『まさかな、こんな場所で新しいガンダムと巡り合えるとは……。乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない。それとも、光の粒子を出していなかったから見つけられたのか……おそらく後者だ!』
うわぁ……まさか外部スピーカーを通してこちらに精神攻撃を仕掛けてくるとは。
あまりの喧しさと暑苦しさに、私は思わず眉を顰めた。
「この変人め! これだけ近いなら、バルカンで!」
カーボンナノチューブの20倍の引張り強度を持つEカーボン装甲とはいえ、三大国軍のモビルスーツに使われているものはCB製のものより脆い。
それにフラッグは、装甲を削って機動性と運動性を重視した設計のモビルスーツだ。そう、いわゆる「紙装甲」ってやつだ。近接防御機関砲でも致命傷を与えられるはず。
目の前にいるグラハム機に照準を定め、私はトリガーにかけた指に力を入れる。フリーダムの頭部に内蔵された「ピクウス76mm近接防御機関砲」が火を噴き、至近距離から射出された弾丸の嵐は、グラハム機に降りかかる。
『なんとぉ!』
その瞬間、グラハム機がスラスターを噴かして急速に遠ざかってゆく。即座に右腕に装備されたディフェンスロッドを回転させ、近接防御機関砲の弾丸をことごとく弾き飛ばしていく。
『あまりに非力だ……まるで深窓の令嬢のようだよ!』
「な……なんなんですか、この人……!」
何が「深窓の令嬢」だ! ガンダムを女性扱いしているなこいつ!
同時に、この発言を聞いた美玖はドン引きしたように身体を震わせた。
「(もうこれ以上付き合っていられない、さっさと片付ける!)」
そう考えると、私は素早くコンソールを操作して、フリーダムのAAWを広げさせ、機体の稼働モードをハイマットモードへ移行させる。すかさずにスラスターを噴かせて、グラハム機の間合いから離脱する。
グラハム・エーカーもそうやすやすとこちらを見逃すはずがなく、すぐ追いかけてきた。急接近するグラハム機にフリーダムを正対させると、私はビームライフルの銃口を向けた。
その黒い機影がこちらの射程圏内に捉えた瞬間、私はためらうことなく、トリガーにかけた指に力を込めた。
「狙い撃つ!」
銃口から放たれた光条が、グラハム機に向かって一直線に殺到する。
グラハムは即座にディフェンスロッドを回転させビームライフルの光条を受け流すが、桁外れの出力を持つビームに耐え切れず、溶解してしまった。
『よくも……私のフラッグを!』
『た、隊長ぉ!』
『グラハム隊長、援護します!』
『我々も続くぞ!』
今度はスピーカーからではなく、言葉が走って聞こえた。
フリーダムに搭載されたサイコミュがやつらの声を拾ったのか?
損傷したグラハム機を援護すべく、ダリル機とハワード機を先頭に14機のオーバーフラッグはフォーメーションを組み、リニアライフルで波状攻撃を仕掛けてきた。
私は操縦桿を強く握り締め、ペダルを踏みつける。機体を180度反転させて、迫り来るリニアライフルの銃弾を躱しながら姿勢制御を行なう。
背後から迫るグラハム機が放つ銃弾を横ロールで回避してから、両翼に収納された二門の「バラエーナ・プラズマ収束ビーム砲」を展開させ、オーバーフラッグの編隊に向けて一射した。
トリガーを引くと同時に砲身内部のエネルギーが一気に放出されて、巨大な光軸が一直線に空を切り裂き、オーバーフラッグの編隊に殺到する。
『全機散開!』
「まただ。また言葉が走って聞こえた……!」
グラハムの命令に従い、編隊を散開してバラエーナの光条を回避する。次いで14機のオーバーフラッグは速やかに編隊を再集結し、再び攻勢に転じた。私が機体を一回転させ、襲来するリニアライフルの銃弾を宙バクで回避すると、美玖は辛そうな表情を浮かべていた。
「美玖! 大丈夫か⁉」
「ちょっとめまいがしただけです……」
美玖の体調が心配だ。ここは、一気に片付けるとしよう。
私は最小の動きでリニアライフルの集中砲撃を回避しつつ、両腰部の「クスィフィアス・レール砲」を展開させ、フリーダムのマルチロックオンシステムを起動させる。
「ターゲット、マルチ・ロック……!」
迫り来る14機のオーバーフラッグに照準を定め、翼を全開にして全砲門一斉射撃を行う必殺技「ハイマット・フルバースト」を連続で放った。放たれた砲撃が青空を走り、オーバーフラッグの編隊に殺到する。
『ハワード、ダリル!』
『クソ……右手がやられたっ!』
『推力低下、これ以上は無理か』
「ん、当たったのは、ハワード・メイスンとダリル・ダッジの乗機か」
バラエーナの光条がダリル機の右腕を掠め、その高熱が右腕とリニアライフルをぐずぐずに溶かした。その一方、ハワード機の両脚はレール砲の砲弾に吹き飛ばされ、飛行もままならない状態に陥ってしまった。
その他2機は其々バラエーナとビームライフルの直撃を受け、火球となって爆発四散した。
『ハワードとダリルは下がれ! 戦闘可能の各機はフォーメーション――』
『――フン、隊長面して!』
『ジョシュア! フォーメーションを崩すな!』
矢庭に、グラハムの命令を無視したオーバーフラッグが1機、空中変形を魅せつけながら迫ってきた。変形を終えたそのオーバーフラッグは、左手でプラズマソードを引き抜いて、こちらに挑みかかってきた。
「ジョシュアって……あのジョシュア・エドワーズか」
彼は傲慢な自信家だが、それに見合うだけの高い操縦技術は持っており、グラハムしかできないとされている「グラハム・スペシャル」も習得している。しかし、功を焦ってフォーメーションを崩して単機でガンダムデュナメスに肉薄し、返り討ちに遭い戦死したバカな人だ。
「本来の歴史より一日早いが、今日が貴様の命日だ。ジョシュア・エドワーズ!」
私は腰に装備されたビームサーベルを引き抜き、二本の粒子束を交差させる。
この瞬間、異なるガンダム作品のビームサーベルが鍔迫り合うことができると明らかになった。
それから数秒も経たずに、オーバーフラッグの左手にスパークが走り、プラズマソードの出力も弱まっているようだ。そのまま、フリーダムのビームサーベルの出力をフルに引き上げると、オーバーフラッグの左手をプラズマソードごと斬り裂いた。
「仕留める!」
左手を切断して体勢を崩した直後、私はその機体に目かけてソードスキル「ホリゾンタル・スクエア」を放った。
右側から斬りつけると、すぐさまに反対側から斬る。スラスターを噴かして機体を一回転させ、左から斬りつけ、最後は右から左上へ斬り上げた。同時に聞こえたジョシュアの声は、無線の混信によるものか、聴覚以外のなにかが捉えたものか。
『な、なにぃぃっ⁉』
「また、言葉が……」
オーバーフラッグの装甲を切り裂き、コックピットにまで達したビームサーベルは、彼の肉体を瞬時に蒸発させ、機体そのものを解体したのだ。それなのに、ジョシュア・エドワーズという男の断末魔の声がはっきり、聞こえてきた。
空中分解したオーバーフラッグの機体は、そのまま地球の引力に引かれて墜落した。焼け焦げた切断面から火花を爆ぜらせつつ、太平洋の藻屑になっていった。
『ジョシュア! っく、全機撤退だ!』
自機を含めて2機小破、1機中破、3機撃墜……状況が不利だと判断したグラハムは隊員たちに撤退を命じた。やっと引いてくれた、と遠ざかっていく編隊を眺める私は、ほっと安堵した。
「美玖、大丈夫か?」
「うん。少しだけ寝かせて……」
美玖はそのまま、私に寄りかかって眠りについた。私はコンソールを操作して、システムを自動操縦に切り換える。この海域から離れ、フリーダムの進路を経済特区・日本へと向けた。目的地に着くまで、美玖の可愛らしい寝顔を見つめ続けている私は、前世の人生の出来事を振り返る。
子供の頃からいじめられ続けてきた私は、力ばかりを追い求めていた。成すべきと思ったことを成し、自由を追い求め、己の信じる道理や正義を貫き通すには、どうしても力が必要だから。
力なき者は自由も正義も語れないし、己の生を支配することもできない。いじめっ子どもや手を差し伸べてくれない毒親への復讐を終え、社会人になった私は穏やかな生活を送りながらも、よくこれらについて嘆いていた。
しかし、女神様であるカレンと出会ってしまったことで、運命は予想もしなかった方向へと動き出した。欲しがっていた力より遥かに強大な力を与えられ、フィクションの存在だったはずの美玖とも出会えたのだ。
成すべきと思ったことを成し、自由を追い求め続け、信じる道理や正義を貫き通す為の力。
彼女が、カレンが与えてくれたこのフリーダムガンダムは、その為の力だから。
一方その頃、王留美が所有する別荘。
ソレスタルビーイングのメンバーはタクラマカン砂漠で行われるテロ活動への武力介入に備えるべく、この場所に集まっていた。
「スメラギさん! ヴェーダからの緊急情報です! メインスクリーンに出します!」
クリスティナ・シエラがそう報告すると、ヴェーダから送られてきた情報を屋内の超大型メインスクリーンに映し出した。
その内容は、ユニオン軍の第8独立航空戦術飛行隊「オーバーフラッグス隊」が太平洋上空にでアンノウンモビルスーツと交戦している映像だった。
映像の中に映っていた蒼き翼を持つ機影に、この場にいる全員の注目を集めた。
「この機体は?」
「ガンダムだ!」
「刹那……?」
「あれはガンダムだ! 間違いない!」
その中で、ガンダムエクシアのマイスター、刹那・F・セイエイは蒼き翼の機体をガンダムだと断言し、ロックオン・ストラトスとアレルヤ・ハプティズムもその判断に同意し、頷いた。
「みんな、作戦に変更はないわ。明日は予定通りテロ行為に対して武力介入を開始する。王留美、そのガンダムに関する情報を集めて貰えるのかしら?」
「わたくしにお任せください、スメラギさん」
「(計画に存在しない非太陽炉搭載型のガンダム……独自開発した機体か、それとも……)」
同時刻、東ヨーロッパに位置するPMCトラストが所有するMS工場内には、1人の男が椅子に座って足を組み、液晶スクリーンを見ながら「モビルドールシステム」をヘリオンにインストールする作業を行っていた。
少し休憩しようと思った瞬間、男はとある人物からの極秘通信を受信した。その内容を閲覧すると、男は驚きを隠せないように少し眉間に皺が寄っていた。
「馬鹿な、フリーダムガンダムだと⁉」
フリーダムガンダム……それは、本来この世界に存在しないはずのモビルスーツだ。
この瞬間、男は自分以外の「イレギュラー」が、この世界に介入していることを確信した。男もある程度は予想していたが、映像に映ったフリーダムのパイロットが、自分と同様に転生者である可能性が高まったからだ。
「ミスター・カザマ、外人部隊のゲイリー・ビアッジ少尉が到着しました」
「(ようやく来たか、焼け野原ひろし。確か俺の仕事は、あいつにアグリッサを譲渡する事だったな……)了解した、直ぐ行く」
フリーダムの件は一旦棚上げにして、ミスター・カザマと呼ばれた男はとある人物からの依頼をこなす為に、「焼け野原ひろし」なる人物と落ち合うべくMS格納庫に足を運んだのだった。
つづく