世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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ユニコーンガンダム ペルフェクティビリティ
RX-0

全高:19.7m
重量:53.4t
装甲材質:超抗力ガンダリウム合金
動力源:超小型縮退炉×2
推進機関:ネオ・ドライブ

搭乗者:ユウ・シラカワ(白河悠)

▼武装
60mm近接防御機関砲×2
ビーム・サーベル×4
ビーム・マグナム(+リボルビング・ランチャー)×1
アームド・アーマーHJ×1
アームド・アーマーBS×1
アームド・アーマーVN×1
アームド・アーマーDE(+テール・スタビライザー)×2

▼特殊機能
NT-D「ニュータイプ・ドライブ」
La+「ラプラスデモンタイプ・コンピューター」
インテンション・オートマチック・システム(IAS)
次元転移システム「クロスゲート」
歪曲フィールド

▼特殊装備
アームド・アーマーXCⅡ

 本来とは違う歴史を歩んでいる宇宙世紀に、日本海からサルベージされた「蒼き魔神」の残骸をユーゼス・ゴッツォ博士が解析し、設計段階の本機をベースに「蒼き魔神」及び本人の虚憶で覚えている因縁深い存在「風を宿し魔装の神」のデータを流用して基礎設計に手を加え、アナハイム社がそのデータを基に建造した単機で戦場を支配できる究極のモビルスーツ。
 同型機は2機が建造されており、本機はその1号機である。
 後に2機のデータを流用し、地球連邦軍が独自に建造した3号機も存在する。

 動力は従来のモビルスーツが採用したミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉ではなく、「蒼き魔神」が搭載されている縮退炉を基に改良・小型化した「超小型縮退炉」である。小型化したにも拘わらず、ベースと同等のスペックを有している。
 ユニコーンガンダムは2基を搭載し、それを並列で稼働させることから素手でモビルアーマーの分厚い装甲やコロニー外壁を叩き壊せる程のパワーが発揮できる。
 さらに縮退炉から生み出す莫大なエネルギーはビーム兵器の火力を底上げしており、ハイパー・メガ・ランチャーなどジェネレーター直結式のビーム兵器では銃身が持つ限り最大出力で連射することが可能になっている。

 縮退炉から生み出すエネルギーを推進力に変換する推進機関「ネオ・ドライブ」を搭載したことにより、従来のモビルスーツと違い推進剤の充填が不要となる。
 さらに従来のモビルスーツができなかった変形・オプション無しでの単独飛行は、この推進機関を搭載したことにより実現している。

 駆動内骨格であるムーバブルフレームを全てサイコフレームで構成した「フル・サイコフレーム構造」を採用しており、従来のモビルスーツを遥かに凌ぐ追従性を獲得している。
 装甲に使われている「超抗力ガンダリウム合金」は素粒子レベルから強化された装甲材であり、ドゴス・ギア級の主砲の直撃さえも耐える程の強度を有している。
 シールドに内蔵された「歪曲フィールド」と合わせることで鉄壁の防御力を発揮する。

 搭載された「La+」はパイロットの感応波次第で全ての因果律を計算し、ありとあらゆる事象を予測することができる。追加装備であるアームド・アーマーXCⅡと連動させることでより精確な事象予測を行うことが可能。
 さらに1号機には、ユーゼスの意向により開発中の「クロスゲート・パラダイム・システム」の次元転移機能が密かに搭載されている。

 元々サイコフレームの発光色は赤。後にパイロットの影響を受けて発光色は青に変化した。その世界に行われた人類同士の最後の戦いでは、用意された増加サイコフレーム兵装であるアームド・アーマーを全て装備しているこの姿で出撃し、ネオ・ジオンの総帥であるフル・フロンタル大佐と和解を果たし、連邦軍の主戦派を単機で殲滅して1人の少女を救い出した。

 その後はユーゼスの駆るオリジナルのジュデッカと諸共に()()()()に飛ばされ、ほとんどの武装を失いながらもアームド・アーマーVNで突撃し、ジュデッカに修復不可能な致命傷を負わせた。
 激戦の末、意識を取り戻したユーゼスにより、本機に密かに搭載された次元転移システムが起動され、元の世界への帰還を果たした。

 帰還後、本機は修復され、新生地球連邦政府及び軍上層部の許可を得て邸宅の地下シェルターに封印された。
 2年後の宇宙世紀0099年、主戦派の残党による大規模デロに際して、ユウ・シラカワの手で封印は解かれ、4機の量産型ジュデッカを含む、総数200機で構成された大軍勢を一蹴し、その圧倒的な戦闘能力を世に知らしめた。

 それから半年後、ユウ・シラカワは並行世界に迷い込んだ量産型ジュデッカの存在を知った。
 これらの全機を破壊する為に、可能性の獣は主と共に数多の並行世界を駆け抜けて行った。


第24話 完壁を為す蒼き一角獣(前)

 宇宙世紀0097年。

 連邦政府を覆す程の力を持つ「ラプラスの箱」を巡る第三次ネオ・ジオン抗争が終結した1年。

 連邦改革派、及びミネバ・ザビの率いる穏健派の働きかけにより、ジオン共和国はネオ・ジオンに改名し、サイド3に新政権を樹立する。

 

 ネオ・ジオン初代首相――フル・フロンタル大佐。

 その傍にはザビ家の遺児――ミネバ・ザビの姿があった。

 

 3年後、宇宙世紀0100年。

 お互い平和条約を締結した地球連邦政府、並びにネオ・ジオンは「戦乱の消滅」を宣言する。

 一年戦争以後に起きたジオン残党を中心とした戦乱、そしてティターンズ(主戦派)残党によって引き起こされた反乱も終息し、地球圏に真の平和が訪れた。

 

 だが、長年に渡る宇宙と地球の戦争に終止符を打った英雄は、未だに戦い続けている。

 

「頭を撃っても死なないか……最初は半信半疑だったが、まさか本当だったとはな!」

「これで理解しただろう、ユウ・シラカワ(白河悠)准将。君では私に勝てんよ」

 

 横倒れの死体が消え、眉間を撃ち抜かれたはずの紳士が復活し、ユウの背後に回り込んだ。

 それに反応したユウは振り向きさまに拳銃を向ける。

 

「じきに大いなる戦争が起こる。赤い彗星の出来損ないが、黄金の不死鳥を求めるべく動き出す。地球が壊されないように、精々気を付けることだな。フフフッ……」

「待て、エンブリヲ!」

「私はとある盟友が住んでいた世界の破滅を見届けないといけないのでね。よって今は、君と事を構えるつもりはない。近いうちにまた会おう、准将閣下」

 

 そう言い残して、長い金髪の紳士――エンブリヲの身体が透明となって、消えていった。

 ニュータイプとしての直感が、時空の枠を超越しているこの男は危険だと知らせている。そしてエンブリヲと遭遇した翌日、ユウは准将権限で地球圏全域に指名手配令を発布し、ロンド・ベル隊旗艦――ラー・カイラムにエンブリヲを追跡するように派遣した。

 

「(エンブリヲの言う『黄金の不死鳥』は恐らく6年前の暴走事故で行方不明となったフェネクスだろう。しかし『赤い彗星の出来損ない』とは誰を指す言葉なのか?)」

 

 フル・フロンタルが地球連邦政府に宣戦布告する理由は、もうないんだ。例えフェネクスの存在を知ったとしても、捕獲しようなどの行動に出る可能性は非常に低いはず。

 もしフル・フロンタルがそのような行動に出たら、ミネバ姫は全力で阻止にかかるだろう。

 

 その「赤い彗星の出来損ない」とやらは、別人かもしれない。

 でも、もし本当にそうだとしたら、()()()に似せて作り上げられた強化人間はフル・フロンタルだけではない、ということになる。

 

 この推測を確かめるには、もう一度モナハン・バハロ元外務大臣の背景を調べる必要がある。

 

 

 

 

 

 ラー・カイラムを派遣した翌日。

 

 日本静岡県の西部には、淡水と海水が入り交じっている鹹湖――浜名湖がある。

 そして湖の北側に位置する丘では、一軒の白亜の邸宅があった。この邸宅はユウの婚約者であるミク・ホウオウイン(鳳凰院美玖)の両親が所有するもので、ユウは戦いで疲弊した心身を癒す為に、0097年から3年間、この邸宅にミクと同棲生活を送っていた。

 

「お兄ちゃん、紅茶をどうぞ」

「……ありがとう」

 

 ソファーで寝落ちしたユウを呼び覚ましたのは、出来立ての紅茶を運んできたミクだった。

 怠そうな声で礼を言うと、ユウはミクから受け取った温かい紅茶に口をつける。ミクが微笑みを返すと、テーブルの上に散らばっている本の一冊を手に取り、本棚に戻す。

 全部片付けるまで、これを数十回繰り返していた。ほぼ毎日こんなことをしているので、もはや日課と言っても過言ではない。

 愚痴をこぼしてもおかしくな状況だが、ミクは敢えてそうしなかった。何故なら、ミクはユウが疲弊していることを知っているからだ。そして、ユウの心身を癒せるのは自分しかいない。

 

 ユウが飲み干した紅茶のカップをテーブルに戻すと、本の片付けを終えたミクはソファーに腰を下し、ユウの傍に付き添うように身体を寄せた。

 すると、ユウはミクを抱き寄せるように背中に腕を回す。そして指先を走らせ、その華奢な腰に触れる。制服越しでも伝わる温かい感触に、直接触れたらどんな感触なのだろう、と想像する。

 

「お兄ちゃんがそう望むなら、もっと触ってもいいですよ」

 

 その意図を察したミクはやや照れたような、恥かしいような表情を浮かべながら言った。

 

「(据え膳食わぬは男の恥)では、そうさせてもらう……」

 

 ミクの言葉に焚きつけられたユウはその美麗な太ももに手を這わし、さらに内腿へと手を回す。

 同じ人間とは思えない柔らかな感触。すべすべした肌。自分の知るもの、そして持っているものとは明らかに違う感触だった。

 

「ひゃっ! あぅ、そこは……」

「ほう、いい反応だ。ミクは内腿が性感帯のようだな。次は、耳にしよう」

 

 恥ずかしさで顔を真っ赤に染めて悶える姿が、とっても色っぽくて可愛らしい。艶めかしい矯声を上げるミクに、ユウはその耳たぶに温かい吐息を吹きかける。

 すると、ミクは「ひゃあっ⁉」と悲鳴を上げ、身体がピクリと跳ねた。そのあまりの愛しさに我慢できなくなったユウは、背中から回した手を内腿から豊満な胸へと移動させ、鷲掴みにしようとする――が、そこに映像通信が入ったことを示すビープ音が、部屋中に響いた。

 

 いいところなのに、一体誰からの通信だ? と少々不機嫌な表情をしたユウだったが、着信者の名前を見た瞬間、その不機嫌な表情は真顔へと変わっていった。

 

「ローナン議員からの映像通信⁉」

 

 それは、地球連邦政府中央議会議員――ローナン・マーセナスからの映像通信だった。

 普段、こちらに定期連絡してくる人物はローナン議員の息子であり、私人秘書でもあるリディ・マーセナスだ。ローナン議員ご本人から直々に連絡してくる状況は滅多になかった。

 

 これは恐らく、緊急案件だろう。

 ミクを解放したユウが受信ボタンを押すと、PCのモニターにローナンの顔が映し出された。

 ユウは即座にヘッドフォンを耳にかける。

 

『こんにちは、シラカワ准将』

「ローナン議員から直々にご連絡をいただけるとは……何か緊急の案件ですか?」

『ええ、准将のお察しの通りです。観測班から、並行世界に迷い込んだ量産型ジュデッカの反応を捕捉したと報告がありました。先ずは、次元観測システムからの観測データをご覧ください』

 

 ローナンがそう言うと、モニターに座標を意味する数字の羅列と、蛇のような巨大MAが映った映像が表示された。それらに一通り目を通した後、ユウは映像に映った機体が、間違いなく量産型ジュデッカであることを確信した。

 それ以外に、緑色の粒子を噴出する、ガンダムらしき機影が映った映像が幾つもあった。量産型ジュデッカが迷い込んだ並行世界にもMS……ガンダムが存在している、と考えていいだろう。

 

『ドクター・エンブリヲの追跡は、ノア大佐やバウアー氏らにお任せください。シラカワ准将には量産型ジュデッカの対処を頼みたい。あのような魔物を、これ以上野放しには出来ませぬ!』

「ええ、承知しております。直ちにユニコーンガンダムで出撃します」

 

 ユウがそう返事すると、ローナンが頷いてから通信を閉じるのだった。

 

「……お出かけですか?」

「ああ、探していたものがようやく見つかった」

 

 ソファーに横たわったミクが問いかけると、既に支度をしていたユウは振り向き様に答えた。

 

「探していたものって……もしかして、コッツオ博士が作り出した『黒蛇』ですか?」

「そうだ……君に教えてないのに、どうして分かるんだ?」

「お兄ちゃんのことなら、ミクにはなんでもお見通しなんですから!」

 

 そう言ってミクはソファーから腰を上げ、華奢な腕を伸ばして、ユウを強く抱きしめた。

 そして優しく唇を押しつけながら、ミクは囁く。

 

「――お早いお帰りを」

「うん、行ってくるよ」

 

 ユウが返事すると、微笑みを見せるミクは静かに顔を寄せ、ユウの唇に自分の唇を重ねた。

 それから数秒後、ミクは密着していた身体を離し、ユウは部屋を出ていくのだった。テーブルの方へ振り向くと、ミクはテーブルの下に一冊の本が落ちていたことに気付いた。

 

「あら、こんな所に本が落ちていたなんて……」

 

 そう呟いながら、ミクは床に落ちていた本を拾い上げる。

 タイトルから察するに、この本は並行世界を題材にしたSF小説のようだ。

 物語の梗概は、並行世界に迷い込んだ主人公が、自分とそっくりの顔を持ったもう一人の自分と出会い、時に対立し、時に共闘する物語だった。

 

 多元宇宙論。

 元々は複数の宇宙の存在を仮定した、物理学による仮説だった。だが、ユーゼス・ゴッツォ博士がクロスゲートを作り出したことによって、この仮説は現実となった。

 今は並行世界を観測する為の装置のプロトタイプが建造され、地球連邦軍により試験運用されている。宇宙世紀が始まって一世紀が経過したこの時、人類は並行世界を巡る宇宙大航海時代の幕を開けようとしているのだ。

 

 だが、並行世界の同一人物は、果たして皆が同じ容姿や能力を持っているのか?

 

「もし別の世界にもわたしの同一人物が存在していたら……彼女はどのような姿をしているのか、どのような生活を送っているのかしら?」

 

 疑問を口にするミクは再びソファーに腰を下ろし、空の紅茶カップに温かい紅茶を注ぐ。

 紅茶にマドレーヌを浸して、口に含んだ。そして拾い上げた本を開いて、読み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 ヒクサー・フェルミの率いる黒いガンダム部隊との戦闘は、未だに続いている。

 

 隼人はGNバスターソードを両手で構えたフィーアを突進させて、ヒクサーの駆るブラックプルトーネに斬りかかる。だが、フィーアの挙動を察知したヒクサーは、GNバスターソードの刃先が到達する直前に機体を後退させ、致命の一撃を回避した。

 それと入れ替わりで3機のブラックサダルスードから放つリボルバーバズーカの弾が、フィーアに降りかかっていった。迫りくる弾を剣身で受け止めながら、隼人は3機のブラックサダルスードへターゲットを変える。

 

「くっ……許せ!」

 

 急加速で間合いを詰めたフィーアはGNバスターソードを振り上げ、正面にいる1機のブラックサダルスードを唐竹割りで斬り裂いた。すると、爆発寸前の機体からの通信が入ってきた。

 

『アリガトウ……』

 

 隼人は彼らを救いたい気持ちはあるが、今の状況は隼人にそれを許してはくれなかった。そんな彼らを救う方法は、機体を撃墜するしかなかった。

 3人の遺伝子を元に作り出されたクローン体とはいえ、殺したことに罪悪感を感じた。身勝手な理由で悠凪を手にかけた時と同じだった。

 その上、命を奪ったのに礼を言われて、自己嫌悪の気持ちが益々大きくなっていた。

 

「……この後味の悪さと不愉快さは、なんなんだ⁉」

 

 負の感情に支配されて、心が壊れ始めていた隼人は、無意識に操縦桿を手放してしまった。

 フィーアが動きを止まった隙に、別方向にいる2機のブラックアストレアがプロトGNソードで斬りかかる――が、そこにロックオンがGNキャノンのトリガーを引いた。

 極大の粒子ビームが宇宙空間に2本の線を描き、それに飲みこまれた2機のブラックアストレアが大熱量に溶解して爆発を起こした。

 

「何をぽっとしているんだ、隼人!」

「ロックオンか……す、済まない」

 

 ロックオンの呼びかけにより、我に返った隼人は即座に操縦桿を動かして機体を後退させる。

 すると、2機のコックピットに、ヒクサーの声が響いた。

 

『彼らを手にかけた感想はどうだい? ハヤト・カザマ、そしてニール・ディランディ』

「よく喋る野郎だ……気分最悪に決まってんだろうか!」

「人の命や感情を弄びやがって……!」

 

 このヒクサーって野郎はある意味、アリー・アル・サーシェス以下の最低野郎だ。生命の重さと尊さを分かっていない。そんなヒクサーの言動に、隼人は苛立ち、怒りの声で問いかける。

 

「――テメェの血は何色だーッ⁉」

 

 そしてフィーアを全速力で突進させ、GNバスターソードを振り上げて斬りかかる。

 

『愚問だね。赤に決まってるだろう』

 

 隼人の問いかけに、ヒクサーは醜悪な笑みを浮かべながら答えた。そしてGNビームライフルの照準を接近してくるフィーアに絞り、トリガーを引く。

 フィーアは軽やかな動きでそれを回避した。その回避した先に銃口を向けてGNビームライフルを連射したものの、尽くGNバスターソードによって阻まれ、機体にダメージを与えられない。

 

『接近戦になるか……ならば!』

 

 射撃武器では意味をなさないと判断したヒクサーが、左手にGNビームサーベルを抜かせると、迫ってくるフィーアに挑みかかった。フィーアはGNバスターソードを両手で振るって、粒子束を跳ね返す。その勢いに負け、GNビームサーベルがブラックプルトーネの左手から弾かれた。

 

「おらあっ!」

『くっ……人間の分際で!』

 

 返す刀で襲いかかる斬撃は左腕のGNシールドで受け止めたが、フィーアは強引にGNバスターソードを振り回してGNシールドごとブラックプルトーネの左腕を切断する。

 その動きは、明らかに先程と比べて鋭くなっていた。何故イノベイターである自分が、高が人間如きに追い詰められるのか。しかし驚く間もなく、体勢を崩したブラックプルトーネの顔面にGNバスターソードの切っ先が迫る。

 

 イノベイターである僕が、下等な人類に押されてるだと⁉

 バカな……こんな、こんなことがあってたまるか!

 

『人間如きに……やられてたまるか!』

 

 ヒクサーは機体を傾けて回避しようとするが、その行動よりもフィーアのGNバスターソードの切っ先が届く方が早い。頭部を貫かれたブラックプルトーネは小さな爆発を起こし、それに慌てたヒクサーは即座に機体を後退させ、フィーアの間合いから離れる。

 

「首置いてけやおらぁ!」

 

 隼人の怒鳴り声と共に、フィーアはブラックプルトーネに向けて速度を上げる。

 しかしそこで、もう1機のブラックプルトーネが両者の間に割り込み、ヒクサー機を庇うように身を挺し、その貧弱な機体でGNバスターソードの重い一撃を受け止めた。一瞬の後、真っ二つに斬り裂かれた機体が盛大な爆炎を上げ、無惨な残骸と化した。

 

『2人目のグラーベちゃんも壊れちゃったか』

「……なに⁉」

 

 そして、隼人はフィーアの間合いから離れたヒクサー機からの通信で衝撃な事実を知った。

 刹那が撃墜した最初の1機も、自分が撃墜したブラックプルトーネも、グラーベ・ヴィオレントのクローンが搭乗していたのだ。

 剣を振るった瞬間の僅かな硬直を狙ったかのように、2機のブラックサダルスードがリボルバーバズーカを放ち、別方向にいる2機のブラックアブルホールが両翼のミサイルポッドに積載されたGNミサイルを全弾撃ち出す。

 だが、それらを見切った隼人は砲撃が命中する前に、すでにそこから遠ざかっていき、両腰のスカートから四つの牙を射出させた。

 

「行けっ、ファングゥ!」

 

 俺が指定したターゲットは、ブラックサダルスードとブラックアブルホールだ。

 彼らを殺したくないけど、俺に声をかけてくれたあのネーナが安らかに眠れる為に、そして彼らがこれ以上あの野郎の言いなりにならない為に、最後までやり遂げねばならないのだ!

 もちろん狙うのはコックピットだ、せめて苦しまずに沈めてあげる……!

 

 無軌道に飛び回る四つの牙が其々4機の死角に回り込み、そのままの勢いで特攻を仕掛ける。

 そして、見事に4機のコックピットハッチを抉り、先端部のビームサーベルがコックピットから太陽炉まで貫いた。太陽炉を貫かれた4機が爆炎を上げ、彼らの肉体と意識が灼熱の炎の中で焼き尽くされた。

 

 この時、フィーアのGNファングの残弾数が0となり、悠凪が用意した特別製のGNビームライフルが唯一の射撃武器となった。

 虚空を照らす四つの火球を目撃したヒクサーが驚きつつも、隼人の行動に称賛の声を上げる。

 

『あっはははっ! 思い切りがいいね、ハヤト・カザマ』

「俺がどんな思いで彼らを手にかけたか、気にもしないくせに!」

「野郎……俺たちをコケにしやがって!」

 

 称賛と言うよりも、煽りや挑発と言った方が正しいかもしれない。

 その減らず口を、すぐに黙らせてやる!

 

 フィーアがGNビームライフルを連射し、GNアーマーTYPE-Dは別方向からブラックプルトーネに接近する。ロックオンがフィーアの粒子ビームを躱したブラックプルトーネにGNツインライフルの照準を合わせると、オレンジハロが「敵機接近!」と甲高い電子音を上げ、敵機が接近していることをロックオンに知らせる。

 

「……最後のブラックアストレアか!」

 

 速度を上げて猛接近してくるブラックアストレアに、ロックオンは機体の足を固定するユニットの爪先に装備されたGNクローを展開させ、ブラックアストレアの機体を拘束する。

 機体が拘束され、動きを制限されたブラックアストレアはほぼゼロ距離でGNビームライフルを撃ち、デュナメスはフロントアーマーに内蔵されたGNミサイルを斉射し、ブラックアストレアの機体に突き刺さる。

 

 爆発による衝撃は凄まじかった。GNフルシールドの表面装甲だけを破損したデュナメスに対して、ブラックアストレアは頭部と両腕を失い、機能不全に陥ってしまった。

 ヘルメットを叩きつけられ、バイザーが砕ける。ミハエル・トリニティのクローンが額に受けた鋭い痛みと飛び散る赤い液体の粒から流血を知った。それでも、辛うじて意識を保ったミハエルはデュナメスに通信を送った。

 

『オレヲ……コロシテクレ、タノム』

「辛かっただろうな、お前たち……」

 

 左手にGNビームピストルを抜かせると、そう呟いたロックオンはブラックアストレアのコックピットに照準を定める――が、ロックオンがトリガーにかけた指を引こうとしたその瞬間、異変が起きた。

 

「……な、何の光⁉」

 

 動けなくなったブラックアストレアの機体が突如、爆発した。爆発の振動がデュナメスのコックピットを揺らし、スクリーンを照らした爆発光がロックオンの視界を灼いた。

 サブモニターの表示により、デュナメスもGNアームズも大した損傷はなかったが、対する爆発したブラックアストレアの機体は、無惨な残骸と化していた。

 

「俺はまだ撃ってないぞ……?」

 

 妙だな……あの損傷では爆発しないはずだが、なぜ急に爆発するんだ?

 

 まさか、自爆?

 本人の意志で機体を自爆させたのか、それとも誰かの手によって自爆させられたのか?

 

 そしてロックオンの抱いた疑問は、フィーアのGNバスターソードに右脚を切断されたブラックプルトーネの通信で氷解した。

 

「あの爆発はまさか⁉」

『最後のアストレアを遠隔操作で自爆させたんだ。これでロックオン……ニール・ディランディは死んだ。次は君の番だよ、ハヤト・カザマ』

 

 そういうことか……とんでもないクソ野郎だな、こいつは!

 にしても俺とデュナメスも随分と甘く見られていたもんだな。MSの自爆で倒せる程、ガンダムは脆くねえぞ!

 

 メインモニターに映るGNバスターソードを振り上げて猛接近するフィーアを見て、ヒクサーはGNビームライフルを撃ちながらフィーアとの距離を取る。だが、フィーアは大きく機体を動かすわけではなく、粒子ビームの射線を見切るとGNビームライフルで応射した。

 速射された粒子ビームがブラックプルトーネの右腕を粉砕し、その戦闘能力を奪った。驚愕したヒクサーが機体を急速に後退させると、虚空を漂うGNアームズがサブモニターに映った。

 

『デュナメスがない⁉』 

 

 この時、ヒクサーはデュナメスがGNアームズとのドッキングを解除したことに気付いた。

 

「人の命や感情を見下しているテメェを……」

 

 通信からロックオンの声が聞こえた瞬間、時はすでに遅い。

 GNスナイパーライフルの銃口が、とっくにブラックプルトーネに向けていた。

 

「――俺は狙い撃つ!」

 

 そう呟くと、ロックオンはトリガーを引いた。

 GNスナイパーライフルから放たれた粒子ビームは、ロックオンの意志が顕在化したかのように闇を照らす一筋の光となって真っ直ぐ、ブラックプルトーネに伸びていく。ブラックプルトーネは粒子ビームから逃れようと機体を加速させたが逃げきれず、粒子ビームに太陽炉を突き刺された。

 

『バカな! イノベイターである僕が、人間如きにやられるのか?』

「人間を舐めているから、こうなるんだよ!」

『この、人間風情が! こんな結果、認めるものか!』

 

 自分の()()()から「イノベイターは人間を超越した絶対的な存在」と教え込まれていたヒクサーは首を横に何度も振り、人間に敗北したという現実を受け入れずにいた。

 

「うるせぇ野郎だ……」

 

 流石に見苦しすぎる、と思った隼人が冷徹な声でそう呟くと、GNバスターソードを構え直したフィーアの機体を加速させ、爆発寸前のブラックプルトーネに飛びかかった。

 

「さっさとくたばりやがれッ!」

 

 そして、斬り裂く。

 

『嘘だ……こんなの嘘だぁ! 僕は負けるはずがない、負けるかずが――』

 

 ブラックプルトーネの機体が縦真っ二つに分かれ、巨大な火球に姿を変える。

 晴れつつある爆煙の中から、右手にGNバスターソードを提げたフィーアが姿を現した。

 

「あばよ、クソ野郎。あの世で彼らに詫び続けろ」

 

 

 

 

 

 SVMS-01X ユニオンフラッグカスタムⅡ

 

 またの名――GNフラッグ。本来のプラズマジェットを用いるはずの推進部に疑似太陽炉を無理やり載せた改造機である。スローネアインから奪取したGNビームサーベルを有線式に改造した物を持たせており、両膝側面にはディフェンスロッドが装備されている。さらに、右手にはカスタムフラッグに装備されていたリニアライフル――トライデントストライカーを提げている。

 

 無理な改造が施された本機は一見アンバランスな機体に見えるが、その総合性能は並みのMSを遥かに凌駕している。そして本機はビリー・カタギリ技術顧問が親友に請われ、連日の突貫作業で作り上げた最高傑作である。

 

 GNフラッグのコックピットでは、グラハム・エーカーは求めるべき好敵手――ガンダムの姿を視認していた。周囲に味方の姿がなかったが、それでも構わない。

 

 グラハム・エーカーが求めているのは――ガンダムとの真剣勝負なのだから。

 

『会いたかった……会いたかったぞ、我が愛しのガンダムッ!』

 

 この瞬間を待ち望んでいた。

 今の私は軍人以上に、好敵手であるガンダムに戦いを挑む戦士だ。

 

 あの日、私はガンダムの圧倒的な性能に心を奪われた。そして気がついた時、私はもうガンダムを夢中になって、ガンダムを好敵手として認めた。ガンダムに対する興味も、そして軍人としての矜持も、私をこうも突き動かした行動の源であるが、所詮は建前でしかなかった。

 

 心の底に秘めたときめきの感情は、誤魔化しようもないのだよ。

 私はこの機体を持ってガンダムと戦えることに、この上ない悦びを感じている!

 

 GNフラッグの背中に付いている疑似太陽炉が左肩に移動した。左手に握られ、ケーブルで接触されているGNビームサーベルが、禍々しい赤い光で形作る。グラハムはアメイジングエクシアに向けて機体を加速させながら、トライデントストライカーで牽制射撃を行った。

 

 連続で放たれた弾がGNフィールドに弾かれた。

 グラハムはその真紅の粒子束に自分の想いを乗せて、切っ先を領域の表面に突き立てる。

 

『その堅牢な領域、私の想いで貫いてみよせよう!』

「これは……ビームサーベル⁉ なんて出力だ!」

 

 その出力の高さに驚かされた刹那は機体を後退させると同時に、展開していたGNフィールドを解除する。そして折り畳まれていたアメイジングGNソードを展開して、それを受け止める。接触する二振りの剣の間から、凄まじいスパークが散っていく。

 

 すでにガンダムとの接触回線は開いてある。

 軍人の……いや、戦士の礼儀として、名乗りを上げさせてもらう。

 

『私の名はグラハム・エーカー。ガンダムのパイロットよ、名を聞かせてもらうか!』

「……通信?」

 

 突如の通信に、刹那が訝しげな表情を浮かべるのも、受信ボタンを押した。

 すると、黒と白を基調としたパイロットスーツを着た男が、通信ウィンドウに映し出された。

 

「貴様は……!」

『なんと、あの時の少年か!』

 

 一方、そこに映し出された青いパイロットスーツの少年を見て、グラハムは眼を瞠った。

 うねりのかかった黒髪、意志の強そうな褐色の瞳……忘れるわけがない。アザディスタン王国の内紛の時、現地で会った少年だ。

 現地人を装い、背中に拳銃を隠し、臆することなくグラハムを睨みつけていた、あの少年だ。

 グラハムのことを思い出した刹那も、大きく目を見開いている。

 

 そして、刹那は名乗った。

 

「――俺のコードネームは、刹那・F・セイエイ」

『よくぞ名乗ってくれた、少年……いや、刹那・F・セイエイ。やはり私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだ。そうだ……私たちは、戦う運命にあったのだ!』

 

 グラハムは機体の出力を上げ、アメイジングエクシアを突き飛ばし、GNビームサーベルを振り下ろす。振るわれた光刃を、刹那はすかさず左手にトランザムGNブレイドを抜かせ、それを受け止める。互いの刃が激しくぶつかり合い、GNフラッグが上から抑え込む形で2機は鍔迫り合いとなった。

 

「援護します、刹那!」

 

 そこにフリーダムが交戦中の2機に急接近し、ミーティアの両側面に備えるビーム砲「93.7cm高エネルギー収束火線砲」をGNフラッグに目掛けて放とうとする――が、そこで刹那が阻止の声を上げる。

 

「手を出すな、絢瀬悠凪。これは……俺の戦いだ!」

「刹那……分かりました」

 

 刹那とグラハムの対決に割り込むことは無粋か。ここは刹那に任せるとしよう。

 事情を理解した私がそう返事すると、スメラギの声が通信に響いた。交戦中のアメイジングエクシアも、その通信を受け取った。

 

『絢瀬さん、刹那。トレミーがアンノウンの攻撃によって、撃沈されました』

「トレミーが撃沈された⁉」

「ば、バカな……⁉ スメラギ・李・ノリエガ、クルーは全員脱出しましたか?」

『全員は強襲用コンテナで脱出しましたが、リヒティが負傷しています。かなりの重傷です!』

 

 リヒティを死なせるわけにはいかない。

 これは緊急事態だ。一刻も早く、強襲用コンテナをリベル・アークに避難させる必要がある。

 

 だが、気になるな……プトレマイオスを撃沈したアンノウンとはなんだ?

 

「スメラギ・李・ノリエガ、そのアンノウンとは?」

『……蛇のような黒い巨大MAです』

 

 黒蛇のような巨大MA……ガンダムシリーズにそんな機体が存在しないはず。

 あれは国連軍の新型か、それとも第三勢力に所属する機体か、この目で確かめてやろう。

 

『アンノウンが我々と国連軍の双方を攻撃。チームトリニティは現在、アンノウンと交戦中です』

「では、私がチームトリニティの援護に向かいます。刹那、その敵は君に任せました。但し……」

 

 死ぬなよ、と言いたいところに、刹那が私の声を遮り、返事を告げる。

 

「ガンダムの存在意義、戦いの意味……その答えを見出すまで、俺は死なない」

 

 覚悟を固めた刹那に言い残す言葉は、もうない。

 私がフリーダムの向きを変え、後ろにある資源衛星群に向けて機体を飛翔させたその際、刹那の声が再び通信に響いた。

 

「お前の方こそ、死ぬなよ」

 

 中編へ続きます。




※2021年11月7日更新
内容盛りだくさんなので、三つのパートに分けて投稿することにしました。
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