ヒーローが活躍するエロゲー世界でヒーローになれず燻っていた俺が、二周目の隠し要素だった件。   作:西京屋

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「だあああやあああああ!!」

 

 昨日の出来事から一夜明けて、ウィズ・スイッチは戦っていた。ここは町外れの河川敷。周囲に人の影はなく、またやってくることもそうそうないだろう。

 なにせここには、定期的に雑魚ヴィラン――いわゆる戦闘員というやつが湧くのだから。

 

 短剣で雑魚ヴィランを刺して、その勢いで飛び上がると空中から片方を銃に変えて、手近な雑魚ヴィランを射撃で撃破、そのまま飛び上がると、ナイフを一体の雑魚ヴィランに投げ、突撃。そのヴィランに着弾するとナイフを銃に変形させて一射。更に飛び跳ねて、雑魚ヴィラン達から距離を取った。

 

「――ねぇ! なんだってこんなに雑魚が湧き続けるのよ! 大丈夫なのここ!」

「この雑魚、日の下に出ると死ぬのに、夜は活動できないんだよ」

「なんかめちゃくちゃ都合がいい生態ね――!」

 

 いいながら飛び回るウィズ・スイッチ。そりゃそうだ、ここはゲームにおける狩場として意図的に作られた場所なんだから。この場所を俺しか知らないのも、ゲーム的な都合でほかに立ち寄るヒーローがいないから、だと思う。

 そんな場所で、ウィズ・スイッチはレベリングをしている。原因は俺の頼みだ、彼女が強くないと、その依頼はこなせないのである。

 

「……にしても、スライドアウト先生、アンタに何も言わなかったわね」

「スライドアウト……ああ、昨日あの後出てきたヒーローか」

 

 ウィズ・スイッチはどうやら考え事をしながら戦う余裕が出てきたようだ。こちらに声をかけながら、スマートに雑魚ヴィランを処理していく。多少ケガを負っても、レベルアップの全回復ボーナスで元通りなので、彼女も遠慮なく戦えている。

 そんな彼女が気にしているのは、俺のことだろう。

 

「絶対おかしいわよ、先生は監督役で、アタシ達のこと全部見てたはずなのに。というかあの場にはもうひとりトップヒーローが監督に来てたはずなんだけど」

「そっちも、特に何か言うことはない、と。まぁ今は気にしてもしょうがないんじゃないかな」

「そうかもしれないけど――!」

 

 そこで二発、ウィズ・スイッチの発砲音が戦場に響く。

 

「絶対そのうち面倒なことになるって、アンタも解ってるでしょ! どーにかしなさいよー!」

「って、言われてもな……」

 

 正直、手のうちようがない。

 まずヒーロー組織に接触するわけには行かないし、表立って活動することもできない。サポート企業の支援で一般人は戦場に立ち入ることはできないのだ。

 とはいえ、このまま黙ってヒーローを諦めるつもりもないけど。

 

 それに、今気になることは幾つかある。

 何か、といえば俺の前世の記憶と、今の俺の記憶にある乖離だ。つまり、ゲームで起きた事件が起きていない。

 

「極天事件、栄光王事件……どこ調べても無いな……虚無事変がないのは……まぁそりゃそうなんだろうけども」

「なにかー!?」

「いや、独り言」

 

 俺はウィズ・スイッチの後方で、少し調べ物をしていた。昨日の夜も調べてはいたのだが、それでも見つからなかったからこうして調査を続行しているが、やはり見つからない。

 ゲームでは終末事件から本編開始まで、幾つか大きなヴィラン災害が起きているのだ。それが起きていないというのは、何かしらの変化を感じずにはいられない。

 

「とにかく! 休憩はそろそろいいでしょ! アンタも手伝ってよ! アンタのための練度向上(レベリング)なのよ」

「悪い。今行く」

 

 そう言われては否とは言えない。すぐにスマホを仕舞うと、俺はウィズ・スイッチの戦場へと戻っていく。

 これは、俺が戦うことに慣れるという意味でも大事な事だ。

 

 そうしてしばらく戦っていたが、ふとウィズ・スイッチの表情が優れないことに気がつく。なにか悩んでいるのだろうか。

 

「どうした? 大丈夫か?」

「……!? な、なによ!」

「何か迷っているみたいだったから」

「……」

 

 お互い、手は止めていない。

 黙々と雑魚ヴィラン――意志もない、本当にただのモブでしかないヤツ――をバシバシと倒しながら、ぽつり、とウィズ・スイッチは漏らし始めた。

 

「アタシ、アンタのせいで、落ちこぼれじゃなくなったのよ」

「適性が低かったのか?」

「うん、最低ランクで、練度も全然上がらなくて……私、あの進級試験でヒーローを諦めるはずだった」

「でも、そうならなかったのはいいことじゃないか?」

 

 ウィズ・スイッチはヒーローにならなきゃいけない、という使命感がある。理由は様々だが、端的に彼女を表す言葉は、俺に対して向けた言葉が象徴的だろう。

 「言葉は呪い」というやつだ。俺が幼馴染を失って、ヒーローになるしかなくなったように――

 

「だから、今後色々と言われるようになるって、わかりきってるんだもの」

「やっかみか? そんなもの、お前さんは気にするタマじゃないと思うんだがな」

「それもあるけど……そうじゃなくて」

 

 ウィズ・スイッチは何かいいたげだが、迷いを感じている様子だった。

 推測するに、彼女のプライベートに関する話か。だったら、こちらから踏み込むべきじゃないだろう。

 

「……ああもう! とにかく、もう強くなっちゃったものは仕方ない、このまま最強目指して強くなる他ないんだから!」

「頑張れ」

「解ってる…………って」

 

 ふと、ウィズ・スイッチが何かに気がついたのか大きく距離を取り、スマホを取り出した。

 

「おいおい、俺に押し付けるのか?」

 

 と、冗談めかして言うものの、向こうはそれどころではない様子で、あわあわと慌てふためき初めて、最終的に、

 

 

「タイムセールに間に合わない!!」

 

 

 おそらく、レベリングを切り上げる予定の時間を大幅に過ぎていたのだろう。俺もヴィランから距離をとって時間を確認する、もうすぐ夕方、随分と時間が経ったものだ。

 

「い、急ぐわよ!」

「それはいいんだけど」

「何よ!?」

「――さっきから結構ダメージを気にせず戦ってたから、あちこち擦り傷だらけなんだが、いいのか?」

 

 慌てて隅にあったかばんを手にその場を離れようとしたウィズ・スイッチは自分の膝やら手やらがボロボロなのを見て、しばらく沈黙。

 

「……もう一つ、練度を上げてからいくわよ!」

 

 身だしなみを整えるより、レベルアップの全回復を利用したほうが早いと判断したのか、すごい勢いでウィズ・スイッチは戦場に飛び込んでいった。

 

 

 

 <>

 

 

 

「……いい! 半額シールを貼る店員は何かしらの機材を持ってるか、ほかの店員と違う服装をしてるわ。この店の場合は前者ね! それが出てくるのを、遠くから待つのよ!」

「それはいいんだけど、なんで俺まで……?」

「アンタの用事で遅れたんでしょ!! それに、半額惣菜を食べたことないとか、あんた人生を三割損してるわよ!」

「手料理のほうが安いし上手くないか?」

「黙れ!!」

 

 お互い、小声で言い合いながら、物陰から惣菜コーナーを伺う俺とウィズ・スイッチがスーパーの一角にいた。何をしているんだろうと思いつつ、いっそこの時間なら惣菜が半額になるのを待ったほうがいい、といい出したウィズ・スイッチの言葉に従って、俺はソレを待っていた。

 

「それと、周囲には気を配りなさい」

「なんで」

「こんなところ、誰かに見つかったら噂になるからよ!」

「……だったら俺は離れていたほうがいいんじゃないのか?」

「一人で惣菜狙ってたら卑しく見えるじゃない!」

 

 なんとも難しい乙女心だった。

 いや、この手慣れた様子からして、そもそもウィズ・スイッチは一人で半額惣菜を普段から買い漁っているのではないだろうか。

 まぁそんなことはさておいて、

 

「……多分もう手遅れだぞ」

「――――え?」

 

 俺は、そこで改めて指摘する。後方に視線、数は三つ。

 ウィズ・スイッチが思わずと言った様子で振り返る。そこには、彼女によく似た三人の少女が居た。三つ子、だろうか。年の頃は小学生くらい。

 

「………………なんでいるのよ」

「どちら様で?」

「妹……」

 

 三人の妹は、わなわなと震えていた。その視線は、明らかに俺とウィズ・スイッチに向いている。それに俺は――

 

「やぁこんばんわ」

「あ、ちょ」

 

 そう、声をかけて。

 

「…………お」

 

 ウィズ・スイッチの妹たちは、

 

 

「お姉ちゃんにカレシができたーーーーーーっ!」

 

 

 店内に響くほどの絶叫を上げた。

 きれいな三重奏だった。

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