アムールトラ/ビーストのきせき   作:今日坂

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操られていたとはいえイエイヌを襲ってしまい、たまらず駆け出したビースト。
その先で彼女を待っていたのは…?


第14話 ◉あの日の約束

◉あの日の約束

 

ビーストは泣きながら四つん這いでがむしゃらに走っていたが、上空にセントラルパークの方角へと向かう2つの影をみつけると、顔を振って乱暴に涙を拭いそれを追いかけた。

 

 

日が暮れてあたりが暗くなり始めた頃、大部分が海に沈んだホテルが見えてきた。長い年月の間に地殻変動が起こり、セントラルパークは施設ごと海に沈んでしまったが、辛うじて頭を出しているのがあのホテルだ。

 

その時不意に、ビーストの頭の中で声がした。言葉が分からなくなっているはずなのに、なぜかそれは理解することができた。

「お前はなぜ戦うのだ?」

「お前はみんなの為に戦った。だがみんなはお前に何をした?」

 

そしてビーストの周囲の闇に、様々な映像が浮かび上がってきた。

セルリアンと戦う自分の姿。それに怯え、自分を避けるフレンズ達。イエイヌを傷つけた自分をじっと見ている、先ほどの4人の顔。一人ぼっちで走り続ける自分…。

 

ビースト『うあぁっ…!』

彼女はなんとか映像を振り払い、ひたすら走り続けた。

 

声はさらに続けた。

「お前が必死に守ろうとしたものも、いずれは消える。」

「その時は、目前に迫っている。」

 

映像が切り替わり、今度はパーク各地の様子が映し出された。

そこでは火山があちこちで噴火し、パークが崩壊していた。

フレンズ達は動物に戻り、なすすべもなく死んでいった。

 

ビースト『そんなっ…嫌だ…!』

 

それでもセルリアンだけは活動を続けていた。そして一部のセルリアンがビーストに気づき、集団で襲いかかってきた。

彼女は、すくみ上がりそうな手足を懸命に動かしてすり抜けた。

 

すると海の前で2つの影がおもむろに振り返り、ビーストの方を見た。

カンザシ「お前はもう十分走った。」

カタカケ「何もかも忘れて過ごせば良い。」

 

すると海から巨大な黒い塊が現れ、ビーストに迫ってきた。

 

ビースト『もう嫌だ、見たくない!』

彼女は恐怖で立ち止まらないように目をつぶった。

 

 

ビーストは真っ暗な闇の中を、たった一人で走り続けた。

走っているのにとても寒く、地面も硬く冷たい。音も匂いも何もない。徐々に手足が重くなってゆき、走っていられなくなった。

そして彼女の心の中に、寂しい、悲しい、怖いといった負の感情が溢れていった。

 

ビースト「うぁ…、あぁああー…」

彼女は鉛のように重い手足を引きずるようにして歩きながら、声を出して泣いた。

その時、かすかな音が聞こえてきた。

 

たまらなくなって、ビーストは目を開けた。すると、なんと彼女の周りには、フレンズとヒトが一緒に暮らしていた頃のセントラルパークが広がっていた。

軽快な音楽に、きらびやかな光に包まれた施設、そしてみんなの笑い声。どこもかしこも、とても活気に溢れていた。

 

そんな中、ビーストは一人で泣きながら通りに佇んでいた。

するとそこへ誰かがやってきて、ビーストに声をかけた。

?「キミ、どうしたの?」

 

顔を上げると、そこにはかつての自分が立っていた。

 

 

アムールトラは心配そうな顔をしていたが、ゆっくり片手を上げると、ビーストの目の前で指を弾いた。すると手から1枚の青い羽が現れた。

 

そして彼女はビーストのそばにしゃがむと、羽を頭につけてくれた。

その時ビーストは、自分の目線がやけに低くなっている事に気がついた。いつの間にかビーストはあの子と同じくらいの幼い姿になっていて、肩に鞄を掛けスケッチブックまで持っている。

 

アムールトラ「キミ、一人ぼっちなの?お名前は?お母さんやお友達は?どこか行きたい所があるの?」

 

しかしビーストは何も答えることができなかった。そんな自分がもどかしくて、また涙が溢れてきた。すると彼女は少し困った顔をしてから、ビーストの頭をなでた。

 

そして微笑みながらこう言った。

アムールトラ「キミは凄いよ。自分が困ってるって、ちゃんと周りに伝えていたんだ。だから私は、キミを見つけられたんだ。」

 

それを聞いてビーストは泣き止んだ。そして彼女と手を繋いで、一緒に歩き出した。

 

 

それからビーストはあの子の目線で、かつての自分と一緒に過ごした。彼女のマジックショーを見たり、絵を描いてあげたり、一緒にパークを回ったりと、とても楽しい時間が過ぎていった。

 

 

 

そんなある日、ポカポカ陽気の下、2人は原っぱに並んで寝転がっていた。ビーストは大の字に、アムールトラは胸の前で手を組み、目を閉じていた。気持ちの良い風が2人の顔をなでてゆく。

 

そしてビーストは寝転んだままアムールトラの方を向くと、ある質問をした。すると彼女は目を開けて、空を眺めながらこう答えた。

 

アムールトラ「フレンズになって変わった事?うーんそうだな、やっぱり明日が見えるようになった事かな。

あ、これじゃ分かんないよね?ええと…、動物だった頃は、とにかく今日を必死に生きてれば、明日にたどり着けたんだ。それが今は、まず明日があって、それに向かって今日を生きてるんだ。」

 

彼女は時折顔をこすりながら、じっくりと言葉を選んで話を続けた。

「けど中には、今日を必死に生きるのをやめてしまう者もいる。なぜって?嫌な明日が見えたからだよ。どっちみちそこにたどり着くなら、必死に生きても意味がないって考えたんだね。」

 

「私は違うよ。どんな明日が見えたって、今日を必死に生きてる。

それでもたどり着いてみると、良い日もあれば悪い日もある。でもこれは、昨日見たイメージなんかじゃなく、今日の自分が実際に掴んだ、かけがえのないものなんだ。」

 

と、ここで彼女は言葉に詰まった。そしてビーストの方を見ると、困った顔をしながら笑った。

「ごめんね、うまく言葉にできないや。」

 

それから不意に、真面目な顔になった。

「キミにもいつか、嫌な明日が見える日が来るかもしれない。

けどね、今日を必死に生きるのをやめちゃ駄目だよ。でないと、良い明日には絶対にたどり着けないんだから。約束だよ。」

 

彼女はそう言うと、寝転びながら小指を立てた右手をビーストに差し出した。

正直、話は難しくてよく分からなかったが、彼女が自分を気にかけてくれている事が分かって、ビーストはとても嬉しくなった。そしてバッと起き上がって彼女の手を握ると、そのまま腕をブンブンと振った。

 

ビースト「やくそく!」

 

そんなはしゃいでいるビーストを見た彼女は、満足げな表情を浮かべながら何か言葉を続けようとしていた。

 

 

この時、ビーストは心に小さな引っかかりを感じた。

小指を満足に絡められない自分の太い指とジャラジャラ鳴る手枷、明日、指切り、アムールトラの表情。

これらの事が頭の中をぐるぐると回った。そして思い出した。

 

ビースト『そうだ、私はこの日あの子と約束したんだ、守らないと。』

ビーストがこう呟くと同時に周囲が暗くなってゆき、目の前のアムールトラや風景が見えなくなった。

 

そして代わりに2つの影が現れた。

カンザシ「やはりお前は、我らの(しもべ)にはならないようだ。」

カタカケ「これより先は一本道。足を踏み入れたら戻れない。」

 

カンザシ「恐れるなら退()け。恐れぬなら行け。」

カタカケ「恐れぬは無知か、(まこと)の勇気か。」

 

そう告げると影はしだいに遠ざかってゆき、闇の中に消えた。

 

 

 

ビーストは、海のそばの木の上で目を覚ました。

いつの間にかここで何時間も眠っていたらしく、すでに日は高く昇り、あたりには強い日差しが照りつけている。

 

そして目の前のホテルの方を見ると、海中からこれまでになく巨大なセルリアンの気配がする。

ビーストは木から飛び降りると、そこへ向かって走り出した。




プロットが出来上がった後で、アムールトラとあの子のやりとりをこういう形で書いてみよう、と思い書き上げました。ちっちゃなビースト(ちびースト)とアプリ版アムールトラのツーショット、フウチョウコンビの中二病セリフなど、個人的に気に入っているお話です。

ビーストは過去の自分の幻影と出会い、あの子とのやりとりを体験する中で、なぜ自分は辛い事があっても走り続けたのかを思い出します。そして永遠に幸せな時間が続く幻の世界を抜け出し、現実へと戻ってきます。


この小説はセリフに名前がついているので、通常なら同一人物同士で話をさせる場合、(新)(旧)とか(大)(小)とか、区別がつくように何かで表さなければなりませんが、アムールトラとビーストは名前が異なっているので、その必要はありませんでした。

アムールトラがビーストの質問に答えるシーンは、頭の中で言わせたい事はできているのにうまい表現がなかなか見つからず、何度も書き直しました。

動物からフレンズになった事で、今日(現在)だけでなく明日(未来)も見ながら生きる社会の一員となったアムールトラですが、いつも物事に全力で取り組む姿勢は変わっていません。
一方これを聞いていたあの子はどうだったのかは、番外編で明らかになります。
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