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シルヴィ一行と別れた後、私は愛機と共にリベル・アークに帰還した。
彼女の笑顔とガンプラバトルのことを思い浮かべながら、寝室のドアを押し開いた。
私の眼差しの先には、アームチェアに座って静かに眠っている美玖の姿があり、隣の机の上にはしおりが挟んである分厚い本と、紅茶のカップとポットが置いてあった。
彼女の美しい眠り顔を眺めていると、思わず触りたくなった。
すると、彼女がゆっくりと目を開け、私が慌てて彼女から手を離した。
「……お帰り、悠凪くん」
「た、ただいま……美玖」
気だるそうな美玖が返事すると、座っていたアームチェアから立ち上がった。
左手で目を擦りながら「わたし……寝ちゃってたんだ」と小さく呟いてから、私を見あげる。
「悠凪くんは嬉しそうですね。新しい世界で何かいいことでもあったのかしら?」
「それはな……面白い遊びを見つけたんだ。私が説明するより、映像を見た方が分かりやすい」
美玖にそう尋ねられると、私は机の上に置いてあるノートパソコンを起動させ、第七回ガンプラバトル選手権世界大会の映像を美玖に見せる。彼女は返事をせずに、興味津々にディスプレイから流れる映像を見つめた。
彼女が映像を観ている間に、私は机の方に振り向いて、上に置いてあった本を持ち上げる。
タイトルから察するに、どうやら平行世界を題材にしたSF小説のようだ。物語の主人公が並行世界に迷い込み、自分と同じ顔を持つもう一人の自分に出会い、時に対立し、時に共闘する……。
中々面白い構成だな、と心からそう思いつつ蓋を開けようとした瞬間――。
「悠凪くん、この書類なんですが……」
美玖は一枚の書類を手にして、笑顔を見せながら私に尋ねてくる。
その書類は、私が向こう側から取り寄せてきた、私立ノーブル学園の入学申請書だった。
「もしかして、学校に行きたいのですか?」
「ああ……前の人生の高校生活には、いい思い出がなかったからな」
シルヴィとの再会を果たしたい、学生の身分を利用して向こう側の世界情勢を調べたい、などの理由もあるが、一番の理由は「もう一度高校生活を体験したい」ということだ。
前の人生の高校生活で、自分が非常識なクラスメイトや三流教師たちからどんな仕打ちを受けていたのか、今になっても覚えている。
迫害されたことも、全員を机で思いっきりフルスイングしたこともだ。暴力はよくない、なんて言う者もいたが、心身が疲弊していた当時の私にとっては、ただの綺麗事でしかなかった。
「もし機会があれば、もう一度高校に行ってみたかったんだ――」
「そうなんですか。では、わたしも連れてってもらえませんか?」
私の腕をしがみつき、胸を押し付けてきた美玖は、上目遣いで私を見上げる。
もう、可愛い過ぎだろう! こんな風におねだりされたら、私は断れないな。
「ああ、いいよ。君が傍にいてくれれば、きっと何があっても私は前を向くことができる」
「ふふっ……やった!」
と、美玖は嬉しそうに呟いた。
彼女がノーブル学園の制服を着た姿が見たい、という個人的な欲望もあるのだがな。
「相手との関係の欄はどうしようかな……?」
「うーん、恋人や婚約者とか書いたら、学校側に怪しまれてしまいますわね」
思考の末、私の脳内にはある案が思い浮かんだ。
「なら……血のつながりのない『義理の兄妹』ってのはどうだ?」
「悠凪くんがお兄ちゃんですか……ふふっ、それもいいですね!」
そう言えば、隼人は中卒止まりだったな。
高校行きたいのに、毒親のせいで高校行けなかったと、前世で私にを溢したことを思い出した。
これはチャンスだ。彼がカプセルから出られたら、この話を持ちかけてみるか。
それからしばらくが経つと、刹那にエクシアのプラモを渡すべく、私は直接刹那とロックオンが泊まっている部屋を訪ねることにした。
長い舗装路を歩きながら、美玖が何故私についてくるのか疑問に思った。
「ふっ、ふふっ……」
さっきから私の腕にしがみついて歩く美玖が、満面の笑みで笑っている。
胸の感触が柔らかくて気持ちいいのは確かなのだが、ちょっと手に力入れすぎだろ!
「み、美玖……?」
恐る恐る彼女に尋ねてみると、彼女がはっとした顔をして私を見上げて「セイエイさんがどんな表情をするのか、楽しみです!」と今更ながら、愛らしい笑顔を浮かべて私に返事をした。
「……そ、そうか」
震える声で答えると、ふいに美玖が「着きましたわ」と私に伝える。
そう、眼前に見える小さな建物が、刹那とロックオンが泊まっている屋敷だ。
「刹那、君に渡したいものが――」
そう言いながら「トントン」とノックするとドアが開かれ、我々は互いの顔を見合わせた。
「絢瀬悠凪に、鳳凰院美玖か……ん、その袋は?」
「私が探索先で手に入れたものです。君に渡したいと思いまして――」
そう言うと私はRGエクシアの入った袋を刹那に渡す。
一瞬の後、袋の「中身」を取り出した刹那の目が、キラキラと輝き始めた。
「ガンダムのプラスチックモデル……向こう側では『ガンプラ』と呼称しているオモチャです」
「……こ、これは……エクシアの、プラモデル⁉」
箱に印刷されたエクシアのイラストを眺める刹那は、驚きと喜悦が入り混じった表情を浮かべていた。えっと、これは「ガンダムバカ」が「ガンプラバカ」への進化を遂げた瞬間か……と心からそう考えている間に、美玖はもう一つの袋からニッパーとスミ入れペンを取り出した。
「セイエイさん、こんなところで立ち話もなんですし……部屋の中でお話しましょう!」
「あ……うん、分かった」
「さあ……悠凪くんも!」
我に返った刹那が小さく頷き、私は美玖に手を引っ張られたまま部屋に入っていくのだった。
RGキットをプラモ初心者である刹那に作らせて大丈夫なのか、と少し心配していたが、余計な心配だった。箱の蓋を開き、取扱説明書を見ながらランナーを確認し、慎重にパーツをニッパーで切り取る刹那の一連の動きに、迷いは一切なかった。
「あっ……セイエイさん。パーツとランナーを繋ぐゲートは少し長めに切り、はみ出た部分をもう一度切る『二度切り』が効果的ですよ」
「そうなのか。分かった、やってみる」
ガンプラ初心者がよくやらかすミスの一つは、パーツをランナーから直接切り出すことだ。
幸いゲート処理を始め、美玖がしっかりフォローしているので、心配する必要はなかった。
それから刹那がスミ入れペンを取り、パーツにスミ入れしながら「そう言えば」と、私に一つの疑問を投げかける。
「俺たちの戦いは、別の世界ではフィクション作品として描かれていたのか」
「ええ……正直、私も驚きましたよ。もしかすると、私と美玖の旅も何処かの世界でフィクション作品として描かれていたのかもしれません」
刹那は一瞬だけ、驚いた表情を見せたが、すぐに冷静な表情に戻って「そういう可能性もあったかもしれないな」と、小さく呟いた。しばらく私と刹那も黙っていたが、やがてパーツの後処理を行っている美玖がクスクスと笑い出した。
「その作品を描いた作者さんが、空想の存在であるはずのMSが別の世界では実在している事実を知ってしまったら、どのような反応を示すのでしょうか……ふふっ……」
「ガンダムを目の当たりにした瞬間に発狂するか、又は卒倒しそうだな」
と、美玖と私が言うと、刹那が微笑みを浮かべたまま口を開いた。
「向こう側からすれば、創作物に登場する兵器が現実世界に現れたから、当然の反応だと思う」
それから話を進めると、私と美玖は刹那から、00世界にもプラモデルが販売されていることを知ってしまった。しかしながら、販売されているのは軌道エレベーターやスペースコロニー、資源衛星群などの建築物のプラモデルのみで、軍用MSのプラモデルは販売されていないようだ。
「最後はこのパーツを取り付けて――」
「ええ、これで完成ですね!」
約3時間後、我々は机の上に並んでいる2体のガンプラを凝視していた。
私のRGフリーダムはともかく、刹那が組み上げたRGエクシアはガンプラ初心者とは思えない程の見事な出来栄えだった。美玖がしっかりフォローしてくれたおかげでもあるが、刹那も意外と器用だな、と私がそう思った瞬間――。
「これが、エクシア……俺のガンプラ……!」
エクシアを凝視しながら、ガンダムバカが何かを呟いていた。
まるで空想癖の少年でも見守る微笑ましい気分で、私は笑い、美玖は口を開いた。
「ふふっ……セイエイさんは嬉しいそうですね」
「エクシアを見ていると、何故か……今までにない達成感が湧き上がってくるのを感じた」
「それは自分で作ったガンプラだからでしょうか?」
「いや、お前たちのおかげでもある……ありがとう」
あの無口で無愛想な刹那が言うような言葉とは思えなかった。しかも、満面の笑顔で。
本来の歴史の刹那に比べたら、随分と丸くなったような気がする。我々が組み上げたガンプラを観賞している最中に、部屋の外からドアをノックする音と、ロックオンの声が聞こえた。
「刹那、起きているのか?」
「ロックオンか……入ってくれ」
振り向きざまに刹那が返事すると、ドアが押し開けられ、ロックオンが部屋に入ってきた。
美玖が席から立ち上がって「こんにちは、ストラトスさん」と丁寧に挨拶し、片手を上げて挨拶を返したロックオンは、すぐこちらに視線を向けた。
「ロックオン・ストラトス……」
「へー、悠凪もいたのか。お二人さん揃って――こ、これは⁉」
机の上に並んでいるフリーダムとエクシアのガンプラに目を奪われたロックオンだった。
こうして、机の前に座って、2体のガンプラを観賞する人が、また一人増えた。
ロックオンは興味津々に2体のガンプラを睨みつけながら「こりゃすげぇな、何分の1スケールなんだ?」と私に尋ねてきて、私は「1/144スケールです」と返事をした。
「なあ……このエクシアを作ったのは刹那なのか?」
「いや、絢瀬悠凪と鳳凰院美玖と一緒に作った……」
刹那が微笑む。
その表情を見て、ロックオンは始めポカンとして、それから刹那の肩を叩いて言った。
「年頃の青少年らしくなったじゃないか、刹那。今すごく自然でいい笑顔だったぞ!」
「そ、そうなのか。ロックオン」
「ああ、お前だって見たこともないようないい笑顔だった」
ロックオンが笑っていた。
嘗てはクルジスの少年兵として戦場を駆け抜け、まともな生活を過ごせなかった刹那が同じ年の青少年のような笑顔を浮かべている。刹那は良い方向に変わっている、実に微笑ましい光景だ。
「そう言えば、刹那。向こう側の世界に行ってみたいと思いませんか?」
「ああ、行ってみたいと思う。ガンプラのある世界に……」
振り向いて即答する刹那。
「行きたいって……まさか、ガンダムで行くつもりじゃないだろうな⁉」
「それは目立ちすぎますね……だが、他の移動手段が――」
私が言うと、ロックオンが何かを思い出したように私に言った。
「いや、手段はある。プロフェッサー・エイフマンとイアンさんが作った『アレ』ならば――」
「ロックオン・ストラトス……『アレ』とはなんでしょうか?」
「アンタが出かけていた間に、二人が公園区画に建てたリング型の機械だ。直接見た方が早い」
その直後、我々はレールハイロゥに乗って公園区画に移動したのだった。
ロックオンの話によると、リング型の機械は公園区画の最奥に建造されたらしい。
そして最奥に向かって歩いてくと、草地に設置されたクロスゲートの形を模倣した、直径約2mのリング構造物が視界に入ってきた。周囲をよく見ると、ここはアルセイユが不時着した場所だ。
クロスゲートらしき構造物の周りには、数十機のグレーハロが手を伸ばして「ハロ、ハロ!」と無機質な機械音声を発しながらゲートを整備している。
私にとっては見慣れた光景だが、はたから見れば相当シュールな光景かもしれないな。
そして、その付近には、タブレットを操作しているエイフマン教授とイアンさんの姿があった。
そこから遠くない場所には机が置いてあり、スメラギたちがモニターを眺めている。アレルヤはトリニティ兄妹と共に、機材を運搬しているようだ。
「エイフマン教授、これ機械は……?」
「これはフリーダムの次元転移システムを解析し、その機能を可能な限り再現した転移門じゃ」
「絢瀬さん、これが転移門の図面です」
エイフマン教授が返事すると、クリスが転移門の図面を呼び出し、それを見て私は息を呑んだ。
この転移門は、フリーダムに搭載された次元転移システムと同じ原理で動くものだったからだ。
しかしながら、この転移門には幾つかの欠点があった。
フリーダムの次元転移システムと同じく、既に観測された世界にしか転移できない。データ不足分によって転移先の座標にズレが生じる可能性もあった。それに加え、移動中の物体内部にワームホールを開くことができず、出口のワームホールは30秒しか維持できないとのこと。
さらに……こちら側に戻るワームホールを開くには「特別な装置」が必要のようだ。
「教授、ここに書いてあった『特別な装置』とは何ですか?」
「それは次元アンカーじゃ……ハプティズム君、箱の中身にあった棒とコンソールパネルを持って来てくれんか?」
エイフマン教授の頼みに、アレルヤが頷く。
地面に置いてあった箱から長さ50cm程の金属棒2本とコンソールパネルを取り出し、エイフマン教授に手渡した。手にした2本の棒を連結させ、コンソールパネルを先端に取り付くと、それを草地に突き立てる。
「イアンよ、転移門を起動してくれ。リンク先はこの次元アンカーじゃ」
「……起動完了っと。フェルトとクリス、モニターから目を離すなよ!」
「「はっ、はい!」」
転移門の金属フレームが鈍く輝き始め、ワームホールが形成された。
同時に、草地に突き立てた次元アンカーも、銀色に輝き始めた。
「よし……絢瀬君、ワームホールを一回通過して見てくれ」
「分かりました……」
私が教授の指示に従い、転移門が生成したワームホールを通過する。
すると、次の瞬間――私は美玖の正面に立っていたことに気づいた。
「ゆ、悠凪くん⁉ いつの間に⁉」
「あっ、驚かせてしまったかな?」
不本意ながら、美玖を驚かせてしまったようだ。
「もう……悠凪くんったら、意地悪いですね」
と、頬を膨らませてそう言った後、美玖がワームホールの方へ歩いていき――。
「――先程の仕返しです!」
後ろから声が聞こえる――振り返ると、草地に突き立てられた次元アンカーの隣にワームホールが開かれ、間髪入れずに美玖が飛び出てきた。身体をぶつけられて、バランスを崩してしまった。
花畑に倒れた私は、まんまと美玖に馬乗りにされてしまった。
そう、仰向けの男の上に女が跨るという構図だ。
「んふ、美玖さんは相変わらず大胆だよね……」
「見ているこちらも恥ずかしくなる雰囲気だわ」
それは、ネーナとスメラギの感想だった。
「フェルトは未成年だから、見ちゃダメよ!」
「そう言えば刹那も未成年だ。こっち来い!」
顔を真っ赤にしたクリスが、フェルトの目を手で覆う。
その一方で、慌てたロックオンが刹那をクリスたちの方に連れて行った。
「えっ……ろ、ロックオン?」
「だから、お子様には早いって……!」
ロックオン・ストラトス……君は刹那のお父さんなのか⁉
「ったくよ……そこのお二人さん、乳繰り合うなら部屋でやんな!」
「ち、乳繰り――急に何を言い出すのですか、ハプティズムさん⁉」
いつの間にか、ハレルヤまで出てきた。
その言葉にいじられ、恥ずかしさに顔を赤らめた美玖は、振り向きざまに言い返した。
「ほっほっほっ、若いってのはいいのう……」
「全くだぜ、見ているだけで若い頃のワシとリンダのことを思い出すな!」
エイフマン教授とイアンさんまで……もう、ツッコミはやめた。
◇◆◇◆◇
それにしても、データを解析しただけでここまで再現するとは。
やはり、この二人は……凄い!
その後は調整を行いつつ、起動テストを繰り返していた。
美玖がクリスやネーナと一緒に、ハロをバスケットボールのようにワームホールに投げ込んだりしていた。本人たちが楽しんでいるので、見ているこちらも楽しい気分になった。
「ロックオン、ハロを……貸してもらってもいい?」
「ははっ……ハロ、フェルトとみんなと遊んでやれ」
「ワカッタ、ワカッタ!」
ロックオンからオレンジハロを借りたフェルトも、ボール合戦に参戦した。
女子4人が仲良し。傍から見ているだけで、思わず微笑んでしまう光景だ。
「この転移門を使えば、俺たちも元の世界に帰ることができるんだな。スメラギさんよ」
「ええ、ラッセの言う通りよ。でも、帰った瞬間に捕まえられてしまう可能性があるわ」
ラッセとスメラギが話していると、ハロをフェルトに貸したロックオンがこちらに歩いてきた。
「俺たちは国連軍に壊滅させられたことになっているんだ……今は、ここでじっとした方がいい」
「そうね。それにトレミーを失われた以上、例え武力介入できたとしも、補給には問題があるわ」
彼らの悩みも理解できる。
遊撃戦や後方支援目的で活動するフェレシュテと違い、チームプトレマイオスはガンダム4機とトレミーという移動拠点があればこその部隊だ。拠点という要を失われた以上、活動に支障が出るのも無理はないだろう。
「転移門の調整が終われば、向こう側の世界に行けるようになるな、悠凪」
「ええ……刹那の社会勉強の為に、ですね?」
私がそう言うと、ロックオンが身体を折り曲げて笑い出した。
「社会勉強ねえ……確かに、あのきかん坊には必要なものだな……ははっ……はははっ……」
2日後の昼、私と美玖は刹那とロックオンを連れ、エイフマン教授によって調整された転移門で向こう側の世界に転移した。
生成されたワームホールを通過した先に広がるのは、浜松湖の景色だった。後ろに振り向くと、豪奢な建物が我々の視界に入ってきた。外は一面の緑に覆われており、建物内に人の気配はまるでなく、鳥の囀り声だけが散漫に空気をかき回している。
3階建ての建物は高級感のある白い大理石で作られており、幅は200m近くある。正面玄関の前に車寄せを備えている。柵付きの壁は、長い風雨に耐えてきたことを教えて灰色に染まり、その背景には青空と雲が広がっている。広場の噴水が動作しているさまを見るに至っては、私の脳内に「富裕」の二文字を浮かび上がらせる程の壮大さがあった。
そして、門の横に立ててある看板には「私立ノーブル学園」と書いてあった。
そう、ここはシルヴィが通っている、貴族たちの通う学園だ。
今日は8月20日――日曜日だから、中に誰もいないのは当然か。
学園を離れた我々は、丘の下へ続く舗装路を通って、商店街にあるプラモ屋に辿り着いた。
この前、私とシルヴィがガンプラバトルを行っていたお店だ。
「どうしたんだ、刹那?」
「このガンプラは、0ガンダムに似ている」
店内に入った途端に、刹那は棚に飾っている、0ガンダムに似たガンプラに目を奪われた。
全身を灰色で塗装されたガンプラは、平坦かつ直線多めで構成されており、ガンダムタイプではあるが、量産品的な硬さを感じさせる。右手にライフル1丁、左手にシールド1枚という一般的な武装しか持たず、サーベルを2本マウントしている以外は0ガンダムと完全に一致している。
小説版ファーストガンダムではアムロ・レイの搭乗機となるガンダム。
その名前は――。
「形式番号はRXー78ー3。機体名はGー3ガンダムです」
「そうなのか。だが、形式番号に3を付けられていることは、このガンダムは――」
「ええ……劇中では、同型機が複数生産されています。Gー3は、その3号機です」
私が説明すると、刹那は棚に飾っているガンプラをしげしげと観察し始めた。
彼の視線を追い、ロックオンはガンプラから目を離せずに「ガンダムってのは色んな種類があるよな」と驚きと感心の入り混じった声で呟いた。
「こちらの棚には悠凪くんのフリーダムと、ストラトスさんのデュナメスが飾ってありますよ」
声をかけてきた美玖の方に近寄ると、我々は棚の最上階を見上げる――「自由の翼」と「深緑の狙撃手」は、そこにあった。
「デュナメス! デュナメス!」
「あっ、本当だ……!」
軽快に床を跳ねるオレンジハロが叫び、ロックオンが小さく呟く。
背中の能動性空力弾性翼を大いに広げ、ビームサーベルを構えたフリーダムの姿は、戦場に舞い降りる機械天使そのものだ。一方、デュナメスの腰部スラスターとなる部分が、キュリオスのGNミサイルコンテナになっており、その手に構えた巨大なビームライフルは――。
「まさか超高高度狙撃銃までご丁寧に再現されているとはな……!」
「えっと……『天を穿つ深緑の狙撃手』と名付けてはいかがでしょうか?」
「へー、お嬢はセンスがいいね」
◇◆◇◆◇
それから私が店員に「バトルシステムを貸していただきたい」と声をかけると、全員が中規模のバトルシステムが設置されている個室に案内された。
「君の対戦相手は私がしますよ、刹那」
「――ま、まさか⁉」
『Gunpla Battle combat mode, startup. Model damage level, set to C.』
英語の機械音声が部屋中に響き渡り、それに驚かされた刹那が私を見つめる。
「が、ガンプラ……バトル⁉」
「そう……これは、自分で作ったガンプラを操縦して戦うゲームです」
そう言いながら、私はポケットに入っているフリーダムを取り出す。
私の意図を理解した刹那は迷いなく、エクシアを取り出した。
「挑戦を受ける!」
私と刹那がバトルシステムの指示通りにGPベースを設置すると――バトルシステムから大量のプラフスキー粒子が放出された。
横で見ているロックオンは、難しそうな顔をしながら、腕を組んで考え込んでいるようだ。
「どうかしましたか、ストラトスさん?」
「なんだか、GN粒子に似ているな……」
「ちょっと違いますわね。このプラフスキー粒子は反粒子同士の結合によって生成された、プラスチックにのみ反応する粒子だそうですわ」
「そうなのか……お嬢は物知りだな……」
美玖とロックオンが粒子の話をしてる間に、フィールドの生成が完了した。
『Field 3, Forst. Please set your Gunpla.』
指示通りにガンプラをバトルシステムに設置する。
私がアームレイカーを手に握った瞬間、バトル開始の知らせが部屋中に響いた。
『Battle start.』
「エクシア、刹那・F・セイエイ、出る!」
「絢瀬悠凪、フリーダム、出る!」
つづく
戦闘シーンをもっと迫力を持たせるように書きたいので、ガンプラバトルは次回お預けです。