世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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 今回は入学編が始まります。
 時系列は原作主人公――市松央路が入学する一週間前(原作開始前)です。

 注意点としては:
・悠凪は金恋GT未プレイという設定のため、絢華の過去を知らないし、理亜のもう一つの結末も知らない。
・クロスオーバーシナリオであるため、一部のイベントはガンプラバトル関連のものに置き換えることになります。

 予めご理解くださいますよう、お願い申し上げます。


第二章 金色ラブリッチェ(入学編)
第31話 私立ノーブル学園


 街の端にある高級住宅地の一番奥には、周りの高級住宅と比べると遥かに立派な3階建ての館があった。落ち着いた雰囲気の白いレンガの塀に囲まれた、中世ヨーロッパ風の館である。

 正面の入り口に立派な門が建たてられており、その横に立ててある金属製の看板には「ソルティレージュ王国領事館」と書いてあった。

 

 館の中の一室で、シルヴィア王女の近衛警護を務める女騎士――エロイナ・ディ・カバリェロ・イスタは黒革の椅子に腰をかけ、情報部から送られてきた報告書を読んでいた。

 

「絢瀬悠凪。宗教的経済的に、特に危険思想らしき面は見られない。家族構成は、血のつながりのない妹が1人――」

 

 そう呟いて、彼女は報告書のページをめぐり、次のページに目を走らせる。

 

「名前は、鳳凰院美玖。他には……特になし」

 

 パタンと静かに報告書を閉じ、机の上に置くと、彼女は部屋の天井を見上げながら呟く。

 

「私の考え過ぎか。いや……」

 

 この男――絢瀬悠凪は、一見普通の青年だが、騎士たちに身柄を取り抑えられ、サーベルを突き付けられた時の反応があまりにも冷静すぎる。どこか場慣れしたような雰囲気を持っており、年齢の割には大人びていて落ち着いた面も感じさせる。

 

 さらに、ボラルコーチェは「かなりの手練れの方ですな」と、この男を評していた。ただの青年なのに、身に纏うオーラがただならぬ雰囲気があった。この男は、危険かもしれないと、護衛騎士としての勘が私にそう告げている。

 

 私の勘違いかもしれないが、シルヴィ様のためにも、用心するに越したことはない。

 シルヴィ様のご学友になる者ならば、なおさら精査が必要だ。

 

 そこまで振り返ったところで、彼女は強い眠気に襲われ、頭がぼんやりした。

 壁の掛け時計を見上げると、現在時刻が午前3時30分になっていた。

 

「もうこんな時間か……」

 

 机の上に置いてある報告書と、空に浮かぶリング構造物が写っている写真を本棚に戻し、彼女は再び椅子に腰をかける。テーブルランプの灯りを消すと、静かに目を閉じ、休息を取っていた。

 

 

 

 

 

 そして日が昇り、また新しい一日が始まる。

 

 私立ノーブル学園。

 その教育方針の基盤は「ゆとり教育」――無理のない学習環境で子供たちが自ら学び、思考力の育成を目指した教育である。いわゆる「反詰め込み教育」というものだ。

 

 年長者たちが「最近の若い奴らは……」の代わりに使う言葉となった「ゆとり」なのだが、本旨としては「教育にゆとりを持たせる」のではなく、「ゆとりを持たせた時間で他の勉強をさせる」となっている。

 

 言い換えれば、夏休みの宿題から問題集を減らし、自由研究を増やす。というものだ。

 

 事前に集めた情報によると、「ゆとり教育」が「ゆとり」なんて名前を付けたのは、政治主導で行ったのが「教育時間を減らす」ことしかできなかったかららしい。

 つまる所、そうして削ってできた時間を、個人の得意分野に割り当てるところまで政治では口を出せなかったためだが――そこまで口を出すのがこのノーブル学園。

 

 即ち「エキスパート教育」である。

 この学園では通常の授業が1日の半分で、残る半分は全て個々人の選択分野の授業となる。

 

 聞くだけだと「部活を少し多く取ってる学校」だが、1日の半分とした授業も決して量を減らすことがない。つまりは「ゆとり」を持たせない。それでいて選択授業には、学校が持ちうる政界や財界のコネを総動員して、各々の分野のエキスパートを先生に用意するらしい。

 

 ゆとり教育は早々に潰れたが、この学園の教育方針が子供を特別に育てたい人々には好評だったようで、政治家や金持ちの連中が挙ってこの学園に集まる。

 

 エリート教育機関――それが、このノーブル学園である。

 偏差値70以上だけあって、入学テストに大学受験レベルの問題が混じっていた。だが、前世の知識のお陰で、今は千人に1人も入れないこの学園の入学テストに満点合格し、学生寮に入居する権利を得た上で通うことになった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ねえ、悠凪くん――じゃなくて。この制服、わたしに似合うのでしょうか、()()()()()?」

 

 ダンスを踊るように一回転すると、微笑みを見せた美玖は私に感想を求めてきた。

 

「そうだな――」

 

 青と白を基調とした高級感のあるデザインで上品で清楚な雰囲気が漂いながら、ミニスカートと黒いニーハイソックスの間から露出する太ももの部分はセクシーさもアピールしている。

 

 豊かな胸をさらに突き出させるようなコルセットを締めていたので、身体のラインがしっかりと浮き出る姿は、彼女の色香を増幅させている。さらに、首元の大きな赤いリボンは彼女の可愛さを一段と引き立たせている。

 

「――反則級に可愛すぎて語彙力を失いそうだ」

 

 そう聞いた美玖は少し照れながら「ありがとう、嬉しいです」と、上目遣いで礼を言った。

 

「教室へ案内します。絢瀬君、鳳凰院君、私についてきてください」

「分かりました、先生」

 

 入学手続きを全部済ませた私と美玖は、担任の先生に呼ばわれ、配属されるクラス「2-A」の壇上に立っている。教室内を見渡すと、シルヴィ、エル、玲奈、菊千代、そして城ヶ崎――原作に登場する面々が揃っている。だが、原作主人公――市松央路らしき人物は見当たらなかった。

 

 と、シルヴィと玲奈はニコニコしながら手を小さく振っていた。

 それに気づいた私は、視線で挨拶を交わした。

 

「えー、今日からみなさんと学習を共にする、絢瀬君と鳳凰院君です。何かご挨拶を……」

 

 さて、自己紹介の時間だ。

 

「本日付けでノーブル学園に転入になりました、絢瀬悠凪です。こちらは自分の妹――鳳凰院美玖です。よろしくお願いします」

「鳳凰院美玖です。よろしくお願いいたします」

 

 と、私と美玖は軽く会釈する。しかしながら、原作の展開とは違って、我々が庶民であることを嘲笑う者はいなかった。それどころか、周りの反応が私の予想を超えていた――。

 

「おい玲奈、あのイケメンって……」

「え……えっ⁉ まさかのご本人⁉」

「ガンプラバトルでクルスクラウンさんと対等に渡り合った殿方は、彼だったんですね」

「あの子は見覚えがあるぞ! この前、初心者狩りのオッサンをとっちめたフェネクス使いだ!」

「やべー、めっちゃ可愛い!」

 

 生徒たちが騒いでいる中、先生は「二人に何か聞きたいことなどありますか?」と、構わず進行する。すると、鹿苑寺菊千代ともう一人の男子生徒が手を挙げ、私に質問を投げてきた。

 

「失礼ながらお尋ねします。髪の色も氏名も違いますので、お二方は――血のつながりのない兄妹なのでしょうか?」

「お察しの通りです。自分と美玖は血のつながりのない兄妹です」

 

「はいはいはーい! 絢瀬さんと鳳凰院さんの両親のご職業は?」

「それにつきましては、お答えしかねます」

 

 彼らの精神年齢を考慮すると「もうこの世にはいない」と返事したら、即座に馬鹿にされるかも知れないので、この返事は一番だと思う。

 

 美玖は緊張しているらしく、肩のあたりが微かに震えていた。

 これ以上余計な質問をされたら不味い、と思ったその時――。

 

「――みなさん、お静かに!」

 

 私が一番嫌いなタイプの女――城ヶ崎絢華が席から立ち上がった。

 容姿は美玖並みに最高だが、性格が非常に悪い。言い換えれば、顔と身体だけがいい女だ。

 

 原作では主人公――市松央路の身分が庶民であることを理由にして嫌味を言ったり、他の生徒を扇動して央路に嫌がらせや誹謗中傷など、法律に反する行為を行わせた。

 だが、どうして彼女があそこまで庶民を嫌うのか、詳しい事情は原作では語られていない。

 

「興味は尽きないのでしょうが、曲がりなりにも新しい仲間です。先ずは歓迎しませんと、我々の品位に関わります。初めまして、絢瀬さん、鳳凰院さん。わたくしは、クラスの委員長を務める、城ヶ崎絢華と申します」

 

 仲間……ねえ。庶民を見下しているくせに、よくもぬけぬけと言ってくれる。

 それはさておきとして――。

 

「城ヶ崎……そうか、君がホシテレビ会長のご息女でしたか」

「あら、絢瀬さんは意外と物知りですね」

 

 家柄を知っていると分かった途端に、城ヶ崎は意外そうな顔で私を見上げた。

 

「あれ、珍しいな。庶民の家でもテレビがあるなんて」

 

 と、そこに一人の男子生徒が横から割り込んできた。

 あまりにも不遜な態度にイラッとした私は、その男子生徒を睨みつけて――。

 

「他人の会話に口を挟むことが、貴族の流儀ですか?」

「ひっ! す……すみませんでした!」

 

 少々、威圧めいた口調で言ってしまったが、男子生徒は謝罪の言葉を述べた。

 それから気を取り直して、城ヶ崎に手を差し出して握手を求め、彼女はそれに応じた。

 

「失礼……少々取り乱してしまいました。改めてよろしくお願いします、城ヶ崎さん」

 

 そう言って握手を交わすと、彼女の手が震えてるのに気がついた。

 どうやら……先程のやり取りが彼女を怯えさせてしまったようだ。

 

「どうかしましたか、城ヶ崎さん? 手、震えていますよ?」

「あっ、いえ……何でもありません。よろしくお願いします」

 

 私と握手を交わした後、城ヶ崎は美玖と握手を交わした。そして軽く一礼をし、席に座った。

 原作みたいに「教室の格差が激しいので――」なんて言い出すと思っていたが、何も言わずに座った。まあ、これはこれでいい。

 

「他に質問は……なさそうですね。それでは二人共、空いている席についてください」

「はい」

 

 先生に指示された席に向かう途中で、玲奈が軽く挨拶をしてきた。

 

「ウース……気をつけて」

「……なに⁉」

 

 玲奈に気をつけてと言われたが、恐らくは西郷隆の罠だろう。

 まあ、足を引っ掛けられるつもりはない。

 

「なん、なんだよ……」

「その足は邪魔です。人が通るので、そこをどいてくれませんか?」

 

 と伝えたら、素直に足をどいてくれた。

 だが、事態は思いがけない方向へ転がり始める。西郷の狙いは私ではなく、美玖だ。

 

「きゃっ!」

 

 美玖は驚きの悲鳴を上げた。一瞬で状態を把握した私は素早く振り向いて、足を引っかけられて転びそうになった美玖の身体を支える。

 

「美玖、大丈夫か?」

「うん……ありがとう、お兄ちゃん」

「おっと、脚が当たってしまった。気をつけてくれよ、僕のズボンは――」

 

 なるべく穏便に済ませたいのだが、堪忍袋の緒が切れてしまった。

 私は美玖を支えたまま、犯人である西郷に殺意を込めた視線を向け――。

 

「――黙れ。この下衆が……!」

「言ってくれるな! お、お前の妹が、僕の足を踏んだのが先だろうが!」

 

「言い訳をするとは見苦しいですよ、西郷殿」

「え、えっ……か、カバリェロさん!?」

 

 こんな不穏な空気の中、突如割り込んできたのはエルだった。

 エルのような心清く正しい騎士にとっては、西郷の行いは許し難い行為だろう。衆人環視の中でその罪状を指摘していくエルに、反論すらできない西郷の顔が徐々に青ざめていき、次第に西郷の行為を非難する生徒の声も出始めた。

 

「やりすぎだよ、西郷君」

「鳳凰院さんを怪我させようとするなんて、西郷君って最低だわ……!」

 

 非難の声に耐えられなかったのか、西郷は「お、俺が悪かった。すいません!」と慌てて謝罪の言葉を述べ、私は「二度目はない」と言い残し、ふらついている美玖を支えて席に向かった。

 

 そして席に着いた同時に、シルヴィは心配そうな顔で駆け寄ってきた。

 

「悠凪! 妹君の具合いは、大丈夫だった?」

「まだ足首が少し痛いですが……大丈夫です」

「王女殿下……大変お見苦しいところをお見せしてしまいました」

 

 私がシルヴィに呼び捨てられたことに、周りの生徒は動揺していた。

 でも、シルヴィは彼らの視線を気にせず、話を続ける。

 

「もう……今日からはクラスメイトだから、そんなに畏まらなくてもいいんだよ。この前みたいにシルヴィと呼んで欲しいわ。妹君は、下の名前で呼んでいいかしら?」

 

「じゃあ、そうさせてもらうぞ。改めてよろしくな、シルヴィ」

「ええ。改めてよろしくお願いいたします、シルヴィ」

 

 その後、シルヴィは自分の席に戻る。生徒たちが落ち着きを取り戻したのを見計らって、先生は授業に入った。授業の内容のほとんどが前世で学んだものなので、今の授業はそれらの知識を復習するみたいなものだ。聞いて損はない。

 

 

 

 

 

 やがて授業が終わり、昼休みの時間になった。

 私と美玖はシルヴィの誘いを受け、エルと玲奈と合わせて5人で学園内の食堂で食事をすることにした。ちなみに、シルヴィは最初からメロンパンを食べたいと言いつつ、玲奈と共に学園を抜け出すつもりだったが、エルに捕まえられて仕方なく諦めた。

 

「まさか悠凪が妹君と一緒にノーブル学園に転入してくるなんて……思いもしなかったわ」

「色々あって、転入することになったんだ。まさか君と同じクラスになるとは、驚いたよ」

「わたしもそうよ……あの約束がこんなにも早く実現するなんて」

 

 シルヴィがそう言うと、美玖がジト目で私を睨んでいた。

 

「詳しいお話を聞きたいのですが、よろしいでしょうか。お兄ちゃん?」

「あ、ああ……も、もちろんだ……っ!」

 

 追及するようなジト目で睨まれて、思わず焦ってしまった。

 シルヴィとの「再会の約束」についてのことを美玖に話したら、美玖はやきもちを焼いたように頬を膨らませた。それを見た玲奈はニヤケた顔を見せ、缶ジュースの残りを飲み干して、言う。

 

「あら、今の美玖ちんの顔って、まるでやきもちを焼いた奥さんみたい」

「れ、れれれ玲奈!? 急に何を言い出すのですか!? わ、わたしとお兄ちゃんが強い絆で結ばれているのは事実ですが、えっと、そ、その……まだそういう関係じゃ――」

 

 顔を真っ赤にしながら弁解する美玖を見ていると、少しいじりたくなってしまった。

 

「奥さんか……美玖と結婚するのも悪くないと思うんだ」

「うぇ!? ゆう……お、お兄ちゃん!?」

 

「お二人さんは血のつながりのないってのは分かるんだけど、今の話はガチなのか?」

「まあ、今は冗談だが……いずれは、な……」

 

 そう言いながら、私は空いた手を美玖の身体に回して抱き寄せた。

 すると、美玖は身体をさらに寄せてきて、蕩けるような微笑みを浮かべて呟いた。

 

「お兄ちゃん……大好きです!」

 

 この桃色の雰囲気に耐えられなくなったのか……エルは頬を紅く染めながら、視線を下に向けていた。私もこれ以上は不味いと思うので、美玖の悪ノリを諌める。

 

「美玖、悪ノリも程々にな……冗談だって分かっていないのも約1名いるようだから」

「え、えっ、冗談でしたか?」

 

 とエルは言いながら、視線を彷徨わせつつ頬を赤くしており、そこで玲奈とシルヴィが助け舟を出した。

 

「エルちんはいつも真面目なんだから」

「ふふっ、これがエルの持ち味だよね」

 

 と、2人が言い、私も少々苦笑い気味にエルを見ると、さらに顔を紅く染めたエルだった。

 

「そう言えば……エキスパートプランについてだが、君たちはその時間、何をするのか?」

 

 ちょっとしたショートコントを終えた後、私は気になっていたエキスパートプランについて彼女たちに聞いてみた。話によると、シルヴィは音楽総合で、玲奈は被服業総合に参加するそうだ。

 そしてエルは体育総合――フェンシング部の練習に参加すると聞いた。この学園にプラモデル部はあるか、と尋ねてみたら、予想外の答えが返ってきた。

 

「先輩の方々から聞いたんだけど、プラモデル部はPPSE社がヤジマ商事に買収された日、前任生徒会長に廃部通知を言い渡され、強制的に解散させられちゃったのよ」

「そうなのか……」

 

「でも、プラモデル部を復活させる方法が一つあるわ」

「シルヴィ、その『方法』とは?」

 

「静岡県のガンプラバトル大会に優勝することよ。それが今の生徒会長が提出した条件ね。今まで成し遂げた方は一人もいないんだけど……悠凪は、挑戦してみたいと思わない?」

「ああ……挑戦してみたいと思う。強敵との戦いは、楽しめそうだからな……!」

 

 大会に優勝すれば、プラモデル部は復活し、私も部長になれると考えていいだろう。

 この条件を提出した現任の生徒会長にも一度会ってみたいものだ。だが今日は、3人のいずれの1人と一緒にエキスパートプランに参加した方がいい。

 

 ルート分岐は三つ。さて……どうする?

 

 つづく




 最近体調が優れないため、執筆ペースが落ちてます。
 さらに、ハーメルンでは感想がこなくてモチベーションが下がってきました。

 ゆっくりと書いていきますので、気長に待っていただけると嬉しいです。
 皆様のご感想をお待ちしております。
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