フリーダムがMSWAD基地から飛び去った3時間後。
エイフマン教授がガンダムに連れ去られた報せを受けたグラハム・エーカーは、事の顛末と詳細を知るべく、頼れる親友であるビリー・カタギリの元に赴く。
「カタギリ!」
「グラハム、ドアを閉めてくれないか? それと、ここから先の話は内密に頼みたい」
「分かった……」
ノックもせずに部屋に入ってきたグラハムに、ビリーは冷静な声でドアを閉めるように頼んだ。
グラハムがドアを閉めた後、ビリーはエイフマン教授の残した書置きをグラハムに提示した。
書置きには「ワシを殺そうとした者は身内にある、よってワシは身を隠すしかなかった。そしてワシを保護した蒼き翼のガンダムは、ソレスタルビーイングに属する機体ではない」という旨の内容が書かれていた。
文章から察するに、真紅の粒子を放つガンダムがこの基地を襲った理由はエイフマン教授の抹殺であることが分かり、さらにユニオン軍の内部にCBの内通者がいることが分かった。
そして最も驚くべきはエイフマン教授の推測通り、蒼き翼のガンダムがCBに属する機体ではないという衝撃的な事実だ。
「まさか……あの鋼の天使がCBではないとは、この情報は何処で手に入れたんだ?」
「あれに乗っているパイロットがスピーカー越しに言ってたよ。その声から察するに、若い感じの日本人男性だったよ」
「ほう、興味深いな……それはさておき、軍にCB内通者がいることは事実なのか?」
そう問いかけてきたグラハムに対して、ビリーは基地司令塔のセキュリティログを部屋のメインモニターに映し出す。そしてモニターを見やすくするように、部屋の明かりを少し暗くした。
メインモニターに表示された文字を目で追う内に、グラハムは次第に眉間に皺を寄せていた。
グラハムは基地の敵襲警報の発令と、基地司令塔のエレベーターのロックが連動するように設定されていることをログから確認した。
「こんな致命的なミスがあるとは思ってなかったな……」
「これはうちのプログラムマーのミスではないよ、エイフマン教授の抹殺を企んだ者たちが意図的に仕組んだものさ」
「なるほど……カタギリ、セキュリティシステムが外部からのハッキングを受けていた可能性はないのか?」
「その可能性はないよ、この基地のセキュリティシステムは外部と独立した『内部ネットワーク』で構築したものだ。システムに変更を加えるには、管制室で端末を操作するしかない」
ビリーの返事を聞いたグラハムは、ユニオン軍内部にCBの息がかかった者たちが潜んでいることを確信した。
だが、思い返して見れば、蒼き翼のガンダムの行動は、まるでエイフマン教授が殺されることを予見していたようなものだった。何故なら、戦闘に介入するタイミングが良すぎたのだ。
さらにグラハムは、そのガンダムの行動には些か裏の事情があると見ているが、どのような事情なのかは依然として不明だ。
いずれにせよ、今は恩師を保護したそのガンダムに感謝するしかない。
「(鋼の天使よ、君に借りができてしまったな……)」
だが、これらの情報を上層部に報告したら、自分たちもエイフマン教授と同様に内通者から派遣される刺客によって殺されかねない。そう判断したグラハムとビリーは敢えて上層部に報告せず、二人だけの秘密にしたのだった。
一方その頃のリベル・アーク。
私はエイフマン教授を案内しながら、この空間の構造と浮遊城の各主要施設を簡潔に紹介していた。そしてフリーダムに搭載された動力源と装甲の材質、ビーム兵器の仕組みと特殊機能を知った瞬間、興味津々で話を聞いていたエイフマン教授の目が光ったかのように見えた。
「まさか縮退物質を利用した装置を搭載しているとは、これは驚いた! 電流を流すことで相転移する特殊な金属でできた装甲に、ガス状のコロイドを磁場で機体表面に定着させる電磁光学迷彩、そしてコロイド磁場形成理論を応用したビームサーベル……どれも魅力的な技術じゃ! 絢瀬君、君のガンダムを調べてもいいか?」
「それは構いませんが……その前に、現在貴方の置かれている状況を説明しなければなりません。貴方の命を狙っている者はユニオン政府の関係者で、CBとの繋がりを持っています。貴方が命を狙われている理由は、貴方自身がよくご存知のはずです」
「理由は、ワシがイオリア・シュヘンベルグの真の目的に迫ろうとしていたことじゃな」
「それもありますが、他にも色々あったのでしょう。ですがご心配は無用です。この浮遊城は貴方の命を狙う連中の手が届かない場所です。今しばらく、この浮遊城にて身を隠してください」
私が提示した条件はこうだ。
エイフマン教授の身の安全を保障する代わりに、この浮遊城の機能改善と技術協力、及びフリーダムの強化改修を手伝ってもらうという条件で、リベル・アークの技術主任に就任してもらった。
後にヴェーダのメインターミナルを手に入れた暁には、エイフマン教授に建設の担当を依頼するつもりだ。
もちろん、エイフマン教授はこれらの条件を全部飲んだ。
「ところで、絢瀬君は先程の娘とはどういう関係かな?」
「彼女は、私と将来を誓い合った恋人です」
「ほう……これが若さか」
そして翌日、私は倉庫からエイフマン教授が興味を持てそうなものを選び、それを持って格納庫に赴いた。私の選んだものは『逆襲のシャア』に登場したあのT字部材だ。
「絢瀬君、このT字部材はどういうものかな?」
「これはコンピューターチップを金属粒子レベルで鋳込んだモビルスーツ用の構造部材で、その名は『サイコ・フレーム』といいます。このT字部材はその試料です」
「サイコ……精神か。随分と珍しい名前じゃのう、これはどういった機能があるのかな?」
「それはですね……」
私はサイコ・フレームの主な機能をエイフマン教授に説明する。
一つ目は、感応波の受信だ。
サイコ・フレームは搭乗者の発する感応波、及び周囲の人間の感応波を受信し、搭乗者にフィードバックすることで機体の反応速度を向上させたり、搭乗者の感知能力を先鋭化させたり、遠く離れた人に自分の意思を伝えたりすることができる。
二つ目は、素材の軽さと物理強度だ。
サイコ・フレームは従来の構造部材よりも軽量で、フリーダムのコックピット周辺及び駆動系にこの構造部材を採用したとこにより、本体重量が本来より軽くなっている。
さらにこの部材の強度は凄まじく、爆発に巻き込まれても破壊されず、稼働にも支障をきたさなかった。発光状態になると、その強度はさらに増加し、物理法則を飛び越えて異常に固くなる場合もある。
しかしながら「破壊されない」というわけではなく、高出力ビームなどの直撃を受けた場合は普通の構造材と同様に破壊される。言い換えれば、サイコ・フレームは普通の部材と比べて壊れにくい部材だ。
三つ目は、思考による機体制御とオールレンジ攻撃兵装の操作だ。
サイコ・フレームは高度化したサイコミュであり、搭乗者の感応波を直接駆動系に伝達でき、機体の追従性を大幅に向上させることができる。
機体駆動系に組み込めば、操縦桿を介さずにMSの操縦することが可能となる。小型攻撃端末に組み込めば、オールレンジ攻撃を用いた変幻自在な戦法も駆使できる。
フリーダムに搭載された「インテンション・オートマチック・システム」は、この特性を利用したサイコミュ思考操縦システムだ。3機のスローネとの戦いでは、私はこのシステムを通して未実装の二刀流ソードスキルを、脳内でイメージする形で発動させている。
「なるほど……このサイコ・フレームは単なる部材ではなく、構造材と電子機器としての機能を兼ね備えておったか。しかも発光するとは、これは斬新的なものじゃ!」
「しかしサイコ・フレームはなぜ光るのか、作った技術者たちにも分かりませんでした」
そう言いながら、私は箱にある試料を手にした。エイフマン教授の手のひらにある光を一切発していない試料に対して、私が手にしたサイコ・フレーム試料は
「これが発光状態のサイコ・フレームか、益々興味が湧いてきた! この部材を、ワシの研究材料にしてくれないか?」
「もちろん構いません。ですがサイコ・フレームに関連する実験を行う前に、必ず私に知らせてください。この発光現象を含めて、色々未解明なものがありますので、重大な事故が起きるかもしれません。声をかけていただければ、場所を用意します」
「ふむ、分かった」
この時、美玖は紅茶を運んできた。
「悠凪くん、紅茶をどうぞ。エイフマン教授もどうぞ、お召し上がりください!」
「わざわざ運んできてくれてありがとう、頂こう」
「ではワシも頂くとしよう……ほう、とても上品でいい香りじゃ」
私とエイフマン教授が美玖の淹れた紅茶を堪能している時、美玖は机の上に置いてある箱にあるサイコ・フレーム試料に目をやった。
彼女は好奇心に駆り立てられるまま、箱にあるサイコ・フレーム試料を持ち上げて、観察するように眺める。その瞬間、手にした試料が異変を生じた。
「えっ……光ってる?」
「(なんという眩しさだ! だとすれば美玖は……ニュータイプ⁉)」
美玖が手にしたサイコ・フレーム試料は
この前の会談では、アレルヤ・ハプティズムの裏人格、ハレルヤは美玖が脳量子波の類を使えると言った。いや、それ以前に……彼女は敵機がフリーダムのセンサーに引っかかる前に、その方角と数を正確に把握していた節がある。そしてこの発光現象から察するに……
この瞬間、美玖が私以上のニュータイプ素質を保有していることが明らかになった。
それから彼女が手にした試料は、より一層強い光を放ち始める。突然のことに驚かされた美玖は反射的に試料を手放し、私に抱きついてきた。
手放した試料はそのまま地面に落ちていき、物音が響くと同時に発光現象も停止したのだった。
「美玖、大丈夫か?」
「急に光り始めたから、ビックリしただけです……」
「すみません、教授。話はまた後ほどで……さあ美玖、部屋に帰って休もう」
「うん……お先に失礼します」
美玖を部屋に寝かせた後、私は本棚に置いていた書類を取り出した。
その書類は、私の考案したフリーダムガンダムの強化改修プランが記されているものだ。
私の考案した改修プランはこうだ。
携行火器を失った状況を想定して、マニピュレーターにも内蔵武器を搭載する必要がある。
二刀流ソードスキルの実装と伴い、取り回しの悪いビームキャリーシールドを取り外すことになる為、アームウェアは攻防一体のパーツと交換することが望ましいだろう。
アームウェアはデスティニーガンダムのものと交換し、肩部に搭載された「フラッシュエッジ2ビームブーメラン」に連結機能を追加させる。攻防一体かつビームブーメランが搭載した腕パーツは、これしか思い浮かばないから。
そして試験目的で両サイドアーマーとレールガンをストライクフリーダムガンダムのものに換装させ、ビームサーベルも「シュペールラケルタ・ビームサーベルD出力強化型」と交換する。
最後は、2門のバラエーナを凌駕する威力と射程を持つ対艦・対MA用の超長距離射撃武装だ。
名は「ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャー」という、かの有名なハイニューガンダムがアクシズの核パルスエンジンを破壊する為に使用した大出力ビーム砲だ。
元々は戦艦からのエネルギー供給無しに運用がままならない武装だが、膨大な発電量を誇る縮退炉を搭載したフリーダムならば、単機でも問題なく運用できる。
この書類をエイフマン教授に提出した後、私はアリー・アル・サーシェス及びジンクスの製造工場の情報を求めるべく、ソレスタルビーイングのエージェントと連絡した。
『こんにちは。初めまして、ミスター・アヤセ』
案の定というべきか……スピーカー越しに少女の声が聞こえてきた。
やはりこの連絡先は、王留美のものだったか。
「まさか王家の当主が、ソレスタルビーイングのエージェントだったとはな」
『あら、わたくしのことをご存知でしたか。それでミスター・アヤセ、今日はどのようなご用件でしょうか?』
「AEU軍の外人部隊に所属するゲイリー・ビアッジ少尉の行方と、新型モビルスーツを製造している工場についての情報を知りたいんですが」
『申し訳ありません、それらに関する情報はわたくしも持っておりませんでした。情報を収集するには時間がかかりますが、よろしいでしょうか?』
「ええ、構いません」
『では、情報が入り次第に連絡します』
「了解しました、よろしくお願いします」
そう言って私は通信を切るのだった。
「(ここから先は第二局面だ。王留美から提供される情報を元に、ジンクスの製造工場を見つけ出して、破壊する。アレハンドロ・コーナーに処する対策も、その中で自ずと見えてくるだろう……だが、その前に、宇宙に漂流しているガンダムラジエルを回収しておかないといけない)」
GN-XXX ガンダムラジエル
この時点でCB製の第三世代ガンダムを研究したいなら、この機体を回収する他ない。
ラジエルをCBのサポート組織「フェレシュテ」に返還したい、という個人的な理由もある。
このガンダムはエクシア、デュナメス、キュリオス、ヴァーチェの後に開発された第三世代ガンダムで、マイスターはグラーベ・ヴィオレントというイノベイドだ。
ヴェーダ主導で開発されたガンダムである為、型式番号が伏せられている。
刹那たちが武力介入を開始した5年前、ビサイド・ペインの駆る1ガンダムとの戦いでは「GN粒子貯蔵タンク」を動力にしているが、元々は0ガンダムのGNドライヴを搭載していた。
私の記憶が正しければ、当時の事件の顛末はこうだ。
ビサイドが反乱を起こす際に、グラーベはビサイドに操られたヒクサーによって撃たれた。その際致命傷を負ったが、JB・モレノ先生の処置により一時的に蘇生した。だが、この時のグラーベの余命は残りわずかだった。
後にGN粒子貯蔵タンクを搭載した「セファーラジエル第2形態」で無理を押して出撃し、1ガンダムの撃破に成功したものの帰還は果たせず、粒子を尽きたラジエルは息を引き取たグラーベと共に漆黒の宇宙へと消えていった。
原作では、ラジエルは2314年で木星周囲に漂着する。機体の漂流速度、及び地球と木星との距離を計測すると、おそらく今頃は、火星と木星の中間にあるアステロイドベルトに漂流しているかもしれない……海から針を探すように探し回る事になるが、やってみる価値はある。
次にやるべき事を決めた私は、即座に行動を起こすのだった。
つづく