彼女の黒い輝きや、イエイヌを襲ったわけとは何だったのかが明かされます。
タイトル一覧
◉ごめんなさい
◉落とし物
◉ごめんなさい
影を追っていると、かつてパークの職員が生活していた宿泊施設が見えてきた。確かあそこにはイエイヌが一人で暮らしていたはず。ビーストは雄叫びを上げ、周囲に警戒を促した。
そこにたどり着く頃には夕方になっていた。
するとイエイヌのおうちの近くで、2つの影の姿がフッと消えた。
だが気配はその中から感じられる。玄関の扉は開いていて、どうやら今は留守にしているようだ。
警戒しながら中の様子をうかがうと、壁に一枚の絵が飾られていた。
ビースト『あの絵はもしかして。』
中に入って近くで見てみると、絵からあの子の匂いがする。
ビーストは懐かしさから、思わずその絵に手を伸ばした。すると絵の背後から2つの影が飛び出してきて、彼女に取り憑いた。
瞬く間に体が黒い輝きに覆われ、自分の意思では動かせなくなった。そしてキュルルの匂いを追って、体が勝手に走りだした。
森林を走っていると、キュルルとイエイヌを見つけた。ビーストは2人の前に飛び出すと、唸り声を上げながらキュルルに迫った。
するとイエイヌがキュルルを守るために立ちはだかり、ビーストに飛びかかってきた。
彼女は片手で払っただけでそれを弾き飛ばした。しかし地面に叩きつけられながらも、イエイヌは懸命に立ち上がろうとしている。
それを見たビーストは、イエイヌにとどめを刺そうと向かっていった。彼女の意思は必死に抵抗していたが、体を止める事ができなかった。
するとキュルルがイエイヌを庇った。その姿があの子と重なり、彼女の頭の中にあの子の声が響き渡った。
あの子「やめて、アムールお姉ちゃん!」
振り下ろした爪が、キュルルの眼前でようやく止まった。
次の瞬間、キュルルの危機によりビースト化に目覚めたカラカルが、頭上から飛びかかってきた。彼女はとっさに、カラカルの稲妻のような一撃を両手で防いだ。腕が痺れ、轟音と共に地面が大きく凹み周囲が吹き飛んだ。すると影が彼女の体から飛び出した。
カラカルは後方に跳んで、ビーストと距離を取った。
イエイヌとキュルルも吹き飛ばされたが、サーバルが空中で2人を受け止めて、ビーストから少し離れた所に下ろしてくれた。
体から黒い輝きが消え、正気に戻ったビーストがあたりを見渡すと、敵意を剥き出しにしているカラカル、傷ついたイエイヌとそれを支えるキュルル、2人の前に立ちはだかり、警戒しているサーバルの4人が、じっとこちらを見ていた。周りはめちゃくちゃになっていて、爪にはイエイヌの毛がついていた。
ビースト『みんなを守るって決めたのに。』
ビーストはいたたまれない気持ちになり、俯きながら
「ガゥ…(ごめんなさい)」と呟いた。
そして後ろを振り向くと、その場から一目散に逃げ出した。
◉落とし物
ビーストが顔を背けた時、キュルルはその頬に一筋の涙が光っていることに気付いた。
しかし声をかける間もなく、彼女はどこかへ走り去ってしまった。寂しげな背中がどんどん遠ざかってゆくのを、キュルル達は見送った。
ビーストが立ち去った後、地面にキラリと光る何かが転がっていた。
サーバル「なんだろう、これ?」
それは壊れたラッキービーストの本体だった。キュルルやかばんさんが着けている物と似た形をしていたが、レンズはひび割れ、あちこちボロボロになっている。サーバルはそれを拾い上げた。
ビースト化を解除したカラカルが、その場にガックリと膝をついた。心配したキュルルはカラカルに駆け寄った。
キュルル「カラカル大丈夫?助けてくれてありがとう。」
カラカルは弱々しい声でこう答えた。
カラカル「こんなにしんどかったなんて…。」
そこへイエイヌもやってきて、キュルルと一緒にカラカルを支えた。
イエイヌ「みなさん、ひとまず私のおうちで休んでください。」
キュルル「ありがとう。イエイヌさんの手当てもしないとね。」
イエイヌ「私は平気ですから…。」
一行はイエイヌのおうちで一休みする事にした。
酷く疲弊していたカラカルは、ベッドに横になった。サーバルはその隣の椅子に腰掛けながら、カラカルを心配そうに見つめている。
キュルルは棚にあった絆創膏を、イエイヌの顔に貼ってあげた。
イエイヌは、構ってもらえるのが嬉しくてにっこりしている。
イエイヌ「ありがとう、えへへ。」
キュルル「ごめんね。僕はみんなに守られてばかりだ。」
サーバル「そんな事ないよ。」
カラカル「こーゆーコトは、あたし達に任せておけばいいの。それにしてもあいつ、あんなに乱暴だったなんて!かばんさんにはああ言われたけど、やっぱり信用できない!」
いつもより声に迫力が無いが、カラカルはカンカンに怒っている。危うくキュルルが命を落とすところだったのだから当然だ。その事には理解を示しつつも、サーバルは考え込みながらこう言った。
サーバル「うーん、あの子、何か様子がおかしかったんだよ。変なものでも食べたんじゃないかな?」
キュルル「僕もそう思う。襲われた時は体が黒いモヤみたいなもので覆われていたんだけど、カラカルの攻撃でそれが無くなって。そしたらこっちを見ながら、すごく悲しそうな顔をしてたよ。」
そしてあの涙。キュルルにはどうしても、ビーストが悪いフレンズには思えなかった。
サーバル「そうだ!ねえキュルルちゃん、あの子、これを落としていったみたい。」
サーバルはさっき拾った本体をキュルルに渡した。
キュルル「ボロボロだけど、これって…。」
するとキュルルの腕のラッキービーストがこう言った。
ラッキービースト「コレハ壊レタラッキービーストダネ。シャベルコトハデキナイミタイダケド、何ヲ考エテイルカハ分カルカモシレナイヨ。」
キュルル「そうなの?じゃあ聞いてみて。」
ラッキービースト「ワカッタ。接続完了。解析中…解析中…。」
キュルル達は固唾を飲んで見守っていたが、窓の外が暗くなってもラッキービーストはずっとカシャカシャいっていた。
そこで今日はここに泊まって、明日の朝出発する事にした。
翌朝、みんなが起きたところで、ようやくラッキービーストが話し始めた。
ラッキービースト「解析終了。でーたモホトンド壊レテルネ。分カッタノハコレダケダヨ。『アムールトラヲタスケテ。』」
キュルル「アムールトラ…ビーストの事?助けてってことは、苦しんでるのかな。」
サーバル「やっぱり何かあったんだよ、追いかけようよ。」
キュルル「そうだね。ねえカラカル、これ、あの子に渡してくれないかな?きっと困ってるよ。」
カラカル「む〜、しょうがないわね。」
カラカルは訝しみながらもうなずくと、キュルルから壊れた本体を受け取った。
キュルル達はビーストの跡を追う事にした。イエイヌによれば、彼女が走って行った方角には、セントラルパークという島の中心に当たる場所があり、かつてはたくさんの施設があったが、今どうなっているかは分からないという。
キュルル「イエイヌさんは、ここで大切なヒトを待っててあげてよ。」
イエイヌ「すみません。どうか気をつけて。」
キュルル「ありがとう。行ってくるね。」
キュルル達とイエイヌは、お互いの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
そしてカラカルがキュルルにこう尋ねた。
カラカル「スケッチブックには、まだ何か描いてあるの?」
キュルル「うん、これが最後の手がかりだよ。」
そこには観覧車とホテル、そして笑っているトラのフレンズが描かれていた。
サーバル「ここはビーストのおうちなのかな?」
カラカル「ずいぶん変わった形ね。眠りやすいのコレ?」
すると突然、ラッキービーストがかばんさんの声で喋り出した。
かばん「もしもし、…ザッ…聞こえる?」
カラカル「えっ!?」
サーバル「なになに!?」
キュルルはラッキービーストに向かって話しかけた。
キュルル「かばんさん!?どうしたんですか?」
かばん「ザッ聞いて…ザザ…パークの危機…ザッ…セントラルパークに…き……て…ザザッ」
雑音がひどい上に、言葉が途切れ途切れでなかなか聞き取れない。それでもわずかに聞こえた言葉を手掛かりにして、キュルルはこう答えた。
キュルル「分かりました。ちょうど僕たちも、ビーストを追ってセントラルパークに向かっています。」
しかしかばんさんからの返事はなかった。しばらく雑音が続いた後、通信が途絶えた。
考え込みながらサーバルが言った。
サーバル「パークの危機ってなんだろう?」
カラカル「わかんないけど、何か危ない事が起こってるみたいね。」
キュルル「うん。もしかばんさんがそこにいるのなら、助けないと。」
そして、キュルル達は再びセントラルパークへと歩き始めた。
アニメ版を基に、なぜビーストは2人に襲いかかったのかを書きました。
今のビーストには感情があります。
嬉しい時は笑いますし、悲しい時は泣き、誰かを傷つけてしまった時は落ち込みます。
ですが言葉が話せないため、それを周りに伝えることができません。
かつては伝えようとしてみたりもしましたが、唸り声を上げて怖い顔で迫ってくるようにしか見えないので、フレンズ達は彼女を避けていました。
こうして、彼女は感情を自分だけで抱え込むようになりました。そして今回も謝罪の言葉を呟いた後、その場から逃げ出してしまいます。
またキュルルがイエイヌを庇う所は、映画版ナウシカがアスベルのガンシップの前に立ちはだかるシーンを思い浮かべながら書きました。
『落とし物』は漫画版のイエイヌ回を読んでから書いたお話なので、カラカルがビースト化した後疲れてベッドで横になったり、かばんさんから途切れ途切れの通信が入ったりと、それにちなんだシーンが出てきます。
壊れたラッキービーストの記憶のサルベージは、全編書き上げた後に追加しました。それに伴い、通信がうまくいかなかったのは2人の距離が離れすぎていたという理由から、キュルルのラッキービーストが疲弊していたからになりました。
ビーストに襲われたにもかかわらず、キュルルが彼女を避けないのには訳があります。それはこの後の物語で語られます。
またサーバルは持ち前の勘の良さで、ビーストの心を感じ取ります。
一方、カラカルはビーストに良い印象を持っていません。大好きなキュルルが2度も危ない目にあわされたので当然です。そう考えると、落とし物を届けるのは、キュルルかサーバルに任せるのが自然です。
キュルルもそれは分かっていますが、あえてカラカルに届けてもらう事で彼女を理解し、仲直りしてもらおうと考えています。
カラカルはキュルルの頼みなので断れません。ビーストの事はまだ納得していませんが引き受けます。
この時のキュルルはカラカルの事が大好きになっているのですが、その事をはっきりと自覚するのはもう少し先になります。また、カラカルが自分に好意を持っている事には気付いていません。ここまでの旅の間に2人に何があったのかは、漫画版をご覧ください。
スケッチブックに描かれているのは、姿が変わってしまう前のアムールトラです。ビーストとは髪型や毛皮の形が異なっていますが、オリジナルキュルルの絵柄に加え、ほかにトラのフレンズが出てこない事もあり、キュルル達はこれはビーストだと判断しています。