世界を越えし自由の翼   作:絢瀬 悠凪

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第7話 世界を渡る者と天上人(後)

 5機のガンダムがタクラマカン砂漠から撤退した後、王留美が所有する別荘でマイスターたちの帰りを待ち続けていたスメラギたちに「ガンダム全機、戦闘区域からの離脱に成功した」という旨のメッセージがティエリアから届いた。

 

「スメラギさん! ガンダム全機、無事に戦闘区域から離脱しました!」

「そう……良かった、みんな無事で……」

 

 マイスターたちの無事を知り安心した途端、クリスはティエリアからもう一つのメッセージを受信した。その内容を閲覧した彼女は、驚きのあまりに「ええ⁉」と声をあげてしまい、スメラギは不思議そうな顔でクリスを見つめる。

 

「クリス、一体どうしたの?」

「スメラギさん、これを見てください……」

 

 そう言ってクリスは受信したメッセージをスメラギに見せる。それは「蒼き翼のガンダムと同行し、そちらに向かっている。パイロットは話し合いを所望する」という旨の内容だった。

 

「向こう自ら連絡してくれて手間が省けるわ……クリス、マイスターたちに誘導の指示を伝えて、ラッセとリヒティは客室の準備をお願いね」

「オッケー、行くぞリヒティ」

「了解っす!」

 

 ラッセとリヒティが客室の準備を進めている最中に、王留美からの通信が入ってきた。

 

「スメラギさん、王留美からの通信です。メインスクリーンに出します」

 

 そうフェルトが報告した後、部屋内に設置された大型メインスクリーンには王留美と、彼女に仕える忠実な執事で彼女の兄、紅龍が映し出された。

 

『スメラギさん、蒼き翼のガンダムのパイロットとその同行者の正体を掴みました』

 

 王留美の報告と共に、スクリーンには2枚の写真が表示された。1枚目の写真には銀髪紫眼の青年、2枚目には栗髪碧眼の美少女が写っている。見たところ、2人は刹那、フェルトやクリスと同じ十代で若く見える。

 

『男性の名前は絢瀬悠凪、彼があのガンダムのパイロットです。女性の名前は鳳凰院美玖、彼女が現在確認された唯一の同行者です』

「やだ、イケメン……ねえフェルト、あの子は私たちと同じくらいの歳なのに、胸の膨らみがスメラギさんより凄いよね!」

「大きい……ちょっと悔しい」

 

 クリスとフェルトはスクリーンに表示された写真を見ながら、感想を述べるのだった。2人の感想に、スメラギは苦笑いしながらも頷く。

 

『両名の個人情報を調べたところ、特におかしい点がありませんでした。ですが、あのガンダムに関する情報……特に製造経緯についてを調べる必要があります。先ずは女性の方を拘束し、情報を吐かせることを提案します』

「その提案、却下させてもらうわ」

『何故ですか?』

「私たちはすでにあのガンダムのパイロットとコンタクトを取っているわ。マイスターたちが帰還次第、この別荘で会談を始めるつもりよ。余計な真似であのパイロットを刺激するわけにはいかないわ」

『そうでしたか、申し訳ありませんでした』

 

 危く会談を台無しにするところだった。もし彼女を無理やりに連れ去ったことを発端に、ソレスタルビーイングがそのガンダムのパイロットと敵対関係に陥ってしまったら、チームプトレマイオスはもちろん、自分でもただでは済まないだろう。

 そんな未来を思い描き、王留美は冷や汗をかきながら、スメラギの発言に納得の意を示す。さらに話を進めると、スメラギは王留美に一つの依頼を出す。

 

「王留美、一つ頼みがあるの」

『何なりと』

「その美玖って女の子をこの別荘に連れて来て貰える? ただし、本人が断れば無理に連れてこなくてもいいわ。丁重にお願いね」

『分かりました、すぐに手配します』

 

 スメラギはこう考えていた。

 美玖は民間人とはいえ、そのガンダムのパイロットの唯一の同行者だ。彼女に同席してもらい、そのガンダムに関する情報を聞き出すことが目的だが、拒否された場合は無理に連れてこなくてもいい、という要望も王留美に伝える。こちらにとっては、か弱い少女に無体を働くのは避けたい。

 これを了承した王留美は「迎えの飛行機を手配しなさい」と紅龍に命じ、その命令を承った紅龍は丁寧に一礼をしてから、部屋を出ていった。

 

『それともう一つ、ヴェーダによって隠蔽された情報があります』

 

 スクリーンにさらに2枚の写真が表示された。写っているのは正体不明のリング構造物と、そのリングの中心から現れたモビルスーツ……蒼き翼のガンダムだった。

 ヴェーダがこの情報を隠蔽した理由は「もし公開された場合、今の世界に新たな混乱を招きかねない」と王留美はそうスメラギに説明した。

 

 確かに、ソレスタルビーイングでさえ実用化されていない「未知の技術」が使われたガンダムの存在が世に知られたら、未曾有の混乱を招くだろう。そしてこのガンダムの存在はまったくのイレギュラーなもので、イオリア計画の障害にもなりかねない。

 そう判断したスメラギは、王留美の説明に納得したように頷く。通信を閉じた後、部屋の片隅に王留美から送られてきた写真を見つめ続けていたイアンは、スメラギに声をかける。

 

「ミス・スメラギ、ちょっといいか?」

「イアン? 何か気になることがあったの?」

「あのリングについてだが、ワシはあれがワームホールの一種ではないかと考えているんだ」

 

 ワームホール。それは時空構造の位相幾何学として考えうる構造の一つで、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域でトンネルのようなものである。

 イアンの話によると、20世紀末ではワームホールについての調査研究を進めており、2091年ではイオリア・シュヘンベルグが発表した論文によって、その存在が証明された。だが通過可能なワームホールを開くのが当時の技術では不可能だった為、研究が打ち切りとなった。

 

 そのリング構造物を通過可能なワームホールと仮定したとすれば、向こう側にあるのは地球から離れた場所か、それとも別の次元か……考察すれば考察するほど、イアンの技術者としての好奇心がくすぐられる。

 だが、もうじきにそのガンダムのパイロットがこの別荘にやってくるので、そのリング構造物を含めて、全ての謎が解き明かされるだろう。

 

 

 

 

 

 同時刻、経済特区・日本。

 ホテルのレストランで夕食を済ませ、ハロを連れて商店街を散策している美玖は違和感に気づいた。この時間帯では一番人が多いはず、なのに今は自分以外の1人もなく、付近の車道には車すら走ってない。

 あまりの静けさに不安を感じ、美玖はすぐに来た道を引き返すことにした。しばらくすると、街の角から数人の黒服の男性と、1人の青い長衫を身に纏った男性が彼女に近づいてきた。

 

「どなたですか?」

「我々は、ソレスタルビーイングです」

 

 ソレスタルビーイングに見つかるのは予想してたが、まさかこんなに早いとは、美玖は思ってもみなかった。

 美玖は怖がっていた。見知らない男たちに囲まれたうえ、頼れる唯一の男性が傍にいないこの状況で、ここから逃げ切れるかどうかは分からない。

 一応マスターハロには相手を殺傷せずに無力化する為の武器が内蔵されているが、一度も使ったことないので、通用するかどうかは未知数だ。

 

 だが冷静に考えてみると、この男たちは何も言わずに自分を取り押さえることができるはずなのに、何もしてこなかった。しかも、組織の名を正々堂々と名乗っている。

 見知らぬ男たちに囲まれて怖がっている美玖だったが、そんな気持ちを抑えて、彼女は男たちに用件を尋ねることにした。

 

「えっと……わたしを、どうなさるおつもり……ですか?」

「ご安心ください、貴女に危害を加えるつもりはございません。絢瀬悠凪との会談に、貴女にもご同席いただきたいとのご要望が、戦術予報士からありまして、こうして貴女をお迎えに来ました。ご同行願います」

 

 声が震えてる美玖に、長衫の男は紳士的な対応を行う。

 内容から察するに、悠凪はすでにソレスタルビーイングと連絡を取っており、彼らは会談の要請に応じていた。そして男たちの目的は、その会談に自分を同席させることである。

 

「(悠凪くんはソレスタルビーイングと接触したんですね)分かりました、同行します」

「すでに移動手段をご用意しました、こちらへどうぞ」

 

 その後、美玖を乗せた車は近くにある空港に向けて走って行った。

 

 

 

 

 

 CBのメンバーがいる別荘に着いた頃は、すでに夜の10時だった。息を整えて、フリーダムのコックピットから降りると、4人のガンダムマイスターが待ち構えていた。

 

「救援を感謝する。俺はロックオン・ストラトス、狙撃タイプの……デュナメスのマイスターだ」

「マイスターの正体はSレベルの秘匿義務がある、素顔を晒すのはよくない……」

「ちなみにこの堅苦しいやつはティエリア、デカブツのガンダムのマイスターだ」

 

 ヘルメットを取り外したロックオンは、親切に自己紹介をしてくれた。自ら正体を明かすことをティエリアはよく思わないが、ロックオンは気にせずに彼のことも紹介してくれた。

 別荘の客室に足を踏み入れると、ソレスタルビーイングの戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガが席から立ち上がり、こちらに歩いてきた。

 

「初めまして、私はスメラギ・李・ノリエガ、ソレスタルビーイングの戦術予報士です」

「絢瀬悠凪です。此度の会談に応じて頂き、ありがとうございます」

 

 私とスメラギは、お互いに挨拶を交わして握手を交わした。このまま会談を始めるつもりだったが、突然背後から声を掛けられた。しかもそれは、聞き覚えがある声だった。

 

「悠凪くん!」

「……⁉」

 

 確かめようと振り返った直後に、声の持ち主……美玖に正面から抱きしめられた。

 美玖の身体の震えが伝わってきて、その振動は私の心も震わせた。そして彼女の怖がってる表情を見て、彼女は無理やりここに連れて来られたと思い込んだ私は、反射的にスメラギに事情の説明を求めた。

 

「なぜ彼女がここにいるのか……説明してもらえないでしょうか?」

「私がエージェントに頼んで彼女を日本から連れて来ました、身勝手な行動で申し訳ありません」

「あの、わたし……無理やり連れてこられたじゃなくて、自分の意志でここに来ました。ただ知らない人が隣にいると、どうしても緊張してしまいまして……」

「彼女に危害を加えない限り、私は何もしません。では、話し合いを始めるとしましょうか」

 

 そう言いながら、震え続けている美玖の頭をポンポンと軽く撫でてやった。すると、彼女は安心したかのように微笑みを浮かべ、いつもの和やかさと穏やかさに戻った。

 用意された席につく。美玖が落ち着いた頃を見計らって、スメラギは先に口を開き、私に問いかけてきた。

 

「単刀直入に聞きますが、貴方の行動目的とそのガンダムの開発経緯について、教えていただけますか?」

「教えるのは構いませんが、その前に一つ質問をしたい……君たちは『並行宇宙』の存在を信じますか?」

 

 その単語を聞き、4人のガンダムマイスターを始め、CBの面々は驚きを隠せない様子で、特に刹那とティエリアの表情が印象的だった。どうやら、私が通信で言い放った「あの言葉」の意味を2人が悟ったようだ。

 

「まさか……お前たちが、本当に並行世界からやってきたのか⁉」

「はい。わたしと悠凪くんは、この世界に属する人間ではありません」

「ええ、その通りです、君は確か……」

「俺は刹那・F・セイエイ、ガンダムエクシアのマイスターだ」

 

 本当は知っているが、あえて知らないふりをした。さっきから自己紹介してないやつの名前、知るわけがないだろ? 迂闊なことを言ってボロが出たらまずいのだ。

 

「俄かに信じがたい話だ、何か証明できるものはないのか?」

「それならあるわ。フェルト、あの写真を」

 

 スメラギの指示に頷くと、フェルトはその「写真」を客室に設置されたモニターに映し出した。

 それを見たティエリアは「なるほど」と納得したかのように呟いた。

 

「君が『この世界のガンダム』という言葉を使った理由が分かった。ところでスメラギ・李・ノリエガ、この情報はいつ手に入れたんだ?」

「貴方たちがこの別荘に来る途中で、王留美から送られてきたのよ。撮影した時間は彼がユニオンの部隊と交戦する直前よ」

 

 なるほど、前々からこちらを監視していたか。流石はイオリア・シュヘンベルグが作った量子型演算処理システム「ヴェーダ」だ、その情報収集能力は伊達じゃない。

 リベル・アークにも増設して置きたい施設だ。

 

「じゃあ、あのリング構造物の向こう側には……?」

「別の次元と繋がってます。そこはどんな場所なのかは教えることはできません」

「マジかよ……つまり、お二人さんはこの世界にやってきた直後に、ユニオンの部隊と鉢合わせとなって交戦状態に陥ってしまったってことだよな?」

 

 ロックオン・ストラトスの質問に、私は眼を合わせたまま、真顔で返事を告げる。

 

「その通りです……できれば、この世界の住人とは戦いたくはなかったのですが、転移した直後に戦いを挑まれてしまいました。そして、私は知りました。この世界にも『ガンダム』の名を冠したMSが存在しており、それを運用するのは『紛争根絶』という理念を掲げる私設武装組織『ソレスタルビーイング』……世界は、君たちのことをテロリストと呼ばれていますが、実際は本当にそうなのでしょうか? 私は君たちが戦う理由を知りたいので、先程の戦いに介入し、君たちを助けたのです」

 

 そう返事を告げると、ガンダムマイスターたちを始め、スメラギもその理由に納得したかのように大きく頷いていた。

 こんな突拍子もない話、普通なら納得するわけがないのだが……まさかあんなにあっさりと納得てくれるとは思わなかった。王留美が彼らに送っていた「写真」のおかげだろう。

 

 ソレスタルビーイングの掲げる理念は「武力による紛争根絶」である。

 戦いで戦いを止める、存在自体が矛盾しているような気もするが、すでにイオリア計画の全貌を把握している私には、彼らの掲げる理念を理解できる。

 

 イオリア計画。

 人類が争いの火種を持ったまま外宇宙に行かないようにする計画で、大きく分けて三段階ある。

 

 第一段階はソレスタルビーイングによる武力介入で世界の統合を促すことが目的で、その終焉にはCBに対抗すべく国連軍を結成し、一致団結してCBを葬り去ることで世界統一に繋がっていくことも想定されていた。

 第二段階は統合しつつある世界の持続と統合を加速させるために、ヴェーダとイノベイドによる援助を実施する。ツインドライヴシステムを搭載したガンダムにより、全人類の意思の統一を図ることも想定されていた。

 第三段階は意思の統一を成し遂げた人類を外宇宙へ進出させ、未知の生命体との接触を図る。

 その牽引役となるのは「純粋種イノベイター」として覚醒した刹那・F・セイエイ。

 

「絢瀬悠凪、お前に聞きたいことがある。お前の世界にとって、ガンダムはどのような存在だ?」

「私のいた世界では、ガンダムは強力な兵器であると同時に……味方に希望を、敵に絶望を与える存在です。では逆に聞きましょう……刹那、君にとってガンダムとは何でしょうか?」

「嘗て、俺は神を信じていた。だが、この世界に神はいない……ガンダムがそれを成す!」

「(ガンダムという兵器に神を見出すのか……)それが君の答えですか、把握しました」

 

 まだ少年兵だった頃の刹那は、グルジスで自分を助けた0ガンダムを神に代わる救世主、戦争を終わらせる実在する神として憧れた。

 刹那が「俺がガンダムだ」という謎台詞を口にした理由だが、この世界のガンダムは「ソレスタルビーイングの理念を発現する機体」であり、さらに刹那はマイスターに就任している。

 そして刹那にとって、ガンダムは「神に代わる存在」なので、これらに照らし合わせると「俺が紛争根絶を体現する者(ガンダム)だ」となる。

 

 今はそれでいいかもしれない。だが刹那、君が自分を助けた神(リボンズ・アルマーク)の思惑を知ってしまったら、君はこれまでの自分と決別し、ガンダムを乗り越えなければならない。

 それを成し遂げる瞬間、君と君のガンダムは()()()

 

「話がだいぶ逸れてしまいましたが、そろそろ本題に戻りましょう」

「ええ、貴方が私たちを助ける理由は理解しました。では、貴方のガンダムについて教えていただけますか?」

「名はフリーダムガンダムで、殲滅型対MS戦用MSとして開発された、私の専用機です」

「見たところは太陽炉を搭載していないが、何の動力で動いていますか?」

「先ず、太陽炉とは何ですか?」

 

 GNドライヴのことはもちろん知っているが、ここは知らないふりで行こう。

 

「太陽炉……GNドライヴとは我々が所有している4機のガンダムの動力源よ」

「なるほど、把握しました。フリーダムには太陽炉というものを搭載していません。動力源は縮退物質を利用して電気を始めとするエネルギーを発生させる半永久機関、その名は縮退炉です」

「なんと……!」

 

 縮退炉。それは縮退物質を燃料にしてエネルギーを発生させる半永久機関である。

 ブラックホールは、周囲の質量を吸収することによって成長する一方、ホーキング輻射によって質量をエネルギーに変換しながら蒸発しており、ブラックホールの質量が小さければ小さいほど、その蒸発速度は大きくなる。

 従って、極小のブラックホールに適切な量の質量を投入し続ければ、その成長と蒸発が平衡状態になり、常に一定の大きさを保つことができる。

 しかも、理論的には投入された質量が全てエネルギーになり、核分裂エンジンと違って廃棄物が全く残らないうえ、質量さえあれば何でも燃料にすることができる。

 

「なんじゃとぉ⁉ ワシらの世界では確立されていない技術が、あんたの世界ではすでに実用化しているのか⁉」

「その通りです、貴方は……」

「ワシはイアン・ヴァスティっていうもんだ、ガンダム4機の整備を任されている」

 

 全員が絶句する中に、少し驚きしつつも自己紹介してくれたイアン。

 技術者として、縮退炉というスーパーテクノロジーに興味を示さないはずがない。

 だが、今はその情報を開示するわけにはいかない。もしヴェーダにアップロードされ、リボンズや大使らに知られてしまったら困る。

 

「それと……この際はっきり言っておきましょう、私はCBの敵になるつもりはありません」

「そいつは良かったな」

「ですが、完全に味方というわけではありません」

「なに……?」

「今の私は組織としてではなく、一個人として行動しています。君たちと敵対しないことはお約束しますが、もし君たちの組織内の誰かが、私または彼女に危害を加えようとする場合、私は躊躇なくその者を討つ……他に聞きたいことはありますか?」

 

 その時、アレルヤが席から立ち上がった。彼が何を聞きたいのかは想像がつく……きっと特殊な脳波のことだろう。

 

「さっきからずっと気になるんだけど、君も僕と同じ脳量子波を使えるのか?」

「君の言う脳量子波とは性質が似ているが、本質的には全く別のものです。過酷な宇宙環境に進出・適応した人類の中に、稀に特殊な脳波を扱える者たちが現れます、私のいた世界では彼らを『新人類』と定義してます。他者との意思疎通や直感能力が並みの人間より鋭いが、決して万能な力ではありません。君と意思疎通することができたのも、感応波の性質が似ているからでしょう」

「稀に現れる……もしかして人工的な操作ではなく、自然発生する進化によるものなのか?」

「ええ、その通りです……ん? どうしたの美玖?」

 

 美玖は突然私の腕を抱きかかえた。急にどうしたのと尋ねると、彼女はアレルヤの背後にオーラのようなものが見えたと、少し震えた声で言った。あれは間違いなく「ハレルヤ」だろうな。

 

「ようお嬢ちゃん、俺を呼んだのか?」

「うぇ⁉ あ……あの……えっと……」

「どうやら、おめぇも俺と同じ脳量子波を扱えるようだな!」

「おい! やめろハレルヤ!」

 

 ハレルヤの意識が表に出た瞬間、美玖はひどく怯えるように身体を震わせながら、私の腕をより強く抱き締めた。それから、美玖の元にゆっくりと迫ってきたハレルヤは、ロックオンとスメラギによって制止された。

 にしてもハレルヤの言葉が引っかかるな、美玖も脳量子波を……つまり特殊な脳波を発することができるのか?

 

「彼は自分の存在を察知できる人がいて嬉しく思って、君に挨拶しようと出てきたみたいで……驚かせてすまない!」

 

 申し訳無さそうに謝罪するアレルヤに、美玖は一言も言わず、ただ黙って頷くだけだった。

 このビビり具合から察するに、もしかして美玖は、ハレルヤのような荒々しい性格の人が苦手なのかな?

 

「……私の話は以上ですが、まだ何か聞きたいことはありますか?」

「お二人に聞きたいことが色々ありますが、今日はこれで終わりにしましょう。それと、これは組織のエージェントの連絡先です。もし協力が必要であれば、()()に連絡してください」

 

 話が終わり、別荘から立ち去ろうとしたとき、スメラギに1枚の紙を手渡してきた。

 紙にはCBのエージェントの連絡先が書かれている。スメラギはエージェントのことを「彼女」と称したな……もしかしてこの連絡先は、王留美のものなのか?

 協力が必要と判断した時に確かめよう。

 

 

 

 

 

 午前1時、経済特区・日本、高級ホテル。

 部屋に足を踏み入れると、肉体的にも精神的にも疲れを感じた私は、ため息をつきながらベッドに倒れ込んだ。すると美玖は割座、いわゆる女の子座りで私に膝枕をしてくれた。

 太ももの柔らかな感触が後頭部を包み、上を見れば圧倒的な質量を誇る胸。それは天国と言っても差し支えない至福の時間だった。

 

「お疲れ様です、悠凪くん」

 

 労いの言葉をかけてくれながら、美玖は私の頭を優しく撫でてくれた。

 嬉しいと同時に、なんだか少し照れくさく感じた。美玖の膝枕を堪能しながら、私は目を閉じて、今後の行動方針を考える。

 

 タクラマカン砂漠での武力介入では、アリー・アル・サーシェスを取り逃がしてしまった。できれば、国連軍が結成される前にやつを仕留めておきたい。奴が消えれば、ロックオン・ストラトスは死なずに済む。

 

 次は、共同軍事演習に三大国家陣営に1000機にも及ぶモビルスーツを提供した者の正体を探ることだ。私はその人物をPMCトラストの関係者、または国連大使の息がかかった者だと考えている。

 だが一番気になるのは、それらのMSの生産に使われた資材と資金の出所だ。どこで、どのような手段で確保したのか……サーシェスの行方を含めて、きちんと調べる必要がある。

 

 さらに、チームトリニティを味方に引き入れれば、ヴェーダのメインターミナルユニットの回収はもちろん、後に行われるフォーリン・エンジェル作戦での戦いはCB側に有利になるはずだ。

 だが、国連軍がどんな手を打ってくるのか分からない以上、憶測は止めた方がいい。

 

 最後は国連軍を退けた後、フォン・スパークより一足先に月の裏側に隠されたヴェーダの本体からメインターミナルユニットを回収する。ロックの解除にはイノベイドの協力が必要不可欠で、このことに協力できる人物はティエリア・アーデとネーナ・トリニティの2人のみ。

 

「悠凪くん、何かお考えことですか?」

「私の介入によって、この世界には新たな戦いが始まる。私はこの世界に介入する『自由』を選んだ、その『責任』は果たさなければならないと思うのだ。もし私が道を踏み外し、自由と責任を履き違えた悪人になってしまったら、君には私を撃てるか?」

 

 その言葉を聞いた美玖は無言のまま、私の上に乗かってきた。あまりに突然の出来事に、私は只々呆然していた。そして、私を馬乗りにした美玖は、涙がこぼれそうな顔を見せながら、口を開いた。

 

「悠凪くんが道を踏み外さない為に、わたしは悠凪くんの傍にいると決めました……」

 

 そう言って目の前の彼女は、私と唇を重ねてきた。ただ唇を重ねているだけなのに、思考が真っ白になる。体は浮いているように気持ちがいい。何より、彼女が自ら唇を重ねてきたのは流石に予想外だった。

 重ねてきた唇を離すと、美玖は私の顔をじっと見つめながら、言った。

 

「わたしの気持ちは、悠凪くんに伝わりましたか?」

「ああ、ちゃんと伝わってきたよ……さっき変なことを言って、済まない」

 

 謝罪の言葉を述べながら、私は彼女の頭をポンポンと軽く撫でる。すると、さっきまで泣きそうだった顔があっという間に笑顔になった。

 そっと私の上から降りた彼女は、ギュッと私を抱きしめてきて、脚を絡ませてきて、暫くすると小さな寝息を立て始めたのだった。

 

「(また抱き枕にされた……でも、これはこれでいい!)」

 

 つづく

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