二「そうね。この日ばかりは料理する気になれないわ」
四「二乃の料理だって負けてないよ!」
五「えぇ、どちらも美味しいです!」
二「ありがと。五月はそのフランクフルトを置いてから言いなさい」
「え、え、どうして貴方がここに・・・・・」
未だに息を荒げる彼を不思議に思うより驚いた気持ちで訊ねる。記憶と違うタイミングでの登場に戸惑いしかない。
「どうしてって、お前が迷子になったからだろうが」
「あ、あぁ―――そうでした。すみませんお手数をおかけして」
かと言って、ここで「予定と違うよ!」と彼に言っても意味がないのは分かっている。どういう過程であれ、私が迷子になって彼が探しに来たのが現実だ。
「ったく、離れるから変な奴に絡まられるんだよ・・・・・」
「変な奴って・・・・・見ていたのですか!?」
「お前を探している時に遠目から見えたんだよ。よりによって逆方向に走りやがって」
そうぼやく彼は心の底から面倒そうだ。見ていたなら早く助けてよ、と思うのが自分勝手な文句なのは分かっている。しかし心の中だけでも言わせてほしい。
「そうですか。それにしても、よく遠目で私だと分かりましたね。先ほどは、まっ・た・く、分からなかったのに」
皮肉を込めてゆっくりとした口調で話しかけるが、どうやら彼には伝わらなかったようで表情を崩すことはなかった。その朴念仁さが余計にムカっとする。
「そりゃ着物姿で食い物を持っているっていえば、お前しかいないだろ」
「その特徴なら他の可能性も考えられます!」
食べ物ってだけで私と断定されるのは心外だ。屋台があるお祭りなら食べ物を持っている人が大半だろうに、それだけで私と決めつけるこの男の脳内では「私=常に食べている」とでも思っているのだろう。
「当たっていたんだ、別にいいだろ」
そう言うと彼は背中を向けて歩き始めた。暗に「ついて来い」と言っているのだろう。未だ消化できない不満を口に出す代わりにこのまま動かないでいようか、とも思ったが、今の彼なら振り返らずに最後まで歩きそうなので不満を押し殺して彼を追うことにした。
花火が始まり人混みが人通り程に落ち着いたとはいえ、人の往来が多い事には変わりない。
最初にはぐれた時よりは後ろ姿を見失わないが、人を押しのけて歩くのは苦手な性格もあって追う背中との距離は縮まらない。ちょっとした事で彼を見失う可能性もあるだろう。
そうしたら他の姉妹に連絡すればいいか、くらいの楽観的な考えになる。
突然、前方から手首を掴まれた。
その瞬間、ナンパされた記憶恐怖を感じて身が縮こまる。反射的に振りほどこうと力を入れた刹那、
「掴んでろ」
喧騒の中、ハッキリと聞こえた声。情報量の多い背景が白塗りされたような錯覚が起きる。しかしそれも一瞬。彼に意識を向けると背景は色づき、忙しそうに動き回る人々を再び認知する。
それらに気づき、慌てて掴まれた手を振りほどいた。その行動に上杉君は驚いたような顔を見せるが、傷ついた様子はない。どちらかというと、不服そうに私を見てくる。
「また迷子になられては面倒だ。離れないようにしろよ」
しかし視線以外で私の行動を咎めることはせず、自分の携帯電話を取り出して背中を向ける。ぶっきらぼうの声音から、彼が善意ではなく利益のための行動なのは分かった。これは優しさではなく、本当に迷子になられては自分が困ると考えているのだろう。
(お願い――)
私は上杉君の背中ではなく、つい視線を下に向けてしまう。彼に掴まれた自分の手首を反対の手で掴むと、その指先は橈骨動脈に触れた。手首の脈拍を感じ取れば、自分の心臓がどれだけ動いているか分かる。
(お願いだから、振り向かないで――)
身体全体で感じるこの微熱の正体を――肯定することはできない。
彼への感情は、文化祭最終日そして空き教室で、一つの答えに収めた。
それを再び審判の場に出すなんて、そんなことはできない。それは苦労して丁寧にファイリングした大量のプリントを、乱雑に散らばして見返すような不快感を味わうだろう
そんな上下左右に揺れる感情を朴念仁の彼が気づくはずもなく、携帯電話越しに誰かと話し始めた。
「らいはか?こっちは捕まえた。これからそっちに――」
人をペットか何かだと思っているのだろうか。ムッとなり文句ひとつ言っておこうかと顔を上げようとした時――
「はぁ?あいつらも探しに出た!?」
彼の急な大声に反射的に勢いよく顔を上げてしまい、首の後ろにツーンとした痛みが走る。謎に痛がっている私を気にする彼を手で制する。
「あぁ・・・・・分かった。とりあえずそこで待っていてくれ」
彼が通話を切った後、落ち着いて話すために人波を外れる。上杉君は何やら考えている様子だった。
「何があったんですか?」
「あぁ・・・・・どうやら他の姉妹たちがお前を探しに出たらしい」
「ど、どういうことですか?」
「詳しくは後で話す。とりあえず他の姉妹に連絡してくれ」
謎が多いままだが、上杉君に促されて連絡をとるためスマホを取り出す。とりあえず今回の先導役である二乃のアドレスを表示した。
もしかして、予定が一日ずれたせいで一花の件はもう済んでいるのだろうか。そうだとしたら、一花のカミングアウトするタイミングはしばらく来ないだろうし、その後の私たちがどうなるか想像つかない。
上杉君は辺りを見渡して少しでも情報はないかと探してくれている。この時から見えていた彼の優しさを、あの時の私は見えていただろうか。今考えても何も意味はないとは分かっていても考えずにはいられない。
私は「二乃」と表示された通話ボタンを押した。周りの雑音の中わずかに無機質な呼び出し音が聞こえる。
ここで考えていても答えは出ない。先が見えない吊り橋だが、今は渡るしかないだろう。
呼び出し音は長く続かず、途切れたと思えばすぐに「もしもし五月!?」と大きな声が聞こえた。
こんばんは。
最近PCが故障してデータが一部飛びました。スマホより再執筆して投稿です。
その為、今回の投稿は誤字脱字・表現が雑など、いつも以上に粗が目立つかもしれません。
PCが復帰するまで亀投稿になりますが、新調しだい執筆と再編集をしたいと思います。
話題が変わりますが、珍しくごとよめの夢を見て記憶に残ったため、記憶を巡って執筆したものをイベント編の方に投稿したいと思います。良ければ読んでみてください。
(https://syosetu.org/novel/255257/)
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