世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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第1話 転生者と女神

 私は、私と私の環境である――オルテガ・イ・ガセット。

 我々人類は常に自分自身のことを「私」と表現しているのだが、この「私」とは一体、誰のものなのか。「私なんだから、当然『私』のものだ!」と、恐らくは9割9分の人類がそう考えていると思う。しかし私は違う。

 

 私は「私」を環境によって規定されているものだと考えている。

 例えば、生まれた国や話している言葉、性格など。これらは全て私が望み、私が選択したものかと言えば、そうではない。これらは全て、環境によって決められているものだ。

 

 つまり「私」とは、私を取り巻く環境と中での関わりによって形成されているというわけだ。

 そしてもし、この環境を救わないなら、私をも救えない。我々人類は自分の意志で、己の本質を決めることができ、創造的な生を送ることができる「自由」な存在であるはず。なのに私は自分の生を支配できず、毒親や周りの環境に忍従の生を強いられていた。

 

 そんな忍従の生を日々送っている私は、生きている心地がしなかった。

 何故なら、忍従は堕落である。相手が誰であろうと、盲目に服従してはいけない。自分が認めていない者は、尚さら服従してはならないと私は思っている。この忍従の生はとっくに終わっているのだが、この出来事のおかげで、私は自由を追い求めるようになってしまった。

 

 創造的に、もとい自由に生きる為には、人は自らを支配するか、あるいは完全に認めている者に服従するかだとオルテガは言った。むろん私は、前者の方を選ぶ。

 

 とある天才科学者の名台詞を借りよう。

 この世界で、私に命令できるのは、私だけなのです。

 

 私の名は絢瀬悠凪。普通の社会人で彼女なし独身の男だ。

 アニメとゲームが好きで、趣味の為に仕事してる。特にガンダムシリーズやSAO関連がお気に入り。プラモデルやエロゲ、抱き枕カバーなどのグッズも沢山集めた。社会の中枢が道徳に欠ける「大衆」によって支配されている現実の中に、一時の癒しと安らぎを与えてくれるものだ。

 

 そんな私は昨日、親友である風間隼人と食事をしている最中に突如意識を失い、次に目覚めた時には、周囲が自然に囲まれた緑豊かな森林になっていた。そして、私の目の前には学園制服を身に纏い、長い金髪と青い瞳を持つ美少女が立っている。

 

「君は……何者だ?」

 

 私が問う、少女が答える。

 

「私はカレン。この空間を創造した神ですわ」

「神だと? 俄かに信じがたい話だな。君が神だと言うのなら、神としての力を見せて欲しい」

「いいでしょう。貴方に『創造の力』をお見せましょう……」

 

 そう述べると、カレンと名乗る少女は左手を振りかざした。

 すると、彼女の掌に光の粒子が集まっていき、次第に棒状に変わっていく。

 やがて光が消え、粒子で構成された棒状の物体が白銀のレイピアへと変化した。

 

「これで信じて貰えるのかしら?」

 

 レイピアを握るカレンは、ドヤ顔で私を見つめながら、言った。

 無から有を生み出す、それは神のみができる所業だ。

 こんなのを見せられたら、信じたくなくても信じざるを得ない。

 

「分かりました。貴女が神であることを信じます」

「それはどうも」

 

 そう言って笑みを見せるカレンはとても美しかった。どう見ても美少女そのものだ。

 それにしてもあの制服、何処かで見たことがあるような気がする。それにカレンという名前……確か、この前購入したエロゲ……彼女と瓜二つの姿と同じ名前を持つヒロインが表紙に見た覚えがあるのだが、タイトルを忘れてしまった。未開封のゲームだし、まあ良い。

 

「このレイピアを手に取りなさい」

「分かりまし――たぁ⁉」

 

 渡してきたレイピアを手に取ろうとした時、私の身体に異変が生じた。

 右手でグリップを握ろうとした瞬間、手が剣身をすり抜けてしまい、身体も半透明になっているのだ。予想外の状況に面食らった私に、カレンがある言葉を言い放った。

 

「一つ言い忘れたことがありました。この場所は転生の間で、貴方は既に死亡しています」

「こっ、これは一体、どういうことですか⁉」

「貴方の食事に毒が盛られたのです。それを食べた貴方は多臓器不全を起こし死亡しました。毒を盛った張本人は――」

「隼人……ですか?」

「はい。貴方のご友人、風間隼人です」

 

 そういえば、私が食事に口を付けた瞬間、隼人は意味ありげな微笑みを浮かべてたが、私は気にしてなかった。まさかあの微笑みに殺意が込められていたとは。

 隼人に殺されたのは予想外だった。理由は多分、嫉妬と逆恨みだろう。何故なら、先日は些細なことで口喧嘩してたからな。

 振り返ってみると、隼人が作ったプログラムに致命的なバグがあったと私が指摘したが、それを認めない彼と口喧嘩をしてしまった。最終的に社長は、私の作ったプログラムを採用したのだが、そこで隼人の恨みを買ってしまったのだろう。

 

「死んだなら仕方ありませんね。どうせ元の世界にはもう帰れません、そうでしょ?」

「ええ、そういうことです。あら、大抵の人なら状況が受け入れなくて発狂するんですが、貴方は意外と冷静なんですね」

「元の世界の社畜生活には、随分前から飽き飽きしていたんですよ。しかもいい思い出より、悪い思い出が圧倒的に多いし……それに人はいつか死ぬ、命あるものの宿命ですから」

「そうでしたか、貴方は既に元の生活に退屈してましたね。では、私が貴方をアニメやゲーム作品の世界へ転生させましょう。それと、貴方は犯罪により死刑に処せられた犯罪者ではないので、私からの『転生特典』も貰えますよ」

「所謂『チート』ですか。それは有り難い提案です、そうしましょう」

「では、行きたい世界となりたい容姿、その他諸々教えてください!」

 

 行きたい世界の候補が多すぎで迷ってしまうな。

 ガンダムシリーズだと『ガンダム00』と『ガンダムSEED』の世界が第一候補で、次は宇宙世紀0123年「コスモ・バビロニア建国戦争」の頃が第二候補だ。

 

 エロゲ作品だと『金色ラブリッチェ』が第一候補で『花咲ワークスプリング』が第二候補。

 『SAO』世界に行って、ユージオやキリトたちと会ってみたい。

 

 それ以外は、軌跡シリーズの世界だ。

 『閃の軌跡Ⅲ』の最終章で灰色の鬼と化したリィンとヴァリマールの結末も知りたい。

 

 不味いな、このままだと私が選択困難症に陥ってしまう。

 いや待てよ……『クロスアンジュ』に登場する「真実のアルゼナル」が位置する「時空の狭間」に拠点を構えられたのなら、行きたい世界にいつでも行けるんじゃないか?

 

 拠点はファンタジー風の浮遊城が欲しい。

 100層あるアインクラッドは大きすぎるから、リベル・アークならちょっといいか。

 

 そう考えつつ、私は自分の要望をカレンに提出する。

 

・拠点は『空の軌跡SC』に登場する浮遊城リベル・アーク。所在位置は時空の狭間で、城内には食料や日用品のなどを生産する施設の他、MSを製造・整備・運用する施設の追加や、施設警備や整備用の自律型ロボットを多数配備すること。

・身体能力の強化。具体的に言うと逆シャア時代のアムロ・レイ並の戦闘能力、容姿は今のままでいい。

・最初から魔改造フリーダムガンダム。コズミック・イラ74年、宇宙世紀0130年までの技術全て。

 

「ふむふむ……え? じ、時空の狭間⁉ どうして特定の世界ではなく、時空の狭間に拠点を構えたいのですか?」

「あの空間なら全ての並行世界を観測できますし、行きたい世界にいつでも行くことができるからですよ。それに私は、どの世界に属するつもりはありませんので」

「まさか時空の狭間の性質を理解していたなんて……!」

 

 私の答えに驚いたのか……面食らった表情をしたカレンは、持っていたレイピアを落としそうになってしまった。手からずるりと滑り落ちるレイピアのグリップを慌てて持ち直すと、彼女は剣を鞘に納めた。その後、ハッと気を取り直した彼女は、私にもう一つ質問をした。

 

「その……フリーダムガンダムについてですが、具体的にどのように魔改造したいですか?」

「そうですね……」

 

 先ずは動力だが、核分裂エンジンでは力不足だ。

 全てのガンダムの歴史を終わらせる機体であり、黒歴史の象徴でもある∀ガンダムには「DHCGP」という縮退炉が搭載されている。あれと同等以上の性能を持つ動力機関をフリーダムに搭載しておきたい。

 いや、いっそのこと『スパロボOG』に登場するぶっ壊れ超兵器――グランゾンの縮退炉を搭載しよう。グランゾンは縮退炉以外にも、内部から発生するエネルギーを推力に変換する推進機関、ネオ・ドライブも搭載されているから。

 これさえあれば推進剤が必要なくなるし、機体重量は軽くなる。そして軽くなった分で機動性と運動性も上昇するので、メリットしかない。

 

 次は武装だ。フリーダムは完全に射撃戦寄りの機体として開発されたMSで、近接白兵戦用武装は腰に装着される二本のビームサーベルのみ。

 射撃戦・近接戦の両方をこなせるオールラウンダーの機体として仕上げるには、白兵戦用武装を追加する他ない。インフィニットジャスティスの膝からつま先に設置されているビームブレイドが丁度いい、ビームサーベルの出力も強化したほうがいいだろう。

 そういえば、こいつは古い方の「MR-Q15A」だったな。ファトゥムー01のウイング部に設置されている新型「MR-Q17X」と交換しよう。

 併せてラミネートアンチビームシールドをビームキャリーシールドに交換しとこう。グラップルスティンガーの使い勝手を試してみたい。

 

 それとソードスキルの使用を想定して、機体のムーバブル・フレームは激しい動きに耐えられるようにしなければならない。フレームはVPS装甲素材にした方がいい、ついでに装甲もだ。

 そしてソードスキルをダイレクトに発動できるようにするには、MFのモビルトレースシステムを搭載するのが一番だろう。

 だが、このシステムを搭載することは、コックピットを丸ごと交換するのを意味する。

 嫌だな……それに、あのファイティングスーツが好みじゃないので、この案はなしだ。

 

 パイロットが思考した操縦イメージをサイコ・フレームに受信させて、機体をダイレクトに操縦する「インテンション・オートマチック・システム」を採用するのがいいだろう。サザビーと同樣に、コックピット周辺や駆動系にサイコ・フレームを埋め込んでおこう。

 このシステムを採用することで、もし初撃を外してしまったとしても、すぐさまキャンセルして回避行動を取れるし、被弾されるリスクも少なくなる。

 しかし問題は、私にNTの素質があるかどうかだ。このIASを扱うには、特殊な脳波を発するNTや強化人間でなければならない。普通のパイロットでは絶対無理だから。

 

 そして全部纏めると――。

 

・核分裂エンジンをグランゾンの縮退炉、推進機関をネオ・ドライブに改造。

・ムーバブル・フレーム及び装甲素材をVPS装甲に改造。

・両脚の膝からつま先に「MR-Q17Xグリフォン2ビームブレイド」を増設。

・ラミネートアンチビームシールドをビームキャリーシールドに交換。

・IASを搭載、コックピット周辺と駆動系にサイコ・フレームを埋め込む。

 

「あら……これでいいのですか? まだまだ改造の余地がたくさんあるのですが……」

「これでいいんです。関連技術も貰えるので、後でいくらでも改造することができます」

「そうでしたか、分かりました。今準備するので、少々お待ちくださいね」

 

 そう返事をすると、カレンは何もない空間からタブレットを取り出して操作し始めた。

 

「ところで、私にNTの適正があるのでしょうか?」

「それについては心配ありませんわ、貴方には適正があります。ただ、今の貴方では数字を超える感応波を発せられないようですね」

「そうですか……それを聞いて安心しました」

 

 IASとサイコ・フレームが無用の長物にならなくて良かったが、しかし今の私ではカミーユやバナージみたいには成れないようだ。

 でも、戦闘能力はアムロ・レイと同等なら、まだやりようがある。魔改造したフリーダムの性能も相まって、並のエースを瞬殺することができるだろう。

 

 例えば、ジョシュア・エドワーズやイオク・クジャンなどのネムードキャラくらいだろう。

 だが、ヤザンやラカン、サーシェス辺りはさすがに無理だと思う。何故なら、彼らは一般人ではなく「逸般人」だからだ。アムロご本人でも簡単には倒せないだろう。

 

 そして、時間が過ぎ去っていき――。

 

「準備が終わりましたわ。私がボタン一つを押すと、貴方はリベル・アークに転送されますわ」

「いよいよですか……」

「最後に転送する前に、貴方に伝えたいことがあるんです。貴方の為に、ささやかなプレゼントを用意したのですわ。後で確認してくださいね!」

「プレゼントか。それは楽しみですね」

「私はいつも、貴方のことを見ています……では!」

「えっ……ななっ、なんですかそのストーカーじみた発言は⁉ 光が、広がっていく?」

 

 カレンのストーカー発言に驚く間もなく、私の体は眩いほどの真っ白な光に包まれた。

 そして、私は静かに目を閉じた。新しい人生に希望を持ちながら、祈るように。

 

 でも、女神にストーカーされるのは、少々不安を感じた。

 急に目の前に現れるかもしれないし、念のため今後は周りを警戒しておこうか。

 

 閃光を越えた先は、暗闇だった。いや、私がずっと目を閉じていたな。

 私がゆっくり目を見開くと――夢なのか現実なのか、白と青を基調とした学園制服を纏い、長い栗髪と碧い瞳を持つ美少女が、笑みを浮かべながら私を見下ろしていた。

 

「(でかい……じゃなくて誰だ⁉ ていうか後頭部から伝わってくるこの柔らかい感触……まさか膝枕されてる⁉)」

「おはようございます、悠凪くん」

「き、君は……!」

 

 私の名前を知っているとは。

 

 栗色の髪にターコイズと同じ碧色の瞳、それにこの制服は……そういうことか!

 この瞬間、私はあることを思い出した。転生前の私が毎晩彼女に抱きしめて寝るから。一番思い入れのあるキャラの名前を忘れるわけがない。

 

 カレンの言う「ささやかなプレゼント」は間違いなく、彼女のことだろう。

 そう、彼女の名前は――。

 

「美玖……鳳凰院美玖」

「はい! またお会いできて嬉しいです、悠凪くん!」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 人間の価値をはかるには、ただ努力させるだけでは駄目です。

 そう、力を与えてみればいいのです。

 

 法や倫理を超えて自由を手に入れた時、その人間の魂が見えることがあります。

 絢瀬悠凪。貴方は、私に何を見せてくれるのでしょうか?

 

 つづく

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