「エクシア、刹那・F・セイエイ、出る!」
刹那が左右のアームレイカーを押し上げて、自分の愛機のガンプラ――ガンダムエクシアを発進させた。背中のコーンスラスターからGN粒子を放ちながら、エクシアの機体が森林の上空を駆け抜けていった。ブラフスキー粒子によって生成されたメインスクリーン・モニターの映像が流れ、自然の景色が刹那の網膜に映る。
ブラフスキー粒子によって生成されたフィールドの景色とはいえ、本物と見違える程のリアルさを感じさせる。3つのスクリーンに映し出された青き空と広大な森林を見ていると、まるで自分がエクシアのコックピットに乗っているかのような錯覚さえ覚えた。
「操縦方法は本来のエクシアと大差ない。武装は――」
刹那がアームレイカーを動かすと、サブモニターに武装の選択画面が映し出された。
1番目のスロットはGNバルカン、続いて2番目はGNビームサーベル・ダガー。3番目はGNソード、4番目はGNロング・ショートブレイド。そして、5番目のスロットはエクシアの最大の切り札――トランザムシステムである。
「武装の構成はエクシアと全く同じか……ん、接近警報?」
突如、警報音が鳴り響き、正面のスクリーンに拡大投影された目標の数は、一つ。
センサーが捉えられるぎりぎりの距離である為、まだ粗い映像でしかないが、照合データに表示された「ZGMFーX10A」の形式番号は明瞭に読み取れる。
背中の翼を大いに広げ、まっすぐこちらに向かっているその機体は、世界を越えた戦友であり、自分が友人だと思っている男の愛機――フリーダムガンダムである。
映し出されたフリーダムが手に持ったビームライフルを構え、こちらに向けて一射した。
フリーダムは射撃戦に特化した機体である為、遠距離に於ける戦闘は白兵戦に特化したエクシアにとっては非常に分が悪い。何とか距離を詰めないと厳しい、と判断した刹那は、自機に急制動をかけた。GNシールドを突き出しながら、直進する熱線に向けてエクシアを突進させ――。
「エクシア、戦闘を開始する!」
と、刹那は口中で呟いた。
背中のコーンスラスターからGN粒子が噴出し、ビームの熱線を防いだエクシアはフリーダムに向けて速度を上げ、折り畳まれていたGNソードを展開するのだった。
◇◆◇◆◇
「まっすぐ突っ込んでくるか……ならば!」
牽制のビームライフルを連射するものの、刹那が操るエクシアは減速の気配を見せず、まっすぐ相対距離を詰めてくる。ここから先は白兵戦になると判断した私は、右手にビームサーベルを抜かせると同時に、2門のクスィフィアスを斉射する。
レールガンの砲弾は通常の実弾兵器より弾速が速い上、貫通力にも優れている。その為、直撃時の破砕力はビーム兵器より大きい。シールドを破壊できなくとも、爆風や衝撃で体勢を崩すことができる。そして、エクシアが砲弾の直撃を受け、ガード体勢が解かれた瞬間――。
「もらいましたよ、刹那」
と、呟いた私は、照準のサークルをエクシアの腹部に合わせる。
グリップからビームが発振され、刀状の粒子束を形成すると、文字通りサーベルとなったそれをエクシアの腹部に打ち込む。だが、確実に腹部を捉えたと思った斬撃が空を斬ってしまった。
『――背中は、もらったッ!』
「ほう……対応が速いですね」
僅か一瞬で、刹那に背中を取られてしまったが、事前に動きを読んだ私は最小限の動きでそれを回避した。刹那も回避されるのを予想していたらしく、GNバルカンを目くらましに使うと、スラスターを噴かしてフリーダムの上を取る挙動を見せる。
『――これで!』
と、機体を上昇させたエクシアは、腰部にマウントしたGNショートブレイドを投擲してきた。
投げナイフのように投擲してきたそれを、私は即座に左手のビームライフルで狙撃する。彼方に咲いた爆発の光輪を目撃した瞬間、それを突っ切ったエクシアが突き飛ばすような勢いで間合いを詰めてきて、私もフリーダムの機体を加速させた。
――武装選択……フルバーストモード!
エクシアとすれ違いざま、機体を回転させながらほぼ直角に進行方向を転じた直後、その頭上に目掛けてフルバーストを撃ち込んだ。GNシールドを突き出して防いだものの、フリーダムの全力砲撃を耐え切れないエクシアのGNシールドが爆発四散し、無数の細かな破片と化した。
GNシールドを損失したとはいえ、エクシアの本体は無傷だった。
風が黒い煙を吹き払い、右手にGNソード、左手にGNロングブレイドを提げたエクシアが姿を現し、こちらに突進してきた。
背中から大量のGN粒子が噴き出し、その中央にある頭部のデュアルアイ・センサーがキラリと輝く。ライフルモードに切り替えたGNソードを連射しつつ突っ込んでくるエクシアに、私はあらゆる火器を操って応射する戦法を取る。
そう、エクシアが放ってくる粒子ビームを、こちらのビームで撃ち落としてやればいいのだ。
それから2機のガンダムは、森林の上空を縦横無尽に駆け回りながら、互いにビームライフルを撃ち合っていた。背中の翼を大いに広げ、ハイマットモードに移行したフリーダムは、エクシアが放った粒子ビームをピンポイントで次々と撃ち落としていく。
衝突した熱線の奔流が一瞬だけの閃光となって、そして消えていった。
「悠凪くん、凄い……!」
「ピンポイントでビームを撃ち落すとは……こりゃすげぇな!」
と、横で観戦している美玖とロックオンは半ば驚き、半ば感心したように呟いた。
悠凪が操るフリーダムは、小刻みに動いて的を絞らせず、左手に持ったビームライフル、2門のバラエーナと2門のクスィフィアスを巧みに操り、エクシアに波状攻撃を繰り出す。GNシールドを損失した上で遠距離からの砲撃に翻弄され、エクシアは回避を強いられることになった。
「ん……刹那が、笑っている⁉」
そこでロックオンが、刹那の表情に気づく。
悠凪と一戦を交えることと、そして「ガンプラバトル」という遊び自体に、刹那は興奮を覚えたのかもしれない。これは、一種のトランス状態だったと言ってもいいだろう。
そして、その顔に浮かべた笑みはいつもとは違い、外見や本人の過去からは想像もできないほど幼く、何より純粋だった。そう、刹那はこの状況を、この遊びを心から楽しんでいるのだ。
あの無口で無愛想な刹那が、年頃の青少年みたいに笑えるようになり、丸くなっていた。
最大の功労者は、間違いなくこの二人だ……そう、今でも言える――。
「(アンタとお嬢と出会えて、本当に良かったな)」
ロックオン・ストラトスは、万感の想いを込めて心中に述べた。
◇◆◇◆◇
その一方で、戦況はクライマックスへと突入していた。
「撃ち合いではこちらに分が悪い、ならば……!」
フリーダムの分厚い弾幕を突破し、こちらの間合いに入り込みさえすれば勝機はあると、刹那は考えていた。その手段はエクシアにはすでに持っており、刹那もその使い方を心得ていた。
「回避だけでは、私には勝てませんよ。刹那」
「ああ、射撃戦ではお前には敵わない。だが、俺のエクシアには――切り札がある!」
刹那の言葉と共に、機体を赤色に光らせたエクシアはジグザグの軌道を描き、折り畳まれていたGNソードを展開してフリーダムに斬りかかった。だが、それ以上に素早く行動したフリーダムに先手を取られ、後退をかける間もなく「アンビデクストラス・ハルバード」に掠められた。
今は両端からビーム刃を放出するモードに設定されているが、これは通常MSの身長の倍以上の刃渡りを持つ巨大ビームサーベルにもなれることを、刹那はとうに知っている。それでも、刹那は臆することなく、フリーダムに向けてエクシアを突進させ――。
「うおおおおおっ!」
裂帛の気合いと共に、互いの獲物が衝突する。一時的とはいえ、トランザム中のエクシアの機体性能は、フリーダムを上回っている。機体性能のアドバンテージのお陰で、何とか間合いを詰めることができたが、どんな手を打ってくるか分からない。
ならば、こちらから先制攻撃を……!
鍔競り合いをしているそこで、刹那は左手に握ったGNロングブレイドを横薙ぎに走らせ、連結ビームサーベルを掴んでいたフリーダムの右腕が、上腕部から切り離される。
左腕のみになったフリーダムが素速くエクシアのから離れていく。宙を舞うサーベルの柄を回収すると、フリーダムは追撃しにきたエクシアに機体を正対させる。
「やりますね……刹那」
「それはお前も同じだ」
互いに実力を認め合う二人。
そう言い終えると、フリーダムは左手に持ったビームサーベルを掲げる。
「宴は必ず終わりがあります、それは試合も同じですよ」
「ああ、決着を付けよう!」
ガンプラバトルにおけるガンプラの性能は、その情報量や完成度に比例する。両機ども同一規格なら、トランザム中のエクシアの性能にアドバンテージがある。だが、パイロットとしての技量は悠凪の方が一枚上。どっちが勝つのか。正直、予想するのは非常に難しいと、美玖とロックオンも同じ意見を出した。
刹那は左手のGNロングブレイドを振り上げ、接近してきたフリーダムに振り下ろした。
だが、フリーダムがビームサーベルを振るって、刃を跳ね返す。
その勢いに負け、GNロングブレイドがエクシアの左手から零れ落ちた。
「――まだだ!」
刹那の攻勢は、まだ終わっていない。
機体を横ロールさせ、フリーダムが回避運動に入る。その姿勢制御スラスターの光から次の移動軌道を読み、エクシアのGNバルカンが先回りの火線を閃かせる。
そしてフリーダムの機影を追っていくと「ほう……」と弾けた無線の声を刹那は聞いた。感心と喜悦が入り混じった悠凪の声にひやっとし、彼は本気を出し切っていると思った途端、不意に身を翻したフリーダムが斬撃を繰り出してきた。
「(あの構え方は、ソードスキル⁉)」
刹那とロックオンにとっては、只の連続攻撃にしか見えないのかもしれないが、美玖にとっては見慣れた光景だ。ビームサーベルを肩に担いで腰を落とす――この構え方は、ソードスキルを発動する直前の姿勢である。
一体どんな攻撃を繰り出すのだろう、と思った途端に、袈裟斬りの勢いを殺さずに腕ごと大きく振った二撃目を目撃した美玖は、一つだけの答えが脳内に浮かんだ。
片手剣七連撃秘奥義「シャドウ・エクスプロージョン」
ゲーム作品『SAOReHF』に登場するオリジナルソードスキルで、特定のクエストをクリアすると使用可能な必殺技とされている。悠凪はこの技で、勝敗を決めようとしているのだ。
三撃目まで防いだエクシアだったが、次第に体勢が崩れてしまい、フリーダムがエクシアを両断するように袈裟斬りに光刃を走らせる。だが、それは刹那が咄嗟に引き抜いたGNビームサーベルによって止められた。
すかさず機体を転回させたエクシアが、素早く間合いから離れる。
その挙動を逃さず、スラスターを焚いたフリーダムが瞬時にエクシア背後を取り、四撃目を叩き込む。後ろに向き直ったエクシアはGNソードで受け止めて見せるが、スっと切れ目が入ったかと思うと、剣が真っ二つに断たれた。
スクリーン越しに折れたGNソードを眺める刹那は、ある事に気づいた。
「全く同じ場所に、三回の斬撃を打ち込んでいたのか⁉」
武器破壊――これは偶然なのか、それとも狙っていたのかは分からない。
だが、戦えば戦う程、刹那は悠凪の技量に感心せざるを得ないのである。
「私の攻撃は、まだ終わっていませんよ。刹那」
一瞬、フリーダムのデュアルアイ・センサーがキラリと輝き、ビームサーベルの光刃が足元から掬い上げてくる。それに驚かされた刹那は、夢中でアームレイカーを引いた。間に合うタイミングではなかったが、一拍早く機体を上昇させたエクシアは危険域から離脱していた。
五撃目が紙一重の差で空を斬り、石竹色の残光を青空に刻む。
だが、続けざまに振るった六撃目を躱し切れずに、左腕を丸ごと持っていかれてしまう。
「これで、終わりです!」
驚く間もなく、ビームサーベルの光刃がスクリーンと、刹那の視界を占拠した。
負けた、と覚悟した刹那だったが、直後にシステムの機械音声が部屋中に響き渡り――。
『Over the time limit. Battle ended.』
「「時間キレ! 時間キレ!」」
ハロとオレンジハロが復唱している中、バトルシステムが機能を停止したのだった。
◇◆◇◆◇
「エクシアもフリーダムも、無傷だと……⁉」
「ダメージレベルは『C』に設定してますので、ガンプラ本体にダメージはありませんよ」
破損されたはずの箇所が完全に無傷のままだったことに、刹那は疑問を禁じ得なかった。
後に私が説明すると、刹那は安心したようにため息をつき「そ、そうなのか」と呟いた。
「あと1秒残っていたら、俺は負けていた」
「ならば、今回は引き分けとしましょうか」
そう言って私と刹那は、握手を交わした。
「――わたしも、悠凪くんと一戦交えたいですわ」
「でも、君はガンプラを持ってないな。お店のガンプラをレンタルするか?」
「うん……悠凪くんはここで待っててください、すぐ戻りますから!」
我が妻の要望に応じて、二回戦のガンプラバトルを行うことになった。
ガンプラを持ってない彼女はバトル用のガンプラをレンタルすべく、部屋を出ていった。
美玖がどんなガンプラを選ぶのか……楽しみだ。
バトル用のガンプラを物色している美玖は、棚の最上階に飾っているガンプラに魅了された。
「金色の、ガンプラ……!」
金色――それは何者にも侵されない、一辺の曇りもない無垢な輝きである。
直線と平面からなる量産品的な輪郭を持ちながら、装甲全体に渡って複雑な面構成と鏡面加工が施されており、金色の彫像といった繊細な印象を保っている。額から突き出た、鶏冠をモチーフにした一本角もオブジェのような面妖さで、神秘的な面持ちをこのガンプラに与えていた。
縦に屹立する大型シールドを2枚、背部に負って立ち尽くすさまは、両翼を閉じた鳥の姿を想起させる。その下部には、鳳凰の尾をイメージしたテール・スタビライザーが取り付いている。
白き一角獣と黒き獅子、彼らにつづく三人目の兄弟であると同時に、ソロモン72柱に登場する不死鳥がモチーフとなっているガンダム。
そして、偶然ながらも、自分の苗字と同じ名前が冠されたガンダムでもある。
「ユニコーンガンダム3号機――
つづく