ここから先は『金色ラブリッチェ』と『ガンダムBF』のクロスオーバーシナリオです。
第26話 ソルティレージュの姫君
メインターミナルの回収から帰還した後、刹那は新たな疑問を抱いた。
――そう言えば、君と言葉を交わすのは初めてだったね、刹那・F・セイエイ。
――君をマイスター候補者としてヴェーダに推薦した者さ、6年前の出来事だったけどね。
あの声の持ち主が俺に言った言葉は、どうしても頭から離れなかった。
俺は、奴に会ったことがあるのか?
もし会ったとしたら、6年前のクルジス?
「セイエイさん……何か、考えことですか?」
「おい刹那、ぼっとして……どうしたんだ?」
気がついたら、鳳凰院美玖が淹れ直したコーヒーを俺に差し出して、傍に座るロックオンが俺の肩を軽く叩いた。止め処ない思考から復帰した俺は、考えていることを口にした。
「ヴェーダの本体で、俺たちに語りかけてきた……あの声の持ち主が、気になっただけだ……」
「そりゃ気になるよな……俺たちを嵌めた黒幕だからな、あの野郎は」
「――いや、ロックオン。それだけじゃない」
俺は温かいコーヒーを一口啜り、話を続ける。
「奴は……自分が6年前、俺をマイスター候補者としてヴェーダに推薦した張本人だと言った」
「確かにそんなことを言ってたな。そう言えば、刹那……6年前の2301年に、お前は……」
「アリー・アル・サーシェスに誑かされ、最初から存在しない神の為に、KPSAの少年兵として戦った。あの時、戦場を逃げ惑い、生と死の狭間を彷徨っていた俺を救ったのは――」
あの時……クルジスで俺を救った灰色の機影――天使の翼を彷彿とさせるGNフェザーを背中に広げ、人間の戦場に降臨し、圧倒的な力を持って紛争を根絶する実在の神にして、現存する太陽炉搭載機の始祖に当たるガンダム。その名前は――。
「0ガンダム」
「おいおい……マジかよ!?」
俺が言うと、ロックオンが目を丸くさせた。
そう、これは今まで、誰にも言ってなかったことだから。
「もしあの声の持ち主が、0ガンダムのマイスターだとしたら――」
「ちょっと待て、刹那……お前はどうして、そう思うんだ?」
ロックオンの質問に、俺は視線を交えながら答える。
「俺は奴と会ったことがない。だが、奴は俺の見えない所で俺を見ていた。そして、6年前という時期は……0ガンダムが俺の前に現れた時期と一致している。今でも記憶に新しい」
◇◆◇◆◇
あれだけ少ない判断材料で、そこまで辿り着くとは……。
感情に対する鈍さは筋金入りだが、ガンダム絡みになると勘が鋭いな、刹那。
「その0ガンダムに救われた君は、ガンダムという兵器に神を見出しました。そして、君は平和の体現の依り代であるガンダムで戦っていれば、自分が望む『紛争根絶を体現する者』になることができると考えていました。違わないか?」
そう言い放った私が出来立ての魚料理を机に置き、刹那がやや驚いた表情で私を見、ロックオンとその対面席に座る美玖が微笑みを私に向けた。美玖の傍の席に座ると、刹那が真っ直ぐな視線で私を見つめてくる。
「ああ……お前の言う通りだ、絢瀬悠凪。俺は戦うことしかできない破壊者、だから戦う。争いを生む歪みを破壊する為に、俺なりの平和の実現を目指す為に……たとえ窮地に立たされようとも、俺はガンダムと共に戦い続ける――今までは、そう思っていた」
刹那は僅かに顔を俯け、そしてもう一度私に向き直る。
幼い頃に抱いてた理想への憧れが崩壊し、信じていた「神」に裏切られたような、絶望と困惑に満ちた瞳だった。
「だが……俺を救い、俺を導き、俺にこの生き方を与えた0ガンダム……そのマイスターが、この争いを引き起こした元凶だったかもしれないんだ。もし本当にそうだとしたら、俺は今まで、何の為に戦ってきたのか……」
それから刹那は、今まで抱えていた悩みを告白する。
私と美玖、そしてロックオンは数十分の間、彼の悩みを聞き続けた。
「何故、人生すら狂わせる存在があるのか。何故、人は傷つけ合うのか。何故、人は支配し、支配されるのか。何故、人はこうも……生きようとするのか」
「刹那……その答えを出すのは容易ではありません。いや、答えなんてないかもしれません」
「なら、俺たちが今までやってきたことは……」
「その結果は、自分の目で確かめてください。君の戦いは、まだ終わったわけではないのです……君はここに生きて――存在しているのですから」
刹那が深い思考に沈み込み、私はある言葉を彼に送った。
「もし答えがないのなら、自分で見出してください」
「分かった。人と人の分かり合える道、その答えを」
「悠凪くん、セイエイさんにストラトスさんも、冷めないうちに頂きましょう」
「んじゃ、頂くとすっか!」
「あ、ああ……う、この魚……美味い!」
刹那、君がガンダムに生かされた以上は、必ず意味があるはずだ。
その意味を辿り、自分を救った「神」と世界と対峙し続ければ、君と君のガンダムは変わる。
さて、残る不確定要素は一つ――王留美だ。
彼女は世界変革に興味がなく、歪められた自分の人生をやり直せればそれでいい、という考えを持っている。原作では、CBに協力していると見せかけて、密かにリボンズらにトレミーの情報を提供し、衛星兵器「メメントモリ」の建造費用も出資している。
彼女を何処まで信じていいのか……いや、信用すべきなのか。
そんな考えを抱きながら料理を完食し、皿を全て台所に戻すと、私の考えていることを見抜いた美玖は耳元で囁いた。
「今の王留美さんは、信用できると思いますよ」
「……どうして、そう思うんだ?」
そう問いかけた私に、微笑みを見せた美玖は答える。
「本来の歴史にはなかった出来事を経験し、その際に人生と価値観を見直したらしいですよ」
「人は変わっていくもの……か」
「ふふっ……変わったのは王留美さんだけではありません。風間さんも、そして悠凪くんも」
得意げに首を傾げ、満面の笑顔を見せた美玖は、洗い物をしていた私を後ろから抱きしめる。
彼女から伝わる暖かな体温と柔らかい感触が、私の全身を満たしていく。
「どうして、風間さんを助けたのですか?」
「最初は、隼人にはMDを00世界に公開した責任を取らせるつもりだ。だが、彼が自分を犠牲にするまでしてトリニティ兄妹を助けた。それに、彼のことを思っている人たちがいる。宇宙に放り出されて尚も生きている彼を見ていると……つい、な……」
私が深い溜め息をつくと、話を続ける。
「一度自分の命を奪った者を助けるなんて、奇妙だと思わないか?」
「いいえ、全然奇妙だとは思いません。寧ろ、この行いをする悠凪くんが素敵だと思います」
「そ、そうなのか……」
「誰かが誰かを許すことは、とても難しいことだと聞いたことがあります」
そう言って美玖は、私を抱きしめる手に力を込めた。
「こうして抱きしめると、悠凪くんの気持ちが分かる気がします。悠凪くんは、風間さんのことを許していたんじゃないのかな――」
「私は……隼人を許していたと?」
MDを00世界に公開したことを許すつもりはない。
だが、心の底にあった、毒殺されたことに対する憎しみはもう消えていた。
美玖の言う通り……私はすでに、隼人を許していたのかもしれない。
でも、許すという言葉を口にするのは、どうしても抵抗感があった。
20歳を過ぎて大人になったつもりだが、その辺りはまだまだ子供だな、私は……。
「ふふっ……悠凪くん」
「み、美玖!?」
ちょうど皿を全部洗い終えたその時、私は美玖に壁ドンされた。
状況を把握する暇もなく、彼女は唇を重ねてきて、同時にロックオンと刹那の声が聞こえた。
「悠凪、ケルディムの武装についてアンタの意見を――なっ……せ、刹那は入らなくていい!」
「えっ……ろ、ロックオン?」
「お子様には早いって……!」
遠くから眺めるロックオンの視線に気づき、顔を赤らめた美玖は慌てて唇を離した。
頭を撫で、美玖を落ち着かせると、私はロックオンと刹那と共に性能実験施設へ向かった。
「いやはや……まさかアンタが壁ドンされる側だったとはね」
「そ、それ以上言わないでください。恥ずかしいですよ……」
それにしても、未成年の刹那に気を遣っているロックオンが、まるでお父さんのようだ。
身長の差も相まって、素性を知らない人から見れば、普通の親子にしか見えないだろう。
沙慈の姉――絹江・クロスロードを向こうの世界に送り返し、修復されたラジエルと新造のGNセファー、そしてグラーベ・ヴィオレントの亡骸をシャルに引き渡した2日後、私は新しい世界を探索する為に、ハロを連れてフリーダムで出撃した。
クロスゲートを通り抜けた先には、青い空が広がっていた。
機体に制動をかけると、私はコックピットに差し込む光源に目を向ける。宇宙空間で見る高熱の恒星ではなく、日差しと表現すべき暖かな光。大気層を透過して地表に降り注ぎ、地球上の生命に恩恵を与える太陽の光が、そこにあったのだ。
そう、ここは地球だ――が、外気圏の外側に設置された軌道エレベーターのオービタルリングが見当たらなかったので、ここは00世界の地球ではないことが分かった。
徐々に高度を下げて、行き過ぎる靄がスクリーンの外を流れ、何も見えない白い闇がフリーダムを包む。迅速に下がる高度計を視野に入れつつ、私は濃密に渦巻く雲を見据え続けた。
「現在高度は30,000ft……そろそろか」
そして巻積雲を突き抜けた先に広がるのは、ぽつぽつと浮かぶ積乱雲と、その下に広がる広大な大海原だった。大洋は青く透明なガラス板になって地球の表面を蓋い、弧を描く水平線がその先に横たわり、空と海――緩やかに入り混じる二つの青が世界の際を浮かび上がらせている。
旅客機の窓口からでも見れる景色だが、コックピットのメインスクリーンから見るこの景色は、それとは比べ物にならない程の壮大さがあった。
だが、私が眼前の景色を堪能しているそこに、コックピットに警告音が鳴り響いた。
「近くに飛翔体を探知……方向は真下、こちらに向かっているのではない。一般通過か」
瞬く間に、その飛翔体の3D画像と「B747-400」の名前がサブモニターに表示された。
どうやら、フリーダムの真下を通過した飛翔体は「ハイテクジャンボ」と呼ばれる大型ジェット旅客機だったようだ。
「こいつが現役の旅客機だったとしたら、ここは20世紀末期か21世紀の地球……!」
急いでコックピットの電子時計を確認すると、私の推測が的中した。
日付きは西暦2017年8月18日で、時刻は日本標準時10時51分と表示されていた。
これでは不味いな、人間は本能的に未知のものを恐れるんだ。ガンダムみたいな巨大ロボットが頭上を飛んでいたら、きっと大騒ぎになるに違いないだろうな。
幸い近くに陸地があったので、私はフリーダムを地上に降下させることにした。高層ビルが立ち並んでいる市街地を迂回し、フリーダムの進路を
フリーダムを高い木が密集する場所に移動させると、片膝をつかせてミラージュコロイドを散布させ、森の中に隠匿した。コックピットから飛び降りた私は、マスターハロに備わっているノートパソコンを使い、この世界の情報を収集することにした。
24世紀のセキュリティを僅か10秒で突破して見せたハロにとって、21世紀のセキュリティなんて容易いものだ。ネットワークのセキュリティを突破した直後、私は予め用意した個人情報を政府や銀行のサーバにアップロードする。
「これが、この世界の地図か」
私がよく知っている時代ではあるが、地名の表記に違いがあった。
ざっと地図を見る限り……ここは日本の静岡県浜松市西区で、近くにある湖は「浜松湖」という名前だそうだ。
「浜名湖ではなく、浜松湖か……まさかと思うが、この世界はもしや――!?」
検索、キーワード入力。
シルヴィア・ル・クルスクラウン・ソルティレージュ・シスア……。
一瞬の後、ノートパソコンのスクリーンに色んな情報が表示された。
その中には幾つ、気になる情報があった。
日本外務省と北欧に位置する「ソルティレージュ王国」に関する外交文書はもちろんだが、私の気を引いたのは――ヤジマ商事のプラフスキー粒子に関する研究報告だ。むろん、書類の作成者は「アーリージーニアス」の二つ名を持つ少年――ニルス・ニールセンだ。
ニルスをエイフマン教授に会わせたら、面白いことが起こりそうだな。
それはさておきとして――。
この世界はガンプラバトルが世界的に普及している世界であると同時に、私が一番お気に入りのエロゲ『金色ラブリッチェ』の要素も含まれていた。私が知っている複数のアニメやゲーム作品を内包したこの世界を「融合世界」と称してもいいだろう。
ネットワークの記事によると、シルヴィは北欧の代表として第七回世界大会に参加し、使用ガンプラはRGウイングガンダムゼロEWで、戦績はベスト8。最後の試合の相手は3代目メイジン・カワグチで、使用ガンプラはHGケンプファーアメイジング。
ツインバスターライフルを最大出力で連射させ、ケンプファーアメイジングを撃墜寸前まで追い込むものの、ウイングゼロは連射の反動を耐え切れず、機能停止に陥った為バトルを棄権か。
「あのユウキ・タツヤを撃墜寸前まで追い詰めたとは、彼女は強いな」
シルヴィのファイターとしての実力を感心しつつ、ハロを持ち上げた私は丘の下にある商店街に向かうのだった。
この世界は「融合世界」である為、たとえ彼女が原作のシルヴィと同一人物だとしても、原作と同じ行動を取るとは限らない。彼女がピアノだけでなく、プラモデルにも興味を持っていることが何よりの証拠だ。何れにせよ、彼女とは一度会うべきだ。
「(さて、シルヴィはエルと護衛たちを振り切って、メロンパンを買いに来るか?)」
商店街を散策していると、店の外に数十人が並んで立っているパン屋が視界に入った。
店の外に置いてある看板には「デラックスメロンパン、お一人様2個まで」と書いてあった。
メロンパンか……彼女の大好物だな。
売り切れを想定して、私も列に並んでデラックスメロンパンを二つ買った。
「にしてもこのメロンパン、随分と大きいな……」
成人男性の掌以上の大きさを持つメロンパンに対する、私の感想だった。
その後、私はパン屋の隣にあるプラモ屋に入店し、RGフリーダムとデスティニー、そしてRGエクシアのプラモを購入した。エクシアは刹那に贈るつもりだ……興味があればいいのだが。
プラモ屋を出ると、大通りの反対側から青と白を基調とした制服を身につけた金髪翠眼の少女が走ってきた。パン屋の前で立ち止まり、落ち込んだ表情で「売り切れ」の看板を見つめる。
「メロンパンが、また売り切れちゃってる……うぅ」
間違いない、彼女がシルヴィだ。
私の予想通り、エルと護衛たちを振り切ってメロンパンを買いに来た。
「失礼……シルヴィア王女殿下とお見受けしますが、相違ございませんか?」
「……っ!?」
私が話しかけると、シルヴィは少し驚いたように振り向いて私を見上げた。
「列に並ぶ人がいつもより多くて、メロンパンがあっという間に売り切れてしまっていましたよ。もし良かったら、これを――」
そう言いながら、私はレジ袋から先程のパン屋で購入した、ビニール袋で包装されたデラックスメロンパンを取り出し、シルヴィに手渡す。
「わたしがもらっちゃって……いいの?」
シルヴィの言葉に、私は頷いて微笑した。落ち込んだ表情をしていたシルヴィが笑顔を浮かべて「ありがとう」と礼を言いながら、デラックスメロンパンを両手で受け取った。
サラサラとした長い金髪を指で梳き、エメラルド色の瞳で私を見つめながら、彼女は丁寧に自己紹介をした。
「わたしはシルヴィア、シルヴィア・ル・クルスクラウン。長いからシルヴィって呼んでくれたら嬉しいわ。貴方のお名前を教えてもらえるかしら?」
ここは一人称を変えよう……「私」ではなく、普遍的に使われている「俺」の方が自然だろう。
そう言えば、アセムが通う学園に潜入したゼハートも同じことをやってるな。
「俺は悠凪……絢瀬悠凪です」
つづく