世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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第12話 プルトーネ再び

 フェレシュテ。

 それは、突如世界に姿を現し、僅か4機のガンダムで圧倒的な世界の軍事力に対して武力介入を行うソレスタルビーイングを裏からサポートする下部組織である。

 

 組織管理者は元第二世代ガンダムマイスター、シャル・アクスティカ。

 

 彼らの任務は後方支援に留まらず、紛争地域の事前調査、残敵掃討、戦闘痕跡の消去や目撃者の抹殺など多岐に及ぶ。その為、同組織には第二世代ガンダムの4機に加え、動力源となる太陽炉1基の所有が許可されていた。

 

 それらのガンダムに登録されたマイスター、フォン・スパーク。

 

 本名はロバーク・スタッドJr。元反ユニオンのテロリストという異色の経歴を持つガンダムマイスターで、KPSAに所属していたサーシェスと共に活動していたこともある。

 13歳でテロリストのリーダーを務めていた頃では、アグリッサの先行生産モデル「タイプ7」でガンダムラジエルを鹵獲しようとしたことから、同機のマイスターであるグラーベにその能力を評価され、ソレスタルビーイングに勧誘された。

 ガンダムマイスターとなったものの、嘗ての経歴を危険視されたフォンは任務時以外は常に手錠つき、さらに首には爆弾付きの首輪を嵌められた。

 

 そして、ソレスタルビーイングの行動により、世界は少しずつ変化していく……

 

 

 

 

 

 中東のアザディスタン王国で発生したマスード・ラフマディー拉致事件。

 この事件は、国内のバランスを崩壊させることを目論む首謀者が、外国からの支援を望む改革派の犯行と見せかけ、保守派の宗教指導者ラフマディー氏を拉致したテロ事件である。

 このテロ事件を紛争幇助と判断したソレスタルビーイングは、ラフマディー氏の救出ミッションを断行する。救出に成功したその翌日、刹那・F・セイエイは彼を直接アザディスタン政府に引き渡すべく、非武装のガンダムエクシアで王宮へと向かう。

 

 この無謀な行為に対し、フォン・スパークは「あいつは己の力と信じるモノで世界を変えようとしている」と評していた。

 

 ラグランジュ1宙域で発生した資源衛星群の落下事故。

 後に「メテオーアナハト(流星の夜)」と呼ばれるこの事件は、コロニー建設の為ラグランジュ1に運び込まれていた資源衛星の一つが、なんらかの原因により地上への降下を開始してしまった地球規模の重大事故である。

 この資源衛星はソレスタルビーイングの施設であったことと、分解した破片によって地上には甚大な被害が生じることから、作戦行動中のティエリア・アーデを除く3人のマイスターは破砕作業を敢行する。

 事故の翌日、同じく破砕作業を行われていたユニオン側では、この事故をソレスタルビーイングのテロ行為と報道した。だが、多くの市民がガンダムによる破砕作業を目撃した為、その目論みは失敗に終わった。

 

 これらの事件によって、世界からソレスタルビーイングの印象は良い方向に変化していく。

 だが、4機の新型ガンダムの出現により、世界からの印象に変化が生じた。

 

 三大国家陣営による史上初の合同軍事演習。

 2000機以上にも及ぶ圧倒的な戦力を投入した合同軍事演習の裏に隠された真の目的は、ガンダムの鹵獲である。その圧倒的な戦力差を前に、ソレスタルビーイングの4機のガンダムは全滅を覚悟しての武力介入を敢行する。

 

 鹵獲寸前までに追い込まれた4機のガンダムを、蒼き翼を持つガンダムが救う。

 

 ソレスタルビーイングさえも把握していなかった「フリーダムガンダム」と呼ばれる存在と、その翌日に現れた真紅の粒子を放つ3機のガンダムは世界の変化を更に加速させ、時代を新たな局面へ誘った。

 

 

 

 

 

 ラグランジュ1から少し離れた宙域には、一つ巧妙に隠された資源衛星がある。そして内部の管制室では、ソレスタルビーイングのサポート組織「フェレシュテ」のメンバーたちが、新たに現れた4機のガンダムについて議論していた。

 

「新たなガンダム?」

「えぇ……三大国家陣営の合同軍事演習に介入した『フリーダムガンダム』と、その翌日にアイリス社の軍需工場及びユニオンの基地を襲撃した3機のガンダムよ」

「あのフリーダムガンダムは、確か異世界からやってきたガンダムですね?」

「そうよ。あのパイロットはCBの掲げる理念を理解しようとして、彼らを手助けしたのよ。しかし、後に現れた3機は、どういった理由で行動しているのか未だに分からないけど……」

 

 エコ・カローレの問いかけに対し、シャル・アクスティカはヴェーダ経由で知り得た情報をそのまま彼に伝える。だが、真紅の粒子を放つ3機のガンダムに関する情報は一切なかった。

 3機のコーン型スラスターから放ち出した真紅の粒子はGN粒子であることが明らかになっているが、シャルと仲間が開発したガンダムの中に、そしてヴェーダのデータベースにも該当する機体は存在しなかった。

 それでも一応ガンダムタイプである為、シャルは3機をCBに所属する機体と判断した。

 

「味方だろうと敵だろうと関係ねぇ。そいつらもヴェーダによって動いているだろう?」

「その筈だけど……」

「その後、ヴェーダからの指示はどうなってます?」

「私たちには、宇宙での待機命令が出たままね」

「気にいらねぇな! 俺は勝手にやらせてもらう!」

 

 ヴェーダからの待機命令を良しとしないフォンは独自行動を宣言するが、ヴェーダの許し無しでは、付けられた手錠を外すことはできない。

 

「フォン! 手錠を付けたまま行動するつもりか⁉」

「やりようは幾らでもある!」

 

 それでも己の意志を曲げないフォン。

 

「やめときなよ、フォン。師匠は言ってた、ヴェーダに従うのが我々のルールだって」

「シェリリン……俺はルールでは縛られない! それにヴェーダだって絶対じゃない、ハッキングされた可能性だってあるぜ?」

「ヴェーダがハッキングされたなんて、そんなの……」

 

 ヴェーダがハッキングされた可能性を否定しようとしているシェリリン・ハイドに、フォンはいつもより真剣な顔で彼女を見つめ、自分の推測と見解を述べる。

 

「ありえない、と考えた方がおかしいぜ……ヴェーダはどれだけスゲーコンピューターだろうと、所詮は人間が作ったモノだ。人間が作ったモノが完璧であるはずがねぇ! あの3機だって、ハッキングされた産物かもしれねぇだろ?」

「うん……フォンの言葉に一理ある。実はあの3機について、トレミーにいる師匠からこっそり聞いてみたんだけど、どうも太陽炉に似た動力機関を積んでいるらしいの」

「太陽炉に似た動力機関……言わば『擬似太陽炉』ってところかしら」

「それってフォンの言う通り、ヴェーダがハッキングされた可能性があるって事かな?」

 

 フォン・スパークの言い分はこうだ。

 ヴェーダはイオリアがCBを創設した数百年前から計画を管理するために作った量子型演算処理システムとは言え、所詮は人間が作ったモノだ。そして、人間が作ったモノが完璧であるはずがない。それにCBという大掛かりな組織は一枚岩ではなく、複数のチームが存在している。

 それに加え、CBの最高機密である太陽炉と似た特性を持つ「擬似太陽炉」を建造できる技術とノウハウを持つ者は、組織内部の人間以外ありえない。

 従って、3機の新型ガンダムは組織内の誰かが計画を加速させる、または乗っ取る為に用意した機体だと考えられる。

 

「ヴェーダはプランを遂行する根幹を成すシステムです。常に完全です」

 

 この時、ヴェーダに直接アクセスできるガンダムマイスター874(ハナヨ)は、フォンと真逆の見解を述べた。

 

「ハナヨ……?」

「ヴェーダは異世界のガンダムを含む、4機のガンダムを容認しています。私はヴェーダの指示に従えます」

「お前も騙されてるんじゃないか、ハナヨ。いい加減親から離れろ……お前はお前でヴェーダとは別の思考を、自我を持ってるんだ」

「私はフェレシュテとヴェーダを繋ぐ端末でしかありません……」

「違う! ハナヨはシェリリンの友達でしょ?」

 

 自我を否定し、己を「端末」と規定しているハナヨに、フォンはある言葉を言い放った。

 

Cogito,ergo sum.(我思う、ゆえに我あり)

「はぁ? 何それ……?」

 

 エコは困惑していたが、フォンは構わずに続ける。

 

「そしてお前はそこにいる、違うか? ハナヨ……」

 

 ハナヨが口を開き、フォンの言葉に返事しようとした時、ヴェーダから新たなの指令が届いたことを示すビープ音が管制室に響き渡った。シャルが受信ボタンをタップした後、コンソールに設置したスクリーンには文字が浮かび上がってきた。

 

「なっ⁉ この指令は……⁉」

 

 ヴェーダから送られてきた指令を閲覧したシャルの顔が徐々に青ざめていき、次の瞬間、彼女は力が抜けたようにその場で膝をついた。

 

「フェレシュテの解散と……0ガンダムを太陽炉と共に……引き渡す⁉」

 

 ヴェーダの命令は絶対だと考えているシャルさえ、この突然の命令に納得できず、決断に苦しんでいる様子を示した。

 フェレシュテは「プルトーネの惨劇」で亡くなられた「2人のマイスター」の想いを受け継ぎ、実現する為に設立した組織だ。この組織を解散したら、彼らの想いと今までしてきたことを全否定することになる。

 

 ヴェーダからの命令は絶対とは言え、仲間への想いはシャルにそれを許してはくれなかった。

 

「何かがこちらに近づいています!」

「あの紅い粒子は、新型のガンダム⁉」

 

 シャルが失意に陥ったその時、シェリリンとエコは真紅の粒子を放つ3機のガンダムがこの資源衛星に近づいているのを見た。その直後、先頭にいる砲撃戦仕様のガンダムからの通信が割り込んできた。

 

『失礼する、ヴェーダからの指令が届いたと思う。貴方がたが保管している0ガンダムを引き渡してもらう、もちろん太陽炉を含めてだ!』

「ふざけるなよ! 太陽炉を失ったら、俺たちのガンダムはどうやって起動すればいいんだ⁉」

『心配はいらない。フェレシュテは解散と決定している!』

「きっとフォンのせいだ! あいつが勝手なことばかりするから、フェレシュテは……って、フォンとハナヨ、シェリリンは何処に行った⁉」

 

 すべての原因をフォンに擦り付けるエコだったが、気がつくとフォンとハナヨ、シェリリンの姿はいつの間にかこの管制室からいなくなっていた。

 

『これはヴェーダの決定事項だ。指示に従って――』

『――そいつはどうかな?』

 

 と、もう一つの通信が割り込んできた。同時に、管制室にいるシャルとエコはメインスクリーンから3機の新型ガンダムと対峙しているガンダムプルトーネの背中姿を目にした。

 

 

 

 

 

「フォン・スパーク! 何故プルトーネで出撃したのですか……っ⁉」

 

 GNY-004 ガンダムプルトーネ

 

 このガンダムはソレスタルビーイングがGNフィールドの制御テストを目的に開発した第二世代ガンダムの4号機で、ガンダムナドレ及びヴァーチェの前身である。

 腰部に大型GNコンデンサーを搭載している他、胴体部には太陽炉とマイスターの回収の為に「コア・ファイター」という脱出ポッドに分離・変形する機能を持っている。

 

 今から12年前の2295年、ヴェーダが察知した人革連の軌道エレベーターに対するテロ行為を阻止すべく、シャルはガンダムプルトーネで出撃する。

 当時の作戦の全容は、プルトーネのGNコンデンサーを暴走させ、自爆させることでGN粒子を広範囲に散布し、粒子の特性によりテロリストの機体を行動不能に追い込み、シャルはコア・ファイターで脱出するという作戦だった。

 

 だが、高濃度GN粒子の散布には成功したものの、プルトーネの動作不良により脱出が不可能となってしまった。シャルは同行していた2名のマイスターにより救助されたが、高濃度GN粒子を浴びた2名は即死し、シャルも毒性の影響でナノマシンを含んだ薬がなければ生きていけない身体になってしまった。

 

 この「プルトーネの惨劇」以来、シャルはプルトーネを「仲間を死なせた忌々しい機体」と見做している。何故フォンがアストレアタイプFではなく、この忌々しい機体で出撃したのか、この時のシャルは知る由もなかった。

 

『ほう……フォン・スパークか……いや、ロバーク・スタッドJr』

『こいつか? 元テロリストのガンダムマイスターってのは!』

『ふーん……悪党なんだ!』

 

 3人が言い終えると、フォンはGNビームライフルの銃口を彼らに向けて、返事した。

 

「良くご存知じゃねぇか!(レベル7の機密を知っているとは、こいつら普通じゃねぇな!)」

 

 そう言ってフォンはGNビームライフルを撃ち放ち、直後に操縦桿を握りしめ、プルトーネの機体を加速させる。急加速で回避したスローネアインの動きを予測し、続けて二発目を叩き込む。

 一直線に走る粒子ビームの光条はアインの左腰を掠め、その体勢を崩した。その隙にフォンはライフルを捨て、GNビームサーベルを引き抜いた。追撃をかけるようにアインに肉迫しようとするが、その行く手はスローネツヴァイによって阻まれた。

 

『テメェ! プルトーネでお出ましとは反抗的すぎるだろうが!』

「あげゃげゃげゃ! ここでガンダムを失うわけにはいかないんだよ!」

『面白れぇ! だったら俺が相手になってやるぜ! いいだろう? 兄貴!』

『いいだろう……彼の相手をしてやれ』

「あげゃ! まずはお前からだァ!」

 

 ターゲットを割り込んできたスローネツヴァイに変更したフォンは、その機体に目掛けて右手のGNビームサーベルを上に払った。ツヴァイはすかさずGNバスターソードを引き抜き、振るわれる光刃を防ぐ。そして機体の粒子放出量を増加させ、力任せでフォンの駆るプルトーネを圧倒しようとする。

 

 機体性能は間違いなくツヴァイの方が上だが、パイロットの技量と実戦経験はフォン・スパークの方が圧倒的に上だ。

 

『ヘッ! 刻んでやるぜぇ!』

「あげゃ! 力任せじゃ俺には勝てねーぞ!」

 

 機体性能の差が、勝敗を分かつ絶対条件では無い。

 フォンは左手のGNシールドを捨て、もう1本のGNビームサーベルを引き抜く。その行動に驚かされたミハエルはすぐさま機体を後退させ、待機状態のGNファングに攻撃命令を送った。

 

『ぶっ潰してやるよ! 行けよぉ、ファングゥゥッ!』

 

 射出されたGNファングが一斉に動き出し、プルトーネの機体を取り囲む。そして、一斉に粒子ビームを撃ち出す。フォンは自機に急制動をかけ、機体を捻らせて粒子ビームの閃光を躱し、左手のGNビームサーベルをツヴァイに向けて投げつけた。

 投擲した光刃は、寸分の狂いもなくツヴァイの左腕関節を突き刺し、爆発を巻き起こした。爆発の振動はツヴァイのコックピットを貫き、ミハエルの身体を激しく揺さぶられる。

 ツヴァイが動きを止めた隙に、フォンは先ほど放り捨てたGNビームライフルを掴み取り、宙に漂うGNファングに向けて連射する。放たれた光条はGNファングを正確に捉え、次々と破壊して行く。

 

『クソ! 骨董品の分際で……!』

『そこまでだ、ミハエル』

 

 ヨハンはフォンの戦闘能力を甘く見ていた。このまま戦闘を続ければ、ミハエルは撃墜される可能性がある。そう判断したヨハンは再び攻勢に出ようとするミハエルを引き留め、フォンとの通信回線を開いた。

 

『フォン・スパーク、直ちに戦闘行為を中止せよ。分かっていると思うが、命令違反の場合、君の首にセットされた爆弾が……』

「違反行為だぁ⁉」

 

 その言葉に耳を傾けず、フォンはツヴァイに向けてGNビームライフルを撃ち放つ。粒子ビーム光条が、ツヴァイの左足をかすめた。

 

『聞き耳を持たずか……仕方ない。HARO、ヴェーダに報告を……』

『ナンダヨ! ナンダヨ!』

『フォン・スパークはヴェーダに対し反逆行為を行ったとな』

『ワカッタゼ! ワカッタゼ!』

 

 ヨハンの指示により、紫色のハロはフォンの違反行為をヴェーダに報告する。次の瞬間、小さな爆発音と共に、通信モニターに映るフォンのヘルメットが内側から赤く染まる。

 

「フォン・スパーク、頸部拘束具炸裂! 炸裂! 失血多量、失血多量! 血圧急低下!」

『さらばだ、フォン・スパーク……ミハエル、0ガンダムの太陽炉を回収しろ』

『了解だぜ、兄貴……なに⁉ こいつ、まだ動いてやがる⁉』

『ええ⁉ まさかお化けとなってガンダムを動かしている……⁉』

 

 3人はまだ知らない……いや、知るはずがない。ガンダムプルトーネにはフォン・スパークだけでなく、もう1人のガンダムマイスター、ハナヨも同乗していたのだ。

 

「このままではフォンが死ぬ……」

 

 彼女は意識を失ったフォンの代わりにプルトーネを操作し、コア・ファイターを機体から分離させる。そして……プルトーネの機体を自爆させた。

 膨れ上がる爆発の光が宇宙の闇を照らし、スクリーンと人間の網膜を灼いた。ハナヨはこの爆発に乗じて、フォンと共にこの宙域から離れた。

 

『我々は一旦引きます。貴方がたの今後については指示があるでしょう(フォン・スパーク、太陽炉と共に宇宙を彷徨う覚悟か……甘く見ていた!)』

「フォンは、きっと私達が見つけてみせます」

『いいでしょう、見つけたらヴェーダに報告してください。ミハエル、ネーナ、撤退するぞ!』

 

 太陽炉のない0ガンダムを持ち帰っても意味がない。

 ヨハンはミッションが失敗したと判断し、ミハエルとネーナに撤退の指示を出した。

 

「(私から仲間を奪ったプルトーネ……貴方が今度は私の仲間を助けてくれだなんて……)」

 

 

 

 

 

 一応は人工冬眠状態で出血を止め、体内のナノマシンによる血管の修復作業も行われたが、それでも時間稼ぎでしかない。何処かで本格的な治療を受けない限り、フォンは確実に死ぬ。

 

「ヴェーダを介さずトレミーと接触することはできない、いっそヴェーダに助けを……」

 

 いや、どう考えても無理だ。フォンを反逆者と判断したヴェーダはこちらに救いの手を差し伸べてくるはずがない。ヴェーダには善と悪も感情もない、只のデータの集合……あるのはイオリア計画をより良い方向へと進める為の選択肢だけだ。

 

 そして、自分自身と太陽炉の位置は常にヴェーダに把握されている。

 だが、ハナヨはあの3機が追って来ていないことに不思議を感じた。

 

 もしかして、自分の行動がヴェーダに許されている?

 

「ヴェーダ……私はどうしたら――」

 

 ――お前はお前だ、自分の判断で決めろ。

 

「フォン? うん……決めたわ。私は……絶対に貴方を助ける。これは私の意志……!」

 

 フォンを助けることを決意するハナヨ。

 だがコア・ファイターの損傷が激しく、ラグランジュ1にある秘密ドックに辿り着けるかどうかも分からない状態だ。

 コックピット内に響き渡る警告音を聞き、サブモニターに表示された損傷箇所を見て、ハナヨはより一層不安を感じた。

 

 そんなハナヨの不安を吹き飛ばすかのように、1隻の宇宙船が彼女の目の前で通過していた。

 

「あれは……CBS-70プトレマイオス!」

 

 プトレマイオスのEセンサーがコア・ファイターの反応を捕捉えた瞬間、ブリッジにいるクリスはスメラギに報告を上げていた。

 

「スメラギさん! 3時の方向に味方反応あり! これは……GNY-004……?」

「形式番号から察するに、あれもガンダムかしら?」

「……! ガンダムプルトーネだと⁉ 何故この宙域にいる⁉」

 

 その番号を聞いたティエリアは、驚きのあまり思わず大声を上げた。

 

「ティエリア、あの機体のことを知っているの?」

「あれは第二世代ガンダムで、ヴァーチェの前身にあたる機体だ」

 

 武力介入が始まった数年前に加入したスメラギは知らないが、ヴェーダ経由でガンダムに関する情報を知り尽くしているティエリアは知っている。

 

「光学映像、出ます!」

 

 クリスがそう報告すると、外部カメラで撮影した光学映像をメインモニターに映し出す。

 

「この戦闘機が……ガンダム?」

「不味い! あの損傷では長くは持たない! 僕が出る……!」

『エクシア、味方の救助の為に発進する』

 

 そう言ってティエリアは床から身を躍らせ、壁を蹴ってブリッジを出ようとするが、刹那はすでに一足先に出撃し、ガンダムプルトーネの救助へと向かった。

 

「刹那・F・セイエイ、頼む!」

『了解!(ガンダムでガンダムを助ける……以前、あの男がそうしたように)』

 

 

 

 

 

 一方その頃、火星と木星の中間にあるアステロイドベルト。

 大小数多の様々な小惑星が飛び交う小惑星帯にてガンダムラジエルを捜索している悠凪には収穫があった。

 

「やっと見つけた……ガンダムラジエル!」

 

 小惑星にぶつけられたのか、機体のあちこち傷だらけだが、原型は留まっている。ビサイドとの戦いでは、グラーベはGN粒子の消費を最小に抑える為、GNビームサーベルを除く全ての装備をパージした。その為、今ここにいるのは素のガンダムラジエルだ。

 

 まあ、後でテータを解析すれば、リベル・アークの技術でGNセファーを生産できるかもしれないし、5年前の戦いの真相も知ることができる。

 GNセファーはガンダムラジエル専用の支援機とされているが、実際は世代を問わず、コーン型スラスターを採用しているのなら、GNセファーとドッキングすることができる。

 

「よし、持ち帰るとするか……」

 

 私はそう呟くと、操縦桿を動かし、ラジエルを連れて小惑星帯から離脱した。

 そしてクロスゲートを開き、リベル・アークへ帰還するのだった。

 

 つづく

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