世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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今回はR-17.9要素が少し含まれています。


第20話 旅行者の居城にて(前)

 トランザムシステムの使用が可能となった一方で、回収作業を行っているプトレマイオスにイオリアのメッセージとトランザム、そして「ツインドライヴシステム」なる太陽炉の新運用法のあらゆるデータが送られてきたのだった。

 

 警戒の為に出撃していたアレルヤに帰還命令を出すと、スメラギは全員を艦内のブリーフィングルームに集合させ、緊急ブリーフィングを始める。帰還したアレルヤがブリーフィングルームに入ると、スメラギはそれらの解析図を床面のスクリーンに映し出す。

 

 ツインドライヴシステムは機体の設計と開発も間に合わない以上、必然的にトランザムシステムに注目が集まる。

 

「機体に蓄積された高濃度圧縮粒子を全面解放し、一定時間スペックの3倍に相当する出力を得るシステム。しかし、使用直後は機体性能が極端に落ちる……まさに諸刃の剣ね」

 

 スメラギは胸元で腕を組みながら、そう呟く。既にシステムの概要は把握していた。

 

「これが、オリジナルの太陽炉にのみ与えられた機能……トランザムシステム」

「まさかGNドライヴにこんなシステムが組み込まれていたとは……!」

 

 アレルヤとイアン、そしてシャルは真剣な瞳で解析図を眺める。

 このトランザムシステムはガンダムのOSに搭載していたものではなく、オリジナルの太陽炉にブラックボックスとして搭載されていたシステムだ。だが、現存のいずれのガンダムにおいても想定されていなかった装備である為、任意でのシステム解除が出来ないという欠点がある。

 

「機体の出力が通常の3倍になるとは言え、一時的なパワーアップでしかありません。それに任意解除が出来ない以上、使いところを考えないといけありませんね」

「しかし、このシステムを上手く使えば、数的な不利がひっくり返せそうだな」

 

 イアンの言葉に、3人は頷く。

 突如、通信が入ってきたことを示す断続的なアラームがブリーフィングルームに響き渡った。

 

「スメラギさん、通信が……えっ、これは⁉」

「どうしたの?」

「絢瀬悠凪さんからの通信です! 繋ぎますか?」

「クリス、すぐにメインスクリーンに出して!」

 

 スメラギの指示に頷くと、クリスは映像通信を壁面のメインスクリーンに映し出す。

 

 

 

 

 

 映し出された映像の中央には悠凪と美玖、その傍には刹那とロックオン、ティエリアとラッセ、死んだ筈の王留美と紅龍、そして悠凪に連れ去られたエイフマン教授の姿があった。しかも教授の隣には、初対面の方々が4人いる。

 

「なっ……⁉」

 

 目の前の映像に、スメラギは驚きのあまりに声が漏れた。王留美が生きていたことは予想外だったが、何よりスメラギを驚かせたのは、こんな形で自分の師であるレイフ・エイフマン教授と再会することだ。

 

「お久しぶりです、スメラギ・李・ノリエガさん」

『えっ、ええ……あの会談以来ですね、絢瀬さん。鳳凰院さんも、お久しぶりです』

 

 挨拶の言葉を述べると、美玖は微笑んでこくりと挨拶を返した。

 スクリーンから見る限り、トレミーのブリーフィングルーム内にはスメラギとアレルヤ、クリスとフェルト、そしてイアンと……銀髪の女性がいるな。

 

 その女性の顔に傷の跡があるな。

 彼女はもしやフェレシュテの創設者――シャル・アクスティカなのか⁉

 

「長い銀髪のお嬢さん、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

『初めまして、絢瀬悠凪さん。私はCBのサポート組織――フェレシュテの創設者、シャル・アクスティカです。貴方のことはミス・スメラギから聞いております。以後、お見知り置きを』

「……! こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 トレミーとフェレシュテ、本来なら出会うはずがない実行チームとサポートチームが合流していたとは、これは驚いた! この世界の歴史が、本来とは違う方向へ発展していく……このまま事を進めば、新たな並行世界が生まれるに違いない。

 

 お互いに挨拶を交わすと、本題に入る。

 先ずは、エイフマン教授と王留美の暗殺についてだ。

 

「貴方も知りたいでしょう。なぜ私がレイフ・エイフマン教授を連れ去ったのか、なぜ死んだはずの王留美が生きていたのかを……」

『その話、詳しく聞かせてください』

 

 そう言ってスメラギは小さく頷く。私は把握している情報をそのまま彼女に伝える。

 

「3機の新型ガンダム――ガンダムスローネがMSWAD基地を襲撃した理由は、GNドライヴの秘密を突き止めたレイフ・エイフマン教授の暗殺です。死なすには惜しいので、私が連れ去りました。そして、スローネのパイロットは教授の隣にいる3人で、暗殺を計画した首謀者はリニアトレイン公社のラグナ総裁と、ユニオンに所属するコーナー大使です。この2名は社会を動かす者であり、CBの監視者でもあるのです」

『そんな……! ラグナ総裁と国連大使は、王留美の暗殺にも関与していたのですか?』

 

 問いかけてきたスメラギに、私は小さく頷いて返事をする。

 

「その通りです」

 

 私が返事すると、スメラギは頷いて了解の意思を示す。

 

 実際、彼らの暗殺対象はエイフマン教授と王留美だけではなく、隼人を始めとした監視者たちも対象に含まれていた。そして美玖の誘拐も企んでいた……貴様は私の逆鱗に触れた、楽に死ねると思うな、アレハンドロ・コーナー!

 

 王留美が私の肩に手を当て、言う。

 

「ミスター・アヤセ、後はわたくしが説明いたしましょう」

 

 私が頷くと、王留美は私に軽く一礼をしてから、スメラギに現在の世界情勢と、アレハンドロ・コーナーの目的を説明する。

 

「コーナー大使の目的は、世界を牛耳ることです。その為に彼はヴェーダを乗っ取り、CBの関係者たちを無残に殺害して、奪った資産で人類史上最大規模の軍隊を作ろうとしています。人類を支配する為に……!」

 

 それを聞いたスメラギとシャルは口元を押さえ、驚きと怒りの入り混じった、複雑な表情を見せる。一方で、彼らの非道な行いに驚かされたフェルトとクリスは身体を震わせ、怯えたような表情を浮かべた。

 

『まったく胸クソ悪い連中だ……こりゃ武力介入するしかないよな! スメラギさん』

『ええ、そうね。彼らを野放しすることができないわ』

『亡くなられた仲間たちの犠牲を無駄にしない為にも、フェレシュテも全力を尽くします』

 

 イアンの言葉に、スメラギとシャルは頷いて賛同の意思を示す。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

 隼人がそう言うと、足を前に一歩踏み出す。どうやら言いたいことがあるようだ。

 それを察した王留美は小さく頷いてから、隼人の後ろへ下がる。

 

「俺の名は風間隼人。元監視者であり、こいつらの元上司でもあるんだ」

「スローネアインのガンダムマイスター、ヨハン・トリニティです」

 

 隼人が自己紹介をした後、ヨンハはそう礼儀正しく挨拶し、続いてミハエルもニヤッと笑いながら名乗り、ネーナは普通に挨拶をした。

 

「スローネツヴァイのガンダムマイスター、ミハエル・トリニティだ」

「スローネドライのガンダムマイスター、ネーナ・トリニティよ」

『みんなも若いのですね。それに名前が……』

 

 スメラギの疑問に、ヨハンは生真面目に答えます。

 

「血が繋がっています、私たちは実の兄妹です」

 

 頷いて了解の意思を示すと、スメラギは隼人に問いかける。

 

『ところで、元監視者とは一体……?』

「俺とヨハンたちも、あのクソ大使に殺されかけたんだよ。今は監視者じゃなくなっているが、少しでも長く生き伸びる為に、あのクソ大使をぶちのめす為に、悠凪と共に行動している。それと、あのクソ大使が作ろうとしている軍隊は、無人MSを主に構成される大軍勢だ」

『無人MSには、どのようなOSを搭載する予定なんですか?』

 

 確認するように問いかけてきたスメラギに、隼人はコクリと頷き返事をする。

 

「無人MSに搭載されるOSの名前は『モビルドールシステム』という。ちなみにこれを世界に公開した野郎は俺だ。このOSが搭載された1000機のヘリオンも、タクラマカン砂漠の共同軍事演習に投入されていた」

『おいおい……機械兵士による世界戦争でも始める気か⁉』

「あのクソ大使なら、やりかねないぜ」

 

 なぜ三大国家陣営が2000機にも及ぶMSを投入することができたのか、これでハッキリと分かった。しかし、ヴェーダには作業用AIだと記されていたはずだけと、MS用だったとは。情報が最初から間違っていた?

 いや、ヴェーダがハッキングされたことから考えて、情報が改竄されていたのかもしれない。

 

 真相を知ったスメラギは、マイスターたちを危険な目に遭わせた原因を作った隼人を非難しようとするが、非難した所で何も変わらない。むしろ今はお互いの情報を交換することが重要だ。そう考えたスメラギは気を取り直して、話を先に進める。

 

『監視者たちが計画を干渉していたなんて……!』

「もう一つ驚いてもらうぜ。3機のスローネはハッキングされた産物だ!」

『まさか、オリジナル太陽炉まで⁉』

「いや、ハッキングされた産物は機体だけだ。太陽炉は……実際に資料を見た方が分かりやすい」

 

 そう言って隼人はネーナからHAROを借り、中に記録されている「初期型太陽炉」の解析図をトレミーに送信する。

 

「オクッタゼ! オクッタゼ!」

「サンキュー、HARO」

 

 と、送信した資料がブリーフィングルームの壁面スクリーンに映し出された。

 

『なるほど……オリジナルがTDブランケットの使用によって半永久的にGN粒子を生成できるのに対し、こいつはそれがなく、活動時間に限界がある。言わば模造品ってことか』

「模造品と言うより、こいつは初期型太陽炉だぜ? イアンさんよ。GN粒子生成の手法として先に生まれたのはこいつだ。詳しくことはエイフマン教授が説明したほうがいいかと……」

 

 隼人が下がると、エイフマン教授は初期型太陽炉の仕組みをトレミーの面々に説明する。

 

「この初期型太陽炉は、電力を使って特殊粒子を生成する変換炉じゃ。君たちが使っているものと同じ性質を持つ粒子を生成できるが、トポロジカル・ディフェクトを利用してない為、その運用には電力を必要とする。この仕組みの動力機関は、地球圏での生産が可能じゃ!」

『つまりこいつは偽物ではなく、我々の使っているGNドライヴのプロトタイプってことか』

 

 オリジナル太陽炉と違って地球圏での生産が可能。なぜ3機のガンダムスローネが突如現れたのか、その理由が分かった。だが――。

 

『――もしこんなものが大量生産されたら……!』

 

 初期型太陽炉とそれを運用するMSが量産されたら、CBの壊滅は避けられない。

 

「初期型太陽炉を搭載した量産試作MSは、すでに生産されています。我々は太平洋上空にてその機体と遭遇・交戦し、刹那が撃墜しました」

「しかし、その機体と交戦している最中に、エクシアは奇妙な発光現象が起きていた。刹那の話によると、トランザムシステムというものが戦闘中に突如起動したのが原因らしい。イアン、何かを知っているか?」

 

 ティエリアがそう問いかけると、スメラギはトランザムシステムの解析図をこちらに送信し、イアンは刹那たちにシステムの仕組みを簡単に説明する。

 

「トランザムがあれば、俺たちのガンダムは戦える」

「ハッ、イオリアのじいさんも大層な置き土産を残してくれたもんだ」

 

 概要を把握した刹那が呟き、ロックオンが笑みを浮かべる。

 次は、ガンダムラジエルの件だな。

 

 

 

 

 

「次は……そうですね。イアンさんにお聞きしたいことがあります」

『ワシに聞きたいこと?』

「このガンダムは、CBの所有物なのでしょうか?」

 

 そう言いながら、私は性能実験施設に搬入されたガンダムラジエルの映像をメインスクリーンに映し出す。ラジエルの姿を目にした瞬間、イアンとシャルは驚きのあまり口をぽかんと開けて私を見つめた。

 

『ちょ……ラジエルだと⁉』

「アステロイドベルトで発見された機体は、ガンダムラジエルだったのか⁉」

 

 隣にいるティエリアも同じ反応を示した。

 

「ええ。しかもコックピットの中に、パイロットの亡骸がありました」

『グラーベ……!』

「それってもしかして、グラーベ・ヴィオレントのことか?」

 

 ロックオンの言葉に、ティエリアは僅かに頷く。

 

「そうだ。彼はガンダムラジエルのマイスターを務めていた」

「ロックオン、知り合いか?」

「いや、グラーベさんは俺をCBにスカウトした人物だ」

『そして、居場所のない僕をスカウトした人物でもある』

 

 この場にいるロックオンと、スクリーンの向こう側にいるアレルヤは、グラーベとの関係を明かした。本来はレベル7の機密情報だったが、ヴェーダがハッキングされた時点で、すでに機密ではなくなっている。それにラジエルがこの浮遊城にいる以上、もう隠し通すことはできない。

 

「私はガンダムラジエルとそのパイロットの亡骸を、CBに返還する用意があります」

 

 私がそう言うと、スクリーンの向こう側にいるシャルが真っ直ぐ私を見つめた。スクリーン越しでも、彼女の視線を感じる。

 

『グラーベとラジエルを見つけてくれて、本当にありがとう。ですが今は、貴方の拠点に保管してもらいたいのです。こちらの拠点の殆どが、裏切り者によって占領されています。機体が裏切り者に奪われる可能性がありますので、だから――』

「――了解しました、シャルさん。グラーベさんの亡骸とガンダムラジエルは引き続き、私の拠点で保管します」

 

 その要求を了承した後、シャルは私に向かって深々と一礼した。

 シャルの言葉から得た情報によると、CBの拠点の殆どが大使の手先に占領されていた。我々に残された時間はそう多くはない。それとMD搭載機が大量投入されることを想定して、広域殲滅能力を持つ「ミーティア」や新装備などをフォーリン・エンジェル作戦に投入することも視野に入れるべきだろう。

 

 それからティエリアがスメラギに定期報告を提出し、暫くここに滞在するとスメラギに許可を求める。スメラギはこれを快諾し、ガンダムのある程度の整備も許可してくれた。研究材料が増えたことに、エイフマン教授は大変喜んでいる。

 

 

 

 

 

 全員が退室した後、エイフマン教授はスメラギと1対1で話し合っていた。

 

「久しぶりじゃのう……クジョウ君」

『お久しぶりです、教授。まさかこんな形で貴方と再会するなんて、思ってもみませんでした』

「ワシもそうじゃ。君がCBのメンバーになっていたとは、ビリー君もきっと驚くじゃろうな」

 

 ビリーの名を聞いた途端、スメラギは僅かに顔を俯け、視線を横へ逸らした。何か言いたくない事情があるのだろう、と思ったエイフマン教授はビリーの話を棚に上げ、話題を変える。

 

「クジョウ君。君はまだ『あの事故』を気にしているのかな?」

『……はい。そのことを、今でも気にしています』

「だから君は、CBのメンバーになることを決意したのか?」

 

 エイフマン教授の言葉に、スメラギは小さく頷く。

 

 大学を卒業した後、スメラギ……リーサ・クジョウはAEU軍に参加し、戦術予報士を務めていた。しかし、とある作戦では味方同士の連絡ミスにより同士打ちとなる事故を起こして多くの死傷者を出し、彼女の恋人もこの事故で亡くしてしまった。

 この事故以来、彼女は軍務や戦術予報から退いたが、CBに勧誘された件を切っ掛けに紛争根絶を強く望むようになった。

 

『はい……CBに参加したことを、私は後悔してません。自分が選んだ道なんですから』

 

 モラリアがCBの武力介入によって降服した以降、エイフマン教授はCBが滅びの道を歩んでいると考えていた。だが、暗殺事件を経験し、その裏に隠された真相を知った今、その考えが180度変わった。

 

 CBという組織は悪ではあるが、必要悪だった。

 法律では裁けない悪を裁くには、彼らのような存在が必要不可決だ。

 

 今までの行動から察するに、CBは自分たちが世界共通の敵と認識される事により、全人類を一つにまとめようとしているのかもしれない。しかし、歪みを内包したまま統一された人類は、果たして未来があるのか? イオリアはきっと、そんな世界を望んでないはずだ。

 

 紛争根絶はイオリアの計画の一つの段階に過ぎない、真の目的は他にある。

 その目的は何なのか、この目で確かめたい。

 

「ならそれでいい。君たちの戦いの先にある未来を、ワシにも見せてくれ」

 

 スメラギがエイフマン教授に微笑みながら頷くと、通信を切るのだった。

 

 

 

 

 

 刹那たちとトリニティ3兄妹、隼人と王留美、紅龍と絹江を居住区画の屋敷に案内した後、私と美玖はあの馬鹿でかい邸宅に帰宅した。そして階段を上り、2階の寝室に入ると、美玖はベッドの上に座り、私に「おいで」と手招きをした。

 

「(美玖の膝枕を楽しみでもするか……)」

 

 そう思うと、私は大人しく美玖の膝に頭を預ける。

 誘ってきたからには、存分に味わうつもりだ。

 

「お疲れ様です、悠凪くん」

 

 労いの言葉をかけてくれながら、美玖は私の頭をそっと撫でてくれた。

 私は欲求不満なのか、美玖の膨大な質量を持つ双丘を見ると、無性に触りたくなった。

 

「いつも美玖に癒される……」

 

 疲れが取れていくのを感じる。だが、美玖を思いっきり押し倒したい気持ちが高まった。

 

「疲れてますね。それに悠凪くん、色々溜まってますよね?」

「……気付いたのか」

「いいですよ、触っても……」

 

 次の瞬間、わたしは突然起き上がった悠凪くんに押し倒され、馬乗りにされました。

 しかも、悠凪くんに左胸を鷲掴みにされました。今日の悠凪くんはいつもより強引で、わたしの胸を掴む手の温度はいつもより熱くて、ちょっとドキドキしちゃいました。

 

「はぁ……はぁ……ゆ、悠凪……くん……」

「ん? 強引は嫌なのか?」

「いいえ……ただ、急に押し倒されるなんて……思ってなくて、ビックリしました……うぅ」

 

 悠凪くんはわたしの首元のリボンを解き、制服を脱がそうとしました。

 

「……ッ⁉ ダメです!」

 

 相手は大好きな悠凪くんなのに、何故か怖く感じました。わたしは悠凪くんの手を掴み、拒絶の声を上げました。悠凪くんを拒絶したせいか、眼から涙が溢れていました。

 

「君を泣かせて、済まない……」

「キスをしてもいいですが、それ以上の行為はダメです!」

「……うん、分かった」

 

 悠凪くんがわたしの瞳から零れる涙を指で優しく拭き取ると、わたしの口を塞ぐように唇を重ねてきました。ただ唇を重ねているだけなのに、思考が真っ白になり、身体は浮いているように気持ちよかったです。

 

 2人きりの寝室で誰にも邪魔されず、わたしと悠凪くんは長い、長いキスを交わしました。

 

 悠凪くんとキス以上の行為をしたくないわけじゃないんですが……

 ただ、心の準備ができていないだけです!

 

 

 

 

 

 悠凪と美玖がイチャイチャしている一方で、城内を散歩したい隼人は地下道を通って工業区画へ移動した。

 

「まるで迷路みてえだな……えっと、ここは何処だっけ?」

 

 ファンタジー作品に登場する浮遊城だけあって、階段や部屋が迷路のように連なっている。特に変わった所はなかったが、通路の端の所にまた一つ扉があった。それを出口だと思っていた隼人は扉を押し開き、中に入る。

 

「く、果物の樹⁉」

 

 扉の先に広がるのは、果物の樹がいっぱい植えている大きな果樹園だった。目の前にある樹に近づいて観察すると、その果樹の正体は梨の樹だった。空腹感を感じた隼人は迷うことなく一番大きな梨を摘み取り、一口かじる。

 

「へー、なかなかうめぇな! あっ……早く出口を探さないと」

 

 それから隼人は格納庫への出口を探しながら、見つけた果樹から果物を取り、食べる。

 迷子になって、果物をつまみ食いした隼人には、どんな運命が待ち構えているのか?

 

 後編へ続きます。

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