ヒーローが活躍するエロゲー世界でヒーローになれず燻っていた俺が、二周目の隠し要素だった件。 作:西京屋
「だから、彼は協力者! カレシとかじゃないから! ちょっと手伝ってもらってるだけだから!」
「ほんとかなぁー」
「一応そういうことにしておきましょー」
「いぎなしー」
帰り道、ウィズ・スイッチは三つ子の誤解を解くために必死だった。結局、頑なに認めないウィズ・スイッチに妹たちが折れる形で、話は決着が着いた。
とはいえスイッチとしては、本当に何もないのだから、言われるのは不本意にもほどがあるのだろうけど、それはそれとして、今の状況だと俺はカレシにしか見えないわけだから、残念ながら妹たちの認識は完全にそういうものになっているだろう。
俺としては、そもそも色恋には興味がないので、どうでもいい。
それはそれとして、
「なんで俺は連れて行かれてるんだ?」
「えー!? カレシさんなんですから当然じゃないですか―!」
「かー!」
「かー!」
「違う!!」
俺は現在、スイッチ家というのも変だが、ウィズ・スイッチの家に招待を受けていた。夕飯をご馳走してくれるらしいが、多分俺は自分が買った半額惣菜をそのまま食べることになるのだろうな、という空気を感じる。
「そうでなくとも、お姉ちゃんが手伝ってもらってるのに」
「何もしないのは妹としてどうかと思う所存でして」
「でしてー」
「そう言われると否定しにくい……っ」
「いや、頼み事してるのはこっちなんだが……」
とりあえず、そもそも多数決でどうやっても勝てない状況。三人の妹たちに押し切られる形で、俺とウィズ・スイッチは彼女の家に上がることになったのだが――
妹たちがすでにアパートの部屋に入って、俺とウィズ・スイッチが二人で入る段階になったところでウィズ・スイッチが。
「あれ、これ男を家に上げてるって構図がまずダメじゃない?」
「今更気づいてももう遅いだろ」
そもそも根本的なことに気がついたが、俺はもはや諦めの境地に達しているのでスルーした。こういうのはあの妹たちに見つかった時点で詰んでいるのである。
さて、夕飯は案の定惣菜パーティとなった。油ものが多いのでカロリーが心配だ。
「お兄さんとお姉ちゃんの付き合いは何年になるんですかー?」
「一日よ! っていうか何年も付き合ってたらアンタ達勘付くでしょ!」
「お兄さんはお姉ちゃんのどこがよかったんですか?」
「ヒーローとして、とても尊敬できる存在だ」
「きゃー!」
「アンタは何真面目に答えてんのよ!!」
そういやって、妹たちはどうやら俺をウィズ・スイッチとくっつけたいらしく、食事中も随分ぐいぐい押してくる。
向こうは三人、誰かが食べている間も別の誰かが質問を投げかけられるが、こちらは二人、矢継ぎ早に言葉が飛んでくると、食べていてそれを否定できないなんてこともあった。
なんというか、色々と計算の速い妹たちであった。
「ごちそうさまでしたー!」
「私達お風呂入って寝るねー!」
「ごゆっくりー!」
「ゆっくりしないわよ!」
三人がそう言って消えていくと、大きくウィズ・スイッチは息を吐いた。疲れている様子だが、それはそれとして、顔には笑顔が浮かんでいた。
「元気な妹たちだな」
「元気すぎて困るくらいよ。……付き合わせちゃってゴメン、それとありがと」
「構やしないさ。もともと、大学は単位も全部取ってて暇だしな」
大学四年生なんて、就活以外にやることは卒論くらいしかないなんてよくあることだ。
「そう、……お互い大変ね、一日で何もかもが変わっちゃって。サポート企業に就職したかったんだっけ?」
「ヒーロー経験がないから、ほとんど門前払いだけどな」
「アタシなんて、早くサポート側に移れって、うるさいけどね」
「君の精神は、とてもヒーロー向きだと思う。だから、サポート企業に入っても、きっと優秀なんだろうな」
「よしてよ。アタシはヒーローになりたいんだから」
俺とウィズ・スイッチ。二人の間になんの違いがあるだろう。片やそもそもヒーローになれなかった者。かたやヒーローにはなれたが、才能がなくその道を諦めることを突き付けられた者。
どちらも、最終的にヒーローになれないのは、同じだ。
だから、俺はウィズ・スイッチの言葉がよく分かる。そして、彼女の言葉に乗せられた想いも、また。
「……アタシね、約束してんのよ。お父さんと、お母さんと」
そう言って、ウィズ・スイッチは狭いアパートの棚の上にある、写真立てに目を向けた。幼い少女三人を抱えた二人の男女と、その三人よりも年上の、しっかりとした雰囲気の少女。
背景は、大きな一軒家だ。
「ご両親は?」
「……亡くなったわ。終末事件で、ね」
「……そうか」
終末事件、一つの都市をまるごと壊滅に追い込んだ大事件は、彼女の住む家と、それから両親を奪っていったのだろう。俺だってそうだ。俺も今はこの街で暮らしているが、当時は終末事件が起きた街に家があって、家族と暮らしていた。
「幸い、ヴィラン災害は保険がいっぱい出るから、暮らすには困ってない。アタシがヒーロー養成学校に入ったのに合わせて、家族だけで暮らす許可も出た。今の生活は、決して悪いものじゃない、と思う」
「……ああ」
「でも、そうしたら今度は、アタシはアタシの目標を目指さなきゃいけないじゃない?」
そんなことはないだろう、とは言えなかった。
実際に目標を目指して、この年になった人間にはなにも。
「だからアタシは、ヒーローにならなきゃいけないのよ。二人との約束のためにも」
「……妹さんたちは?」
「消極的な反対、って感じね。アタシがケガするのが嫌なんだって」
それはそうだろう。誰だって、傷つくと解っているのに、無茶を受け入れたい家族はそう居ない。俺にはその家族はいないけど、ウィズ・スイッチには妹たちがいるのだから。
もしも、スーパーで彼女たちと遭遇した時、ウィズ・スイッチが擦り傷だらけだったら、俺をカレシと思って家に上げようとは思わないはずだ。
だからウィズ・スイッチはあそこでレベルを上げることを選んだんだな。
「でも、止められないって感じか。……君がヒーローを目指す理由は、妹さん達も知ってるんだろうな」
「もちろん。でも、それを止めるのはアタシが落ちこぼれだから。アタシは強くなった。それはアンタのおかげで、ズルかもしれない。でも、あの子達にキチンとヒーローになれるってことを、示すことはできる」
「それは……どうだろうな。むしろ、更に反対されるんじゃないか?」
見方によっては、妹さん達が消極的な反対にとどまってるのは、ウィズ・スイッチが本当に危険な目に合うことがないと解っているからではないだろうか。
「……かもしれないけど、でも、だからって止まれないのよ。自分じゃあ、ね」
そうやって、ウィズ・スイッチの視線はいつまでも、写真立ての家族へと向けられていた。
過去に残されてきた呪い。言葉は今も彼女を蝕んでいる。それは、俺だって変わらない。
『コタくんは、すっごいすっごいヒーローになるよ! 私が保証するんだから!』
思い出される少女の顔は、もはやおぼろげになってしまったけれど――彼女の言葉だけは鮮明に思い出すことが出来た。
「生活が変化して、人生が変化して、関係が変化して。でも、言ってしまった言葉は絶対に変わらない。過去は永遠に変わらない。ねぇ、小太郎。アンタは、アンタの過去とどう折り合いをつけるつもりなの?」
「…………正直、わからない。考える前に、人生が変わっちまったからな。本当は、今もその事に悩んでなきゃいけないはずなのに」
「お互いに、ね」
――その言葉を、その想いに答えてくれる人は過去にしかいない。
彼女のことを止められるのは、きっと両親しかいないだろう。妹さん達が何を言っても、今のウィズ・スイッチは止められない。
そうだ、俺は――
「……俺は、君の人生を狂わせてしまったのか」
「何? 今更そんな事言うの?」
しかし、ウィズ・スイッチはそれに苦笑して、気にもしていない様子だ。
だけど……
「…………いや、なんでもない」
「変なの」
俺は、考えていた。
夢を叶えられないのに、その夢を諦めることができない誰かに、果たしてふさわしい言葉とはなんだろう。その夢を諦めてもいい、ということ? その夢を心の底から応援すること?
――残念ながら、俺にはそのどちらも違うように思えて、ならなかったのだ。