世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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リアルで色々あってメンタルが病みかけていて、最新話投稿が遅れてしまいました。
近況報告はこちら:https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=300453&uid=160245

◇◆◇◆◇

クロスボーンガンダム魔王フルクロス
XM-X9999

操縦者:ヤサカ・マオ

▼武装
ヒート・ダガー×2
ビーム・サーベル(ビーム・バルカン)×2
ビーム・ザンバー×1
スカルサテライトキャノン×1

・バタフライブラスター×1
古い火縄銃の形をした可変速ビーム・ライフル(ヴェスバー)である。ベースとなった武器はCBガンダムX-0のバタフライバスターBであるが、サーベルモードは廃止されている。攻撃対象に応じて高収束で貫通力の高いビームから、低収束で高威力のビームを撃ち分けられる。

・多目的攻撃兵装「クジャク改」×1
ビーコック・スマッシャーとムラマサ・ブラスターを一つにした武器。近接の「バスターモード」と、ボウガン状に展開する「スマッシャーモード」を使い分けられる。オリジナルとの外見の差は殆どないが、マオの独自改造により、スマッシャーモードではある程度の追尾機能を持つハモニカブレードを発射できる。

▼特殊機能
サテライトシステム

▼特殊装備
リフレクターパネル
スカルヘッド・ユニット(Iフィールド)×2

・ABC積層装甲板(サイコプレート)×16
本機の対ビーム用防御ユニット「フルクロス」を構成する16枚の装甲板。1枚は其々、何枚もの薄いプラ版を重ねたもので、表面にビーム・コーティングを施したことも相まって、ビーム兵器に対して非常に高い防御性能を持つ。しかし、実体弾に対する防御性能はチョバムシールドと大して変わらない。マオの独自改造によりファンネルとしての機能を付与されている為、分離・射出した後は縦横無尽に飛び回るサイコプレートと化す。


第42話 決勝戦 VS海賊の魔王

 バトルシステムに予め備わっている録画機能をオンにすると、城ヶ崎絢華は試合に集中しているクラスメイトの男子――絢瀬悠凪に目をやる。今までは「ただの庶民」として見ていたが、プロのファイターであるクズノハ・リンドウに偶然に勝利したくらいで調子に乗って「ヤサカ・マオにも勝ってみせる」と大口を叩くことから、彼は世間知らずで傲慢な庶民であることが窺える。

 

 それに、前の第七回世界大会の優勝ファイターであるレイジと違って、プロからの指導を受けた事はない。ただの駆け出しファイター、ガンプラバトルの初心者だ。対するヤサカ・マオは第七回世界大会のベスト16であり、ガンプラ心形流の門下生だ。環境も経験も差がありすぎて、試合が始まる前にもう勝敗が決しているのだ。

 

 ヤサカ・マオにも勝ってみせるって、どこからその自信がくるのか全然分からない。

 

「(全く馬鹿ばかしいわ……)」

 

 と、心中で呟いた絢華はにっこりと腹黒い微笑みを浮かべた。

 

「どうした、何か可笑しいか?」

「なっ、何でもないわよ! わたくしに構うより、試合に集中したら?」

「余裕があるから、こうして君に話しかけているんだよ」

「あらそう。余裕ぶってると、足をすくわれるかもしれないわよ?」

「そうか、忠告ありがとうな」

 

 と返事しながら、ピーコック・スマッシャーらしき武器から放たれたビームの弾幕を巧みな高速機動で回避し、躱しきれないビーム弾をビームサーベルで捌いていく。ガンダムについてはあまり詳しくないのだが、これは二ヶ月前の実況番組で、三代目メイジン・カワグチが見せたことのあるテクニックだったことを、絢華ははっきり覚えている。

 

「(所詮はカワグチさんの物真似。ヤサカ・マオにどこまで通用するのかしら)」

 

 そのテクニックを真似できる最低限の実力はあるようだが、訓練や実戦経験に圧倒的な差がある以上、ボロを出すのは時間の問題だろう。絢瀬悠凪がヤサカ・マオに優勝を取られて、篠原先輩を失望させたことを悔しがる無様な様子を想像すると、思わず口角が上がってしまった。

 

「(あら、いけない。今は我慢しないと……)」

 

 嘲笑ってやりたい気持ちを抑える絢華だった。

 

「その微笑み、やはり『何か』考えているな。城ヶ崎」

「貴方には関係ないでしょう。それより、さっさとビームシールドを構えなさい!」

「分かっている!」

「(わたくし、なんてアドバイスしちゃったんだろう。絢瀬さんに負けて欲しいのに……)」

 

 一瞬で我に返り、絢華は自分の発言が本心と矛盾していることに気づく。しかし、それを考える暇もなく、追尾機能を持つ刃状のビームを防いだフリーダムがスラスターを噴射し、クロスボーン魔王との距離を一気に詰めて居合い斬りを放った。

 

「ほう、避けたか」

 

 しかし、残念なことにそれが上手く行かず、クロスボーン魔王はそっと身を躱してフリーダムに広い空を切らせた。その隙にピーコック・スマッシャーらしき武器を本来の形に変形させ、外縁に14本のビーム・サーベルを一気に顕現させると、それをフリーダムに目掛けて叩き込む。

 

「ムラマサ・ブラスターとピーコック・スマッシャーを一つにした武器か。これは確か、失われたはずのクロスボーン・ガンダム……そう、X-0の武器『クジャク』だったかな?」

『ご名答ですぅ。しかもワイが作ったクジャクは、ハモニカ砲の機能も盛り込まれてますっ!』

「なるほど。だからブレード状のビームが撃てるわけだ」

 

 無線で雑談を交えながら一進一退の剣戟を繰り返す二人。ヤサカ・マオはともかく、絢瀬悠凪が何故そんなに余裕でいられるのか。相手を過小評価しているのか、それとも本当に余裕がある状態なんだろうか、と絢華は首をかしげながら思った。

 

 刻々と位置を変える二機のガンダムに意識を凝らし、絢華はデブリの一端から突き出す大型砲塔らしき残骸に視線を転じた。次の瞬間、その残骸付近に爆発の光が生じ、トラス構造の鉄骨が引きちぎられると、二つの光点が縺れ合うように虚空に躍り出ていた。

 

「あれは絢瀬さんのフリーダム……えっ、クロスボーン魔王の左足が損傷している!?」

 

 ただ装甲が抉られただけで、戦闘継続に支障はなかったようだ。両翼を広げたフリーダムがもう一本のビームサーベルを抜き放ち、その光刃をスレスレで回避したクロスボーン魔王が背中のX字スラスターを噴射して機体をひらりと翻すと、フルクロスの装甲板を全部パージした。

 

「この早い段階でフルクロスをパージするのか!?」

「待って、絢瀬さん。フルクロスの装甲板が光ってます!」

「こ、この光は……サイコ・フレームの光!」

 

 16枚の装甲板が一斉にパージされ、身軽になったクロスボーン魔王が空いた手でビーム・ザンバーを引き抜く。メインスクリーンに拡大投影されたフリーダムをひと睨みしてから、糸目が開眼したマオは、ずっと言いたかった決め台詞を叫ぶ。

 

『月よ、宿せっ!』

 

 濃いグレーの装甲板に赤い燐光を相乗させ、クロスボーン魔王の周囲に束の間滞空したそれらはすぐに自ら動き始め、一瞬に「海賊の魔王」の背後に半月状に形を取った。

 

「これは驚いたな。フルクロスにムーンガンダムのサイコプレートの機能を付与したのか」

『こっからは全力で行かせてもらいますぜぇ、悠凪はん!』

「ああ、望むところだッ!」

 

 愉悦そうに返事しながら、アームレイカーを握りしめた悠凪はフリーダムを突進させた。半月を背にしたクロスボーン魔王のデュアルアイ・センサーが緑色に光ると、それに連動したかのように赤い燐光を放つ半月が16枚の板に分離し、魔王の露払いのために目標に猪突していった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 本来はコックピットの胸部中央にサテライトキャノンを内蔵したり、フルクロスの積層装甲板にサイコプレートの機能を付与して攻防一体の兵装として仕上げたりする辺りに、マオの「原作設定に囚われない自由な発想」が垣間見える。

 

 兵器として再現不可能に近いものや、設計に無理があって現実的ではないもの、言わば「ロマン兵器」と思われるものを自分で組み立てて動かせるのが、ガンプラとガンプラバトルである。

 それに、これはガンプラ同士の戦い――単なるスポーツ、遊びだと定義づけてもいい。ガンダム世界で実際に行われたMS戦と違って死人は出ない。だから私は遠慮なく本気で戦えるんだ。

 

「フッ、クククッ……心が踊る!」

 

 私の待ち望んでいた試合である。選手リストにマオの名前が載っていたのを見た時に、こうなることを予想はしていたが、ここまで激しい試合になるとは予想していなかった。だが私は、第七回世界大会のベスト16であるマオと刃を交えることに、この上ない悦びを感じている!

 

「後方5時の方向よ、注意して!」

「回り込まれたか!」

 

 こちらがサイコプレートに気を取られているそこに、マオのクロスボーン魔王が背後から迫ってきた。二刀流ソードスキル「エンド・リボルバー」で四方向から襲来するサイコプレートを一気に弾き飛ばすと、私はメインスクリーンに映し出されたクロスボーン魔王に意識を凝らした。

 

 ――武装選択……バラエーナ・プラズマ収束ビーム砲。

 しかし、放たれた高出力ビームが案の定、スカルヘッド・ユニットに内蔵されたIフィールドに阻まれた。私は追撃とばかりにもう一発撃ち込み、今度は「防ぐ」ではなく「避ける」ことを選択したクロスボーン魔王の右脚を掠め、それに伴う小さな爆発が、その軌道を狂わせるのを見た。

 

「Iフィールドが動作しなくなった……?」

 

 疑問を口にすると、クジャクとビーム・ザンバーを二刀流に構えたクロスボーン魔王がこちらに肉迫する。高熱の粒子束が激しくぶつかり合い、雷鳴の光をデブリの海に押し拡げた。

 

『Iフィールドがこうもあっさり破られるのは予想外やったわ』

 

 マオのビルダーとしての能力を考えれば、この細かいところまで丁寧に作られているフルクロスのIフィールドの強度はそこそこあると思うのだが。どうやらこちらの火力が強すぎたようだ。

 

『しかし、背中はガラ空きなんだぜ、悠凪はん!』

「フッ、そうかな?」

 

 斬り結んだ粒子束が反発し合い、残粒子を火花のように散らしながら互いに距離を離す。即座に体勢を立て直し、照準画面の向こうにいるクロスボーン魔王を見据えた私は「全方位から攻撃――早く避けなさい!」と発した城ヶ崎の声にぎょっとなった。

 

「慌てることはないさ。サイコプレートは全部、撃ち落とす!」

「撃ち落とすって、どうやって?」

 

 オールレンジ攻撃兵装の対処方法は、とっくに心得ている。しかし、このビームサーベルを叩きつけてもびくともしない硬さを持つサイコプレートは、ビーム・コンフューズで撃ち落とせるものではない。ビームは効きにくいのだが、実体弾――クスィフィアス3ならどうだろうか?

 

 ただ、距離を離してからレール砲を直撃させるには、サイコプレートの反応速度を超える必要がある。少し早いが、温存していたジョーカーを切るとしよう。

 

「私の『切り札』を見せてやろう。エクストリームブラストモード、起動!」

 

 

 

 

 

「フリーダムが、消えた!?」

 

 沸き立つ歓声の中から玲奈の声が浮き立ち、傍で観戦する美玖はぎょっと振り向く。

 柵を握ったまま、バトルシステムに真上に設置された超大型モニターを見上げ「本当だ、どこに消えたのかしら?」と、すぐに首をかしげたシルヴィアが続いて言った。

 

「ううん……違います。シルヴィも玲奈も、デブリの陰をよく見て」

 

 美玖が落ち着いた声で言うと、デブリの陰から現れる光点に指差しをした。次第に光点が大きくなり、両翼が蒼に、本体が鈍い銀色に輝くフリーダムの機影が明瞭に見えるようになった。

 

「えっ、ちょっとあれって……質量を持った、残像だって言うの!?」

「恐らく違います、妃さん。あれはデスティニーガンダムに搭載された最大稼働モード――」

「うん、あれは多分『エクストリームブラストモード』だと思うわ。そうでしょう、美玖?」

「ご名答です、シルヴィ。そしてセイくんも」

 

 自分より年上の美少女に褒められて、セイは思わず「えへへ……」と照れてしまった。ピュアで奥ゆかしい微笑みが魅力的で、しばらくこのまま眺めたい気分だったが、それは観客席から熱狂的な歓声が沸き起こるまでのことだった。

 

「なんと、高速で飛行するサイコプレートに、レール砲を直撃させるとは!」

 

 グラサンをずらしたメイジンが驚いたように言い、その視線を追ったセイは上下左右、三次元に高速で飛び交うサイコプレートの体当たり攻撃を残像が生じる程の高速機動で回避したフリーダムガンダムが、姿勢転換した同時に両腰のクスィフィアス3レール砲を遠くにあるサイコプレートに直撃させるところを目の当たりにしてしまった。

 

「あの動き、ユウキ先輩のようなベテランでもなければ……!」

 

 ガンプラバトルに触れたばかりの人ができるわけがないはず。周りからもそう思われるのだろうが、しかし絢瀬悠凪のような例外的な人は、自分はとっくに出会っていた。その人物とは、自分とススムのバトルに乱入し、その卓越した操縦技術に魅せられた自分から選手権への参加を持ちかけられる赤髪の少年――レイジである。

 

「絢瀬君の実力は、我々やレイジ君以上かもしれん」

「う、レイジ……って、ユウキ先輩がそこまで言うんですか!?」

「これまでの操作を見せた絢瀬君を例えるなら、SEEDを発現したキラ・ヤマト、純粋種として覚醒した刹那・F・セイエイ、逆襲のシャア時期のアムロ・レイといったところか」

「エースパイロット……ううん、主役級の実力者!」

「そうだ。今の絢瀬君は、己の実力で戦場を支配し、ヤサカ君を少しずつ追い詰めている」

「僕やレイジより、強い人……」

 

 だが、親友との思い出を振り返る余裕もなく、セイは超大型モニターに映し出されたハイマットモードになったフリーダムに意識を凝らした。姿勢制御をしたクロスボーン魔王からビームが斉射され、フリーダムを狙う。浮遊するデブリがその直撃を受け、複数の爆光を虚空に膨脹させた。

 

 白色の光輪を背に、フリーダムと分かるシルエットがクロスボーン魔王に急速に近づく。残った4枚のサイコプレートに追撃させつつ、ビーム・ザンバーを収めたクロスボーン魔王は古い火縄銃のような形のロングライフルを左手で構えると、フリーダムに目掛けて一射した。

 

 回避は間に合わないと判断したのか、体当たりしてきたサイコプレートを二刀流で弾き飛ばしてからレール砲で撃ち落としたフリーダムは減速し、左手のビームシールドを前に突き出して砲撃を防ぐ。続いて畳み掛けるように襲来するサイコプレートを、巧みな剣捌きで斬り飛ばす。耐久度が限界に達したのか、斬り飛ばされた中の1枚がデブリに衝突して粉砕された。

 

「絢瀬様、本当にお強いですわ」

「あの流れるような剣捌き、お見事としか言いようがありません。どの流派の剣技でしょうか」

 

 カミナルが賞賛の言葉を述べ、エロイナは悠凪と出会って以降の出来事を振り返る。

 こちらの勘違いによって身柄拘束された時、自分の部下だちにサーベルを突きつけられても動揺しない冷静沈着さといい、相手の視線から攻撃を予測するテクニックといい、そのどれもが普通な青少年の持つものではなかった。個人情報を偽っていることを疑っていたが、本人は誤魔化すことなくこれを認めた。状況が隠し事を許してくれない時に全てを話すことも約束してくれた。

 

 最後に「その日が永遠に来ないことを切に願っている」と言ってきた辺りから察するに、何かの事情で身分を偽らざるを得ないと見ていいだろう。だが今は一先ず、棚に上げるとしよう。

 

「(貴公が何者であろうと構わない。今後ともシルヴィ様と仲良くして差し上げて下さい。そして貴公が、此度の試合の勝利を収めることを、心から願っています)」

 

 と、ビームサーベルを二刀流で構えるフリーダムを見上げながら、エロイナは心中で呟いた。

 

「剣を二本持つような者は、我が国では格好つけたいだけの酔狂者と相場が決まっていますが」

「しかし絢瀬様は、妙に様になっていますわね」

「カミナル様も同じご意見でしたか」

「ヨーロッパでは、大昔のローマに二刀使いの剣闘士が居たとされていることを、カバリェロさんもご存知かと思いますが、日本では宮本武蔵が有名だそうですよ」

「どちらも存知でおります、カレン殿。歴史教科書で学んだことがありますので」

 

 ほんの少し雑談をすると、メイジンの例え話を振り返るカレンは、クロスボーン魔王とつば競り合っているフリーダムに目を凝らした。本人はガンダム作品のキャラクターで悠凪を例えるつもりだろうが、実際言っていることは的を射っている。

 

 何故ならヤサカ・マオが戦っているのは、ある意味アムロ・レイご本人である。

 

 元々動体視力と反射神経が人並み外れて、NT適正も持っている悠凪の脳内に29歳のアムロ・レイの戦闘技術を保存している缶詰知識を刷り込んだことは、ただでさえ強い鬼に金棒を持たせるようなものだ。そんな彼は、戦いの中で自分独自の戦い方を編み出し、SEEDを発現したことも幾度かあった。悠凪に自覚があるか分からないが、もしも彼が風間隼人に殺されることなく安寧の一生を過していたら、秘められた種は永遠に芽生えることはないだろう。

 

「(宇宙に適応した新人類の素質と、SEEDを兼ね備えている転生者、ですか……)」

 

 類い稀な転生者と出会ったことを、カレンは幸運に思っている。それに絢瀬悠凪と一緒に過ごすこの時間は、自分が律者としての使命や、神様という表向きの身分を棚に上げることができ、ごく普通の女の子で居られる。その上、細部まで作り込まれているガンプラを見たら、自分も作りたくなってしまった。もうしばらく彼の傍にいたいと、恋心をくすぐられたカレンはそう思った。

 

「ガンプラを組み立てるだけでは物足りないと思いますが……」

「ひゃっ……み、美玖、どうして!?」

 

 美玖に耳元で囁かれてびっくりするカレン。

 

「ねえ、カレンさん。ガンプラバトルを、やってみたいと思いませんか?」

「そうですね。こんな楽しいお遊び、やらないと損しちゃいますよね」

「その時は、わたしと美玖が相手になってあげるわ!」

「お二人が相手になってくれるのは嬉しいのですが……みっ、密着しすぎですっ!」

 

 でも、悪い気分はしなかった。寧ろ遠い昔を思い出させてくれた。お茶会でエリシアとエデンにこんな風に、左右から密着されながら洋菓子を食べさせられていた。あの頃が、恋しかった。あれからもう5万年以上経っていましたね。と、嘗ての仲間たち――自分を含めて英雄に成れなかった「火を追う英傑たち」との思い出を振り返ったカレンは、再び超大型モニターに目を向ける。

 

「あら、クロスボーンのリフレクターパネルが光って――」

「マオ君は、プラフスキー粒子を圧縮して衝撃波を放つつもりです!」

「そういう使い方もできるんだ。ということは、相手のガンプラを吹き飛ばしてからのサテライトキャノンのコンボもできるのかしら?」

 

 ハロを抱えている聖奈の考察に、セイは「ええ、できます」と頷いて同意の意思を見せる。

 

「あっ、絢瀬様!」

「クロスボーンの髑髏が口を開けた……!」

 

 ミナとメイジンが驚きの声を上げ、その視線を追う全員が超大型モニターに意識を凝らす。

 つば競り合っていたフリーダムが衝撃波に吹き飛ばされ、クロスボーン魔王のX字スラスターがそれぞれレーザーめいた光の柱が放たれ、背中にXの字が浮かび上がる。続けざまに胸部の髑髏に露出した発射口から一本の極太ビーム――サテライトキャノンが発射された。

 

 しかし、姿勢制御を行い、再び四方八方から飛来するサイコプレートを全部捌いたフリーダムは回避や防御する素振りを見せず、ただその場に、片方のビーム刃だけ発振した連結ビームサーベル「アンビデクストラス・ハルバード」を構えて静止した。その不可解な行動に、美玖以外の全員は疑問を抱いた。

 

「直撃したら、どんなガンプラでも消し炭になっちゃうのに。どうして避けようとしないの?」

「あのような卓越した操縦技術を持っている絢瀬殿には、きっと彼なりの考えがあるはずです」

「そうね……悠凪は無駄なことをするようなお方じゃないわ」

 

 スペースコロニーを一撃で破壊できるほどの威力を持っているサテライトキャノンの砲撃をどう対処するのだろうか。聖奈が少しおどおどしながらも、超大型モニターに意識を凝らした。やがてフリーダムが、自機の倍以上の刃渡りを持つ巨大ビームサーベルを真っ向唐竹割りに振り下ろす。その瞬間、全員が目にしたのは、生涯忘れられないであろう光景だった。

 

「え、フリーダムが、クロスボーン魔王のサテライトキャノンを両断している!?」

「ニルス君の戦国アストレイの刀と同じ能力……ということは、あのビームサーベルは!」

 

 あれはただのビームサーベルじゃない。サーベル自体に粒子変容機能を付与することでビームを簡単に切り裂いたり、切れ味を劇的に増幅させることができる。解を口にしようとしたその時に、微笑みを見せた美玖は「粒子変容サーベル……それが、わたしのお兄ちゃんの、もう一つの切り札ですわ」と、セイより一足先に解を口にしたのだった。

 

 二人の姫君とそれに付き添う女騎士がそろって振り向き、驚いた顔を見せたが、取り繕う神経も働かなかった。サテライトキャノンの奔流を両断したフリーダムの機影を追い、美玖は超大型モニターを凝視し続けた。

 

 

 

 

 

『これはすごい! フリーダムがクロスボーン魔王のサテライトキャノンを両断していますっ!』

 

 エコーのかかったキララの声が会場に響き渡り、それに続いて観客席から飛び交う歓声と喝采がより一層大きくなった。目の前で起こったことが信じられずにいるのか、城ヶ崎は「そんな、一体どうやって……」と疑問と驚愕が入り交じった表情でこちらを見ている。

 

「サーベルに粒子変容機能を付与したのさ。ニルス・ニールセンの戦国アストレイの刀と同じね」

「そのような作り込みを……貴方は、本当に初心者なのですか⁉」

「私はバトル歴1ヶ月未満の初心者だが、ガンプラ歴は7年だぞ」

 

 私が答えると、城ヶ崎は目を丸くして沈黙した。

 そして数秒が経ち、虚空の一点に鋭いなにかが凝り、私に背筋を粟立たせた。素早く照準画面を開いた私は、真っ直ぐ突っ込んでくる機影「海賊の魔王」をマルチロックシステムで捕捉する。

 

「フルバーストモード……狙い撃つ!」

 

 と叫んだ頭が白熱し、私はアームレイカーの発射トリガーに指をかけた。5つの光軸がデブリ帯を走り、散乱するデブリや岩塊に直撃すると、瞬時に灼熱、爆散したそれらが無数の光芒を虚空に拡散させる。それらは光の渦と化し、マオのクロスボーン魔王をも巻き込んで衝撃波を押し拡げたが、目立ったダメージを与えられず、装甲の表面に小さな亀裂が入る程度だった。

 

『まだまだぁー! バタフライブラスター、シュート!』

「それなら、ビームシールドで!」

 

 あの古い火縄銃、名前はバタフライブラスターだったのか。どうやら、バタフライバスターBを元に改造した物のようだ。放たれたビームをビームシールドで防ごうとしたそこに、それがビームシールドを貫通してフリーダムの左肩の装甲に着弾し、私の心にほんの少しの戦慄が走った。

 

『一度も被弾しなかったフリーダムに、クロスボーン魔王が初めて、直撃を喰らわせました!』

 

 エコーのかかったキララの声が再び会場中に響き渡り、観客席から絶叫と言っても過言ではないほどの喝采が湧き上がった。観客の皆が盛り上がっていて何よりだ。

 

 しかし、ビームシールドを貫通するとは。ということは、このバタフライブラスターは――。

 

「その古い火縄銃は、手持ち式のヴェスバーだったのか!」

『ご名答です。どう、ぴっくりしました?』

「ああ。さっきのように防ぐつもだったのだが、これは一本取られたな」

 

 ヴェスバーの直撃を喰らったが、左肩の装甲が小破した程度だった。ビームシールドを貫通できたとしても、その威力はシールドによって減衰される。しかし、そんな理屈はもはやどうでも良いのだ。今は速攻で、この試合を終わらせよう。

 

「今度は、こちらの番だッ!」

 

 アンビデクストラス・ハルバードを構え直し、フリーダムを加速させてクロスボーン魔王に肉迫する。もらったぞ、と思ったそことに、ビーム刃が岩塊の表皮に突き刺さり、噴き上がった砂塵が爆発的に拡がった。攻撃が外れたこと知った私は機体を旋回させ、上下左右に目を走らせた。

 

「対物センサー、熱源センサー、どちらも反応なし、か……」

 

 無数のデブリが周囲を流れ、センサー画面をほとんど真っ白に塗り潰しているが、クロスボーン魔王は確実に近くのどこかにいる。心を研ぎ澄ませ、意識とガンプラが完全にシンクロし、周囲に漂うプラフスキー粒子を通してガンプラの隅々に自分の神経が張り巡らされているのが分かる。

 

「う、この気配は……!」

 

 瞬時、肌が音を立てて粟立ち、すかさずフリーダムを横ロールさせた私は真っ正面でX字の光が爆ぜるのを見た。反射的に近接防御機関砲のトリガーを引いてしまい、扇状に散布された実体弾の火線が、高速で肉迫してくるクロスボーン魔王の胴体に直撃の閃光を散らす。

 

「豆鉄砲では止められないか」

『クジャク、セフティー解除。行けぇぇぇぇーっ!』

 

 先端から大型ビームサーベルを発振させたバスターモードのクジャクを構え、こちらに真っ直ぐ肉迫してくるクロスボーン魔王。その勢いは、0ガンダムを串刺ししようとするガンダムエクシアリペアⅡのそれだった。突如、オートで機動したフリーダムがデブリ帯から離脱し、マオの攻撃に空を斬らせた。妙だな、まだアームレイカーを動かしてないのに、一体どういうことなんだ?

 

「城ヶ崎、さっきの動きは君がやってくれたのか?」

「貴方が避けられそうにないから手伝ってあげただけよ」

「そうか、礼を言う」

「別にお礼なんていらないわよ。礼を言う暇があったら試合に集中しなさい。もし負けたら、絢瀬さんがわたくしを壁際に押しつけて不埒な行為に及ぼうとしたことを、学校中に暴露しますから」

 

 と棘のある口調で言いながら、腹黒い微笑みを浮かべる城ヶ崎。壁ドンされた件で私を脅迫するつもりだろうが、しかし残念ながら君の思い通りにはさせない。何故なら、勝つのは私だから。

 

「怖いことを言うね、君。しかし、君にはそんな機会は訪れないことを断言しよう」

「絢瀬さんは自信家ですね。自分に自信があるあまりに傲慢になってしまっていますわ」

「ならばこの試合の勝利を持って、君の考えが間違っていることを証明しよう」

 

 何故なんだろう、城ヶ崎の嫌味を聞けば聞くほど、彼女をわからせたい気持ちが、ますます強くなってきた。私は女を陵辱する趣味はないので、言葉でわからせようと思っている。しかし、今はそれを想像する状況でないことは分かっていた。

 

「マオのクロスボーン魔王は……そこか!」

 

 スラスター光を間欠的に噴射させ、デブリの狭間を滑るクロスボーン魔王。確かに速いが、その軌道は読めないこともない。方向転換する為に減速するところを見計らって「今なら当てられる」と、ビームライフルのトリガーを引こうとした途端、不意に身を翻したクロスボーン魔王が手近なデブリを蹴り、その勢いで反転して、バタフライブラスターで応射してきた。

 

 この距離なら余裕で躱せる、と思ったその時、照準画面の向こうにクロスボーン魔王を見据えた私は「足裏に注意して!」と発した城ヶ崎の声にぎょっとなった。

 

「クロスボーンの足裏から、小さいもの……?」

 

 咄嗟にフリーダムを垂直方向へ移動させると、不意に身を翻したクロスボーン魔王が、足裏から何らかの小物を射出した。よく見ると、あれはヒート・ダガーだった。撃ち落とす、と叫んだ思考が私に近接防御機関砲のトリガーを引かせ、二軸の火線が飛来するヒート・ダガーを狙う。

 

 二門の近接防御機関砲で迎撃しているそばから、機体を急加速させたクロスボーン魔王が別方向から襲来する。二本のヒート・ダガーが火球に姿を変え、デブリが黒い染みになってモニター内に浮き立ったことを確認した後「次は君の番だ、マオ」と白熱する脳内に叫んだ私は、クロスボーン魔王が制動をかけた瞬間にバラエーナとクスィフィアス3を斉射した。

 

「全砲門、一斉射撃……狙い撃つ!」

 

 狙いを定めてトリガーを引き、フリーダムの機体を後退させる。死角に滑り込んだクロスボーン魔王が応射のビーム・バルカンを放ち、扇状に拡がった弾幕と干渉し合った砲弾がスパークの光を連鎖させる。ストロボに似た爆発光が連続して咲く中、視界を端を板状の何かがよぎったのを私は見た。瞬く間にフリーダムの直下に潜り込んでいったそれは――。

 

「あれは……サイコプレートなのか⁉」

「今確認しましたわ。もしかして絢瀬さん、何枚落としたのかを数えてませんでした?」

「ああ、試合に集中しすぎて数えてなかった」

 

 私が返事すると「あらあら、不用心ですね」とジト目を向けてくる城ヶ崎。

 

「あれが最後の一枚よ、さっさと撃ち落として試合を終わらせなさい」

「言われなくても分かっている!」

 

 サイコプレートは、真下にいるな。それに表面がひび割れているので、ビームライフルでも破壊できるはず。そう思った私はビームライフルの銃口を赤く輝くサイコプレートに向ける。突として斜め下に回り込んだクロスボーン魔王から一撃が加えられ、直撃を受けたビームライフルが、一瞬ぐにゃりとひしゃげた。

 

「当てられた⁉」

「あっ、誘爆するわ!」

 

 咄嗟にライフルを手放したが、それでも殆どゼロ距離で膨れ上がった爆発の暴威から逃れることはできなかった。防眩フィルターでも減殺しきれない閃光がスクリーンを照らし、衝撃波を浴びた機体がみしみしと軋む。

 

『もらったぜ、悠凪はんっ!』

「良い攻めだ。しかし、その程度の攻撃では私は倒せん!」

 

 爆発の煌めきを突き破って、赤く輝くサイコプレートが真っ直ぐ突っ込んでくる。マオの戦意がスクリーン越しに吹き抜け、頭皮が引っ張られるような緊張感を私は知覚した。左手に持った連結ビームサーベルで最後のサイコプレートを両断するが、気がついたら外縁に15本のビーム・サーベルを展開したクロスボーン魔王のクジャクが、こちらに押し当てようとしていた。

 

 やられる――目前の対戦相手から発散する戦意が風になり、頭皮ごと髪を引っ張られる圧迫感に晒された一瞬、私は頭の中で何かが「パリン」と割れたのを知覚した。

 

 アリー・アル・サーシェスを仕留めようとした時から……いや、もっと前だ。王留美の所有する秘密基地に、隼人を侵入者からかばおうとした時も同じ感じがした。思考が徐々にクリアになっていくのを感じる。わずか一瞬、現状を打破する為の手段が、私の脳内に浮かび上がった。

 

 クジャクはムラマサ・ブラスターと同様、実体剣にビームサーベル発振器を付けた複合兵装ではあるが、ビーム刃は実体剣全体を覆っているわけではないので、実体剣の部分を叩き斬れば簡単に壊せる。斬り結んだサーベルが反発し合い、クロスボーン魔王が少し後ろに仰け反るそこで、私は二本のサーベルを分離させてから、左手に持ったサーベルを横薙ぎに振るった。

 

『しまった、クジャクが!』

「さあ、クロスボーンのビーム・ザンバーを抜け、マオ!」

『それじゃ、お言葉に甘えさせてもろうて!」

 

 このままソードスキルの連続技で撃破まで持ち込むことはできるが、私は敢えてマオにビーム・ザンバーを抜く時間を与えた。抜いたビーム・ザンバーを一閃し、鉄骨の支柱が溶断される。吹き飛んだ柱が別のデブリを突き破り、それらが崩壊していく光景を見ずに、私は真っ向から突進してきたクロスボーン魔王の動きだけに意識を集中させた。

 

 こちらが両手に持ったビームサーベルを目にも留まらないという表現のまま振り回す。最小限の振幅で矢継ぎ早の斬撃に対応しつつ、クロスボーン魔王も右手に持ったビーム・ザンバーを縦横に振るう。三本の光刃が次々にぶつかり合い、スパークや爆発的な閃光をデブリ帯に明滅させると、互いに弾かれあった機体がそれぞれデブリ帯の端まで吹き飛ばされた。

 

「この距離なら、撃てる!」

 

 機体の姿勢制御を行った私は二門のバラエーナを一射した。撃ち出された光軸が射線上のデブリを貫通してクロスボーン魔王に迫る。衝撃波が残骸の外板を弾き飛ばし、ぎりぎり回避したクロスボーン魔王の機体が破片の奔流の中に見え隠れする。

 

 虚空に散乱するデブリの影響を受け、画面を真っ白に塗り潰している索敵センサーがアラームを鳴り響かせたが、かまうつもりはなかった。サーベルの刃を収め、物陰に機体を寄せた私は熱感知センサーを使い、クロスボーン魔王のおおよその位置を推測する。

 

「三時の方向よ。クロスボーンとの距離はおよそ120cm」

「近いな。助かったぞ、城ヶ崎」

「べっ、別にお礼なんて要らないわよっ!」

 

 なんだこの性悪女、ツンデレなのか……いや、今はそんなことはどうでもいい。

 居場所さえ分かれば落とせる。妙にクリアになった意識に促され、熱感知センサーの照合データに従ってクロスボーン魔王が隠れるであろう場所を目掛けて発砲する。ビームの光軸が再度デブリ帯に漂うの残骸を貫き、わずかに残った破片を更に粉々に砕いた。ばっと飛び散った破片に紛れ、背中のX字スラスターを閃かせた機影が残骸から離脱する。隠れん坊は終わりだ。

 

 機動力の違う相手から距離を取ろうとしたところで、徒労にしかならない。動きの癖をつかみ、移動予測地点にビームを撃ち込んでやればいいのだ。バラエーナとクスィフィアス3を交互に連射しつつ、その進路を封じ、続いて二本のフラッシュエッジ2ビームブーメランを投擲した。

 

 マオは左手に持ったバタフライブラスターで迎撃しようとするが、しかし、トリガーを引く前にその銃身がブーメランのビーム刃によって両断され、続いてもう一本のビームブーメランがクロスボーン魔王の右脚を切断していき、それに伴う大きな爆発が機体の体勢を崩したのを見た。

 

『まだや! ワイはまだ……!』

「いや、マオ。これで終わりだ」

 

 ビーム・ザンバーを構え、徐々に相対距離を縮めつつあるクロスボーン魔王。私も二本のビームサーベルの照準をその機体に重ね合わせ、フリーダムを突っ込ませていった。至近距離まで近づくと、私は二刀流ソードスキル「ジ・イクリプス」を叩き込む。

 

「――我が剣を受けよ!」

 

 初撃はビーム・ザンバーによって防がれたが、ガード態勢を崩すことに成功した。叩き斬る、と攻撃色に染まった思惟が叫び、それに駆り立てられた私は、怒涛の27連撃をクロスボーン魔王に浴びせる。続いて二本のビームサーベルを再び連結させると、フィニッシュとして胴体中心の髑髏に目掛けて剣を右横薙ぎに振るった。

 

『まさか手も足も出ぇへんとは……悠凪はん、お見事や』

 

 無線越しにマオの感心した声が聞こえ、ダルマにされていたクロスボーン魔王の機体がスパーク光を爆ぜさせると、一瞬の間に呆気なく爆発の火球に包まれた。巨大な光輪がフリーダムの鼻先で膨れ上がり、デブリ帯の虚空を照らしていった。

 

『Battle ended.』

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

『静岡県ガンプラバトル大会決勝戦、優勝者は――絢瀬悠凪選手に決まりました!』

 

 エコーのかかったキララの声が会場に響き渡った途端、会場全体から気狂いにでもなったような拍手喝采が湧き上がった。拍手喝采を浴びている中で、こちらに歩いてきたマオはニコニコ笑ってみせたりしながら、私に握手を求めてきた。

 

「良い試合だったぞ、マオ」

「ボロ負けしたけど、満足なバトルが出来て楽しかったですわ」

「俺もだ。久々に心が満たされているのを実感した。ところで、これから予定があるか?」

「これからは各地に回ってガンプラの修行を続けるつもりです」

「そうか。修行頑張ってね、マオ」

「ありがとう、悠凪はん。縁があったらまた会おうぜ!」

 

 お互い握手を交わすと、クロスボーン魔王をポケットに収めたマオは会場を去っていた。

 マオが立ち去ったのを見計らって、城ヶ崎は私の方に歩み寄ってきた。

 

「優勝おめでとうございます。絢瀬さんのことを、見誤っていました」

「ありがとう。意外と素直に非を認めるんだな、君は」

「うぅ……まるで普段のわたくしが、素直じゃない人間のような言い方ですね」

「さあ、どうだろうね。この言葉をどう捉えるかは君の自由だ」

「あらそう。テレビ局の仕事がまだ残っていますので、わたくしはこれで失礼致しますわ」

 

 始終まで無表情だった城ヶ崎が立ち去り、今度はキララが私にマイクを突きつけてきた。

 

「絢瀬悠凪選手、優勝おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「新チャンピオンにお聞きします。つまり、勝因は?」

「勝因……難しいですね。強いて言うなら『幸運』でしょうか」

「なるほど。それでは、この勝利を誰に捧げたいですか?」

 

 この勝利を捧げたい相手は、彼女しかいない。

 プラモデル部を復活させる案を持ち掛けてき、私をこの大会に参加させる為に色々根回しをしていた先輩の女性――篠原聖奈。

 

「キララさん、マイクを貸してください」

「あっ、はい。どうぞ」

 

 石竹色のマイクを受け取る。

 

「篠原先輩、どうぞこちらにお上がりください」

 

 そして彼女がいる方へ目を向けると、彼女はにやけた顔をした玲奈とシルヴィに背中を推されたまま階段を登った。指名されて落ち着かないのか、銀色の長い髪を指先でくるくると巻きながら、こちらに歩いてきた。よく見ると、顔が少し赤くなっていて、なんだか可愛らしかった。

 

「先輩のお陰で、自分はこの大会に参加することができました。本当に、感謝しています」

「ううん……絢瀬君、それはこちらのセリフよ。わたしの夢を叶えてくれて」

 

 自分の夢だと言っているが、これは彼女だけの夢ではないことを、私は知っていた。

 真田先輩のことは、もう三代目メイジンとクズノハ選手から聞いている。このことを篠原先輩に伝えるべきだ。衆人環視の中にいることを分かっていながらも、私は彼女の腰に手を回して、抱き寄せてから小さな声で囁くように言う。

 

「これは先輩の夢だけではなく、他界された真田先輩の夢でもありました。違いますか?」

「絢瀬君はもう、知っていたのね。できれば隠したかったけど……」

 

 なぜ隠したかったのか、ちょっと気になったのだが、今は敢えて聞かないことにした。

 

「それでは、チャンピオンにはこちらのトロフィーを授与します!」

 

 続いてキララからハロの形をした金色のトロフィーを授与された。台座は木製で、その上に載せられたハロは真鍮製のようだ。先輩と一緒にそれを手に取ると、観客から拍手と歓声が送られた。授与式終了後、私と先輩は美玖たちに合流した。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「このトロフィーは、先輩に預けますね」

「うん。確かに預かったわ」

 

 大切なものを抱えるように、トロフィーを抱きしめながら微笑む篠原先輩。

 

「ねえ、みんな。せっかく静岡に来たんだから、ホビーセンターに行ってみない?」

「あっちは確か何かのイベントやっているよね。あたしはシルヴィに賛成!」

「駅前の実物大ガンダム立像、一度は間近で見てみたいですわ」

 

 シルヴィの提案に賛成する玲奈。その一方、ミナの言葉が私の気を引いた。

 どうやら、この世界の東静岡駅前に建てられたガンダム立像は撤去されてないようだ。

 

「俺はちょっとした用事があるので、みんなは先に行っててね」

「用事、ですか。分かりました、お兄ちゃん。カレンさん、セイくん、行きましょう」

「はい。僕は何度も行ったことありますので、案内は僕に任せてください!」

「じゃあ案内よろしくね、セイ君。悠凪、また後でね!」

「ああ。後はホビーセンターで落ち合う」

 

 みんなと別れると、私は予め指定された場所に足を運び、エイフマン教授が開いてくれたワームホールを抜けて、リベル・アークに帰還する。ロックオンの言う「急な用事」とは一体何だろう、と色んな推測をしながらスメラギさんがいるであろう性能実験施設に足を運ぶのだった。

 

 つづく




この後は悠凪&カレンの話を一話挟んでから金恋の序盤に入っていきます。
第43話投稿後は、下のアンケートを終了致します。

本作のオリ主以外のオリキャラ中に、誰のことをもっと知りたいですか?

  • 風間隼人
  • 篠原聖奈
  • 鳳凰院美玖&カレン
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