ピクシブの感想には「ガンダム作品以外の要素が含まれている為、その作品の原作知識が無ければ物語の理解が難しい」という指摘がありました。
そこで、クロスオーバー元の作品名を小説のあらすじに表記することにしました。
作品名は物語が進むにつれて追加し、設定集も公開する予定です。
※お知らせ・その2
今回は視点が頻繁に変わらないように意識して書いてみました。
その地の文やセリフが誰のものなのか、口調などから察することができると思います。
今後もキャラごと視点が変わることがありますが、なるべく分かりやすいように書いていきます。
戦いは終わった。
ガンダム掃討作戦の為に出撃し、100機以上に及ぶジンクスを乗せて戦闘宙域まで運んできた3隻のヴァージニア級宇宙輸送艦――その内に生き残ったのは、たった1隻だけである。
帰投してきた4機のジンクスとフラッグカスタムⅡは、すてに全機コンテナに収容していた。
輸送艦のブリッジで、カティ・マネキン大佐は大型モニター越しに星の海を眺めていた。多くの仲間たちが命を落とし、撃破された乗艦や乗機と共に宇宙の藻屑となった。
輸送艦2隻、ジンクス159機――有人機が25機、MDが搭載された100機以上の無人機が全滅させられたとの報告を受けている。
旗艦である彼女の艦は撃沈を免れたが、それは彼女にとって何の慰めにもなっていなかった。
「我々の敗北だ……!」
眉間に刻まれた皺をさらに深くさせながら、彼女はそう呟いた。
ガンダム1機も撃破できず、突如乱入してきた大蛇のような黒いMAによって、こちらの戦力が十分の一以下にまで減らされてしまった。
常識外れの能力を持つ大蛇を撃破すべく、スミルノフ中佐はガンダムとの共闘を選び、辛うじてこれを撃破。共通の敵を前にして、相手と共闘することはある意味、正しい判断である。
少なくとも自分は、スミルノフ中佐の判断が正しいと思っている。
だが、国連軍の上層部はどう思うだろうか……?
さらにスミルノフ中佐から、こういう報告があった。
太陽炉が搭載したガンダムが赤色に発光し、機体性能を飛躍的に向上させる特殊機能や、蒼き翼のガンダムが装甲の隙間から漏れ出した光、及びそれに伴い発生した数々の超常現象――具体的に言うと「こちらの装甲を崩壊させる程の攻撃を無効化するバリア」や「手を振りかざて虹のようなオーロラを放ち出し、大蛇を行動不能にさせた」や「ビームサーベルが一瞬だけ、数百メートルの長さまで伸びた」などの不可解な現象だ。
その他には……装甲の隙間から青い光を発した、謎の白いガンダムが1機。
推進力のない大型シールドを宙に浮かせ、攻撃手段として運用したそうだ。
あれらは何だったのか、と兵士から問われたら、知らなかったでは済まされない。
何より、死んでいった兵士に申し訳が立たないのだ。もし事前に知っていれば、手の打ちようはあった――が、今さら言っても、どうにもならないな。
これは指揮官である私の落ち度だ。故に言い訳はしない。
上官の不毛な抗弁は、部下たちの士気と信頼を損なうだけだから。
「マネキン大佐!」
「――どうした?」
Eセンサーを監視していた兵士から呼びかけられ、彼女は応えた。
「本艦へと向かってくるジンクスを捕捉」
「生存者がいたのか」
カティがメインモニターを見ると、接近してくるジンクスの機体が映し出された。
上半身を丸ごと失ったが、その他の部分はほぼ無傷のようだ。
「機体照合……AEU所属、パトリック・コーラサワー少尉の機体です」
それを聞き、カティは安堵と呆れが入り交じったような短い息をついた。
帰投した機体に自称「AEUのエース」の兵士が含まれていないと知り、奴の幸運も尽きたかと思っていたが、どうやらまだ底をついていなかったようだ。
瞬く間に、サブウィンドウが開き、パトリックの顔が映し出された。
『すみません、大佐。でかい蛇にやられちゃいました……』
謝罪の言葉を述べるパトリックの表情は、まるで子供が自分の不出来を謝る時と似ていた。
「心配させおって……バカ者か……」
そう言ってカティは表情を崩して小さく笑った。
一方、ガンダムの急襲を受けて全滅させられたと思われる補給基地の守備隊に、1人の生存者が国連軍の捜索隊によって発見・救助された。
エイミー・ジンバリスト――「鋼鉄のカウボーイ」と呼ばれるユニオンのエースパイロット。
後の世で彼は「統一世界の悪魔」と呼ばれ、畏怖の対象となるのだが、それは先の話になる。
ソレスタルビーイングのメンバーたちは、リベル・アークへ帰還した。
広大なMS格納庫には、エクシアとデュナメス、そして3機のスローネが5機並び、各々のMSハンガーでグレイハロたちの整備を受けている。対する四肢を損失したキュリオスとヴァーチェが座礁したように倒れ込み、ワイヤーによって固定された。
MSハンガーの鉄骨に背を預け、刹那・F・セイエイは深い思考に陥っていた。
フリーダムと、謎の白いガンダムから発した光は、とても暖かった。人の善意――プラスの面が光となって広がっていくようだった。
そこには敵味方という枠が存在せず、その場にいる人々の思いが重なり合っていた。
俺たちも国連軍も、俺をしつこく追い回してきた、あのフラッグのパイロットも一緒くたに。
あの光は、人の善意と可能性の具現化――そんな可能性が、人には持っているんだ!
「なのに何故、人は戦いを止められないのか?」
無意識に口が動き、刹那は疑問を含んだ声で小さく呟いた。
だが、刹那の抱えた疑問は、それだけではなかった。
何故、俺の住む世界はこうも歪んでいるのか?
その歪みは、何処から来ているのか?
何故、人は支配し、支配されるのか?
何故、傷つけ合うのか?
疑問に疑問が重なり、疑問はまるで大きな波のように刹那の思考を呑み下していく。
「……声が、聞こえる?」
ふいに、スラスターの駆動音が聞こえた。
刹那は自らの思考を封じ、音がした方へ振り向くと、青と白の装甲を纏ったそれは背中に広げた翼を収納して着地し、片膝をついた。
「フリーダムガンダムが帰還した……!」
それは浮遊城リベル・アークの主――絢瀬悠凪の乗機だった。
一瞬の後、フリーダムは左手の甲を地面に向けたまま、その手を緩やかに降ろした。何かを持ち帰ったのか、と気になった刹那がフリーダムの元に駆けつける。
そして、掌の上に倒れた人を眼前にした瞬間、刹那は驚きと関心が入り交じった声を上げた。
「お前は、風間隼人を……連れ帰ってきたのか⁉」
血まみれのノーマルスーツを身に纏ったそれは、戦死したと思われる男――風間隼人だった。
隼人のヘルメットを取り外し、刹那は彼の首元に指を当てる。かなり衰弱しているが、まだ息はある――そう、風間隼人はまだ生きている!
「刹那、隼人をメディカルカプセルへ!」
「――分かった!」
フリーダムのコックピットから飛び降り、悠凪は刹那に呼びかける。了解の意思を示した刹那は悠凪と力を合わせ、重傷状態の隼人をカプセルに積み込む。その後、カプセルは待機中のブラウンハロたちによって、メディカルルームへ運び込まれるのだった。
私と刹那が格納庫を離れると、近くにあるレールハイロゥ駅で仲間たちと出くわした。
「君たち……!」
フリーダムの帰還を目の当たりした彼らは、私を出迎えるべく、ここに来たのようだ。
「お出迎えだよ、悠凪」
ロックオンが言い終えると、人群れから栗髪の少女が走り出し、私をギュッと抱きしめた。
「お帰りなさい、悠凪くん」
「――ただいま、美玖」
強く抱きしめられた腕と、互いに密着した身体から、美玖の熱と鼓動が伝わってくる。
彼女から感じられる温かさは、幻覚でもなければ、意識だけの存在でもない……こうやって抱くことができるんだから。そう思うと、私も美玖の背中に手を回し、抱きしめるのだった。
「ったく、見せつけてくれちゃってよぉ!」
「ラブラブですね、お二人さん」
気がづいた頃は、ロックオンとクリスを始め、全員がニヤけ顔でこちらを見ていた。
無口で無愛想な刹那と、だんまりしているティエリアを除いて。
「「ハロ……ハロ……ハロ……!」」
さっきから3体のハロがラグビーボールのように跳ね続けている。
これは、ハロ特有の感情表現かな?
「ほう、お前もニヤけているな。アレルヤ」
「他人事は楽しめるタイプなのさ……それに、ハレルヤも楽しんでいる」
アレルヤ・ハプティズムよ、他人事みたいに言えるのは今のうちだぞ。
君がソーマ・ピーリス――マリーを取り戻した瞬間、君は傍観者には戻れない。私と同じリア充の道を歩むことになるのだ。その日が来るのを心から楽しみにしている。
「美玖、みんなが見ているよ」
「ごめんなさい……ついに……」
しばらく続いた後、やっと周りの視線に気づいた美玖は慌てて抱きしめた手を離し、恥ずかしさに顔を赤らめた。そこで刹那は何か言おうとしているようだが――。
「ん……発熱か?」
「ち、違います!」
美玖は混乱して否定の言葉を放ち、刹那の鈍さに呆れたロックオンは、思わず声を上げた。
「あのな、刹那……そういうリアクションはねえだろう!」
自覚なくボケた発言をした刹那に、ロックオンは「やれやれ」と頭を抱え込む。
一方、スメラギを始め、クリスとフェルト、そしてネーナも呆れたように苦笑いを浮かべた。
「(刹那、君は天然なのか⁉)」
ガンダムのことしか考えていない故……かもしれないな。
気を取り直して、私はヨハンたちに隼人がまだ生きていることを伝える。
「隼人はメディカルルームに運ばれた。ヨハン、見に行ってやれ」
「本当なんですか⁉ ミハエル、ネーナ。メディカルルームに行くぞ!」
「ミスター・カザマが……! 紅龍、わたくしたちも行きましょう!」
「畏まりました、お嬢様」
それを聞き、王留美と紅龍はヨハンたちについていった。
5人がメディカルルームへ足を運んだ一方、刹那たちは其々手配された部屋に戻り、私と美玖は宅邸の寝室に戻るのだった。
寝室の明かりを消し、私は大きなベットの上に寝転がった。
併設されたシャワールームの中から、澄んだ水音が聞こえる。美玖は入浴中のようだ。私が目を瞑ると、同時にとろりと眠気が襲ってきて、そのまま寝落ちしてしまった。
「悠凪くん……」
それから何時間経ったのかは分からないが、美玖の声が聞こえた。
ゆっくりと目を見開いた私の視界に、自ら制服をはだけさせた美玖の姿があった。
美しい、という一言だけでは済まされない程の美しさだった。
閉め損ねた窓の隙間から差し込む月光に照らされ、真珠のように滑らかな光沢を放つ肌。澄んだ栗色のサラサラとした長い髪に、ターコイズと同じ碧色の瞳。そして高品質の下着に包み込まれた大きな乳房――その年齢に似つかわしくない色香を放つ身体が、私を陶然とさせる。
「み、美玖……急にどうしたんだ?」
「このままずっと、悠凪くんと一緒にいたいんです」
それはこちらも同じさ。
勢いよく抱きしめてきた彼女を、私も強く抱きしめ返す。
「モノだった頃のわたしを、こんな風に抱きしめたことを、覚えてますか?」
「えっ? これってもしかして……仕返し?」
「ふふっ……優しくしてくださったお礼です」
美玖がそう言うと、私を抱きしめる手に更なる力を込めるのだった。
◇◆◇◆◇
「(身体が、さらに……熱くなって……うぅ……)」
悠凪くんと身体を温め合っているからじゃなくて……胸の奥に、火が灯ったみたいに。
顔だけじゃなくて、耳の先まで真っ赤になっています。
男性としては体格は細い方だと思ってましたが、それでも大きいです。
それに硬くて、頼りがいのあって……すでに熱かった身体が、さらに熱を帯びます。
「悠凪くん、一つ聞いてもいいですか?」
「何を聞きたい?」
自らの理性を蝕む情欲に耐えながら、わたしは疑問を口にしました。
「どうして……抱いてくださらないのですか?」
悠凪くんは口元に柔らかな笑みを浮かべると、わたしの唇に優しく口づけをしました。
何度も触れた愛しい人の唇はとても柔らかく温かくて、わたしの胸をより一層熱くさせました。
唇をそっと離し、悠凪くんは穏やかな眼差しを向け、わたしと視線を合わせます。
「それは子供を授かる行為だから。以前は君を思いっきり……なんてことを考えたが、私は子供の父親になる覚悟はまだ出来てない。それに君は、そういう行為を嫌がってたんじゃないか?」
「わたしはただ、心の準備が出来てなかっただけです! 決して嫌がってるわけじゃありません! それにこの行為は、お互いの愛を深める行為でもありますから。でも――」
さらに強く抱きしめると、わたしは悠凪くんの耳元に囁きました。
「そういう所に気を遣ってくれる悠凪くんが、大好きですよ」
「――寝る前に、おやすみのキスでもしようか?」
悠凪くんはやや強引に、わたしをベッドに押さえつけました。
そして、わたしの顎を指先で持ち上げると、再び唇を重ね合わせました。さっきより激しく唇を押し付けて、わたしとキスをしているのが自分だと主張するように――。
「っ、ん……ゆ、悠凪くん……」
キスに応えるように悠凪くんの首に腕を回すと、悠凪くんはわたしの後頭部をぐっと押し寄せてきました。このまま抱かれたら、今夜のことを一生忘れられなくなる自信がありました。
でも、わたしの乳房に触れたり揉んだりしたものの、それ以上の行為をしてくる気振りは見られませんでした。キスを終えると、満足した悠凪くんはすぐに眠りにつきました。
「ふふっ……おやすみなさい。わたしの、悠凪くん」
翌日、メディカルルーム。
「ドクター・モレノ。ミスター・カザマの容態は?」
「安定している。外傷はともかく……酸欠と内臓出血に見舞われた状態でよく生きているものだ」
王留美の質問に、報告書を作成しているモレノ先生は振り返りもせずに答える。
それを聞き、王留美は安堵したように頷いた。
リベル・アークのメディカルカプセルは、外傷やその他の疾病に対して、患者個人の治癒能力を高めることができる。この点だけはプトレマイオスのメディカルカプセルと同じだが、特筆すべき機能は、メディカルナノマシンを投入して体内器官の機能を維持し、再生を促進させることだ。
投入されたナノマシンが隼人の命を維持していると言ってもいい。
もちろん、リヒティにも同じ処置が施されている。
王留美は隣の椅子に腰を降ろす。
「は……ごほん、ミスター・カザマが無事で、幸いでした……」
彼女がそう呟いた、その時だった。
誰かが喋っている――隼人は瞼を開け、傍にある椅子に座る王留美を見上げた。
「やぁ……王留美、じゃねえか……」
「はや……み、ミスター・カザマ⁉」
隼人の声が聞こえて、それに驚かされた王留美は思わず呼び捨てにしてしまった。
傍にいる紅龍も、王留美と共にカプセルに横たわる隼人を見つめる。
この時、隼人は王留美の頬に涙の跡があったことに気づいた。
王留美は、自分のことを心配している。しかも、泣いていた。
「……心配、してくれて……ありがとうよ……」
弱っている隼人がそう言うと、自分の左手をカプセルのガラス面に当てる。
それに合わせて王留美も自分の右手を同じ位置に置き、重ねる形となった。
「絢瀬くん、すぐにメディカルルームに来てくれ! 風間くんの意識が回復したんだ!」
『そうなんですか……分かりました、すぐそちらに向かいます!』
モレノ先生がこの件を城の主に知らせ、ここに来るように伝える。
数分後、絢瀬悠凪と鳳凰院美玖、そしてトリニティ兄妹がメディカルルームに入り、隼人の元へ駆けつけるのだった。
◇◆◇◆◇
私たちがメディカルルームに入ると、兄妹が私と美玖より先に隼人の元へ走っていった。
診療机を前にするモレノ先生と、カプセルの傍に立つ王留美と紅龍が同時にこちらを見、「皆さん!」と言った王留美の目が丸く見開かれる。
「隼人!」
「隼人の旦那!」
「隼人さん!」
カプセルの方に押し寄せ、3人がそう叫び出した。
すると、隼人は「よう……お前ら……」と弱々しい声で返事をした。
私は美玖の傍で包帯まみれの隼人を眺めつける。
瀕死の重傷を背負いながら、リヒティより先に目覚めるとは驚いた。
「思ったより早いお目覚めだな、隼人」
「ああ……お前のお陰で、俺はまだ……生きている……ありがとう」
こちらに視線を合わせると、隼人は私に感謝の言葉を述べた。
別に礼を言われたいというわけではないし、MDを販売したことを許すつもりもない。
でも――。
「礼は不要だ。仲間を助けるのは当たり前のことだろう?」
「お、お前……!」
今の私たちは仲間同士で、君のことを思っている人たちがいる。
それに、君が身を挺してトリニティ兄妹を庇った時点で、もはやあの時の隼人じゃない。
君は私を毒殺した、あの憎むべく風間隼人じゃないんだ。
君は変わったんだ。それが、君を助けた理由だ。
「ところで、私と刹那がアルヴァトーレと戦っていた時、君とロックオンは11機の黒いガンダムを対処していたな?」
「ああ、そうだ……」
隼人が頷き、私が問い続ける。
「11機の黒いガンダムを動かしていたのはモビルドールか、それとも人間か?」
「そうだな……お前ら、それに王留美と……紅龍さん。悪いけど、席を外してもらえないか?」
一瞬、彼らは困惑の表情を見せたが、すぐさま隼人の言う通りに席を外し、外に出ていった。
空気を読んだモレノ先生は部屋の片隅に席を移し、ヘッドフォンを耳にかける。
「では、わたしも席を外しますね。失礼します」
「ああ……隼人、言っていいぞ」
軽く一礼をし、美玖も王留美たちと一緒に退室した。
察するに、その答えは……彼らに聞かれたら困るものだった、かもしれないな。
「信じられない……かもしれないけど、内の9機に乗っていたのは、ネーナたちのクローンで……最後の2機にはヒクサーというクソ野郎と……グラーベのクローンが……ごほん⁉」
「なるほど。普通なら信じられないが、私は君の言うことを信じるよ。喉が痛いなら少し休め」
私がそう言うと、隼人は苦しそうに咳をしながら、手で顔を拭った。
「もう、何も言うな……今は休め」
「……あ、ああ……」
11機……いや、刹那が最初に撃墜したブラックプルトーネを含めて12機か。
第二世代ガンダムのレプリカにトリニティ兄妹のクローン、おまけにグラーベ・ヴィオレントとヒクサー・フェルミまで……彼らに聞かれたくないのも理解できる。
これだけのものを用意できるのは、恐らくはあのミント頭――リボンズに違いないだろう。
「聞きたいことは聞いた。じゃあ――」
「ちょ、ちょっと待ってろ……!」
私がメディカルルームを出ようとした時、隼人が消え入るような声で私を呼び止めた。
「お前はまだ……俺のことを、恨んでいるのか?」
「――最初はそうだったかもしれない。でも、今の君は……あの時の風間隼人じゃない」
隼人の問いに、私は振り返りもせずに答えた。
そしてドアが開き、席を外したみんなが再びメディカルルームに入ってきた。
「(証人が入ってきたな……)」
この瞬間、私は隼人に「ある質問」を投げることにした。
コーナー大使の元で働いていた上、原作知識も持っている隼人が、それを知らない訳がない。
それに私の口からより、隼人の口から言った方が信憑性あるし、私が怪しまれることもない。
刹那たちがこの場にいないのは残念だが――。
「あっ、危うく聞き忘れるところだった……ヴェーダの所在地を知っているか?」
「ラグランジュ2……月の、裏側だ。っておい、お前は……どうするつもりだ⁉」
「――その量子コンピューターのコアを頂くだけさ」
驚愕の表情を見せた王留美と紅龍、そしてヨハンたちに背を向け、私と美玖はメディカルルームを後にしたのだった。次は、刹那たちにヴェーダ本体の居場所を知らせるとしよう。
イノベイターへの進化を遂げる為に、刹那には倒すべき敵を知る必要がある。
そしてドアのロックを解除するには脳量子波が必要だ。ティエリアとネーナも連れて行こう。
ガンダムの修復が完了し次第に行動を開始する……そうしよう。
一週間後、フリーダムのオーバーホールが完了し、解体決定になったヴァーチェ以外のガンダム全機が修復された。私たちは予定通りにヴェーダのメインターミナルを回収すべく、月の裏側――ラグランジュ2に向かった。
本来は私と刹那、そしてティエリアとネーナの4人だけだが、ロックオン・ストラトスもついてきていた。理由は「爺さんの計画を乗っ取った敵をこの目で確かめたい」とのこと。
因みに、大破したヴァーチェが解体決定になった為、ティエリアはデュナメスに乗っている。
月の裏側――月の自転周期と公転周期が地球と一致している為、地球上から絶対に観測することができない場所だ。そして、この場所には、長年に隠されていたものがあった。
人知れずに建造され、月の地下深くに存在する巨大建造物。
知恵の宝庫にして偉大なる頭脳。
ソレスタルビーイングの計画を為す根幹――その本体が、ここにあったのだ。
「うーん……あたしじゃ無理みたい。そこのメガ……じゃなかった、ティエリアさんは?」
「今からロックを解除する。5秒待て!」
ネーナの言葉に返事すると、ティエリアの虹彩が金色に輝く。
そして5秒後、奥に続く扉がゆっくりと開かれた。
「部屋と呼ぶには、あまりにも大きな空間ですね」
「なぁ悠凪、ファンタジー風の大きな城に住むアンタがそれを言うのかよ⁉」
「ははっ……それも、そうですね」
全くロックオンの言う通りだ。リベル・アークに住む私が言える言葉ではない。
気を取り直して、私たちは広大な広間に足を踏み入れる。
宮殿の大広間を思わせる作りの広間は、床面が分厚い強化ガラスで敷き詰めていて、その下には燐光を放ちながら稼働している巨大な球形構造物が見える。入り口から奥に向けて赤いカーペットが真っ直ぐ伸びている。
そして、部屋の中央には三段作りの台座があり、その上にはコンソールパネルが鎮座している。
最奥部の壁を凹ませて作られた祭壇のような空間は、ここを大聖堂と思わせる雰囲気があった。
「これが……ヴェーダの本体!」
「イオリア計画の根幹を為すシステム――ヴェーダ!」
広間を見渡しながら、刹那とティエリアが半ば驚き、半ば感心したように呟いた。
「こんなもんを月に隠していたなんて……イオリアの爺さんもやるね!」
「机上の空論で2世紀先の技術を予見した天才は伊達ではない、ということですよ」
私とロックオンが話している傍に、ネーナとHAROはコンソールパネルを弄り始めた。
「ティエリアさん、ここのシステムはまだ使えそうですよ」
「よし、アクセスを試みる!」
ティエリアがネーナに協力し、ロックオンが「手伝ってやれ」とハロに言った。
HAROが「オレハオマエの兄サンジャナイ!」と叫んだものの、ハロの助けを拒まなかった。
「おいお前ら、何か妙だぞ⁉」
「(やっとお出ましか……リボンズ・アルマーク!)」
驚愕に目を見開いたロックオンが叫び、展開を予想していた私は心から呟く。
祭壇の奥を彩っていた壁面が乱れ、壁際に現れたデータ表示も乱れが生じる。異常に気づいたネーナとティエリアが周りに目を走らせるその時――。
『今日は千客万来だね……』
声が聞こえた。
彼らにとっては聞き覚えのある声ではなかったが、私は知っている。
この声は、リボンズ・アルマークの声だ!
『刹那・F・セイエイ、ロックオン・ストラトス、ティエリア・アーデ、ネーナ・トリニティ……そして、絢瀬悠凪。ヴェーダへようこそ』
コンソールから手を離し、怒りの表情を見せたティエリアが声を荒げる。
「貴様か! ヴェーダを乗っ取った黒幕は!?」
『それは違うよ、ティエリア・アーデ。元々ヴェーダは僕のものだ』
身勝手な理論を並べる声の持ち主に、ロックオンとネーナも怒鳴り声を上げる。
「ふざけんな! デメェのもんじゃねぇだろうか!」
「ドロボーが……偉そうに言ってんじゃないわよ!」
『本来、計画の功労者である君たちは一週間前の戦いにで滅びていたはず存在だ。しかし君たちは絢瀬悠凪の介入によって生き残ってしまった。使い捨てのチームトリニティも生き残っていたとは本当に驚いたよ……だけど、モビルドールを開発した風間隼人は死んだ。実に残念だよ』
リボンズは、隼人が戦死したと勘違いしているようだ。
ならばずっと勘違いし続けろ、このミント頭め!
私がそう考えていると、さっきからだんまりしている刹那が口を開いた。
「イオリア計画を乗っ取り、俺たちを利用して……貴様は何が目的だッ!?」
『計画をより効率的に進めるだけさ……来たるべき未来の為にね。そう言えば、君と言葉を交わすのは初めてだったね、刹那・F・セイエイ。いや――』
続けざまに言い放ったのは、刹那を愕然とさせる言葉だった。
『――ソラン・イブラヒム』
「なっ……俺の、名前を!」
それは、刹那――ソラン・イブラヒムの生み親が彼に与えた名前……本来の名前だった。
「貴様は……何者だ!?」
『君をマイスター候補者としてヴェーダに推薦した者さ、6年前の出来事だったけどね』
しばらくの沈黙の後、声の持ち主――リボンズが私に語りかけてきた。
『さて、絢瀬悠凪……僕は君と君のガンダム、そして君と付き添いの少女――鳳凰院美玖に興味があってね。僕と手を組めば、この世界をより良い方向へ導けると思うよ』
「無理だな、私は仲間を裏切らない。君の言葉には未来の可能性を感じない。何より、美玖に手を出そうとした時点で、貴様は私の敵だ!」
『そうか。それは誠に残念だ』
ふいに、壁際に現れたデータ表示が更なる乱れが生じ、部屋の明かりが点滅し始めた。
恐らくデータの削除が開始されただろう。遺憾ながら、止める手段はこちらにはない。
「これは、一体何か!?」
『驚いたのかい、ティエリア・アーデ。ヴェーダは巨大なネットワークだ。そのコアとなるメインターミナルは一つだが、予備があってね。すてにそちらに全機能を移す準備を進めていたんだ』
突如の状況に見舞われ、ティエリアとネーナは浮足立った。
「クッ……何もできないのか!?」
「これもダメ……あっちもダメ……操作が受け付けないのよ!」
『それでは、ご機嫌よう。君たちは本当によくやったと思うよ』
リボンズがそう言い残して、電源が切られているらしく、突然パッと明かりが消えた。
同時にヴェーダも完全に機能停止し、抜け殻になってしまった。幸い施設内の予備電源が生きている。ティエリアとネーナがコンソールを操作し、掌サイズのメインターミナルを、球形構造物の中にイジェクトすることに成功した。
そして、持ち帰ったメインターミナルを解析すると――。
「アーデ君。残念じゃが、データは完全に消去されたようじゃ」
「そうでしたか、プロフェッサー・エイフマン……」
しかし、このメインターミナルは量子コンピューターの根幹部分に当たる部品だ。
それなりのメモリーを用意できれば、こちらも同じものを作れる。
このメインターミナルを、設計中のプトレマイオス2に搭載する案もあったが、イアンに「メモリーを積み込むスべースがない」という理由で却下された。それは当たり前だろう、全長250m前後の戦艦にそんなスペースなんてない。
「ヴェーダのメインターミナルを……絢瀬悠凪に預けることを提案します」
「俺もミス・スメラギに賛成だ。今の俺たちに頼れるのは、悠凪しかない」
「俺も同意見だ。あの男もガンダムだから」
投票の最中に、刹那が咄嗟に何を言っているのか理解できなかった、が――。
「意味不明ですが……褒め言葉として受け取っておきますよ、刹那」
この後、ロックオンが心底呆れ果てたというような、ため息交じりの失笑を漏らした。
スメラギとアレルヤ、堅物のティエリアまでクスッと苦笑いをしたのだった。
それから投票の結果に従い、ヴェーダのメインターミナルを私に託すことにした。このメインターミナルは、量子演算システム兼次元観測システムのコアとして有效活用させてもらう。
CBは表向き壊滅したことになったが、フェレシュテはまだ健在だ。
一方、国連軍は旧式MSで反体制派の粛清を行っているが、特に大きな動きは見られなかった。
だが、プトレマイオスという移動拠点を失った以上、武力介入は難しいとスメラギが判断した。
この為、新しい戦艦とガンダムが完成されるまで、刹那たちはここに滞在することになった。
フェレシュテが健在なら、武力介入を行う為のMSが必要だ。そこで私は、修復されたラジエルを返還することをシャルに打診し、彼女がこれを快諾した。加えて絹江・クロスロードも向こうの世界に送り返すことにした。ラグナとサーシェスが消えた以上、殺される心配はもうない。
もし彼女がまだ危険な取材を行って命を落としたら、それは自業自得としか言いようがない。
自覚がなければ、反省のしようもないから。彼女がそういう人間じゃないことを祈っている。
そして2日後、私は新しい世界を探索する為に、ハロを連れてフリーダムで出撃した。
アロウズが結成されるまで、新たな戦いが始まるまでの時間を有效活用するつもりだ。
「絢瀬悠凪、フリーダムガンダム、出る!」
第二章につづく
第一章完結しました。
次回は00ファーストとセカンドの間の物語――金色の恋物語とガンプラバトルが始まります。