランが敵である限り、人は団結を続ける!
なんと美しいことか!!
そう、そのためにヴィランはいる! 私はそのためにヴィランを率いてきたのだ!!」
それが、かつて大首領としてヴィランの頂点に君臨した男、ラグナロクの真意だった。
そして――
「バカみたい」
――今は、すでにその座を追われ、少女に生かされているだけの、哀れな男の本音だった。
「それ、私に初めてあったときにも言ったけど、だったらヒーローもヴィランも必要ないじゃん。人が団結してようとしてまいと、争いはなくならないじゃない」
ぴょん、と少女が腰掛けていた椅子から立ち上がり、そしてラグナロクを見上げた。
「だったら、ヒーローもヴィランも、本当なら必要ないんだよ。もし、本当にそれが必要なんだとしたら――」
そのまま、ふわりと浮かび上がる。
少女は、やがてラグナロクを見下ろすようになった。
「すべてはコタくんが、本物のヒーローになるためにあるんだよ?」
そして、男の頭を、掴んだ。
「――今、私のことを殺そうとしたよね」
「なっ、あ、い、いやそのようなことは」
――その時、男の頭に浮かんだのは、
それは、死の未来。消滅の未来。絶望の未来。――敗北の未来。
「が、あ、ああああ!」
ただし、これは比喩ではない。男の頭を掴み、生殺与奪を握られたことによる恐怖ではない。確定してしまった消滅を思ってのことではない。死が間近に見えることの絶望ではない。
決まりきった敗北を、押し付けられているわけではない。
「あなた達って勝手だよねぇ、私を殺して、勝手にヴィランにして、その癖後継者だなんだって崇めながら自分の思想を押し付けて、私をモノみたいに扱おうとした」
「が、がが、ががが!!」
「だったらさ、私が自由に扱ってもいいよね? あなた達を、私の思う通りにしてもいいよね?」
――かつて、少女は災厄事件の成果として、ラグナロクたちに見いだされた。
ラグナロクの狙いは、人の中からヴィランを生み出し、人の敵とすること。人同士の争いを侮蔑するラグナロクにとって、たとえ人同士の争いとなったとしても、片方をヴィランにできるのだから、問題がなくなるという理屈だ。
そして――少女が生き残った。ただし、生き残った少女は、ラグナロクたちでどうにかできる規模の存在ではないことを、彼等は理解していなかったのだ。
「私を殺したことは許してないし、ヴィランの活動とかほんっとだいっきらいだけど、でもあなた達の存在は、コタくんをヒーローにするためにどうしても必要だから、私はあなた達を残してあげてるの。それをあなた達は解ってる?」
「ぐ、ぐぅ……!」
「だから、勝手に大きな作戦で人を殺したり! ヒーローに殲滅されるとか、私許さないから!! 君たちは、コタくんのための丁度いい敵でなきゃいけないの!!!」
ぐりぐりと、頭を掴む手に力を込める。
ラグナロクは彼女の能力だけでなく、腕力でもラグナロクを痛めつけ始めた。いよいよ、彼は耐えられなく成ったのか、意識が遠のき始める。
「解ったら、私の未来にあなた達を殲滅する未来を作らせないで。あなた達が私の言うことを、全部聞いてくれるだけで、その未来はなくなるんだから。……わかったよね?」
「お、ご、ご――」
そして、
「――ディ、ス……タンディング……」
男は、少女の名を呼びかけた。
しかしその先を続ける未来は、残念ながらラグナロクには存在しなかった。ソレより先に、意識を失ってしまったからだ。
それを見送って、ヴィランの大首領である少女――名を、
<ディスタンディング>
ソレを見送って、ラグナロクへの興味を完全に失った少女は、また映像の方へと向き直った。
愛する者を、“コタくん”の勇姿を眺めるために。
「ああ、相変わらずコタくんはかっこいいなぁ」
そして、
「待っててね、コタくん。コタくんはヒーローになるんだよ。アレだけ願ってもなれなかった本物のヒーローに、私がしてあげる。そのためにコタくんは立ち上がるんだ」
それは、ディスタンディングがヴィランで有り続ける理由であり――
「そのために――この世界を、コタくんっていうヒーローのための世界に、してあげる」
歪んでしまったディスタンディングの、変わらない鉄十字小太郎への信頼だった。