世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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※お知らせ
主人公の一人称が2パターンある理由につきましては、前話のラストを参照してください。


第27話 ガンプラバトル

 太陽に惹かれる、笑顔に満ちた太陽に。

 シルヴィの笑顔は、いつも私を癒してくれる美玖とは別の美しさを感じさせる。

 

 青い空の日光に照らされ、私は彼女の顔を見下ろした。風で乱れた長い髪は美しい金色で、肌理の細かい肌は透き通るように白い。網膜に焼きついているエメラルド色は、先程より鮮烈な光彩が咲いている。その高貴な美しさに、私は思わず見とれてしまった。

 

「ハロ……ハロ……」

「あら?」

 

 ふいに、無機質な声が耳を駆け抜ける。

 メロンパンを受け取ったシルヴィは、私の足元にいる丸い物体に視線を向けた。

 

「この子は、もしかして……ハロ!?」

「ハロ! シルヴィ!」

 

 ハロは上部の左右に付いている二枚のカバーを鳥の羽のようにバタバタさせ、両眼に内蔵されたLEDライトを点滅させながら、シルヴィに挨拶をした。一瞬驚いた表情を見せたシルヴィは一歩引いてから、ハロを睨みつける。

 

「この子は喋れるんだ……市販品、じゃないわよね?」

「ええ、友人から貰った贈り物です」

 

 私がそう言うと、シルヴィは興味深げな表情を浮かべて、私の目を見上げていた。

 

「そうなんだ! もう少し話を聞かせてもらえるかしら? 貴方の事と、ハロの事を」

 

 麗しき王女からの誘いだ。断る理由なんてない。

 

「それはありがたき幸せ――」

「うーん……わたしが王女だからって、そんなに畏まらなくていいんだよ、悠凪さん」

「じゃあ、俺のことも呼び捨てでいいぞ、シルヴィ」

「ええ、そうさせてもらうわよ、悠凪!」

 

 午後1時、どこのレストランもサラリーマンで満杯という時間は終わり、商店街は一時の閑暇期を迎えている。とろとろと行き来する子供連れの主婦や高齢者たちに混じり、私とシルヴィは当所なく商店街を歩きながら、メロンパンを食べていた。

 パン屋に本屋、洋装店に食材店。通りの両側に並んだ店先からは、時折ホットドッグの香ばしい匂いや、油をたっぷり使った唐揚げの香りが漂ってくる。

 

「あれって……ソルティレージュのお姫様!?」

「肩を並んでいる男は護衛の騎士さんかな?」

「足元のハロを見ろ! あいつ……動くぞ!」

 

 すれ違う人々が少し窺うような目をこちらに向けてくるが、我々は気にしなかった。

 

「ねえ悠凪、このハロを贈ったご友人は――」

「機械いじりが好きな女の子だ。また会えるかどうかわからないが……」

「会いたいけれど、会えないお友達かしら?」

「ああ、そういうところだ」

 

 と、適当に誤魔化した。

 

 機械いじりが好きかどうかは分からないが、無から有を生み出す女神なのは確かだ。

 別れる際、カレンはストーカーじみた発言をしていた。いつか再会できると、私は信じている。

 

「もしキュロちゃんが傍にいたら、ハロに紹介できたのに……」

「キュロちゃんって、チョコボーロというお菓子のマスコットキャラか?」

「ええ、そうよ! わたしの一番のお友達なの!」

 

 キュロちゃんのことはもちろん知っているが、私はあえて知らない振りをした。

 

「あれは、喋れないぬいぐるみ……じゃなかったのか?」

「ふふっ……わたしのキュロちゃんは、喋れ動けるように改造が施されているのよ!」

「ジオン、ではなく……『ソルティレージュ驚異のメカニズム』……と言うべきか?」

 

 そう言って私が微笑む。

 こちらに見上げたシルヴィは一瞬ポカンとしていたが、すぐにぱっと笑った。

 

「……ふっ、ははっ……この前、お友達からも……言われてたわよ……ふふっ!」

 

 それから商店街を抜け、大通りに足を踏み入れた我々は、そこにあったプラモ屋に目を付けた。

 メロンパンを食べ終えたシルヴィは、私が手に持っている大きな袋を眺めつける。

 

「悠凪は……ガンプラバトルに参加したことがある?」

「いや。興味はあるが、一度も参加したことがないぞ」

 

 私が返事すると、シルヴィは微笑みを浮かべながら、両手を後ろに組み、意味ありげな眼差しでこちらを見上げた。

 

「なら、わたしが悠凪の相手をしてあげるわ!」

「それはありがたいんだが……学校の方は大丈夫か?」

「大丈夫、時間にまだ余裕があるわ。行きましょう!」

 

 

 

 

 

 シルヴィの誘いを受けた私は、彼女に引っ張られたままプラモ屋に入店した。

 パン屋の隣にあったプラモ屋より規模が大きく、店の最奥には中規模のバトルシステムが三つも備わっている。

 

「あっ、今日はスノーホワイトを持って来なかったな……」

 

 スノーホワイト……聞いたことがある名前だが、どの作品の機体だ?

 と、私が考え込んでいる間に、シルヴィはカウンターの端で店員に声をかけていた。

 

「すみません、バトル用のガンプラをレンタルしたいんですが……」

 

 シルヴィがレンタルできるガンプラから『敗者たちの栄光』に登場するウイングガンダムEWを選んだ。私はフリーダムが欲しいんだが、すでに他の人に貸し出されていたので、シンプルで使いやすいのエールストライクガンダムを選んだ。ちなみに両機どもRGだ。

 それから、我々は店員に案内され、プラモデルがいっぱい飾っている店内を進み、最奥の部屋に通された。部屋の中央には、中規模のバトルシステムが設置されている。

 

 店員がバトルシステムを起動させると、「ガンプラバトルをどうぞ、お楽しみください」と言い残して退室したのだった。

 

「さあ、ガンプラバトルを始めましょう! 悠凪!」

「ああ……シルヴィ!」

 

 先程シルヴィが言った「スノーホワイト」がどの作品に登場する機体だったのか、この時の私は思い出せなかったのである。

 

『Gunpla Battle combat mode, startup. Model damage level, set to C.』

 

『Please set your GP Base.』

 

 バトルシステムから発した英語の機械音声が、部屋中に響き渡る。

 私がシステム音声の指示通りにGPベースを設置すると――。

 

『Beginning Plavsky particle dispersal.』

 

 バトルシステムから大量のプラフスキー粒子が放出され、バトルフィールドの生成を始める。

 光の粒子がキラキラと輝き、幻想的な星空を彷彿とさせる。プラフスキー粒子はGN粒子並みに綺麗な粒子だと、私は思う。

 

 GN粒子はイオリア・シュヘンベルグが発見した変異ニュートリノ(中性微子)である。プラフスキー粒子は反粒子同士の結合によって生成された、ガンプラの素材になっているプラスチックにのみ反応する粒子で、両者の性質や作用が少し似ているが、本質的に異なるものだ。

 

『Field 1, Space. Please set your Gunpla.』

 

 指示通りにエールストライクをGPベースの前方にあった空きスペースに設置する。

 バトルシステムによってスキャンされたエールストライクのツインアイは金色に発光し、普段は動かないガンプラが、プラフスキー粒子によって命が吹き込まれたのだ。

 

 そして、私の前方に三つのモニターと球状のコントローラー――アームレイカーが生成された。

 リ・ガズィやニューガンダムのコックピットにも採用したものだ。フリーダムのレバー式操縦桿とは勝手が違うが、使いこなして見せるさ!

 

『Battle start.』

 

 アームレイカーを手に握った瞬間、バトル開始の知らせが響いた。

 

「シルヴィア・ル・クルスクラウン、ウイングガンダム……行きます!」

「絢瀬悠凪、ストライク、出る!」

 

 エールストライクがバトルフィールドに進入した直後、私はプラフスキー粒子により生成されたアームレイカーを左右に動かしながら、機体の動作を確認する。

 

「流石はRGだ。関節可動域、反応速度、旋回性能は申し分ない」

 

 ガンプラバトルにおけるガンプラの性能は、その情報量や完成度に比例する。

 RGはHGと違って「本物であること」を追求し、HGと同じスケールでありながら、情報量はMGと同等かそれ以上という非常に緻密なモデルだ。デカールを貼って、スミ入れや艶消しなどを施しただけで、その完成度は並の改造ガンプラを凌駕する。

 

「(動かし方は本物のMSとほぼ同じ……ただ、操縦桿がアームレイカーになっただけか)」

 

 エールストライクを操作してフィールド内を飛び回っている最中に、サブモニターに接敵警報が表示され、シルヴィが操るウイングガンダムEWの姿がメインモニターに映し出された。

 

「……俺を待ってたのか?」

『ええ、実際にガンプラを動かして、どうだったのかしら?』

「今まで遊んだゲームとは勝手が違うが、やりようはある。それに、こいつはハマる!」

『それは良かったわ。さあ、始めるわよ!』

 

 

 

 

 

 天使の羽根に似たスラスターを閃かせ、デブリを飛び石伝いに渡りながら、ウイングガンダムがしなやかに宇宙を跳んだ。私は一瞬よぎった白い機影をモニターの中に追った。だが、流星に似たそれは二度と姿を現さず、新たに起こった爆発が、白い光芒を虚空に閃かせた。

 

「なっ、バスターライフルの砲撃!?」

 

 シルヴィは機体を後方へ下がらせたと同時にバスターライフルでデブリ帯を一掃したのだ。

 細かな塵を蒸散させながらこちらに殺到したが、私はぎりぎりのところでそれを躱し、57mm高エネルギービームライフルで応射する――が、代わりに直撃を受けた岩塊が砕け散り、灼熱した破片が四方に飛散する。

 

 ウイングガンダムはその破片の一つを蹴り、バードモードに変形してから離脱していった。

 だが、その軌道は見切っている。己の直感に従ってアームレイカーを握り、機体を移動させつつビームライフルを撃つ。緑色の光条が虚空を裂き、ひらりと身を躱したウイングガンダムの機影がデブリの中に浮かび上がった。

 

「ライフルを速射モードに――当たれっ!」

 

 速射モードに設定された光弾がバスターライフルの銃身を掠め、誘爆させた。バスターライフルを損失した以上、残った射撃武装は2門のマシンキャノンのみ。ウイングガンダムがやむなく後退すると、私はエールストライクの速度を上げて、追撃に転じる。

 

『初めてバトルをするのに、悠凪は強いな……』

「この試合……勝たせてもらうぞ、シルヴィ!」

 

 私が左腕の対ビームシールドを投げ捨て、左手でエールストライカーバックに装備されたビームサーベルを引き抜いた。対するシルヴィのウイングガンダムもビームサーベルを引き抜き、こちらに向かって突っ込んできた。

 

『初心者が相手でも、わたしは負けないんだから!』

 

 斬り結んだサーベルが反発し合い、残粒子を火花のように散らしながら互いの機体が離れる。

 即座に体勢を立て直して、照準画面の向こうにいるウイングガンダムを見据えた私は、シルヴィとの通信回線を開いた。

 

「そう言えば、シルヴィ。君がガンプラに興味を持ち始めたきっかけはなんだ?」

『これは数年前の出来事なんだけど。わたしが本国にいた時は、ガンプラの話になると早口になる殿方にプラモのお店に連れ込まれちゃったのよ。それから紆余曲折があって、ガンプラとガンプラバトルに興味を持って始めた……ふふっ』

 

 ガンプラの話になると早口になる男か。心当たりがある――そう、イオリ模型の父子だ。

 まさかと思うが、シルヴィに名前を伺ってみるか。

 

「そ、そうなんだ……その男性の名前は、今も覚えてるか?」

『その殿方はセイ君のお父さん……イオリ・タケシさんよ!』

 

 やはりあの人だったか……!

 それにシルヴィはイオリ・セイのことを「セイ君」と呼んでいる、どうやら知り合いのようだ。

 

『さあ、ここからは本気で行くわよ!』

「その本気……俺の本気で答えるぞ!」

 

 喜悦に満ちたシルヴィの声と共に、手近にあるデブリを蹴った勢いで反転したウイングガンダムがまっすぐ、こちらに突っ込んでくる。足元に回り込まれたと思った時には、下からすくい上げるビームサーベルの光刃が私の視界を占拠した。

 

 ――ここは、ホリゾンタル・スクエアで決める!

 

 鋭敏に覚醒している意識が対処を促し、アームレイカーを握り締めた私がビームサーベルを振り上げ、片手剣ソードスキル「ホリゾンタル・スクエア」を繰り出す。二振りの粒子束が激しくぶつかり合い、爆発より鮮烈な閃光をデブリの海に押し拡げた。

 

「(行ける……このまま一気に押し込む!)」

 

 だが、戦局はクライマックスを迎えたこの瞬間、突如現れた巨大な手がフィールドに侵入したと同時に――。

 

『Battle aborted.』

 

 バトルが強制的に中止されたのだった。

 周囲を見渡すと――いつの間にか、シルヴィの隣に騎士を思わせるような赤銅を基調とした鎧のような服を纏い、腰に騎士剣を携帯した金髪美女が立っていた。そんな金髪美女は、怒りの表情でシルヴィを眺めている。

 

「シルヴィア様……学園を抜け出してガンプラバトルをしていたのですか?」

「あっ、エル……ご、ごめんなさい……」

 

 その金髪美女の名前は、エロイナ・ディ・カバリェロ・イスタ。

 愛称はエル。シルヴィの近衛警護を務める女騎士で、実の姉でもある。

 

「さて……貴公を拘束させていただきます。異論は認めません」

 

 その後、私はこの金髪美女――エルに身柄を拘束された。老執事と数人の黒服は私が持っているガンプラが入った袋を調べている。刃物を突きつけてくる黒服を、全員無力化して脱出する自信はあるが、ここはじっとしておこう。

 

「シルヴィア・ル・クルスクラウン・ソルティレージュ・シスア様は、誉れ高きソルティレージュ王国王家、シスア家のご息女であらせられる、ソルティレージュ王国の第九王女。即ち、我が祖国ソルティレージュの至宝とも呼ぶべきお方なのだが……そのことを知っていたか?」

 

「もちろん、存じております」

 

「そうか……ボラルコーチェ、袋の中身はなんだったのです?」

「ほっほっほ……そう警戒なさる必要はなかったようですな。袋の中身は、危険物の類ではございません。ガンプラです」

「もうエルったら、悠凪を解放しなさい! わたしにメロンパンをご馳走してくれたのよ、悪い人じゃないだもの!」

 

 袋の中身は危険物ではなかったと知り、エルはすぐに警戒を解いた。そしたら、隣に立っている黒いコートを着た女性は私の拘束を解いてくれた。事情を理解したエルは、申し訳なさそうな表情を浮かべながら頭を下げた。

 

「申し訳ありませんでした。数々のご無礼を、どうかお許しいただきたい……」

「エロイナさん。貴女はただ護衛としての職務を全うしているだけです。謝る必要はありません」

 

「ですが……王女殿下から目を離さないようにした方がよさそうですよ」

「ご忠告、感謝します」

 

 そう言い残して、私はガンプラの入った袋を手に取って、ハロを連れて部屋を後にした。

 

「悠凪……待って!」

 

 だが、突然後ろから声をかけられ、振り返ると、シルヴィが立っていた。

 

「わたしたちは……また、会えるの?」

「俺たちはいずれ再会する。急ぐことはないんだよ、シルヴィ」

 

 シルヴィは笑顔を浮かべながら「じゃあ、約束ね!」と別れの挨拶をしたのだった。

 

 つづく

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