TS転生して、貰ったチート能力はカスケード・ハート 作:うまっ♪
ーートレセン学園 とあるミーティングルーム
「皆、今日は呼び掛け応じてくれて感謝する。既に知っての通り、1ヶ月前からチーム・プルートのトレーナー助手、カスケード殿が呼び掛けた模擬レースが近々行われる」
ミーティングルームに集まったウマ娘達はイスに座りながら、ホワイトボードの前に立つ今日の勉強会のまとめ役と補佐の二人に眼を向ける。
「改めて、自己紹介をしよう。進行役のビワハヤヒデだ」
「補佐のナリタブライアンだ」
この二人はトレセン学園で有名な姉妹だ。
二人は実力がなければ勧誘されない生徒会に勧誘され、姉は断ったが、妹は生徒会で将来を有望視されている。
二人の走りは中等部でありながら、能力は素晴らしく。
誰が言ったか、技術のビワハヤヒデ、本能のナリタブライアンと呼ばれている。
「過去に行ったカスケード殿の模擬レースは、会長のシンボリルドルフやマルゼンスキー、オグリキャップさん達が参加し、今回はスーパークリーク先輩と他にもG1で入賞した先輩方が参加する」
「カスケードさんだけではなく、スーパークリーク先輩達も手強い相手だ」
ナリタブライアンの言葉にビワハヤヒデは頷き、模擬レース参加するウマ娘達も頷いた。
この集まりに参加している大半は、次の模擬レースをタイムは別として完走出来ると判断されたウマ娘達だ。
今年からクラシックに挑戦している者、今年デビューした者、来年デビューする者。
全員が有望なウマ娘達。
出走するカスケードは別だが、スーパークリークはG1ウマ娘の上位。名前は出されなかった他の三名のウマ娘もG1で勝利したことのあるウマ娘だ。
本来ならデビューし、勝ち上がらなければ、競い合えないウマ娘達。
「腕が鳴るな、姉貴」
「ああ」
ナリタブライアンの言葉に頷くビワハヤヒデ。
「今回の模擬レースは、中山 芝 2500mの長距離、右回り。つまり、有馬記念を想定している」
事前には聞いていた。だが、現時点で彼女達にとっては、スタミナが持つか不安な距離だ。
「それと今回の模擬レースは理事長の計らいで、普段遠くてあまり使われていない練習場を、有馬記念に似せた改装をしてくれたようだ」
その言葉にざわめくウマ娘達。
ちなみに、この理事長の行動にはシンボリルドルフとカスケードも驚いた。
改装費用は理事長のポケットマネーということで、二人は納得はした。
だが理事長は自身の秘書にかなり怒られた、だが理事長も負けじと言い返した。「カスケードという、シンボリルドルフ並みのウマ娘が後進育成のために全力で走ってくれる。実力と体力の消費を考えれば相応の謝礼を支払わなければならない。だが、それは難しい。それ故にこのような形で返すのだ!!」と。渋々ではあるが、その時の秘書から理事長へのお説教は少な目にされた。
「我々が手に入れたデータから、距離2500はカスケードのもっとも得意な距離のようだ」
「短距離では逃げ。マイルは先行。中距離は差し。長距離は追い込みで戦うことが多いな」
ビワハヤヒデとナリタブライアン。ウマ娘達が集めたデータを持ちより纏めた情報を整理していく。
「それとカスケード殿と言えば、四つ足の獣のような姿勢の【地を這う走り】だが、最後の直線以外では使っていないようだな」
「あと前に他のウマ娘がいる場合は、危険だから絶対に使わない。と言っていたそうだ。これを聞き出してくれた子に感謝だ」
「……カスケード殿は、トレセン学園の上位のウマ娘達相手に【地を這う走り】を使える状態に持っていける実力者だ。だが今回のレースは実力者が少ない。レースの流れ次第では、【地を這う走り】を使うまでもなく勝たれてしまう可能性がある」
ビワハヤヒデの言葉に、ざわめきが起こる。スーパークリークや他の強いウマ娘がいるので、手を抜けるレースではない。
だが、自分達相手に【地を這う走り】が使われる可能性は低いと分かっているウマ娘達は悔しさで奥歯を噛み締めた。
「皆、私はそんな負け方は御免だ。だから、意見を出し合おう」
そこから彼女達はカスケードのレース映像の分析とコース取りなどを話し合い、二時間の濃密な話し合いが行われた。
「過去の模擬レースや練習映像から、やはり長距離なら追い込みで来る可能性が高いな」
ナリタブライアンの言葉に多くのウマ娘達が同意する。
「ま、スーパークリーク先輩がいるから、先行か差しの可能性もあるが、カスケード殿は普段から模擬レースでは獅子のつもりで兎、出走するウマ娘を狩ると言っている」
「なら、やはり得意な戦法で来ますかね?」
一人のウマ娘の言葉にビワハヤヒデは、少し迷ったが頷き。
「カスケード殿が使う作戦は、やはり追い込みの可能性が高いと思う。まあ、仮に差しや先行でも、我々が全力で戦っても、カスケード殿は勝つのが難しい相手だ」
勝率は一桁だろう、と。ビワハヤヒデは心の中でだけ呟く。
全て能力がシンボリルドルフと同クラス。G1どころか、デビューすらしていないにも関わらず、本気を出した時の風格はシンボリルドルフやマルゼンスキーなどのレジェンドクラスのウマ娘と同格という、産まれながらの強者。
ビワハヤヒデは呼吸を整え、ナリタブライアン達の顔を見渡す。
情報を集めるのはこれが限界だろう。
分析もこれ以上は不必要。
後はひたすらトレーニングあるのみ。
「各々、情報の分析は終わった。後は残りの時間を有意義に使ってくれ。そして、カスケード殿を倒すぞ」
淡々とした、でも熱意を帯びた言葉にその場に居るウマ娘は力強く返事をした。
我々は何処までやれるだろうか?
ビワハヤヒデは不安を感じながらも、多くの情報を手に入れることに成功し、勝率は上がった筈だ。
今日の話し合いで、ビワハヤヒデ確かな手応えを感じていた。
★ ★ ★
ーートレセン学園 生徒会室
『各々、情報の分析は終わった。後は残りの時間を有意義に使ってくれ。そして、カスケード殿を倒すぞ』
ミーティングルームに設置したリモートカメラによって、ノートパソコンに映し出されている映像を観ながら、カスケードこと俺は大きく頷いた。
「良し、次の模擬レースは逃げ、いや大逃げで走ろう」
「カスケード……」
生徒会長席で作業しながら、少し呆れた表情で俺を見詰める。
「そんな目で見るな、ルドルフ。中国で有名な軍師である孫子も、情報の重要性を説いている」
「はぁ、分かっている。だが、ビワハヤヒデ達が少し可哀想になってな」
「まあ、今回のことは良い経験となる。海外、特にイギリスは偽の情報を流すことが多いぞ」
「我々も理解している。過去の海外遠征時にこちらの情報が筒抜けで、大敗してしまったからな。それからは防諜は力を入れた」
今回ビワハヤヒデ達の失敗は経験不足。中等部だから、盗撮されると言う発想が無かったのだろう。
それを考慮しても、今回仕掛けたリモートカメラは、ちょっと隠した程度だ。少し探せば分かるレベル。
この辺は、まだ良い子ちゃんと言うことだな。
やはり、情報管理が甘いし、女の子としても危ないな。
少し考えれば、こちらも情報収集をすると分かると思うのだが。だって、俺が生徒会の仕事を手伝っているし。全ての情報を生徒会から手に入れられる訳ではないが、事情を説明すれば、内容によってはルドルフは情報の回覧許可をくれる。
ちなみに、普段はこんなことをしない。
今回はビワハヤヒデが熱心に勉強会のことを俺や周りに隠さなかったこと。
ナリタブライアンが打倒カスケードを公言し、それを切っ掛けに俺がナリタブライアンの事を調べて、姉のビワハヤヒデの事を知り、彼女が知でも戦うタイプと分かり俺が念の為に警戒した。
ナリタブライアンは、俺を打倒する公言しなければ、俺がビワハヤヒデのことを知るのはもっと後で、今回の勉強会なこともスルーした可能性がある。
そう言う意味では無闇に対戦相手の警戒心を煽ったナリタブライアンが今回の戦犯ではある。
普段の俺は情報を普通に集め、自身の情報は外に出ないようにしているだけだ。
だが、ビワハヤヒデ達が防諜があまりにもお粗末だったので、上手くいけば彼女達の作戦会議をリモートで観ることが出来るかも? と、思いシンボリルドルフに頼んで、ビワハヤヒデ達が押さえたミーティングルームと時間を調べて、シンボリルドルフと共に、後輩達が自分達だけで、どれだけの情報を集め、分析。そして、防諜出来るか見守っていた訳だ。
「俺が流した情報も事実のように受け取っていたな。これは模擬レースの後でやはり注意を促すべきだな」
「ふぅ、色々言いたいことはあるが、確かにな。カスケードが意図的に流した情報もあまり疑わずに信じているのは問題だ。それと防諜意識の無さは大問題だ」
「これは、模擬レースが楽しみだな」
「うむ、レース前の準備は残念だが。本番のレースで、自分達の予想外の走りをした場合の彼女達が何処までカスケードに食らい付いてこれるか、楽しみではあるな」
俺はパソコンをシャットダウンして、ノートパソコンを閉じた。
「ところで、ビワハヤヒデ達の会議を眺めている時にカスケードが名前を出した三人のウマ娘だが」
「ん?」
ビワハヤヒデ達が話し合っているのを覗き観ている時に、雑談の一つとして、最近知り合って印象深かったウマ娘の話をしてのだ。
「ツインターボ、マヤノトップガン、ナリタタイシン」
「あぁ、あの子達か」
「将来有望か?」
ルドルフの言葉に、多少考えこう答える。
「マヤノトップガンとナリタタイシンは高確率で上がってくるだろう」
「ツインターボは?」
「ペース配分目茶苦茶、基本的なスタミナ不足だ。G1勝利は難しい。だからこそ、知り合った以上は、俺の走りで伝えるさ。口で言ってもあまり理解出来なさそうだしな。……あれは本能で走るタイプだ」
「ーーまったく、中等部のウマ娘にも眼をつけ始めたか」
「誤解を招く言い方は止めろ」
「冗談だ。だが、くれぐれも」
「ーー俺は本気で走る。だが、潰すつもりはない」
「なら、いい」
そう言って、俺はノートパソコンを小脇に抱えて生徒会室を出ようとしたところで脚を止める。
「あ、ところで、トウカイテイオーだが」
「ん、テイオーがどうかしたのか?」
「いや、遠目で見かけることはあったが、最近、俺の後を着けているようで」
俺の言葉に不思議そうな表情で首を傾げるルドルフ。
「どういうことだ?」
「話し掛けようと近づくと逃げるんだ。ビワハヤヒデ達のように情報収集っぽくは無かったから気になってな。ルドルフ、確認だが。俺はトウカイテイオーに何かしたか? トウカイテイオーから何か聞いてないか?」
「いや、なにも聞いていないな」
ルドルフがそう答えて、俺とルドルフはお互いに考えるが、思い当たる節はない。
「出来れば一度、話がしたいが」
「そうだな。カスケードにはテイオーとも走ってほしい。良い経験になるだろう」
俺とトウカイテイオーが出会うまであと少しのことだった。
中等部のウマ娘に防諜を求めるのは酷だと思うけど、プロアスリートを目指しているので、ちょっと厳しいカスケード。
ちなみに、生徒会の許可のもと防犯目的でリモートカメラを設置したことに書類上はなっているので、犯罪ではありません。
この言い訳に、たずなさんは頭を抱えました。