世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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第22話 フォーリンエンジェルス

 地球と月の重力均衡点の一つ、地球から最も離れた位置にラグランジュ3がある。

 そこには「クルンテープ(天使宮)」という名のスペースコロニーがあった。直経1km、長さ500mの円筒形の居住区を中心として、先端部に巨大な傘のような形の太陽電池パネルを持っている。

 人が住むコロニーとしては最低限のサイズでしかなかったが、まだ宇宙開発が本格化していないこの時代においては、このサイズで十分だった。

 

 表向きは各国の企業が参画したごく普通のコロニーだが、内部の隠しドックではCBの秘密基地となっている。そしてこの基地は、ガンダムが生まれた場所でもある。

 

 フェレシュテの基地から出航したプトレマイオスはクルンテープに立ち寄り、コンテナに積載していた第二世代ガンダムとメディカルカプセルに眠っているフォン・スパークを仲間たちに預けると、L5経由で決戦の地――L1宙域に向けて航行していた。

 

 一方その頃のリベル・アークでは、全員は国連軍との決戦の準備を整っていた。

 格納庫の片隅にある大型クレーンを操作して、砲身が二つに折り畳まれていたハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーを強襲用コンテナに積載した後、ラッセはエクシアの足元に座っている刹那に声をかける。

 

「答えは出たのか、刹那」

「……わからない」

 

 ガンダムが何の為にあるのか確かめたいと、そう思って出撃した。しかし刹那は、先程の戦闘でそれを見つけ出すことは叶わなかった。

 

「だが……俺たちは、イオリア・シュヘンベルグに託された。なら、俺は俺の意志で、紛争根絶の為に戦う。ガンダムと共に」

 

 刹那がそう言うと、鋼鉄の柱に背を預けるラッセはある種の諦観を含んだ声で答える。

 

「……正直、俺は紛争根絶ができるなんて思っちゃいない」

 

 ラッセの言葉に、刹那は反論しなかった。

 

 人がいるから、争いが起こる。

 世界から争いを無くすのは簡単ではないことを、刹那も重々承知している。

 

「だがな……俺達のバカげた行いは、善きにしろ悪しきにしろ人々の心に刻まれた。今になって思う……俺達は、存在することに意義があるんじゃないかってな」

「存在する意義……」

「人間は経験した事でしか、本当の意味で理解しないということさ」

 

 ラッセの言っていることは分かる。

 人間は経験したことでしか理解できない。しかも痛みを伴っていれば、なおさら効果的だろう。

 

 確かにCBの武力介入は世界中の人々に「紛争根絶」という理念を強く心に刻みつけた。すでに多くの報道がなされ、多くの人命が失われている。

 しかし、このバカげた理念は訴えかけるだけで満足すべきものではない。実現させるこそが価値があるものなのだ。たとえそれが辛い道であっても、それでも自分はこの道を突き進む。

 

 それがあの日、空に浮かぶ「人ならざるモノ(0ガンダム)」の姿に憧れた自分の選んだ道だ。

 もはや後戻りなどはできない。そう、自分は戦い続けるしかないのだ。

 

 戦って、勝利して、その理想を実現させる。

 

「刹那、ラッセさん! 国連軍の艦隊がプトレマイオスを捕捉しました、我々も急ぎましょう!」

 

 反対側から走ってきた悠凪がそう伝えると、刹那とラッセの表情がにわかにこわばった。

 そして、すぐさま各々の乗機に乗り込んでいく。悠凪がフリーダムのコックピットに乗り込もうとするところ、後で駆けつけてきた美玖に呼び止められた。

 

「悠凪くん! 待ってください!」

「すまない、美玖。話は後にしてくれ」

 

 悠凪は振り返りもせずにそう返事を告げると、フリーダムのコックピットに乗り込み、ハッチを閉じるのだった。

 そして機体の装甲が灰色からカラフルへと変化し、格納庫の出口へと歩いていった。刹那と隼人たちのガンダムはその背中をついていくのだった。

 

「(まださよならも言ってないんです、これで別れだなんて……絶対認めません!)」

 

 国連軍との決戦の前に、美玖は悠凪と二人きりの時間を過ごしたいと願っていた。しかし、その願いは虚しく叶えられなかった。

 心からそう呟く美玖は、出撃していくガンダムたちを見送りながら、その後ろ姿を祈った。

 

 どうか無事に帰ってきて、と。

 それが、今の美玖の「たった一つの望み」である。

 

 

 

 

 

 航行中のプトレマイオスに接近する艦隊は、ユニオンのヴァージニア級宇宙輸送艦3隻。二つのMS格納庫を持つ大型輸送艦で、キャリアスペースシップとも呼ばれる船だ。

 ユニオン軍は1機のジンクスの解体、及び擬似太陽炉の解析研究の代償として、3隻を国連軍に提供したのだ。

 

 対するプトレマイオスはGN粒子を散布しつつ後退し、国連軍の艦隊との距離を保った。L5とL1宙域の境に存在する資源衛星群に身を潜ませ、虚空に浮かぶ巨大な岩石群を障壁代わりにしたのである。

 

 スメラギはテールブースター、及びGNロングバレルキャノンを装備したガンダムキュリオスに出撃の指示を出した。

 

『アレルヤ、トレミーに近づく敵機を撃墜すればいいの。深入りしすぎないように注意して』

「了解。キュリオス、アレルヤ・ハプティズム、迎撃行動に入る!」

 

 飛行形態のキュリオスが出撃した数十秒の後、戦闘が開始された。

 

「敵の数は30機……先制攻撃で数を減らす!」

 

 キュリオスのGNロングバレルキャノンによる先制の一撃が、逃げ遅れたジンクスの2機を巨大な火球に変える。今の爆発光の照り返しを受けて、トレミーに近づくジンクス部隊はターゲットを変え、キュリオスに向けて突進していった。

 

 28機になったジンクス部隊から、キュリオスに向けて、怒涛のような粒子ビームが放たれる。

 

「テールブースターで機動性は上がっている!」

 

 そう呟いたアレルヤが操縦桿を動かし、キュリオスの機体を加速させる。迫りくる粒子ビームの雨を高速機動で回避し、再びGNロングバレルキャノンを見舞った。ジンクス部隊が散開してキュリオスの砲撃を回避すると、そこでキュリオスは2門のGNビームキャノンを放つ。

 

 放たれる粒子ビームの光軸が2機のジンクスを消滅させ、射線にある岩石を一文字に貫く。反対側の表面に大穴が開き、砕かれた岩の破片と衝撃波がそこから噴き出すと、周囲のジンクスへ降りかかっていく。

 

 撃破するには至らなかったが、動きを妨害するには十分だ。

 アレルヤは操縦桿を動かし、ジンクス部隊と距離を取るように機体を後退させる。

 

「(ったく、まるで木偶人形を相手しているような感覚だぜ!)」

「ああ、規律がありすぎて人間が乗っているとは思えない……!」

 

 この時、アレルヤの内にある存在、そして自分自身も敵機の動きに違和感を覚えた。

 先程交戦していたジンクスがほぼ全機、同じ動きをしていた。砲撃の間隔、そして行動パターンもだ。あまりにも規律がありすぎて、まるで「魂のない人形」のようだった。

 

 一方、ブリッジのメインモニターを通じて戦闘を観測しているスメラギも、アレルヤと同じ見解を示した。それらの機体は全て「モビルドール」を搭載したMSだ。

 機体がガンダムと同性能とはいえ、遠距離から放ったGNビームキャノンの砲撃さえも避けられないことから、その反応速度が並みのパイロットより劣ることが窺える。

 

 キュリオスの性能とアレルヤの技量を持ってすれば、対処は容易だ。それに――。

 

「――機械が相手なら、遠慮は要らない!」

「(人形どもをバラバラにしてやれ、アレルヤ!)」

 

 穏やかさを信条としているアレルヤにとって、この類の人間だけを殺す機械は自分が罪悪感なく倒せる数少ない存在だ。

 

 キュリオスが再び岩石の陰から姿を現すと、ジンクス部隊の各機がキュリオスに目掛けて各々の火器を放つ。アレルヤは操縦桿を握ってキュリオスの機体を加速させ、迫りくる粒子ビームの狭い間隙を縫うよう飛行しながら、GNビームサブマシンガンを撃ち散らす。

 

 姿勢制御の途中に粒子ビームの光弾を浴びた1機のジンクスは文字通り蜂の巣になり、穴だらけになった機体を爆散させた。ジンクス部隊はすぐさま後退して、キュリオスの射程から離脱しようとするが、そこでキュリオスは一斉射撃を放つ。

 三つの銃口から迸った粒子ビームは真っ直ぐ3機のジンクスの胴体を突き抜き、その編隊を分断した。アレルヤはこの勢いに乗じて、ジンクス部隊に追い討ちをかける。

 

 直後、22機になったジンクス部隊は、たった1機のガンダムによって蹂躙されたのだった。

 

 

 

 

 

 プトレマイオスが身を潜んでいる資源衛星群の外では、セルゲイ・スミルノフ中佐が率いる部隊が待機していた。

 

「所詮は人工知能……ガンダムの相手にならんか」

 

 MDで構成された先遣隊が全滅させられたことを知ったセルゲイは、呆れたようにそう呟いた。

 タクラマカン砂漠の敗北を喫してもなお、MDの実戦投入を認めた国連軍の上層部に、セルゲイは疑問を禁じ得なかった。

 

 ガンダムは数だけで勝てる相手ではないことを、上も重々承知しているはず。

 それにも拘らず、プログラム通りにしか動けないMDを貴重なジンクスに搭載し、実戦に投入した。その結果、30機のジンクスがたった1機のガンダムによって撃破された。

 上の命令に異論を唱えないが、虎の子であるジンクスを犬死にさせるような行為に、セルゲイは気に食わなかった。

 MDといった人工知能より、熟練の兵士をジンクスに乗せた方がいいと、セルゲイはそう思っている。いくら機体が良くても、乗り手が性能を引き出せなければ意味はない。上の連中が理解できないかもしれないが、戦いは量より質が重要だ。

 

「先程の戦闘で、ガンダムとそのパイロットもかなり消耗しているはずだ。全機、前進せよ!」

「了解です、中佐!」

「見ててください、大佐。この機体で、必ずやガンダムを……!」

 

 セルゲイの鶴の一声と共に、29機のジンクスが一斉に動き出す。ピーリス機はセルゲイ機の傍についていく。パトリックは機体を最大加速させ、仇敵を倒すべく資源衛星群に突入していった。

 

 

 

 

 

 時を同じくして、こちらに接近するセルゲイ隊の反応を、キュリオスのEセンサーが捉えた。

 

「新手か⁉ うああぁぁっ……この感覚は、まさか⁉」

 

 アレルヤが脳を直接針で刺されたような激痛に襲われたと同時、キュリオスの機体が激しく揺動された。サブモニターの表示により、追加装備であるテールブースターに粒子ビームを被弾した事を察知する。

 

「超兵が、来る……!」

 

 頭への激痛とコックピットを走らせる振動に、アレルヤは身体を仰け反られた。キュリオスの動きが鈍った隙に、GNビームサーベルを引き抜いたピーリス機がキュリオスに肉迫していった。

 急速に接近する敵機を見て、アレルヤは被弾したテールブースター、及び左手に装備されたGNロングバレルキャノンを分離し、MS形態に変形させてGNビームサーベルで受け止めた。

 二振りの粒子束が斬り結ばれた瞬間、分離したテールブースターが一瞬膨張し、火球に転じた。

 

『見つけたぞ、被験体E-57!』

「……ソーマ・ピーリスか……!」

 

 アレルヤは接触回線から自分の同類――ソーマ・ピーリスの声が聞こえてきた。

 ピーリス機と剣を交えていたそこに、傍らから2機のジンクスによる粒子ビーム砲撃を受けた。

 

『タイミングを合わせてくれ、ハワード!』

『了解だ、ダリル!』

 

 その2機は、ハワード・メイスンとダリル・ダッジの駆るジンクスだった。2機から放つ熱線の乱打を受け、キュリオスは錐揉み状態に陥った。

 

『今だ野郎ども! やっちまいな!』

 

 そんな状態で流されていくキュリオスに、パトリック機を含め12機のジンクスが大挙して粒子ビームを浴びせかけ、ピーリス機がGNビームサーベルを振り上げて斬りかかる。

 

『落ちろぉ! ガンダム!』

「クッ……やられる!」

 

 動きが制限された今の状況では、その光刃の間合いから逃れることはできない。何処か確実に斬られる。損傷箇所によっては戦闘不能に陥ってしまう可能性もある。

 急加速で己の間合いに入ったピーリス機がGNビームサーベルを振り下ろす――が、その剣先は虚空を切った。

 

『なっ、消えた⁉』

 

 勢い余った機体に急制動をかけたピーリスは戸惑い、絶句した。目の前にいるキュリオスの機体が突如、消えていた。まるで最初から、そこにいなかったかのように。

 

 否、消えたのではない。

 アレルヤは使ったのだ、オリジナル太陽炉のみに与えられた機能――トランザムシステムを。

 

「何とか躱したけど、次は受け切るしかなさそうだ……!」

 

 キュリオスのコックピットで、アレルヤは額を抑えながら、顔を顰めてそう呟く。

 危機を脱したとはいえ、咄嗟にトランザムシステムを使ってしまった。しかし、この機能は諸刃の剣だ。機体のGNコンデンサーに蓄積された高濃度圧縮粒子が尽きるまで、どう対処するか決めなければならなかった。

 

 頭を苦しめる激痛は未だに続いている。しかし、ここで引くわけにはいかない。

 刹那たちが戻ってくるまでの間、持ち堪えなければならないのだ。そう思ったアレルヤは機首を翻して攻勢に出る。

 すると、ふいに痛みが消え、視界と思考がクリアに澄み渡る。

 

「ず、頭痛か……」

「(脳量子波は俺が遮断しておいてやったぜ!)」

 

 疑問を口にするアレルヤに、自分の内にある存在――ハレルヤが答える。

 直後、ハレルヤは凶暴な言葉でアレルヤを鼓舞した。

 

「(ブチ殺せよ、アレルヤ!)」

 

 どのような方法で痛みを引かせたのかは分からないが、これでジンクス部隊と対等に戦える。

 いや、トランザムシステムが発動している分、こちらにアドバンテージがある。そう考えたアレルヤは操縦桿を握り締め、ジンクス部隊に挑みかかった。

 

『各機、陣形を維持しつつ一斉射!』

 

 全身を赤色に発光させたキュリオスを捕捉したセルゲイが隊員に攻撃命令を送ると、自機を含め29機のジンクスから放つ粒子ビームの豪雨が、キュリオスに降りかかる。しかし、見る者の目に残像を映すほどのスピードで飛行しているそれを命中することはできない。

 

「この機動性なら、一気に……!」

 

 紅蓮に染まったキュリオスの機体が宙を舞うような軽快さで交差する光条の間をすり抜け、応射したGNサブマシンガンが次々と敵機に着弾の炎を上げていく。トランザムシステムの影響で武器の威力が大幅に向上していた為、放たれた光弾は敵機の四肢を穿ち、その戦闘能力を確実に削り取っていった。

 

 それはGNビームサーベルを引き抜いて、挑みかかってくるピーリス機に対しても同じだった。

 GNビームサブマシンガンの光弾がピーリス機の右脚を損傷し、彼女の援護に入ったもう1機のジンクスの胴体を撃ち抜き、膨張する火球に姿を変える。

 再びピーリス機に狙いをつけると、GNビームサーベルを構えたセルゲイ機が背後から肉迫してきた。

 

『これ以上はやらせんぞ、ガンダム!』

「……背後から⁉」

 

 接近する敵機を察知したアレルヤは背後に機体を捻らせ、GNビームサブマシンガンを撃ち散らす――が、振り向きざまの銃撃が全て回避され、振るわれた光刃に銃身を両断されてしまう。

 

「なっ、サブマシンガンが……!」

 

 咄嗟の判断で機体を後退させると、アレルヤは虚空を漂う長砲身の銃に目をやった。

 それは、先程の戦闘でパージしていたGNロングバレルキャノンだった。

 

 鉄くずとなったGNビームサブマシンガンを捨てると、アレルヤはぐっと操縦桿を握り締め、虚空を漂う長銃をさっと掴み取り、振り向きざまにセルゲイ機に狙いを定める。

 

 キュリオスの高濃度圧縮粒子残量を示すゲージが既に点滅し始めていた。撃てるのは一発のみ。

 そう、この一発で勝負を決めるしかないのだ。

 

「一発勝負だ、行けぇ!」

 

 アレルヤの叫び声と共に、キュリオスの右腕がGNロングバレルキャノンのトリガーを引いた。

 粒子ビームの光芒がセルゲイ機の左腕を破砕し、飛散した高エネルギー粒子はセルゲイ機の装甲を穴だらけにしていった。

 

 残り僅かの高濃度圧縮粒子を込めた一撃を以てしても、目の前の敵機を倒しきれなかった。

 その後、トランザムの限界時間を迎えたキュリオスに、ジンクス部隊が取り囲み、各々の火器を向けていた。

 しかし、追い詰められたアレルヤの危機を救うかのように、一筋の光柱が無音の闇を切り裂いて疾走し、ジンクス部隊を半壊させた。

 

 

 

 

 

 悠凪一行がクロスゲートを通り抜け、戦闘宙域の外に到着すると、フリーダムは強襲用コンテナに積載していたハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーを取り出し、持ち構える。

 キュリオスの周囲を取り囲んでいるジンクス部隊に照準を定めると、悠凪はエネルギーの充填を開始させる。そして砲身内部のエネルギーが100%に達したその瞬間――。

 

「――エネルギー充填100%……ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャー、発射!」

 

 悠凪の言葉と共に、砲口から石竹色の光柱が放たれる。ガンダムヴァーチェのバーストモードを彷彿させる凄まじい閃光がジンクス部隊に殺到する。

 セルゲイが即座に回避の指示を出すものの、それでも12のジンクスが回避に間に合わず、光柱に飲み込まれて宇宙の塵と化した。その威力にひやっとされた一般兵が逃げ惑い、部隊が総崩れになってしまった。

 

『まだ、ガンダムにしてやられたか……全機、撤退しろ! 急げ!』

 

 撃ったのは例のデカブツか、それとも別のガンダムか、考える余裕はなかった。

 このまま戦っては、こちらがガンダムに全滅させられるに違いない。これ以上の戦闘行為は兵を無駄死にさせることだと判断したセルゲイは、部隊に撤退の命令を下した。

 

『クソ! 覚えてろよ、ガンダム!』

 

 パトリックが捨て台詞を吐き捨てると機体の向きを変え、本隊と共に撤退していった。

 安堵したアレルヤが遠ざかっていく敵部隊の背を見送っていると、ビームの光柱が飛来した方向から、エクシアらしき機影が近づいてきた。

 

「アレルヤ、無事か?」

「僕は大丈夫だ、刹那。ところで、このエクシア一体……?」

「異世界の技術を取り入れた、俺のガンダムだ」

 

 疑問を口にするアレルヤに、刹那が答える。

 同時にアレルヤはコックピットのメインスクリーンから、GNアーマーTYPE-Dとガンダムナドレ、緑色の粒子を放つ4機のスローネと強襲用コンテナ、そして長砲身のビームランチャーを携えたフリーダムガンダムを視認した。

 仲間たちが新しい力と共に帰還し、さらにこの上なく最高の援軍も来てくれた。この戦い負ける気がしないと、アレルヤは心からそう思った。

 

「僕は一旦トレミーに帰還する。イアン、予備の追加装甲は?」

『もう用意している、早く来な』

 

 通信ウィンドウに映し出されたイアンがそう返事すると、ナドレは追加装甲を装着すべく、一旦プトレマイオスに帰還した。フリーダムは長砲身のビームランチャーをプトレマイオスに預けた。

 一方、艦を護衛するキュリオスと3機のスローネが飛び回り、資源衛星群の周辺宙域を哨戒していた。

 

「ヨハン、トレミーの護衛はお前たちに任せる。国連軍の部隊は俺と悠凪が叩く!」

「なら、俺とロックオンも行こう。スメラギ・李・ノリエガ、問題はないな?」

『問題ないわ。敵部隊への対処は、貴方たちに任せるわ』

 

 刹那の提案に、スメラギが頷いて同意の意思を示す。

 すると、刹那とロックオンはフリーダムとスローネフィーアの背中を追い、国連軍を掃討すべく機体を飛翔させた。

 

 

 

 

 

 国連軍の増援部隊が待機している宙域付近では、1人の紳士が己の乗機の左肩に立ち、醜い争いを高みの見物をしていた。

 

 頭頂高7.5m、全長7.8mの機体には黒と紫が混ざり合ったカラーで塗装されており、頭部にはⅤ字ブレードアンテナやツインアイなど、ガンダムを彷彿とさせるデザインがなされている。さらに背中には六枚羽の黒い翼を備えている。

 そしてこの機体は、その肩に立っている長い金髪の紳士しか座れない至高の玉座でもある。紳士はとある事故で超常的な力を獲得してしまい、宇宙服なしでも真空の宇宙空間を活動できるようになった。

 

 その軽蔑の眼差しで見つめるものは、軍勢の中心に浮かぶ黄金の巨体と、それを囲むよう陣形を組む12機の黒いガンダム、そして100機以上の雑兵。これらの機体は全て、嘗ての盟友であるイオリア・シュヘンベルグが発明した半永久機関を組み込んだ兵器だ。

 

「イオリア、確かに君は天才だ。だが私から見れば、君は人を信じ過ぎている、ただの愚か者だ。君の真意を理解できない人類は、君の発明を争いに使った……実に可笑しい光景だよ。嘗ての盟友として、君に代わってこの世界の終焉を見届けてあげよう」

 

 嘗ての盟友を嘲笑うかのように、紳士はそう呟いた。

 

 つづく

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