美玖が選んだのは、金色のガンプラだった。
宇宙世紀0095年、試験用に先行納入されたフル・サイコフレームの素体を元に、白い1号機と黒い2号機の建造データを反映して、地球連邦軍が独自に組み上げた金色のユニコーンガンダム3号機――フェネクス。
「なぁ刹那……あの金ピカって、あの時のガンダムに似ているよな?」
「――いや、2枚のシールドはあるが……形が全然違う」
あの戦いを思い出したロックオンに答えつつ、刹那は納得いかないという顔で頭を掻かく。
美玖の掌にあるこのガンプラは、間違いなくあの戦いに現れたユニコーンガンダムの同型機ではあるが、ユニコーンタイプには二つの形態がある。
それはガンダムの記号が隠れる一本角の「ユニコーンモード」と、ガンダムであることを完全に現す「デストロイモード」の二つの形態だ。
今のフェネクスは前者だから、刹那に形が全然違うと言われても仕方ないと思う。
「そう言えば、お嬢……このガンプラはなんて名前なんだ?」
「ユニコーンガンダム3号機――フェネクス、だそうですわ」
美玖が答えると、ロックオンがフェネクスを見つめて、言う。
「へー、苗字繋がりか」
「そうですね……まあ、一応フリーダムもありますが、悠凪くんと被るのは嫌だから――」
「だから君は、自分と苗字繋がりのフェネクスを選んだのか?」
私がそう言うと、美玖はゴクリと頷いた。
確かに、機体が被ったらややこしくなるから、違うガンプラを選ぶのも理解できる――が、よく見たら、アームド・アーマーDEの内側に青色のクリアパーツと可動ギミックが付いている。
このフェネクスは、デストロイモードに変身できると考えていいだろう。
HGは変身できないから……もしかすると、RG?
「美玖、ちょっとフェネクスを貸して」
「あっ、はい。どうぞ……」
慎重にフェネクスを受け取る。
そして、肩のパーツを軽く引っ張ってみると――装甲の拡張と共に、内部に隠されていた青色のクリアパーツが露出し、外から見えるようになった。これで、このフェネクスはRGであることがはっきりと分かった。
「ねえ、悠凪くん……わたし、もう待ちきれませんから、早く始めましょう!」
「じゃあ、早速ガンプラバトルを始めるとしよう」
『Battle start.』
と報告した英語の機械音声が、バトルシステムから発せられた。
「絢瀬悠凪、フリーダム、出る!」
「鳳凰院美玖、フェネクス、行きます!」
フリーダムを発進させると、宇宙に散乱する戦艦の残骸が視界に入ってきた。
いつでもビームライフルを撃てる態勢を維持したまま、私はセンサーで捉える距離までそれらを凝視した。マゼラン級戦艦と、サラミス級宇宙巡洋艦の残骸のようだ。
このフィールドはルウム戦役の跡地がモチーフとなっているのかもしれない。
「さて、フェネクスはどう出て――」
ふいに、微かに閃いたスラスター光が虚空に尾を引き、私は先の言葉を呑み込んだ。一瞬の後、遠方から飛来する金色のビームが残骸を穿ち、爆発光が闇を灼いた。引き裂かれた残骸が、爆風に乗って奇怪な舞踊をしつつ、高速で飛散する。
先手を取られた、と驚愕のあまりに機体を後退させて周囲に目を走らせた私は、爆発光とは違う青い光を視界の端に留めた。爆発光ともスラスター光とも違い、燐光に似た青い光を纏った金色の機影が、こちらに接近してくる。
「――速い⁉」
続けざまに飛来するビーム光にひやりとしつつ、私は口中に呟き、反撃とばかりに応射のビームライフルを放った。一撃、二撃、フリーダムのビームライフルが火を噴く。緑色の閃光が一瞬だけ閃き、蒸散した細かなデブリが無数の光輪を弾道に刻む。
――追われる側でなく、追う側に回るんだ!
そのつもりでライフルを撃ち続けたが、宙を舞うような軽やかなステップを見せたフェネクスに命中するはずもなく、ターゲットロストの警告がメインスクリーンに表示された。
索敵センサーに反応なし。
どっと冷汗が噴き出すのを感じながら、私は左右のスクリーンに目を走らせた。
「(何処だ……何処にいる……?)」
と、焦りに駆られて三撃目を放ち、すかさず機体を横ロールさせた私は、斜め後ろで凶暴な光が爆ぜるのを見た。至近距離を掠めたビームがフリーダムの全身を照らし、装甲に当たった残粒子がカンカンと小石のような音を立てる。
一瞬、メインスクリーンにフェネクスの機影が映り、私はアームレイカーを握り締め――。
「そこだ、当たれ!」
フリーダムを移動させつつ、バラエーナを一射する。
赤色の光条が虚空を裂き、ひらりと身を躱したフェネクスがデブリの中に浮かび上がった。
「……ん、外れたか」
再びビームライフルのトリガーを引く。機体の向きをこちらに正対させたフェネクスが、右側のアームド・アーマーDEを突き出して、ビームの軌道を屈折させた。間違いなく直撃コースだったにも拘らず、まるで見えない力場に弾道を捻じ曲げられたかの如く。
その力場の正体は「Ⅰフィールド・バリア」
ビーム兵器に対し鉄壁な防御性能を誇るバリアだ。
間髪を容れず、フェネクスは左腕に装備したビームサーベルを引き抜き、背部スラスターを全開しながら近づいてくる。懐に入り込まれた、と思った瞬間、美玖の息づかいが通信に響き『当たらなければ――』と、微妙に得意げな声音が私の耳を打った。
『どうということはありませんわよ!』
それはファンから「赤い三冠王」と呼ばれる男――シャア・アズナブルの名台詞だった。
同時にフェネクスのデュアルアイ・センサーがキラリと輝き、すれ違いざまの斬撃を繰り出してきた。咄嗟の判断でアームレイカーを動かして、危険域から離脱することができたが、ビームライフルを両断されてしまった。
――武装選択……ビームサーベル!
断たれたビームライフルを投げ捨て、ビームサーベルを振り出しつつフェネクスに突進する。
こちらに合わせるかのようにフェネクスもビームサーベルを抜き放ち、ぶつかり合うサーベルの干渉波が人工の雷鳴を轟かせていた。2本の光刃が矢継ぎ早に交錯し、飛散した高エネルギー粒子が光の鱗粉になって周囲に降り注ぐ。
「当たったとしても、さっきのようにⅠフィールドに防がれてしまうだろうな」
『ふふっ……』
美玖の微笑む声が耳に響き、同時にフェネクスの装甲の隙間から青い燐光が染み出し――。
「なっ、なにぃ⁉」
見えない斥力場に弾かれたように、フリーダムが後方に大きく吹き飛ばされた。
こちらが体勢を立て直すと、虚空に静止しているフェネクスが――。
悠凪くんに尽くしたい、全てを捧げたい……今でも、そんな気持ちが一杯です。
そして今、わたしは――この試合で悠凪くんに勝ちたい!
「悠凪くん……わたしの気持ちを、ちゃんと受け止めてくださいね」
サイコ・フィールドの斥力場に吹き飛ばされたフリーダムを凝視しつつ、美玖はアームレイカーを繰り、武装選択の画面から「NT-Dシステム」を選択する。
一瞬で、メインスクリーンの中央に「NT-D」の文字が浮かび上がり、ガンプラの状態を示すコンディション・モニターに図示される機体のシルエットが見る見る変化していく。
各部装甲がスライドし、背面に収納されたビームサーベルのグリップが持ち上がる。続けざまに二つに裂けた一本角がV字に展開し、併せて頭部両脇のパーツが半回転する。フェイス・マスクの下から現れたデュアルアイ・センサーが人間の目を模して閃くと、スライドした各部装甲の隙間から青い燐光が迸り――黄金の不死鳥が今、ガンダムへと変身した。
「へ、変形……いや、変身したのか⁉」
「色は違うが、あの時のガンダムだ……間違いない!」
一本角が左右に割れ、ガンダムに姿を変えたフェネクスを眺めつつ、ロックオンは驚いたように呟く。刹那は自分たちの窮地を救った、謎の白いガンダムを思い出しながら呟いた。
背部に装備した2枚のアームド・アーマーDEが弾け飛び、鳳凰の翼のように展開したそれらのサイコフレームが青色の光を放射した。それ自体に機動力があるかの如く、するりとフェネクスの傍らに移動してフリーダムのフルバーストを弾く。
「――オールレンジ攻撃か」
「そのようだな。まるでケルディムのシールドビットのようだぜ……!」
2枚のアームド・アーマーDEがファンネルさながら縦横に飛び、Iフィールド・バリアが受け止めたビームを偏向させる。もはや射撃武器は用を成さず、メインスクリーン越しにフリーダムを目視した美玖は、右腕を振りかざしてビームトンファーの粒子刃を顕現させた。
◇◆◇◆◇
美玖の公式設定には「隠れインドアゲーマー」と書いてあったが、ゲームが上手いという設定はなかったような気がする。でも今は……眼前の現実を、受け入れるしかない。
私は美玖に押されている。劣勢に陥っている。
ガンダムになったフェネクスではなく、彼女の実力に圧倒されているのだ。
ビームトンファーが一閃し、アンチビームシールドが真っ二に割れた。フェネクスとの間合いを離してバラエーナを叩き込むものの、金色に輝く不死鳥を取り囲み、自在に躍る2枚のアームド・アーマーDEがこちらの火線を弾き、ダメージを与えられなかった。
射撃が効かないなら、ソードスキルで決めるしかない!
それしか思いつかない私はアームレイカーを動かしてフリーダムを突進させ、右手に握り締めたビームサーベルを突き出して「ヴォーパル・ストライク」を繰り出す。
これなら届ける、と思った瞬間、残骸の陰から飛来するアームド・アーマーDEにぶつけられて体勢を崩してしまい、右手に握った筈のビームサーベルも零れ落ちてしまった。
『ソードスキル……悠凪くんならそう来ると思ってましたわ』
「まさか、私の動きを予想していたのか?」
2枚のアームド・アーマーDEがフェネクスの背中に戻ると、美玖の声が再び耳に響き――。
『それはもう、悠凪くんのことならば、美玖は何てもお見通しですよ!』
美玖が言うと、デュアルアイ・センサーを輝かせたフェネクスが虚空を蹴り、右腕のビームトンファーを振り出しつつ突進してきた。私はスラスター光からフェネクスの軌道を読み、残る1本のビームサーベルを抜き放つ。
――片手剣十連撃ソードスキル……ノヴァ・アセンション!
一撃、二撃、三撃――連続するスパークが閃き、互い一進一退の剣戟を繰り返していく。美玖もソードスキルで打ち返してくる事に、私は驚きを隠せなかった。だが、どんなスキルなのかまでは判別できなかった。
細剣スキルの「カドラプル・ペイン」……いや、五撃目が繰り出しているから、違うか。
再び交差するビーム刃がぶつかりあって弾け、スパークの閃光を虚空に爆ぜらせる。立ち続けに六撃目、七撃目に見舞われ、これは「スター・スプラッシュ」と思っていた――が、九撃目が繰り出されたのを見た瞬間、私は自分の予想がまた外れたことを知る。
「なっ、十一撃目だと⁉」
『この技はマザーズ・ロザリオ……知らないなんて言わせませんよ!』
スラスターを光らせたフェネクスがまっすぐ、こちらに突っ込んでくる。
そして、真正面から迫るビームトンファーの刃が私の視界を占拠し――。
『Battle ended.』
追う側に回るつもりだが、劣勢に強いられたまま負けてしまった。
さっきから観戦しているロックオンが、少々面食らった様子で「いやはや、これは予想外の結果だぜ!」と、私と視線を合わせながら言った。
「まさか美玖に負けるなんて、私も思いもしなかったんですよ」
「「ユウナギが、負ケタ! 負ケター!」」
「ちょっとハロ、復唱しなくていいから!」
と言ってる傍から、美玖がこちらに歩いてきた。彼女は何だか物足りないような、大事な何かが欠けているような、そんな気分を感じさせる表情をしていた。どうしたの、と尋ねてみると――。
「自分で作ったガンプラじゃないから、悠凪くんに勝利しても満足感がなくて……」
「なるほどな……」
やはりガンプラバトルは――自分で作ったガンプラと共に勝利を掴み取るのが一番だな。
「ねえ悠凪くん……わたしも、自分のガンプラが欲しいです」
甘えた声でおねだりしながら抱きついてくる美玖。
どんなガンプラが欲しいのか、と尋ねてみると、彼女はフェネクスに指差した。
「でも、RGフェネクスのキットはネット通販の限定商品だから、あんまり期待するなよ?」
「うん……分かりました」
ロックオンもガンプラバトルをやりたい様子だったが、本人は「ここはレディ・ファーストで、お嬢の欲しいガンプラを探しに行こう」と紳士的な対応をし、刹那はそれに頷いた。
だが、部屋を出た途端に、我々は大きな物音と子供の泣き声が聞こえた。
「何かあったのでしょうか?」
「ちょっと店員さんに聞いてみるか。あの、すいません――」
店員さんの話を聞いてみると、どうやら豚のように太った中年男が子供たちのガンプラバトルに乱入した上で、こっそりとダメージレベルを「C」から「A」まで引き上げたらしい。その子供のガンプラはバトルの最中に撃破され、原型を留めない程に破壊されてしまったようだ。
「いじめかよ……いい年して大人げねえな!」
「「大人ゲナイ! 大人ゲナイ!」」
ハロたち復唱しているそこで、美玖は子供の傍に歩いていき「もう泣かないで」と、子供を落ち着かせるように肩を撫でながら言った。刹那は一瞬だけ、躊躇いの表情が浮かんでいたが、すぐに美玖の背中を追っていった。私とロックオンもついていくのだった。
「わざと子供を泣かせるなんて……大人として恥ずかしくないのですか?」
「うるせぇぞ小娘! 言いたいことがあんなら俺に勝ったからにしなぁ!」
と、中年男が乱暴な口調で答えつつ、自分のガンプラをGPベースの上に乗せる。京紫色に塗装されたその巨体は「HGUCサイコガンダム」のようだ。そして、中年男の次の発言は――。
「そうそう、もし負けたら……その制服を脱いでもらうぜ、ククク……!」
私にとっては、聞き捨てならない言葉だった。
あまりの下品さに、美玖は思わず身構えてしまい、中年男に軽蔑の視線を向ける。
「子供を泣かせた上で、私の女にちょっかいを出すとは、いい度胸だな!」
「俺も加勢するぞ、絢瀬悠凪」
勢いあまりに中年男に宣戦布告をし、刹那も私についてきた。
だが――。
「お姉ちゃんの彼氏に……せ、刹那・F・セイエイ⁉」
「わー、まるでご本人様みたい!」
刹那を見た途端に、子供たちが騒ぎ始めていた。
まあ、ご本人様ではあるが……この世界に生きる人々からすれば、刹那は「刹那・F・セイエイというアニメキャラに成りきっている青年」と認識しているだろう。
「あっち見て、ロックオンもいるよ!」
「ほ、本当だぁ!」
指を指してきた子供に、ロックオンは片手を上げて挨拶を返した。
このまま眼前の中年男をガンプラバトルで懲らしめるつもりだったが、美玖のフェネクスはお店から借りたガンプラである為、ダメージレベル「A」のバトルに使う訳にはいかない。
「どうしましょう。お店から借りたフェネクスが破損してしまったら――」
「それについてはご心配なく。このバトルは、わたくし共が許可致します」
「壊れたら私が直す。だから少女よ、心置きなく戦うがいい!」
横からスーツを身に纏い、エプロンを着用した、お店の店長らしき男性が出てきた。だが、隣にいる黒いコートを纏い、グラサンを掛けている男が私の注意を引いた。ガンプラ制作のプロであり有名人……名前と正体はとうに知っているが――。
「――三代目メイジン・カワグチとお見受けしますが」
「ご覧の通り、私は三代目メイジン・カワグチ。今回のバトルの立会人だ」
ユウキ・タツヤと出くわすのは想定外だった。
まあ、それはさておきとして……今はガンプラバトルに専念するとしよう。
『Field 9, Canyon. Please set your Gunpla.』
指示通りにガンプラを設置すると――。
『Battle start.』
「サイコガンダム、行くぜ!」
「エクシア……目標を駆逐する!」
「フリーダム、出る!」
「フェネクス、行きます!」
バトル開始の直後、こちらを炙り出すつもりなのか、MAに変形したサイコガンダムが、腹部に搭載された三連装拡散メガ粒子砲を乱射し始めた。刹那が操るエクシアは、渓谷の地形を利用して身を隱し、攻撃の機会を伺うことにした。
「美玖、私に合わせてくれ!」
「うん……行きましょう、悠凪くん!」
その一方で、私と美玖は真っ向からサイコガンダムに挑みかかる。
『――死にに来たかぁ!』
暴虐の象徴の如く、サイコガンダムの三連装拡散メガ粒子砲が、再び咆哮をあげる。私はアームレイカーを動かして掃射を回避する。高速機動で身を躱したフェネクスが応射のメガ・キャノンを放ったが、Ⅰフィールド・バリアがその程度の攻撃で揺らぐものではなかった。
――武装選択……クスィフィアス・レール砲。
2門のクスィフィアスの照準を、サイコガンダムの腹部に合わせ、トリガーを引く。発射口から砲弾が放たれ、厚い装甲の及ばないメガ粒子砲口に直撃し、その爆圧によって墜落していくサイコガンダムの巨体が――人型に変形して、砂地に巨大な足を踏みつけるのだった。
「フェネクス……わたしの想いに応えて!」
『おのれ、小癪な真似を――な、なにぃ⁉』
損傷したせいか……両脚の関節部からスパークを散らし、感電したように両脚を震わせたサイコガンダムが膝をついていた。そこにガンダムに姿を変えたフェネクスがビームトンファーの光刃を右腕から噴出させ――振り出すと同時に、それは限界出力を超えた巨大ビーム刃となって、サイコガンダムの左腕を丸ごと切断していった。
なら、右腕は私がやろう。
――武装選択……アンビデクストラス・ハルバード!
斬り裂く、と呟いた私が片方のビームサーベルだけを放出させ、フリーダムをサイコガンダムに向けて突進させた。そして、静止した巨体の右肩関節に光刃を突き込ませてから、下から上方向に掬い上げ、その右腕を切断せしめた。
「刹那……今です!」
「――エクシア、目標を完全破壊するッ!」
と、岩石の陰から躍り出たエクシアが2本のGNブレイドを引き抜いて――。
「これで決める……セブンソード・コンビネーション!」
ひびが入っていた腹部に2本のGNブレイドを突き込ませ、それを蹴って宙を舞い上がり、GNビームダガーを投擲する。間髪を容れずに、折り畳まれていたGNソードを展開し、空中で機体を数回縦回転させてから鋭い斬撃を繰り出す。
「これが、俺のガンプラだッ!」
刹那の言葉と共に、サイコガンダムの手前に着地したエクシアが両腕を交差させ、肩後部に装備された2本のGNビームサーベルを抜き放ち、京紫色の巨人にX字斬りの痕跡を残したが――撃破するには至らなかった。
「トドメを刺します。悠凪くんとセイエイさんは下がってください!」
「ああ、分かった」
「……了解した!」
美玖の呼びかけに応じ、私と刹那は機体を後方に下がらせる。
するとフェネクスの右腕が持ち上がり、開いた掌から虹色の波動を放出する。七色のオーロラがフィールド中に広がり、それがサイコガンダムを打ち据えると、光に搦め取られた巨体が感電したように青いスパークを散らし、次第に巨大な火球に姿を変えた。
『Battle ended.』
このバトルは、我々の圧勝に終わった。
我々に敗北した中年男は涙目しながら、粉々になったサイコガンダムの破片を手に持って「ちくしょーめぇ!」と叫びながら慌てて店を出て行った。なお、我々のガンプラは無傷である。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、凄かったよ!」
「悪いオジサンをやつけてくれてありがとう、お姉ちゃん!」
礼を言ってくれた子供たちに、私と美玖は微笑みを向ける。
そして周りに目を走らせると、いつの間にかユウキ・タツヤが居なくなっていた。このまま子供たちと一緒に遊んでもいいが、先にやるべきことがあるので、私は店長に声をかけた。
「ところで、店長――」
「はい、何かご用でしょうか?」
RGフェネクスのキットは取り扱っているのでしょうか、と尋ねてみると、少々お待ちくださいと、店長は店の奥に歩いていった。そして数分後、灰色一色の箱を一つ持ってきた。
「お求めの商品はこちらになります」
ユニコーンガンダム3号機フェネクス(ナラティブVer.)
お値段はジャスト1万円なので、札1枚で会計を済ませた。
「悠凪くん、帰ったら一緒に作りましょう」
「ああ、いいよ。帰ったら、一緒に作ろう」
その後はダメージレベルを「C」に戻し、美玖と刹那は子供たちを相手にガンプラバトルを再開した。2人がガンプラバトルをしている間、喉が渇いた私はプラモ屋を出て、近くのコンビニまで足を運んだ。
ペットボトルの緑茶3本にコーラ1本、そしてXLサイズのポテチが入ったレジ袋を手に持ってプラモ屋へ戻る途中で、私はとある人物と再会することとなった。
「もしかして、悠凪?」
「ん、貴公は……!」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにいるのは金髪美少女と美女の姉妹だった。
水色と白を基調とした華やかなドレスに、宝石が編みこまれているティアラ。今日のシルヴィはドレス姿か。何という美しさだろう、言葉なんていらないな。そしてエルはいつもの騎士の正装を身につけている――何故なんだろう、彼女から鋭い視線を感じる。
「2日ぶりですね、王女殿下」
「そんなかしこまらなくていいんだよ、悠凪。気軽いにシルヴィと呼んで欲しいわ」
「じゃあ、シルヴィ――」
そう言いようとするが、エルが刺すような視線を向けてきた。
ここは礼節を保って――。
「――ア、様……」
「ンもう、エルったら……」
「おーい、シルヴィ!」
後ろから少女の声が聞こえた。振り向くと、ギャルって感じの金髪美少女がシルヴィを呼びかけながら、こちらに走ってきた。白いシャツに、紫色のチェック柄のミニスカート。そして、水色に緑がかかったパーカーを着た少女だ。金髪で髪型はポニーテール――彼女が妃玲奈なのか?
「王女殿下のご学友ですか?」
「ええ、紹介するわ。彼女は
「シルヴィ……もしかして、このイケメンが?」
「ええ、ガンプラバトルでわたしと対等に渡り合った殿方よ!」
シルヴィの言葉を聞いた玲奈は、まじまじと私の顔を見つめていた。そしてパーカーのポケットからスマートフォンを取り出して、言った。
「ねぇねぇイケメンさん……あたしと一緒に写真撮らない?」
「あっ……ああ、いいよ」
すると、私は玲奈に腕をしがみつかれたまま、一緒に写真を撮った。
何枚か写真を撮った後、黒塗りの高級車が車道の端に止まっていた。
「迎えの車が来ました。シルヴィ様、妃殿――」
「じゃあまたね、悠凪!」
「それでは、
シルヴィ一行と別れた後、私は来た道を戻ろうとするが……通りがかりにすれ違った人影が私の気を引いた。サラサラとした長い金髪に、サファイアと同じ青色の瞳。そして、制服を着ても隠しきれない抜群のスタイル。私を転生させた女神――カレンと全く同じ容姿だ!
それに気づいた私は全方位に目を走らせたが、彼女の姿は何処にもなかった。
私の見間違いのか、それとも……?
◇◆◇◆◇
始まりも終わりもない永遠の中、人類という種は安寧の一生を過ごすのでしょう。
されど人々の視線の届かないところで、女神と呼ばれる
5万年前に紡がれた希望の火種を消されない為に。
人類の文明を幾度となく葬ってきた「崩壊」に打ち勝つ為に。
私を作り変えさせられた神に反旗を翻した私は、この為に生きてきました。
絢瀬悠凪、私たちは間もなく再会します。
貴方に「崩壊」と対抗しうる力を与える為に。
つづく
今回のラストシーンに、悠凪と女神――カレンはすれ違っていましたね。
カレンと関わるメッセージについては、ミホヨの『崩壊3rd』の設定を熟知していない読者様には分かりづらいかもしれません。
彼女が正式に再登場する時に、彼女の過去を含めてそれらを解説します。