世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

50 / 50
「Gクエスト」のチーム配置:
フリーダムガンダムSpecⅡ(美玖)
デスティニーガンダム(カレン)
ウイングガンダムスノーホワイト(シルヴィ)
ガンダムデスサイズヘルEW(ネーナ)
ビルドガンダムMk-Ⅱ(セイ)

※本作における魔改造フリーダムガンダムの設定は第2話と第14話の前書きをご覧下さい。


◇◆◇◆◇


ウイングガンダムスノーホワイト
XXXG-00YSW

操縦者:シルヴィア・ル・クルスクラウン・ソルティレージュ・シスア

▼武装
ビームサーベル×2
マシンキャノン×2
ツインバスターライフル×1
ウイングシールド×1

・ホーミングプラズマ砲「シュトゥルムパールヴァティー」x6
本来のメッサーツバークを取って代わる、シルヴィアがフィン・ファンネルから改造した武装。
腰部に6挺装備。フォビドゥンのエネルギー偏向装甲「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」の磁場発生機構を組み込んでいるため、ビームの軌道をねじ曲げたり、敵に回避タイミングを見誤らせるができ、さらに「装備している」だけで機体全体を覆う斥力場が常時展開する。また、メッサーツバークと同様、ツインバスターライフルに取り付けることもできる。


第43話 入学編 エピローグ(中)

「デスティニーガンダム、行きます」

 

 カレンが操縦する「運命」の名前を冠したガンダムのプラモが、青空に飛翔した。

 リベル・アークから持ち出し、みんなと一緒に組み立てたガンプラ。律者の権能を持ってすればガンプラくらいのオモチャなら瞬時に再構築することはできるが、敢えてそうしなった。

 

 なぜなら失われかけていた人間だった頃の感情を、取り戻したかったから。

 

 理の律者として覚醒し、望まぬまま元の世界を壊した後、量子の海に放り出された自分は「ある並行世界」に漂着し、オストク-51という町の孤児院に幼年期のエリシアと出会った。

 当時の彼女には、まだ名前がなかった。人生の中で初めて貰ったプレゼントである絵本――古い伝説をもとにした楽園に関するおとぎ話を読んだ後、その感銘を受けて自らの名前を「エリシア」と決めた。以降、彼女は自分を「カレン姉さん」と呼ぶようになり、温もりを与えてくれた。

 それに、彼女の傍にいる時に限って、自分は「人類を滅ぼせ」などの悪魔的な囁きを聞こえなくなり、なんとか自我を保てるようになった。そして成人となったエリシアと世界を回り、エデンやヴィルヴィ、他の英傑たちとの出会いも、忘れられない幸福の思い出だった。

 

 しかし侵蝕の律者によるサイバー攻撃で文明の崩壊が決定的になり、火を追う蛾がその状態から建て直せないまま終焉の律者との戦いに敗れ、ケビンを始めとする生き残りは、次の文明に望みを託すべく冷凍睡眠に入った。それから自分は、世界を離れてある計画を執行することにした。

 人類の生き残りの一部を虚数の樹の影響を受けない世界へ送り出し、文明を発展させると同時に「崩壊」に対抗する手段を模索する――それが、グレーシュが執り行う「方舟計画」とフカが執り行う「火種計画」を融合させた独自の計画。その名は「エンドレス・フロンティア」という。

 

 不運な死を遂げた者の中から、前科のない者だけを選別し、彼らが欲しがる「力」を可能な限り与え、欲望を満足させ、転生者として新たな人生を謳歌するように手助けをする「転生者計画」もEF計画の一環だった。対崩壊兵器「神の鍵」を扱うに相応しいかどうかを試すことを含め、彼らの人間性と自制心に対する試練でもあった。

 しかし、ほとんどの転生者が自分の期待に反し、与えられた力で悪事を働いていた。悠凪の言葉を借りるなら、彼らは「与えられた力という『蜜の味』を知ってしまったことをきっかけに、社会や規範に抑えられていた欲望が暴走して狂犬に豹変してしまった」という状態にある。人間性への信頼が裏切られ、それに失望した自分は、他者と深い繋がりを持つことを拒むようになった。

 

 数え切れない数多の平行世界に旅をし、人々に知識や技術を与えて文明を発展させたり、転生者に力を与えたりもしていた。律者の権能を披露する際、神格化されて「神様」として崇拝の対象にされていた経験が何度もあった。いつの間にか「女神」と自称するようになり、エリシアのお陰で取り戻せた人の感情も、他者との繋がりを拒んだことで徐々に失われていくのだった。

 

 しかし、それは絢瀬悠凪と出会うまでのことだった。

 

 強大な力を授かりながらも、彼は内に秘めた残虐性を正しく自覚し、それを律する良識、知性や自制心を持っており、美玖のことも大切にしている。三つの質問に対する答えも、絶対的な正義は存在しないことを認めつつ己の信念を貫き通す姿勢も、どれも素晴らしいものだった。

 何より、自分の恋心をくすぐられたのは、今まで自分を苦しめてきた罪悪感を論理的に解体してくれたことだった。社会の本質を見抜く鋭い洞察力と冷徹な人間観を持っていながら、自分を抱きしめる手や、身体から伝わる体温がとても温かった。惚れ込んでしまう程に好きになった。

 

「魔改造されたフリーダムガンダムを再現したガンプラ……」

 

 そこまで振り返ったところ、カレンは側面のスクリーンに映し出されたフリーダムの機影に目をやる。照合データに表示された型式番号が「ZGMF/D-10S2」に変えられているが、この機体は間違いなく、悠凪の信念の投影であり、力の象徴でもあるガンダムだ。

 

「自由、正義、運命の三つの要素を集約したガンダム。自由を追い求め続け、自分の信じる正義を貫き通す信念。そして、運命を切り拓こうとする意志ですか……本当に、素晴らしいですわ」

 

 デスティニーと並んで飛行するフリーダムの横顔を見みつめ、こちらに振り向いて微笑む悠凪の顔を幻視して、カレンは今まで感じたことない、恋心が焼くように胸に迫る感覚を味わった。手を繋ぎたい、先程の続き――悠凪に強く引き寄せられてキスされたい気持ちが胸一杯になった。

 

「カレンさん、間もなく接敵しま――か、顔が赤いですけど……大丈夫ですか?」

「えっ、せっ、セイくん。た、大丈夫ですわ。ちょっと熱いだけです」

「そうでしたか……僕とネーナさんが先行して敵の編隊を攪乱しますので、美玖さんとシルヴィアさんと共に後方から援護射撃をお願いします」

「うん。お任せください、セイくん」

 

 側面のスクリーンに表示されていた通信ウインドウが消え、セイのMk-Ⅱとネーナのガンダムデスサイズヘルが森を進軍している陸戦型ザクⅡとドムの編隊に突撃していった。次の瞬間「どけどけぇ、死神様のお通りだぁーッ!」と、無線からネーナの少し生意気な声が聞こえてきた。

 

 森の木々をなぎ倒し、アクティブクロークを開放したデスサイズヘルが漆黒の影となってドムの懐へ飛び込む。ビームシザースが、重量感のある音を立ててドムの重装甲を斜めに両断した。

 

「あははっ! 鈍いんだよ、このデカブツ!」

 

 爆発の炎を背に、ネーナは高笑いしながら次の獲物へと鎌を構える。

 その背後では、セイのMk-Ⅱが計算し尽くされた連射で陸戦型ザクⅡの足を止め、ネーナへの反撃を完璧に封殺していた。

 

「気合い入っていますね、ネーナとセイくん」

「わたしたちも、わたしたちの『役割』を全うしなければならないわね」

「シルヴィの言う通りですね。カレンさん、わたしたちも行きましょう」

「ええ、美玖。勝利のために、そして彼が追い求める『自由』のために」

 

 ――武装選択……M2000GX高エネルギー長射程ビーム砲。

 カレンはアームレイカーのトリガーに指をかけた。デスティニーの左背部ウェポンラックが連動し、身長に匹敵する大きさの折り畳み式大型ビームランチャーをぐっと前方に突き出す。

 

(そして自由、正義、運命……その全てを揃えた彼に、恥じない私であるために)

 

 センサーで捕捉できる距離まで近づいてきたドムに照準を定めると、ビーム砲を一射した。

 長射程ビーム砲の砲口が赤い光軸を吐き出し、戦艦の主砲に匹敵する粒子ビームの光軸は樹海を一文字に引き裂き、射線上のザクⅡを蒸散させながらドムに直撃して爆散させた。

 

 カレンが放った紅蓮の光条が森の闇を焼き払うと同時に、美玖とシルヴィアもまた、それぞれの「最適解」を戦場に解き放った。

 

「ターゲット・マルチロックオン……皆さんの道を、わたしが作ります!」

 

 美玖がアームレイカーを強く握り込む。NT能力が戦場の空間配置を完璧に俯瞰し、木々の陰に潜む残存勢力を一瞬で捉えた。ウイングに挟み込む形で装備したバラエーナが起き上がり、腰部のクスィフィアス3が展開される。

 

「ハイマット・フルバースト!」

 

 フリーダムから放たれる無数の光の矢が、まるで生き物のように敵機を追従する。ザクⅡの胴体を、ドムの推進部を――美玖の慈悲深い「狙撃」は、敵に反撃の隙さえ与えず、次々とその機能を沈黙させていった。

 

 さらに、その煌びやかな光の雨の合間を縫うように、白銀の「羽」が舞う。

 

「シュトゥルムパールヴァティー。嵐の如く、阻むものを薙ぎ払いなさい!」

 

 シルヴィアのスノーホワイトが腰部の6挺を解放した。

 プラズマを纏った砲弾が空を裂く。本来なら直進するはずの光弾は磁場の干渉を受けて物理法則を嘲笑うかのように直角に折れ曲がり、岩陰に隠れたドムの死角を正確に抉った。暴風とシヴァの妻の名が冠された武器は、伊達ではなかった。

 

 バトルシステムのAIが制御する敵機群は計算外の軌道を描くビームに対して回避アルゴリズムを崩壊させ、次々と爆発の華を咲かせていく。

 だが、その残骸の中から、新たな警告音が鳴り響いた。

 

『目標の損耗率8割を突破……増援、来ます!』

 

 セイの鋭い警告と同時に森の奥深くから地響きと共に巨大な影が姿を現した。AIがこの絶望的な戦況を覆すために選んだ「最適解」――それは、規格外の巨体を誇るMA「ビグ・ザム」の投入だった。しかも、青色のグフイグナイテッドが8機、随伴機として付いている。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 観客席に座る我々の視界には、戦場を埋め尽くす爆炎と、その中心で猛威を振るう「ソロモンの亡霊」が映っていた。周囲の観客がビグ・ザムの威容に息を呑み、敗北の予感にざわめく中、私とミナたち、刹那一行は天井から吊り下げられる超大型モニターを静かに見つめている。

 

「アレルヤ、さっきの試合、俺たちはこのデカブツを倒すのに3分以上かかったよな」

「そうだね、ロックオン。このビグ・ザムにはビームは効かないから、僕たちは刹那が切り込めるように援護しないと行けなかった。そこに時間をかかってしまったんだ」

「彼女たちは、何分かかるやら……」

 

 ティエリアが冷静な、しかしどこか試すような視線を画面に送った。

 直後、超大型モニターの中で、物理法則を無視した「白銀の羽」が舞った。

 

「……なに⁉」

 

 ティエリアの眼鏡の奥で、驚愕に瞳が揺れる。ビグ・ザムが放った、一掃きで艦隊を沈めるはずの大型メガ粒子砲。それが、シルヴィのスノーホワイトが展開した磁場の歪みによって、あたかも「主を避ける従僕」のように大きく湾曲し、青空へと霧散したからだ。

 

「ビームを曲げただと? GNフィールドの減衰ではなく、軌道そのものを……!」

「なるほど、フォビドゥンガンダムのエネルギー偏向装甲の応用か」

「絢瀬悠凪、それはどういうものだ?」

 

 刹那の真実を射抜くような視線を受け止めながら、私は視線を超大型モニターに戻したまま淡々と、しかし明快に要点をまとめて言葉を紡いだ。

 

「単純な力学ですよ、刹那。あの機体には磁場発生機構を組み込んであります。粒子ビームの性質を逆手に取り、強力な磁場干渉によって空間その物の『通り道』を捻じ曲げたのです」

「理屈は分かった。だが、あの巨体には……!」

 

 解説と同時に、画面内ではシルヴィが「シュトゥルムパールヴァティー」を解き放っていた。

 電磁場の檻から解き放たれた六条の光弾が、逃げ惑うグフイグナイテッドを背後から、あるいは死角から、逃げ場のない正確さで貫いていく。

 

 3機のグフが瞬時に火達磨となって森に墜ちた。だが、その爆炎を割って突き進むビグ・ザムの巨躯には、焦げ跡一つついていない。Ⅰフィールドが全ての干渉を無効化し、無機質な要塞としての威容を保ったままだ。

 

「……やはり、外側からの干渉は弾かれるか」

 

 ティエリアが冷静に分析する。

 ビームを曲げる技術は驚異的だが、ビグ・ザムの鉄壁を崩す決定打にはなり得ない。

 

 しかし、私は焦ることもなく、むしろその「予定通りの結果」を愉しむように目を細めた。

 

「ええ。だからこそ、彼女たちは『内側』を選ぶ」

 

 モニターの中、シルヴィの露払いで生まれたわずかな射線を、二つの閃光が駆け抜ける。残像を引き連れ、空間を青く塗り替える美玖のフリーダム。そして、赤き光の翼で戦場を切り裂くカレンのデスティニー。

 

 Ⅰフィールドの境界線、通常なら弾かれるはずのその「壁」の内側へ、二機は超高速のシンクロを見せながら一気に飛び込んだ。

 

「絢瀬様、残りのグフイグナイテッドが引き返しておりますわ!」

「あの挙動は、ビグ・ザムの援護に回るつもりか!」

 

 隣に座るミナとエルが、焦燥を孕んだ声を上げる。

 超大型モニターの中では、セイのMk-Ⅱとネーナのデスサイズヘルが奮戦していたが、AIの計算による強引な突進を止めきれず、編隊の内2機がその包囲網を強行突破していた。

 

「対応が早いな。が、それだけか」

 

 私は背もたれに深く身を預けたまま、静かに戦況を規定する。画面の向こう、抜かれたグフイグナイテッドが高周波振動を用いたヒートロッド――スレイヤーウィップを唸らせて、美玖とカレンの背後へと肉薄していく。

 

「絢瀬君……この状況、まずいじゃない?」

 

 篠原先輩が不安そうに私を覗き込んできた。

 アクアマリンの瞳が揺れている。だが、私は視線をモニターから外さない。

 

「大丈夫です、篠原先輩。あの程度の敵は、美玖とカレンにとって障害すらなりません」

「悠凪は、美玖ちんとカレンちんに『絶対的な信頼』を置いているみたいね」

 

 玲奈が茶化すように言うが、それは私にとって茶化されるような事柄ですらなかった。

 

「当然だ、玲奈。信頼してなければ、自分の愛機を貸し出したりはしないよ」

 

 私は内心で、自らの愛機を再現したガンプラに思いを馳せる。フリーダムには、私の理想と美玖への信頼を全て詰め込んだ。私が「私」という存在を規定するために選んだガンダムを、私一度を打ち負かした美玖が使いこなせないはずがない。そして、隣を飛ぶカレンもまた、真理を統べる者としての矜持を持っている。私の思考をなぞるように、画面の中で銀光が閃いた。

 

 

 

 

 

「――邪魔ですわ。今は、悠凪のことだけを考えていたいのに!」

 

 通信回線から、カレンの苛烈な拒絶が響く。

 デスティニーが空中で鮮やかに反転し、引き抜かれたアロンダイトが一閃。

 磁場を帯びたウィップごと、グフイグナイテッドの重装甲を紙細工のように一刀両断にした。

 

 その背後、美玖のフリーダムは振り向きさえしない。NT能力による空間把握。彼女は死角からの攻撃を「気配」で察知し、両翼の中に収納されていたバラエーナを逆噴射させ、プラズマの熱量だけで後方のグフイグナイテッドを霧散させた。

 

「カレンさん、行きましょう! 悠凪くんが見ていてくれています!」

「ええ、わかっていますわ、美玖。――勝利は、私たちの手の中に!」

 

 青と赤の翼が再び加速し、爆炎を突き抜けてビグ・ザムの巨大な脚部の隙間――Iフィールドの「内側」へと同時に滑り込む。超巨躯の真下に潜り込んだ二機は鏡合わせの舞踏を踊るかのような流麗な軌跡を描き、慈しみすら感じさせる優雅な所作で、巨躯の腹部へと掌を差し出した。

 

「「パルマ・フィオキーナ――ッ!」」

 

 重なり合った二人の咆哮が通信回線を震わせる。青き破壊の奔流が零距離で解き放たれ、ビグ・ザムの強固な装甲を内側から焼き切った。戦艦の主砲をも弾くIフィールドの守護も、懐に飛び込まれては無意味でしかない。青い熱線は胴体内のジェネレーターへと直撃し、巨大な要塞の内部を瞬く間に臨界点へと追い込んだ。

 

 ビグ・ザムの巨躯が耐えきれず内側から膨れ上がり、次の瞬間、樹海を揺るがす大爆発となって四散する。爆散したポリゴンの欠片が雪のように舞い散る中、爆炎のカーテンを切り裂いて、青と赤の翼が悠然と空へと舞い上がった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 爆炎が青空を焦がし、その中から悠然と現れた二機の姿に、観客席は歓喜の渦に包まれた。

 

「……信じられないわ。ビグ・ザムをあんなにも鮮やかに撃破するなんて」

 

 篠原先輩が感嘆を隠しきれないといった様子で溜息をつく。

 生徒会長としての冷静さを忘れ、その瞳はモニターに映る二機の姿に釘付けになっていた。

 

「凄いです……まるで空で踊っているみたいでしたわ」

 

 祈るように胸元で手を組んでいたミナが、頬を昂揚させながら声を弾ませる。

 王女である彼女の目には、今の二人は伝説の騎士のように映ったに違いないだろう。

 

「すげーなぁ、呼吸ぴったりで鳥肌立った連携だぜ!」

「アハッ、マジ最強じゃん! 美玖ちんもカレンちんも、今のシンクロ、バズ確定っしょ!」

 

 緊張感の抜けた明るい声で隼人と玲奈が笑う。

 不謹慎なほどの快活さが、つい先ほど漂っていた緊張な雰囲気を一時的に塗り替えていく。

 

「ああ、優美なる光の饗宴だった。背中を預け合える絆が、それを可能にするんだな」

 

 みんなの興奮した声が耳に心地よく響く。私も胸の鼓動がまだ収まらずにいた。

 あんなにも美しく、あんなにも苛烈な共闘。美玖とカレンだからこそ到達できた領域がそこにはあった。戦場を疾駆する二機の姿は、まるで天の舞姫。空を舞う二人の幻影を胸に刻み、陶然たる思いが、静かに、しかし確実に、私の全身を満たしていく。

 

 それは魂の奥底で響く、永遠の旋律――自由と運命が交わる、黄金の調べだった。

 

「俺たちが3分以上かかってやっと倒せたデカブツを、あっさりと……!」

「時間は2分も満たなかった。それにあの連携は計算の範疇を超えている」

「あれは即興の連携だと思うよ、ティエリア」

 

 それはガンダムマイスターたちにとっても、衝撃的な光景だったようだ。

 一方、刹那は、ただ静かにモニターを凝視し続けていた。

 その沈黙が、私の胸に言いようのない不安を呼び起こす。

 

「刹那、どうしましたか?」

「俺たちが挑んだ時と違う。ステージクリアの知らせが、まだ出ていない」

 

 刹那の短く、硬い言葉に、観客席の空気が凍りついた。

 ガンダムマイスターたちが前回挑んだ時は、ビグ・ザムの撃破こそがこのステージのクリア条件だったはずだ。それがまだ出ていないということは――。

 

「確かに、おかしいですわね。本来、ビグ・ザムが倒された時点で、このステージは即座にクリア扱いになるはずですわ。どうして……」

 

 疑問を口にするミナ。

 

「クリアフラグが立っていない? それともまだ『敵』が残ってるってこと……っ⁉」

 

 そして篠原先輩が声を上げた、その時だった。

 モニターの端、ビグ・ザムが消えゆく爆炎の爆心地に更なる大爆発が起きた。

 

「……爆発?」

「おい、悠凪……あの真ん中に、煙の中に何かいるぞ!」

「あの影、ザクなのか⁉」

 

 ビグ・ザムが爆散し、ポリゴンの雪が舞い散るその爆心地。消えゆく炎のカーテンを、内側から乱暴に引き裂いて「それ」は現れた。全身の装甲を焼き、爆発の黒煙を吹き上げながらも、黄金のエングレービングを禍々しく光らせる深緑の古兵――ドズル・ザビ専用ザクⅡ。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 深緑の古兵が放つ威圧感は、戦場の空気を一瞬で凍りつかせた。ドズルザクは爆炎の残滓を振り払い、猛烈な加速で突き進む。その進路上にいたネーナのガンダムデスサイズヘルが即座に迎撃の体勢をとった。

 

「なによこれ……しぶといんだから、消えちゃえッ!」

 

 死神の鎌が闇を裂く閃光となってドズルザクの機体を捉えようとする。だが、ドズルザクはその一撃を「避ける」ことすらしない。装甲を焼かれ、削られることも厭わず、ただ加速のベクトルを一点に固定し続けた。

 死神の刃がその左肩を浅く切り裂くが、ドズルザクは止まらない。それどころか、目の前のデスサイズヘルをただの石ころであるかのように一瞥もくれず、その横を強引にすり抜けた。

 

「えっ、こいつ……あたしを無視した⁉」

 

 困惑するネーナを置き去りにし、赤いモノアイはただ一機をロックオンし続ける。ターゲットはビグ・ザム撃破の直後で回避行動が僅か遅れている、セイのビルドガンダムMk-Ⅱだ。

 

「ドズルザクの狙いは……えっ、僕が⁉」

「セイ、早く後退して!」

 

 ネーナの叫びに弾かれたように、セイは反射的に機体を翻した。逃げ切れない。そう直感した彼は、ムーバブル・シールドにマウントされたビーム・ライフルを即座に引き抜くと、迫りくる緑の影へと銃口を向けた。

 

「させるか……ッ!」

 

 叩きつけられるような連射。緑色の光条が正確にドズルザクの胸部へと吸い込まれ、直撃の火花を散らした。だが、その直後――セイは自分の目を疑った。

 

「直撃したはずなのに、怯みもしないなんて!」

 

 爆煙を突き抜け、何事もなかったかのように突進してくるドズルザク。

 装甲が焼けるどころか、火花さえもその進撃を止めるための抵抗にはなっていない。通常の設定ではあり得ない、物理法則を無視した異常な硬さ。

 

 セイの脳裏を、最悪の結末がよぎる。

 目の前の「鬼」は、ダメージという概念すら捨て去り、ただセイを討つためだけのシステムへと変貌していた。赤熱する大型ヒート・ホークが、無防備なMk-Ⅱの頭上へと振り上げられる。

 

「やっ、やられる……!」

 

 赤熱する巨斧が視界を埋め尽くそうとしたその瞬間、戦場を横断する一条の光が、網膜を灼かんばかりに走り抜けた。

 

「――セイ君はやらせないわ!」

 

 距離を計算し、あえて直撃を外したシルヴィアのツインバスターライフル。黄色の極太ビームがドズルザクの足元の地面へと突き刺さる。轟音と共に樹海の一部が瞬時で蒸発し、凄まじい熱量を含んだ爆風と衝撃波が、猛進していたドズルザクを力任せに押し戻した。

 

「セイ君、今のうちに下がって!」

「助かりました、シルヴィアさん」

 

 衝撃に煽られ、ドズルザクの姿勢がわずかに崩れる。

 セイはその隙を逃さず、衝撃波を背に受ける形でスラスターを最大出力で噴射させる。

 Mk-Ⅱは後方へと大きく跳びのき、死神の巨斧が届く間合いから脱出することに成功した。

 

 だが、衝撃波の土煙が収まるより早く、再び「異音」が響く。

 ドズルザクは不自然な挙動で即座に姿勢を立て直すと、崩れた地面を蹴り飛ばし、さらに出力を上げて再加速を開始した。しかし、その背後に「死神」が音もなく忍び寄っていた。

 

「あたしを無視したこと、後悔させてあげるわよッ!」

 

 猛進撃する深緑の背後から、空間が歪むように一機の影が躍り出た。

 ハイパージャマーを展開し、レーダーから完全に姿を消していたネーナのデスサイズヘル。

 ネーナは今の「一瞬の足止め」を完璧に利用し、ドズルザクの死角を突いていた。

 

 闇を裂くエメラルドグリーンの光。

 振り下ろされるビームシザースが、無防備なザクの背中を両断せんと迫る。

 

 だが、その瞬間だった。ドズルザクのモノアイが不気味に後方へとスライドし、推進器が悲鳴を上げて逆噴射する。AIの計算か、あるいは人知を超えた闘争本能か。ドズルザクはコマのように鋭く回転し、手にした大型ヒート・ホークを振り返り様に一閃させた。

 

 ――ブッピガンッ!

 

 空気を震わせる鋭利な衝撃音が炸裂する。赤熱する斧と、高エネルギーの刃。

 二つの凶器が正面から衝突し、周囲の空間を焼き切らんばかりのスパークが散った。

 

 ドズルザクの異常な突進エネルギーを受け流しきれず、衝突の余波でデスサイズヘルの腕が跳ね上げられる。しかし、その強烈すぎる一撃の反動を受け、ドズルザクの巨躯もまた大きく後ろへとのけぞり、その胴体部が無防備に晒される。

 

「逃がさないわ!」

 

 その瞬間、上空にいるシルヴィアのスノーホワイトが動いた。

 翼のように広がるシュトゥルムパールヴァティーが展開され、一点に収束した高熱のエネルギーが斉射され、磁場の影響を受けた6つの熱線はその死角を突くようにグニャリと曲げた。

 ドズルザクのAIは驚異的な反応速度で回避行動を取った。だが、その回避すらもシルヴィアの予測の内だった。本体を逸れた熱線が、回避の為に突き出された巨大な斧を正確に貫く。赤熱していた巨大な斧が粒子ビームの奔流に耐えきれず無残にも両断され、空中で火花を散らしながら砕け散った。丸腰になった深緑の古兵に、美玖とカレンが追い打ちをかける。

 

「さて、お終いにしましょうか」

「無粋な野獣には、ここでご退場を願いますわ」

 

 重なり合う美玖とカレンの声。

 フリーダムとデスティニーが、鏡合わせの軌跡を描きながら急降下を開始する。エクストリームブラストモードを起動した二機の本体は鈍い銀色の輝きを放っており、デスティニーが巨大な光の翼を空に羽ばたかせ、フリーダムの両翼が蒼に輝いている。その超高速移動の軌跡は、まるで花弁が舞い散るかのようにミラージュコロイド粒子が散布され、幾重もの光学残像が空に描かれた。

 

 それは質量を持った分身が戦場を埋め尽くすかのようであり、ガンダムF91の「質量を持った残像」現象を想起させる、目眩く「光の乱舞」だった。

 

 二機はドズルザクに向けて、流れるような動作でビームライフルを2、3発連射した。回避不能の弾幕にドズルザクが怯んだ瞬間、フリーダムの「バラエーナ」とデスティニーの「高エネルギー長射程ビーム砲」が咆哮を上げる。畳み掛けるように叩き込まれた粒子ビームの雨が、深緑の装甲を激しく焼き、その足を完全に止めた。

 

 そこへ、先陣を切ったカレンのデスティニーが肉薄する。

 

「両手剣の扱いには慣れています!」

 

 右手にアロンダイトを構えたまま、左手のビームライフルを至近距離で二射。

 衝撃で仰け反ったドズルザクの懐へ、銀色の残像を伴って踏み込む。

 

「このまま、一気に……!」

 

 アロンダイトが鋭い閃光を描き、ドズルザクの胴体部を二度にわたって深く切り裂く。カレンは即座に左足で強烈な蹴りを入れる。その反動を利用して鮮やかに後方へ離脱した。長年にわたって第七の神の鍵、その大剣形態を扱えた経験が、ガンプラバトルで活用することになった。

 

「まだ終わりじゃないんです!」

 

 入れ替わるように残像を引いた美玖のフリーダムが滑り込む。連結ビームサーベル「アンビデクストラス・ハルバード」の両刃が、跪こうとするザクを幾度も斬り刻み、火花の雨を降らせる。

 さらに美玖はフリーダムを前方に一回転させ、両脚の膝からつま先にかけて発振されたビーム刃「グリフォン2ビームブレイド」が鋭い弧を描いき、中破したドズルザクを蹴り上げる。

 

 重力に逆らうような前宙返りの一撃。

 蹴り上げられたドズルザクの巨躯は、成す術もなく宙へと浮き上がった。

 

「美玖!」

「カレンさん!」

 

 呼吸を合わせ、二機は同時に肩口の「フラッシュエッジ2」に手を伸ばす。引き抜かれた二基のビームブーメランが投擲されると石竹色の光の円盤が空中に孤を描き、浮き上がったドズルザクの左右を逃げ場のない檻のように包囲した。

 

 ――ガガガッ!

 

 と激しい火花が散り、ブーメランがザクの四肢を執拗に削り取る。

 回避の術を完全に奪われた深緑の古兵へ、銀色の残像を引いた二機が、今度は「必殺の連撃」を込めて交錯する。美玖は連結状態のビームサーベル「アンビデクストラス・ハルバード」を機体の前で斜めに構え、カレンはアロンダイトを正眼に据えると、スラスターを最大出力で噴かせた。

 

 先陣を切ったフリーダムの双刃が、旋風となってドズルザクを襲う。

 

「必ず勝利を勝ち取るんです……悠凪くんに託された、このフリーダムで!」

 

 ハルバードが描く鋭い弧がザクの胸部装甲をX字に切り裂き、深紅の火花を撒き散らす。

 その直後、蒼い残像と入れ替わるように、右手のアロンダイトを逆手に持たせ、鈍い銀色の光を纏ったデスティニーが滑り込んだ。下段から掬い上げるような強烈な一撃が、ザクの機体をさらに高みへと跳ね飛ばす。

 

「ええ。このデスティニーで、みんなに……そして悠凪に、最高の勝利を捧げましょう!」

 

 続けざまにアロンダイトを構え直したカレンは、機体をコマのように鋭く回転させ、重厚な斬撃を見舞った。凄まじい衝撃を受けたザクはボロ布のように後方へと大きく吹き飛ばされる。

 

 だが、二機の追撃は止まらない。

 蒼と赤の翼は、爆炎の尾を引く深緑の古兵を目掛けて左右から同時に加速した。

 

「「――悠凪(くん)に、この勝利をッ!」」

 

 アンビデクストラス・ハルバードとアロンダイトによる、擦れ違いざまの一閃。

 二つの「獲物」が同時に深緑の古兵の機体を斬り裂き、空間を断ち割るような鋭い閃光が戦場を支配した。二機が静止した瞬間、執念に取りつかれていた古兵の胴体が内部から白光に飲み込まれ「ドォォォォォンッ!」と、青空を揺るがす大爆発を起こした。

 

 爆風に煽られながらも、微動だにせず佇むフリーダムとデスティニー。

 モニター越しでも伝わるほどの、凛として、それでいて慈愛に満ちた二人の姿があった。

 

 

 

 

 

 爆炎がゆっくりと霧散し、静まり返ったフィールドに電子音が鳴り響く。

 モニターに踊ったのは、燦然と輝く『ステージ1クリア』の英語文字だった。その瞬間、心臓を鷲掴みにされていたような静寂は、割れんばかりの歓声と熱狂によって打ち破られた。

 

「ははっ……悠凪への『愛の告白』はともかく、あの緻密な連携、よくやったもんだな!」

「ああ。ガンダムによる変革、その一端を見た気がする」

 

 ロックオンが呆れたように、しかし誇らしげに笑って隣の刹那の肩を叩き、刹那もまた、自分の瞳に微かな熱を宿して頷いた。ティエリアは複雑そうな表情でモニターを見つめていて、アレルヤは「いやぁ、僕たちも負けてられないね」と苦笑している。

 

 一方、私たちの観客席は、さらに賑やかだった。

 

「美玖ちんもカレンちんも、愛の力爆発させすぎっしょ!」

「くっ……おのれ、このリア充め!」

 

 玲奈が身を乗り出して、スマホの画面をタップしながらはしゃいでいる。その横では隼人が頭を抱えていたが、その表情にはかつての険しさはなく、どこか呆れ混じりの親愛が籠もっていた。

 

「凄いですわ。あのような『美しき武』は、我が国の騎士でもそうはお目にかかれませんわ」

 

 ミナが瞳を潤ませて拍手を送れば、隣に控えるエルも「認めざるを得ません。鳳凰院殿とカレン殿の連携は、一点の曇りもありませんでした」と、女騎士らしい真剣な面持ちで感服していた。

 

 そんな喧騒の中心で、私はあまりの気恥ずかしさに身を縮めていた。

 モニターの向こうから、公共の回線に乗せてあんな熱烈な言葉をぶつけられるとは。

 

「ねぇ、絢瀬君……今のを聞いた?」

 

 不意に、隣から聖奈先輩の甘い声がした。

 彼女は三日月のような目でニヤニヤと私を覗き込み、逃げ道を塞ぐように肩を寄せてくる。

 

「美玖とカレンは、日本中……ううん、世界中に向けて絢瀬君に『愛の告白』をしてたわよ」

「篠原先輩……えっと、これは、その……」

「ほら……『悠凪くんに託された機体』に『悠凪に捧げる勝利』……妬けちゃうわね」

「せ、先輩、近すぎです。それにあれは勢いというか、その……」

「いいえ、あれは『本気』の音だったと思うわ。さあ、絢瀬君。あんな風に真っ直ぐ想いをぶつけられて、君はどうお返しするのかしら。この場にいない美玖とカレンの代わりに――」

 

 さらに寄りかかって胸を押し付けてくる篠原先輩。

 

「お姉さんがしっかり、聞いてあげてもいいわよ?」

「先輩、頼むからからかわないでください。俺だって恥ずかしさを感じる心があるんですよ」

 

 真っ赤になって視線を泳がせる私を見て、篠原先輩は「あら……本気で照れちゃって。絢瀬君は意外と可愛いところあるわね」と、さらに喉の奥でくすくすと笑った。その様子を見ていたギャルが、面白そうに横から首を突っ込んでくる。

 

「あー、悠凪の顔真っ赤!」

「なっ、何のことだ。さっぱり分からんぞ」

「噓つけんな、今のセリフ付きで動画アップしたら、間違いなくトレンド入りっしょ?」

「玲奈、やめないか!」

「戦いには勝ったけど、このあとの『事後処理』の方が大変そうだなぁ、悠凪」

 

 車椅子に座る隼人が肩をすくめ、ようやく頭を抱えていた手を離した。

 その隣では、老執事のボラルコーチェがハンカチで目頭を押さえて「愛とは、時にただの模型にさえ本物の命を宿らせる奇跡……老い先短い身ですが、良いものを見せていただきました」と慇懃に、しかし深く感動した様子で首を振る。

 

「ボラルコーチェさん、その例えは大げさすぎるかと……」

 

 しかし確かに、今見せられたものは高度な操縦技術や3DCGの産物というだけではない。作り手と使い手の想いが、プラフスギー粒子を応用したガンプラバトルを通じ、1/144のスケールを超えて、実機が存在するかのような錯覚を観客全員に抱かせているのだ。

 

 そう私が苦笑混じりに返すと、ボラルコーチェさんは「いえいえ、絢瀬様。あれはもはや機械の動きではなく、魂の共鳴にございました」と譲らない意志を示した。

 

 勝利の余韻に浸る観客席では、彼女たちの優勝への期待感で溢れかえっていた。

 撃破されたビグ・ザムの爆発によって空いた巨大な穴がステージ2――宇宙空間に繋がるゲートとして口を開けている。だが、この喧騒の中、私は言いようのない胸騒ぎを覚えていた。

 

「なんだ……この胸がざわめくような感覚は!」

 

 ふと視線を落とすと、オペレーションブースの端で、数人の技術スタッフが青ざめた顔で設置型モニターを囲み、激しく口論しているのが見えた。

 

「おかしいぞ。ドズルザクのデータなんて、プリセットには入っていなかったはずだぞ!」

「勝手にプログラムが書き換えられているのか⁉」

「ログを見ろ。これは内部からのアクセスじゃない。外から何者かが……」

 

 走って通り過ぎるスタッフの、焦燥と困惑が入り混じった声が私の耳をかすめた。

 

「一体誰が、あんなふさげたデータを勝手に……ッ!」

 

 背筋に冷たいものが走る。

 先ほどのバトルで見せたドズル・ザビ専用ザクⅡ。あの物理法則を無視した「硬さ」と、獲物を食い殺そうとするような執念。あれは、このGクエストの主催者側が用意した仮想敵ではなかったということか。

 

(しかも最初から最後まで、セイのMk-Ⅱを執拗に狙っていた。あれは偶然じゃない)

 

 PVEにおけるAIのターゲット・ロジックならば、ビグ・ザムを撃破した美玖やカレン、或は最前線にいたネーナに向くはずだ。しかしあの古兵は、あたかも「その機体が存在すること自体が許せない」とでも言うかのように、セイだけを執拗に追い詰めていた。

 

「絢瀬君、どうしたの?」

 

 私の様子を察した篠原先輩が、怪訝そうに声をかけてくる。アクアマリンの瞳にはいつもの余裕はなく、私の強張った横顔を見て、ただ事ではない何かを感じ取ったようだった。

 

「先輩、スタッフたちの会話を聞いてましたか?」

「スタッフたちの……ううん、はっきり聞こえてなかったわ。ただ、困惑しているみたいね」

「あのドズルザクは予定外の機体だったらしいですよ」

「えっ、どういうことなの⁉」

 

 篠原先輩が息を呑み、その美しい顔を驚愕に染めた。私の言葉は、隣で聞いていたミナやエルにも衝撃を与え、観客席の温度が、数度下がったかのような緊張感が走る。

 

「Gクエストの主催側が用意した仮想敵ではない、ということですの?」

「今のところは、そう考えるのが妥当だ。外からの不正アクセスの可能性がある」

 

 私が冷静を保って説明すると、エルが鋭い視線を吊り下げされた超大型モニターに向けた。

 

「不正アクセス……しかもあの執念、ただの悪戯にしてはイオリ殿への殺意が強すぎました」

「そこで、確かめたいことがある」

 

 私は席を立ち、迷いのない足取りでオペレーションブースへと向かった。

 この胸騒ぎを無視することはできない。もしもあのドズルザクが「刺客」だったとしたら、宇宙空間へ向かった美玖たちに、さらなる牙が剥かれるのは明白だ。

 

「絢瀬君、待って。わたしも行くわ」

「わたくしもお供いだしますわ。お姉様が楽しみにしていたこの祝祭を、このような形で汚す不逞の輩は、決して許せませんわ!」

 

 篠原先輩が私の腕を組み、ミナがマスターハロを抱きしめたまま後に続く。

 その後ろにいるエルが鋭い眼光を走らせ、周囲の警戒を怠ることなくついてくるのだった。

 

 後編へ続きます。

本作のオリ主以外のオリキャラ中に、誰のことをもっと知りたいですか?

  • 風間隼人
  • 篠原聖奈
  • 鳳凰院美玖&カレン
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