世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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第41話 カレンの真意

「風間隼人に殺される前に、すてに絢瀬悠凪は二度殺されていました」

「カレンさん、そのお話は……!」

 

 お互いに肩を寄せ合った二人の美少女の身体つきは、10代のものとは思えなかった。顔立ちが非常に綺麗で、制服を着ていても隠しきれない抜群のスタイルはすれ違う通行人に、特に男性から視線を集めてしまう。加えて、ミニスカートと黒ニーハイソックスの間から露出する太ももの部分は、どこか扇情的でさえある。

 

 口説きたい輩は少なからずいるが、しかし二人の美少女にもう男がいることを、すてにSNSで広まっていた。その男とは、初出場でプロのファイターであるクズノハ・リンドウを打ち負かした期待の新人――絢瀬悠凪だ。その為、二人を遠くからただ眺めるしかできず、手を出して我が物にすることは許されない。まさに「高嶺の花」だ。

 

「まずは両親の無関心と無理解によって心を殺され、その次に学校という『小さな社会』によって魂を殺されました。あの決戦で人の心の光を見たとしても、その傷は未だに癒えていません」

「うん、そのことは存じております。悠凪くんは前世の記憶と知識を引き継いだ同時、嫌な思い出も引き継いでしまっています。そして悠凪くんの心を癒す為に、わたしは()()()()()()()()

 

 美玖が言うと、カレンは美玖の反応を待たずにその手を優しく掴んだ。指が絡み合って、さらに身体を密着させた二人は、お互いの豊満な胸を押し付け合っている格好になった。身体を微動だにせず、カレンの穏やかな笑顔に、照明の反射光を浴びている。その目にあるのは、親が血を分けた本当の娘を見ているような、暖い眼差しだった。

 

「そう落ち込まないで、私の持つ音楽の才能を受け継いだ最高傑作。美玖は人類の自然そのままに生まれた者ではないとしても、私は美玖のことを『一人の人間』として思っていますわ」

 

 虚数の樹から観測された、無数にある並行世界の一つで、カレンは人類を破滅に追い込む「崩壊現象」と戦う秘密組織「天命」の現指導者と協力関係を結んでいる。見返りの一つとして、指導者の男性からクローン関連の技術を提供された。自分の権能とその技術に合わせ、鳳凰院美玖という少女は生み出された。しかし、生まれたばかりの美玖は、ある「力」を覚醒してしまった。

 

 それは宇宙世紀に由来する、金属粒子サイズのコンピューター・チップを無数に鋳込んだ特殊な構造材を光らせる能力だ。生まれたばかりにも拘らず、普通に言葉を話せるうえ、優れた洞察力と状況把握力も有している。無数にある宇宙世紀の並行世界の一つを訪れたことがある為、カレンはすぐ「力」の正体が分かった。

 

 そう、美玖は宇宙空間での認識力を拡大させた人に、ニュータイプに覚醒してしまったのだ。

 

 コズミック・イラの科学者たちがコーディネイターを作るように遺伝子に手を加えることは一切なく、天命組織の指導者のように肉体に崩壊エネルギーを注入することもない。美玖をごく普通の女の子として生みたかったのに、しかし自らの予想に反してニュータイプに覚醒してしまった。

 

 予想外とはいえ、この力は今後、悠凪の助けになるかもしれないと考えたカレンは、予定通りに美玖を悠凪の元に送り出した。傷ついた心や孤独を癒す為の「ささやかなプレゼント」として。

 

 楽器で奏でる音楽は心を癒す効果がある為、送り出す前に自分の音楽の才能を保存している缶詰知識を、美玖の脳内に直接刷り込んだ。その缶詰知識はカレンが別の世界に旅をしていた時、滞在していた国を統べる神「知恵の主(ブエル)」から贈られた大切な餞別だったので、美玖に使ったことに勿体ないと後悔していた。でも、この前の演奏を聴いた今、そんな後悔はとうに消え失せていた。

 

 何より、美玖はその力で、本来では味方になるはずがない少女を悠凪の味方につけたり、戦いで疲弊していた悠凪の心身を癒してあげている。そして悠凪も美玖のことを大切にしており、二人は将来について語り合ったこともあった。実に微笑ましいことだ。

 

 無理やり人間をやめさせられ「律者」という神の代弁者に生まれ変わってしまってから数万年が経った今、二人を観察しているうちに、カレンは再び男女の恋愛に興味を持ってしまった。

 しかし、意中の相手が美玖の大好きな「彼」である為、カレンは美玖に伝えるかどうか少し躊躇する様子を表す。そこに微笑みを見せた美玖が口を開いて――。

 

「ありがとう、カレンさん……ううん、お母様」

「お、お母様って……いっ、いつものように名前で呼んでいいですから!」

 

 急に「お母様」と呼ばれて混乱してしまい、カレンは自らの過去を口に漏らしてしまった。

 

「そもそも私、まだ人間だった頃は、結婚ところか恋すらしてませんし。お母様だなんて――」

「わたしを生み出してくれたカレンさんには感謝してます。でも、結婚や恋をしたことがないからといって、わたしから悠凪くんを掠めようとするのは、例えカレンさんでも許しませんから!」

 

 と言いながら、至近距離まで顔を詰め寄る美玖だった。

 心が読まれている。背筋が一瞬ひやっとしたカレンだったが、NTに覚醒した美玖に心を見透かされることに何ら不思議はないと改めて実感した。自分が創造主とはいえ、美玖から最愛の男性を掠めるのは許されないことだと、もちろん分かっている。親が子供の物を、ましてや恋人を掠めるのは下衆の極みだ。やってはいけないことなんだ。

 

「えっと、大好きな悠凪くんを掠めたりはしませんから、そこは安心しなさいね」

「それを聞いて安心しました。それでカレンさん、一つ頼みがあるのですが――」

「う、あ、ええ……そ、その頼みとは何ですか?」

「力が回復するまでの間でもいいから、わたしと一緒に、悠凪くんを支えてもらえませんか?」

 

 その誘いを断る理由なんてなく、カレンは即座に「無論ですわ!」と頷いた。しかし、お互いの顔が近すぎて危うくキスするところだった。少し距離を離すと、すれ違う観客やスタッフが、少し窺うような目をこちらに向けていることに気づいた。

 

「うぅ、嫌な眼差し……」

「あの男ほどではありませんが、かなり下品ですね」

 

 その中に美玖に不快感を覚えたのは、自分たちでいかがわしい妄想をしている中年男性の下品な眼差しだった。この場所に居続ける気になれず、二人で会場を歩き回りながら雑談したいと考えた美玖は、カレンの手を引いて「他の所に行きましょう」と言い、この場を二人揃って後にした。

 

「最初は絢瀬悠凪に酷いことされないか心配しましたが、無用な心配で良かったです」

「うーん、まるで誰かが誰かに、酷いことされる場面を目撃したような口調ですね?」

「勘が鋭いですね……確かに美玖の察した通り、私は美玖のような自分が生み出した命が、転生者たちに酷い扱いされる場面を、目撃したことがあります」

 

 そう返事してから、カレンは悲しげな表情で語り続ける。

 

「しかも一回ではなく、数えきれないくらいに見てきました……っ!」

「カレンさん……それって……」

「それはね、少し難しいお話になりますが――」

「わたしでよろしければ、遠慮なさらず話してください。カレンさん」

 

 それでも美玖は気にせず、カレンの難しい話に付き合うことにした。

 

「人間の価値をはかるには、ただ努力させるだけでは駄目だと考えた私は、人間に『力』を与えることにしました。数多の死者の中から前科のない者だけを選別し、彼らが欲しがる『力』を可能な限り与え、欲望を満足させ、転生者として新たな人生を謳歌するように手助けをしました」

 

「なるほど。弱者が強者になった時、善良な人が暴力を振るう自由を手に入れた時に何が起きるのでしょうか。カレンさんはそれに興味があって、だから彼らに『力』を与えたのですね?」

 

「うん、その通りよ……法や倫理を超えて自由を手に入れた時、その人間の魂が見えることがあります。私は人の魂の輝きが見たかった、それが本当に尊いものだと確かめたかったのです」

 

 3年前、ある転生者は「愛されたい」と自分に願った。その願いに応えるべく、彼が生きていた世界で大人気のアニメのメインヒロインのそっくりさんを、付き添いとして生み出した。当事者はそのアニメの大ファンだったので、とても喜んでくれた。

 だが、彼女を大事にすると言っておきながら、結局彼にとって彼女は性欲発散の為の道具でしかなかった。度重なる暴行に耐え切れなくなった彼女はある日、自宅付近のマンションから飛び降り自殺した。それを観測した自分もショックを受けてしまった。何とも、嘆かわしいことだった。

 

 3年の時間が経っても記憶に新しい事件だった。

 その光景を振り返って、涙をこぼして歯がゆがるカレンは、思わず大きな声で叫んでしまう。

 

「でも、殆どの転生者が結局――善人の仮面を被ったロクデナシよっ!」

「それでも、全員じゃないんでしょう?」

「絢瀬悠凪のような、己の内に秘めた残虐性を正しく自覚し、それを律する良識と知性と自制心を持つ転生者は確かに、彼を含めて数人います。しかし、現在生き残っているのは悠凪だけです」

 

 カレンの言葉には、彼らを殺害した「とある者」への怒りと、自分が期待を寄せていた彼らの死への悲しみが入り混じっていた。その様子を見るに耐え切れず、彼女の頬に手をあてた美玖は親指を優しく動かし、涙を拭き取った。すると、カレンがほのかに微笑った。

 

「味を知らないなら、誰も蜂蜜を盗もうとはしません。そして、社会のレールに沿って生きてきた従順な子羊も、きっかけさえあれば狂犬に変わります。私はずっと、そう考えてきました」

「えっ……ゆ、悠凪くん!?」

「ど、どこまで聞いてました?」

 

 と、言っている傍から、先程の話題の中心となった人物が廊下の角から現れた。

 

 

 

 

 

「そうですね……貴女が『人間の価値をはかる』について言及しているところからです」

 

 彼女に善悪の概念は存在せず、力を与えられた人間がどのような行動をするかを観測し、それを趣味としていると思っていたが、実際はそうではなかったようだ。

 

 転生者に「力」を与え、それをどう使うか、どのような選択をするかを見守ることから、彼女は他者の自由意志を尊重するが、しかし先程の話を聞くと、彼女は力を与えると同時に「当事者には善行を行ってほしい」という密かな願いがあった。

 

 しかし、彼女が転生者に「力」を与えた根本的な理由は「価値をはかるため」だ。

 その価値を知った後はどうするのか、非常に気になる。

 

「貴女は彼らに心の暗部と対面させるきっかけを与え、それを律する良識と理性、自制心を培うと同時に、その価値をはかろうとしました。しかし、殆どの転生者は貴女の願いに反し、与えられた『力』で様々な悪事を働いてましたね?」

 

「え、ええ。確かに貴方の仰る通り、彼らに『力』というきっかけを与え、勝手に期待し、勝手に失望したのは他でもなく私です。私のせいで、大勢の無関係な人まで、命を落として――」

 

 と言いながら、これは自分の責任だと思っているか、また泣き出してしまったカレン。

 しかし私は、彼女に非があるとは思わない。というのも、与えられた「力」で悪事を働くことを選んだのはあのロクデナシ共の意志であって、彼女の命令ではないからだ。

 

「涙は貴女に似合いませんよ」

「あ、な、何を……あんっ!?」

 

 今すぐ抱きしめたい衝動に駆られて、そのままカレンの腰に手を回してしまった。

 美玖が傍にいると分かっているのにも関わらず、悲しんでいるカレンのことをどうしても放っておけなかった私は、勢いのままカレンを強く抱き寄せ、ハンカチで涙を拭き取ってあげた。美玖に怒られると分かっていながら、私は抱きしめる手を緩めなかった。

 

「彼らは己の意志で、悪事を働く自由を選んだのです。きっかけを与えたとはいえ、貴女には何の責任もありません。いつか彼らは、その自由の代償を支払うことになるでしょうね」

 

「果たして、そうなんでしょうか。しかし私には……」

 

「人間は己の意志で、自らの本質を決めることができる『自由』な存在だと、サルトルは考えていました。彼らが己の意志で悪事を働くことを決めたのなら、それは彼らの自由です。つまり貴女に責任があるとするならば、それは貴女が彼らの自由意志に干渉したことが前提です」

 

「しかし、カレンさんは彼らの意志に干渉することなく、ただ力を与え、その使い方を当の本人に委ねましたね?」

 

 美玖の言葉に、私の胸に顔をうずめたカレンが肯定の意を示すように頷く。

 少し美玖の顔を窺ってみると、怒っていると思ったが実際は怒っていなかった。いつもと変わらない穏やかな笑顔だった。その一方でカレンは恥ずかしそうに顔を赤く染めており、三つの質問を投げてきた時に見せた威厳が見受けられず、可愛らしい美少女にしか見えなかった。

 

「ありがとう……お陰で、悩みが一つ消えたようです」

「なら良かったです。それでカレンさん、いつまで悠凪くんと抱き合っているつもりですか?」

「もうちょっとだけ悠凪を抱きしめて欲しいです……ダメ、でしょうか?」

「構いませんよ。そもそも、最初にそうしたのは私ですからね。さあ、美玖もこっち来て――」

 

 そう言いながら、空いた手をやきもちを焼いている美玖の腰に回すのだった。

 しかし、抱き寄せようとした際に偶然、美玖のお尻を触ってしまった。

 

「あ、あんっ、もう……悠凪くんったら!」

「この柔らかくて温かい感触は、本当にたまらないな」

 

 と、率直な感想を述べる私だった。

 しかし、言動が度が過ぎた自覚もあって、今度こそ怒られるんじゃないか、と美玖の顔を窺ってみると、本人に嫌がる様子がなく、すっと力が抜けたように私の肩に頭をもたせかけた。

 

「悠凪くんになら、どこを触られても構いません……でも、それは寮に戻ってから、ですよ?」

「分かったよ。今夜は寝かせないから、覚悟しておいてね」

「うぅ、うん。その時は、優しくしてくださいね」

 

 美玖は顔を赤らめてそう言った。

 あぁ、今夜は楽しみだ!

 

「えっと、わ、私、お先に失礼してもいいんですか?」

「逃がしませんよ。貴女にお聞きしたいことがありますので」

 

 この雰囲気に耐えられなくなったのか、逃げようとするカレンだった。

 そこで私は、カレンが逃げられないように腰に回していた手に力を込めた。もしカレンが全盛期だったら、今すぐ私を殴り飛ばせるかもしれない。しかし、力が回復していない今の彼女はあまりにも非力だ。男の力にあっさりと抑えられる、ただの「深窓の令嬢」だった。

 

 しかし何だろう、この癖になるような触り心地。

 カレンの腰に手を回していたはずだが、この途轍もなく柔らかいものはなんだろう?

 

「あ、いやーん……い、いつまで胸を触ってる気ですか……あんっ!?」

「まさかカレンさんにまで手を出すなんて、悠凪くんってもしかして、欲求不満?」

「違うと言えば、嘘になるな……しかしこれは、不可抗力というか、不慮の事故というか」

 

 不本意とはいえ、女神であるカレンに不埒な行為を働いてしまった。

 そして当然の如く美玖からジト目で見られた。

 

「やめてよそのジト目、すごく傷つくんだが」

「言い訳する悠凪くんが悪いんです!」

「ふ、二人共、済まない……っ」

「まあ……助けてくれたんだし、今回だけは許します。それで、私に聞きたいことは何です?」

 

 当の本人が許してくれたので、美玖も追及をやめることにした。

 さて、ふざけるのはこのくらいにして、本題に入ろう。

 

「貴女が転生者に『力』を与えた理由は『価値をはかるため』と聞きました……その価値を知った後は、どうするつもりですか?」

「悠凪のような合格した転生者には崩壊と対抗できる武器を与え、観察を続けます。しかし、そうではない転生者はそのまま切り捨てます。程度が酷かった場合は、この手で、制裁を……!」

 

 うまい話には必ず裏がある、ということか。

 不合格の転生者はそのまま切り捨て、犯行の態様があまりに悪質だった場合は制裁を加える――殺すということかもしれない。その正義の判断基準は恐らく転生者の転生先の世界の法律やルールに準ずるのだろう。しかし、カレンが何人の転生者に制裁を加えたか、いつから始まってしまったのかは深く聞かないでおこう。

 

 私以上の悲しみを抱えている彼女を、これ以上泣かせてはいけないと、そう思ったからだ。

 

「そうですか。合格と認めてくれたのは嬉しいですが、私はまだ見ぬ未来を見る為に、自分の知的好奇心を満たす為に、様々な世界を旅しながら干渉することを、もうご存知のはずでしょう」

 

「ええ……私が三つの質問をした時、悠凪はそう答えましたね」

 

「私はこれからも、己の好奇心を満たす為に様々な世界に干渉するのでしょう。そして、絶対的な正義は存在しないから、私が正しいと思っていることは貴女からすれば正しくないかもしれませんし、逆のパターンも起こり得るでしょう。でも、これだけは伝えておきたいのです――」

 

 少し息を整えると、心の底にある言葉をカレンに伝える。

 

「誰かに何を言われようと、私はこれからも、自由を追い求め続け、自分の信じる正義を貫き通します。貴女が与えてくれた、次元の壁を越えられる『自由の翼』と共に」

「揺るぎなく、確固たる信念を持つ……私は悠凪のそういうところが、好きですよ」

 

 さらに身体を密着させてくるカレンだった。彼女の甘い匂いが私の鼻腔を刺激し、その温もりが胸いっぱいに広がってきた。しかもその愛嬌のある声を聞けば聞く程、昔プレイしたあるエロゲのヒロインを思い出してしまう。何せ、声が似すぎているからだ。

 

 『金色ラブリッチェ』が発売される2年前、同じ会社が作ったエロゲ。

 そのタイトルは『花咲ワークスプリング』という。

 

 同じ金髪青瞳だから、ツインテールを結んだ上で長いアホ毛を付けて、コルセット付きの鈴ヶ丘学園の制服を着替えれば完全にあの子だ。そうだ、あの子の名前は――琴吹ヒカリ。

 

 ん……ちょっと待て!

 カレンにコスプレさせようとするとは、私は一体何を考えているんだ?

 というか、何故このような考えが頭をよぎっただろう?

 

「悠凪ぐん、どうかしましたか? 今、ぼーっとしてましたよ」

「う、いや……えっと、何でもないよ美玖」

「あら、カレンさんにコスプレさせることを考えていたじゃないですか?」

「何故バレた――あっ!」

 

 心が読まれていた。やはり美玖には誤魔化せないか。

 

「私にコスプレさせたい、ですか。い、いいでしょう」

「ん……えっ、ほ、本当にいいんですか!?」

「そっ、そ、それは、悠凪が望むことであれば……っ」

 

 カレンがおどおどしながら言つた。私も妙に照れてしまって、上手く言葉が出なかった。

 にしても、この照れ方がヒカリちゃんとそっくりだった。天使と言っても過言ではないと思う。

 

「詳細について詳しくお聞きしたいのですが、そろそろ試合のお時間ですわ。悠凪くん」

「そう言えば、現在時刻は――」

 

 左手の腕時計を見ると、試合開始の時間まで、残り3分しかなかった。美少女二人と過ごすのが楽しすぎて、危うく時間を忘れそうになってしまった。私は二人に連行されるような恰好で1階に到着するなり、一足先に通路で待っていたシルヴィ一行と鉢合わせになった。

 

 

 

 

 

 全員が揃った、というわけではない。ヤサカ・マオはここにはいなかった。きっと決戦の舞台に私を待っているだろう。大勢のガンダムファンの前で、決勝戦という最高の舞台でマオと戦えると思うと、口角が思わず上がってしまった。

 

「どうしたの悠凪。出口を眺めながら笑って……」

「シルヴィ……えっと、マオと戦えると思うと、楽しくて待ちきれないだけさ」

「うふふっ、悠凪はお強いお方と戦うのが好きなんだね」

「マオ君は悠凪さんと戦う為に、クロスボーン魔王にとっておきの追加装備を用意したんだ」

「そうなのか、セイ。そいつは楽しみだな」

 

 なるほど、マオがここにいない理由が分かった。

 どんな装備なのかは聞かないでおこう。聞いたら心のワクワク感がなくなるから。

 

「もう、また笑ってる……どこからどう見てもバトルマニアじゃないか!」

 

 急に横からツッコミを入れる篠原先輩。

 

「先輩がそう思うなら、そうでしょうね」

「うぅ……まあいいわ。ところで、絢瀬君と二人きりの話がしたいけど、いいかな?」

 

 私は頷く。そして篠原先輩と共に曲がり角まで向かう。

 

「先輩、俺に話したいことは何ですか?」

「さっきは……からかってごめんなさい」

「謝るのは俺も同じですよ。不本意とはいえ、先輩を突き飛ばしてしまったから――」

 

 そう言って頭を下げて謝罪しようとしたが、篠原先輩に止められた。

 

「でも、絢瀬君は助けてくれた。それに、わっ、わたしを……」

「先輩……?」

「わっ、わたしを、お姫様抱っこしたのは――絢瀬君が初めてなのよっ!」

「そうですか」

「ちょっと、反応が冷たいんだけど!」

 

 サラサラとした銀色の髪の毛を指でくるくるしながら、声を大きくして言い放った。

 それにもじもじと恥じらっているようにさえ見える仕草が可愛くて、思わず見とれてしまう。

 

「冷たいですか。もしかすると先輩は、正直な感想が聞きたいですか?」

「違うわよっ……さあ、そろそろ、時間だし、クルスクラウンさんのところに戻ろう」

「分かりました、先輩」

 

 露骨に話を逸らす篠原先輩についていくのだった。みんなのところに戻ると、女子全員が群れてコソコソと何かを話しているようだ。一瞬の後、私と篠原先輩が戻ってきたのを気付いたか、私が苦手なあの女、城ヶ崎絢華がいかにも不審者を見るようなジト目を向けてくる。

 

「レディの話を盗み聞くなんてほめられませんよ」

「悪いが、俺にそんな趣味はないな」

 

 その一方で、シルヴィの数歩離れた所に控えているボラルコーチェさんが満面の笑みを浮かべている。エキスナさんはどこに行ってたのかは分からないが、男性勢であるユウキ・タツヤとセイがこちらをチラ見して苦笑いを浮かべていた。

 

「あの……セイ、それにメイジンさん?」

「よく分かりませんけど……」

「彼女たちは、君について話しているようだ」

 

 うーん、ちょっとよく分からない。

 

「まぁまぁ、悠凪と関係ある話だし、こっそり本人に聞かれても問題ないじゃん」

「俺に関係ある話だと? それはどういうことだ、玲奈」

 

 何の話だ、と戸惑っている私が問いかけると、全員の視線はエルに向いていた。

 瞬時、エルの顔が熟れた林檎のようにかあっと赤くなる。

 

「ねぇ悠凪、エルちんを口説いたってのは本当?」

「口説いたって……何のことだ、一体!?」

「フェンシング部の女子から聞いたよ、エルちんの目が綺麗だなーって言ってなかったぁ?」

 

 ああそれ言ってた。めっちゃ覚えてる。

 スティール網に覆われたフェンシングマスクでも、まるでルビーのように光輝いているエルの目までは隠せなかった。だから彼女の攻撃を読むことが出来、勝利を納めることができたのだ。あの時は「攻撃を見切ることができた理由」としてエルに言ったのだが、どんな言葉でも、人によって捉え方が違うということか。

 

「なるほど、そういう捉え方もあるんだな」

「やっぱ言ってたの? エルちんの目が綺麗って」

「ああ、認めるよ。君と語り明かしたいのは山々だが、今は試合を優先しなければならない」

 

 そう言い残して、出口に向けて歩き出す。

 

「絢瀬君は女運に恵まれてるな。これも若さ故か」

「あの、メイジンさん……急に何を言っているのですか!?」

「――強張っていた頬がようやく緩んだな。健闘を祈る、絢瀬君」

「頑張って、悠凪さん!」

「ありがとうございます。メイジンさん、それにセイも!」

 

 そうか、ユウキ・タツヤは私をリラックスさせる為に言ったのか。

 

「悠凪、ファイトだよ!」

「絢瀬殿、ご健闘を祈る」

「絢瀬様、ご健闘をお祈りしておりますわ」

「ご健闘をお祈りしておりますぞ、絢瀬様」

「うふふっ、ファイト、ファイトぉ!」

 

 二人の姫君、女騎士に慇懃な老執事、そして金髪ギャルが応援してくれた。

 

「頑張ってくださいね、お兄ちゃん!」

「私の思いは、貴方と共にありますわ」

「約束とは言葉ではなく、行動なのよ。だから絢瀬君、絶対に勝って……!」

 

 続いて愛しき妻に神様、そして約束を交わした生徒会長も応援してくれた。

 

「ありがとう、みんな。それと、先輩……」

「ん、どうしたの?」

「先程の言葉は、サルトルからの引用ですね?」

「そこに気づくなんて、絢瀬君は本を読むのが好きなんだね」

 

 しかしそんな中、私に尖った言動を取る者がいた。

 

「無駄口叩かないでさっさと出場しなさいよ!」

「分かっている。城ヶ崎、君はただ見ていればいい……()の戦いを」

「今、一人称が――」

「うぅ、何でもない。早く行くぞ」

 

 出口をくぐり抜けると、私を待っているのは、観客からの熱烈な拍手喝采だった。万雷の拍手を浴びながら、私と城ヶ崎はレッドカーペットを歩いていく。そして真ん中に設置されたバトルシステムで、私はマオとフルクロスを装着したクロスボーンガンダム魔王と対面することになった。

 

 いや、あれはフルクロスというより、フルクロスに似せて作られた追加装備のようだ。

 形状がオリジナルと少し違うし、ピーコック・スマッシャーも所持していない。右手に持たせた武器はムラマサ・ブラスターに似ているが、ビーム・ガンの口径が本来より大きいので、違うものだとはっきり分かる。どんな戦い方をするのか、見極めさせてもらうぞ!

 

『Field 1, Space. Please set your Gunpla.』

 

 今回のフィールドは宇宙空間か。

 いや、デブリや石ころがあっちこっち散乱しているので、こいつは暗礁宙域だ。

 

「ただ見ていればいいと言ったが、君がこんなに近くで見たいとは思わなかったぞ」

「わたくしが絢瀬さんのオペレーターになることがご不満ですか?」

「いや……そもそも、そんなことは一言も言ってないのだが」

 

 この女の沸点がよく分からない。

 それはさておきとして、今は決勝戦に集中するとしよう。

 

『Battle start.』

 

「ヤサカ・マオ、クロスボーン魔王フルクロス、行きます!」

「絢瀬悠凪、フリーダム、出る!」

 

 つづく

本作のオリ主以外のオリキャラ中に、誰のことをもっと知りたいですか?

  • 風間隼人
  • 篠原聖奈
  • 鳳凰院美玖&カレン
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