TS転生して、貰ったチート能力はカスケード・ハート 作:うまっ♪
軽快なジャズのBGMがなり始め、グラスを拭く俺の耳にハスキーな女性の声が聞こえてくる。
ーートレセン学園には、悩みで眠れぬ生徒が辿り着く、秘密のお店がある。
その声が終わると、部屋のドアが開き、シャランっというベルの音が聞こえ、カウンター席に座るフジキセキが華麗に振り返り。やや芝居掛かった仕草でこう言う。
「おや、今宵も悩めるポニーちゃんがやって来たね。
ん? あぁ、ここかい? ここは秘密のBAR 【Baby’s breath】
其処にいるのはボクと無愛想なマスター二人だけさ。
マスター、ここに迷いこんだ彼女にアレを。
ああ、大丈夫。これはもちろん、ボクの奢り。
さ、肩の力を抜いて、ボクの隣に座りな」
微笑のフジキセキのセリフが終わり。
三秒後、「カット!」の声に俺は肩の力を抜いて、こう言った。
「なんだこれ!」
「あははは、まあ、そういう反応だよね」
「慣れないとそう言う反応よね」
笑うフジキセキと、カメラの後方で勝負服を着たゲストのマルゼンスキー。
で、これは何かというと、幻の三冠ウマ娘で女性人気の高いフジキセキへ、動画配信の仕事をしてもらえないか? とトレセン学園側から依頼があったらしい。
と言うのも、ゴールドシップというウマ娘を筆頭に動画配信者として名前が売れているウマ娘がそれなりにいるので、試験的にトレセン学園でもやってみよう。ということになった。
で、誰にやらせるか? という話になったのだが。
人気はあるが、向いてなさそうで忙しいルドルフ、エアグルーヴなどの生徒会メンバー除外。
比較的若手のテイエムオペラオーが名前に上がったが、演劇向けなので、除外。
他にも数名名前が上がるが、何かしらの理由で除外になった。
で、結構話し合った結果、諸事情でレースに出れないフジキセキに名前が上がったのだが。
一人だと寂しくない? と、なって相方を探すことに。
フジキセキが相方を探している時に、たまたま麗が「ノンアルコールのカクテルって!お洒落よね。アルコールはまだまだ駄目だけど。これなら、カスケードと一緒にホテルで……きゃっ♪」みたいなことをハルがトレーニングの休憩中に女性向け雑誌を読んでいたのをフジキセキが目撃、フジキセキはビビッときてしまい。
俺が引きずり出されたと言うわけだ。
最初は断ったが、友人のフジキセキからの頼みに折れた形だ。
と言うのも、フジキセキは前世のマキバオーのキャラカスケードのモデルになったウマだ。
他のウマのエピソードも混じっているが、大本はフジキセキと言えるだろう。
そんな、フジキセキとは既に競いあった仲。
カスケードとは性格は似てないが、なんかウマが合うのだ。
それに、お互いの周りにあまり話していないことを知るもの同士でもあって、ルドルフよりも距離が近い。ルドルフはライバルという部分も大きいか。
「でも、二人とも本当にそのバーテンダーと黒のスーツは格好いいわよ」
「ふふっ、ありがとう、マルゼンスキー。君の仕立て直された、新しくなった勝負服が似合ってるよ。鮮やかで情熱的な紅い勝負服は素敵だ」
「ああ、前よりも洗練されたな。似合っている」
「うふっ、ありがとうね」
三人で軽く雑談。
カメラのチェックが終わり、合図が入るので台本通りにマルゼンスキーがフジキセキの隣に座る。
「では、今宵のゲストのマルゼンスキーだ」
「はぁ~い、マルゼンスキーよ」
こうして、番組が始まる。
しばらく簡単な近況トークが入る。
そして、ゲストの悩み相談に入り、フジキセキとマルゼンスキーの「わたし、悩んでいるの」「どうしたんだい? ボクに言ってごらん」と小芝居が入り、俺がマルゼンスキーの為に、ノンアルコールカクテルを作る。
え? 何故ノンアルコールなのか? 理由は簡単だ。
トレセン学園の生徒は基本的に未成年だからだよ!
ちなみに、高校課程を終えても大学の勉強をしながら、レースに出る成人の生徒もそれなりにいる。
基本的には、高校の単位を取得してトレセン学園を卒業するウマ娘が大半だ。
中には一部ではあるが、高等部でレースに集中する為に、中等部に入学して、自身の身体がレースに耐えられるまでの間に、中等と高等の単位を習得し、高等部へ進学した後はひたすら鍛練するストイックなウマ娘もいたりする。
まあ、ルドルフやエアグルーヴのことだが、
長くて十年くらいだろうか? 高等部の単位を習得後に四、五年くらい掛けてトレセン学園と連携している大学の単位を取るウマ娘もいる。
実はマルゼンスキーやルドルフもまだ未成年だったりする。
「マスター、では頼むよ」
俺はフジキセキの言葉に頷き、カクテルの材料を手に取る。
さて仕事だ。カクテル作って、出すだけ。一週間の付け焼き刃だが、バーテンダーの方に教わったやり方を思いだしながら、丁寧に手を動かす。
今回作るノンアルコールのカクテルは、【ヴァージンモヒート】と言うらしい。
マルゼンスキーの勝負服に合わせて、他の赤いカクテルを作るのかと思いきや、エメラルドのように綺麗なグリーンのカクテルだ。
材料はミントの葉、今回は青リンゴのシロップ、ライム、氷、ソーダ。
作り方は簡単だ。
グラスに洗ったミントの葉を。
はちみつかシロップを入れ、マドラーで潰す。
その上にライムを絞り、氷を入れ、最後にサイダーを注ぐ。
最後に塩をちょっと入れ、甘みを引き立たせる。
最近は気温が高くなり始め、マルゼンスキーは今日のトレーニングは長めにしている。
塩分補給にはいいだろう。
「ヴァージンモヒートだ」
「ふふっ、凄いわ。ありがとう」
練習したかいもあって、スムーズにカクテルを作ることが出来た。
マルゼンスキーは瞳をキラキラさせながら、俺の置いたグラスを手に取り、ゆっくりと一口飲んだ。
「美味しいわ。お酒ではないのに、酔っちゃいそうね」
マルゼンスキーの言葉に頷き、俺はフジキセキの分を作り、後は雰囲気を壊さないように、指定された位置でグラスなどの手入れをする。
そして、いくつか簡単な相談が行われ、最後の相談になった。
「さて、そろそろ最後の悩みを聞こうか」
「ええ、実はフジキセキだけではなく、カスケードにも聞いて欲しいの」
マルゼンスキーの言葉に俺はカウンターに隠して置かれた台本のカンペを確認するが、俺が関わるとは書いてない。
ディレクターを見ると、ディレクタースタッフと二三言葉を交わして、俺に頷いた。
「何だ? マルゼン姐さん」
「え? なにその呼び方」
「? 愛称だろ? 後輩達が呼んでいた気がするのだが?」
「ええっ!? 私、そんな愛称なの?!」
俺のマルゼンスキーの呼び方にマルゼンスキーが驚く。
フジキセキが軽く咳払いをする。
まあ、何で店の雰囲気をぶち壊すように、姐さん呼びしたかというと。
トレセン学園の生徒でもないのに、顔を売りたくないからだ。
一部のレースファンの間では、既に有名だが一般には俺は知られてない。
知られる必要もないし、知られたくない。
ま、上手くいけば、この辺りはカットだろう。
最後の質問の前の相談は店の雰囲気にあった真面目な話だったし、フジキセキとマルゼンスキーの対談は一般人も興味を持つ話が多かった。
あの大舞台のレースの裏側の話は俺も興味深い話だった。
「気を取り直して、マルゼンスキー。相談とは?」
フジキセキの問いに、席に座り直すマルゼンスキーは真剣な表情でこう告げた。
「その、私ね。ちょっとセンスが古いみたいで」
一瞬、俺とフジキセキは目が合い、同時に心の中で「「ーーちょっと?」」と、呟いた声が聞こえた気がした。
「ええ、車でドライブしている時にラジオで、いい曲ね。と思って聞き続けて、全部いい曲だから、後でダウンロードしようと思っていたら、ラジオのパーソナリティーが、懐かしの名曲ランキングって」
あら~。
「しかも、四十代の青春名曲ランキングで……」
「「…………」」
まあ、感性は人それぞれだしなぁ。
「それと、休日テレビを観ていたら、いいな。と思っていた服や色、アクセサリーを選んだ女性ゲストが駄目出しされてたの。感性が古いって」
段々テンションの下がるマルゼンスキーに、フジキセキと俺は慰めることにする。
「まあ、雑誌とかで勉強するしかないと思うぞ」
「そうだね、ファッションは常に時代と共に変化するからね」
「そ、そうよね」
「……寧ろ、ファッションより、言葉を」
「んんっ、カスケード」
俺の小さな呟きに、フジキセキの咳払い。俺は即座に黙った。
空気を変えたのを察したマルゼンスキーが話題を変えてくれた。
「あ、ところで、マスター」
「なんだ。マルゼンスキー」
「このBAR どうして、【Baby’s breath】の名前なの?」
マルゼンスキーの言葉に、フジキセキも俺に問いかける。
「いくつか、候補があってな。それを選んでいる時に、偶然目について、思ったんだ」
俺は店内に然り気無く飾っておいたカスミソウが生けられた小さなガラスの花瓶に目をやる。
俺の視線に気付いたのか、フジキセキとマルゼンスキーもカスミソウの生けられた花瓶へ視線を送る。
「可能であれば、もう一度競い合いたい」
俺の言葉に、マルゼンスキーが俺に問う。
「ロマンチストね」
「よせ、そんなのではない」
「そう言えば、君の誕生日は四月ではないよね?」
「ああ、それが?」
俺の言葉にフジキセキは、微笑み。
察したマルゼンスキーも微笑む。
俺は気恥ずかしくなり、顔を二人の視線から背ける。
「マスターも一杯飲んでくれ。奢るよ」
「マスターの話も聞かせてほしいわ」
「おい、変な振りをするな。そろそろ纏めろ」
その後、スタッフもカンペにカスミソウを選んだ理由について詳しく。とか書き始めて、ごちゃごちゃし始めたので、俺は強引に話を終わらせた。
番組は、マルゼンスキーの出来る年上のお姉さんなイメージを壊すとして、俺が参加した相談はマネージャーさんからNGが出てカット。
スター・ウマ娘の中にはモデルなどの仕事をするので、チームのトレーナーと連携するマネージャーを雇うことが多い。
で、収録後。マルゼンスキーのマネージャーさんから。
「カスケードさん、デビューしませんか?」
「はい?」
何故か、マネージャーさんから、モデルにならないかと誘われた。
フジキセキとはまた違う輝きを見たらしいって、お前はどこぞのアイドルプロデューサーか!
ちなみに、フジキセキもスカウトされたが。俺と同じように断っていた。
★★★
収録から数日後、俺はトレセン学園内にある、あの番組を収録したスタジオへ脚を運んだ。
トレセン学園には小規模ではあるが、撮影スタジオなどもある。
あの収録は試験的なもので、普段滅多に使わない物置のようになっていた準備室を利用したので、片付ける手間も考えて、セットはそのままだ。
第二回目を撮るかもしれない。とフジキセキは言っていたので、片付けなかったのかもしれないが。
「アルコールは無いぞ、フジ」
「ボクは飲まないよ。マスター」
「マスターって」
フジキセキの冗談めかした言葉に俺は肩を竦める。
俺はカウンターの下にある冷蔵庫を確認がてら開けて中身を見る。
ふむ、収録が無くて暇な時は、ここを秘密基地みたいに使わせてもらうか。
内装もそれっぽく、作られているし。数は少ないがジャズのレコードもある。
「カスケード」
カウンター席に座り、俺を眺めていたフジキセキが、オレの名前を呼ぶ。少し、真面目な声色だ。
「どうした?」
「……君は誰を追い掛けているんだい?」
思わずドキリとして、息を呑んでしまった。
確かに追いかけてるな。
最初は前世の競走馬マキバオー。
けど、今はウマ娘のマキバオーと出会い、走りたい。そう思っている。
「……宿敵だ」
「宿敵、か」
「ああ、だが……」
マキバオーは居ない。麗に頼んで調べてもらったからな。
マキバオーという名前のウマ娘は居なかった。
念のため、うんこたれ蔵でも調べたが。駄目だった。
もしかしたら、過去にいたのでは? と調べたが。見つからなかった。
「強敵と書いて、友」
「フジ?」
フジキセキの言葉に俺が首をかしげると、フジキセキは言った。
「カスケードの場合、強敵と書いて。愛しい人って、読めそうだね」
「おいー」
俺が呆れると、フジキセキは笑う。
けど、顔面偏差値の高いウマ娘達だ。
仮にマキバオーがウマ娘になったのなら、ロリ系の泣き虫で、負けず嫌いな。騒がしいウマ娘だろう。
「さて、フジ。次の収録でもカクテル作るのだろう? 何かリクエストはあるか?」
「ブルームーンで」
「リストにないな、それ絶対酒だろ」
俺の突っ込みに、フジキセキはどこか悲しげに笑うのだった。
★☆★☆
ーー北の某所 広い牧草地
「スペねーちゃーん!」
「ん?」
幼いどこかお転婆な大声に、スペねえちゃんと呼ばれたウマ娘は後ろを振り替えると、三年前に引っ越してきた白い二人の姉妹のウマ娘がこっちに走ってくるのが見えた。
「あっ、マキちゃん! それと滝蔵ちゃん!」
マキちゃんと呼ばれた幼い白い髪のウマ娘は手を振りながら、彼女より一回り大きい同じく白い髪のウマ娘を置いてかなりのスピードでスペに駆け寄ってくる。
「聞いたよ、スペねえちゃん! 来年トレセン学園受けるんだって?!」
「うん、そうだよ」
「すごーい!」
幼いマキちゃんと呼ばれた白い髪のウマ娘は、後ろを振り返り、歩いてくる姉に向かって叫ぶ。
「たきぞーねー! 速くきなよっ!!」
「もう、しょうがないのねん~」
野菜が入ったリュックが重くて、走りたくないなで歩いていた彼女がどこか間の抜けた返事をすると、「もう!」と抗議の声をあげる幼い白い髪のウマ娘。
「スペ姉ちゃん。おっそわけなのねぇ~」
「何時もありがとう。滝蔵ちゃん。あ、雲母(うんも)さんのお加減はどう?」
「お母さんは」
「お母さんは元気だよ、スペちゃん。今度遊びにおいでって」
「うん、行くね」
滝蔵ちゃんと呼ばれた白い髪のウマ娘が言いかけて、マキが言葉を遮る。
滝蔵はやっぱり、ボクよりもスペちゃんに懐いているのねん。と妹にバレないように、溜め息をついた。
「あ、そうだ。滝蔵ちゃん。実はお願いがあるの」
「なんなのねん?」
のんびりとした口調で、滝蔵はスペに問いかけた。
「あのね。トレセン学園入るために、私のトレーニングに付き合ってほしいの!」
スペちゃんと呼ばれたウマ娘の一言。
これが、始まりとなった。
うんこ→うん……→あー、なんか、なんか無いか? 何か。あ、雲か。→ウマ娘は基本的に美形。綺麗なモノ、花? 宝石? →雲母!
キャラクター紹介。
スペねえちゃん。
食いしん坊でデッカイ夢を持つウマ娘。
雲母 滝蔵。
事故で落雷に合い、幼い頃の記憶がない。
母の雲母緑子の体調不良もあり、田舎に引っ越す。
お転婆な妹が年上のスペねえちゃんに懐いている甘えているのでちょっと嫉妬と申し訳ない気持ちがある。
沢山走った夜は、夢で黒い影が現れるので、走ることは少し苦手意識がある。
母のレースの映像を見て、桜の女王だった母のようにレースに出たいと考えている。