◯ビーストダヨ
◯目覚め
それから長い時間が流れた。
ヒトはこの星から去り、文明は失われた。
パークに残されたフレンズ達も代替わりし、アムールトラの事を覚えている者はいなくなった。
それらが変わってしまった後も、各地のラッキービーストは、フレンズにジャパリまんを配給したり施設の補修を行ったりと、パークの管理を粛々と行っていた。
フレンズ達は、そんな彼らをボスと呼び、無口でよく分からないフレンズとして接していた。
ヒトの力が無くなった事で、セルリアンの脅威が高まるかに思われたが、独自に野生解放を身に付けたフレンズが多数現れ、セルリアンとの戦いは一定のバランスが保たれていた。
これは、彼女の事を忘れない、あるいは彼女の力になりたいといったフレンズ達の思いが、形となって現れた結果なのかもしれない。
ある日、隔離施設付近で大きな地震が起こると同時に火山が噴火し、サンドスターが放出された。これにより建物の内部にあったものが激しく振動した。これを結晶が動き出したと誤解したコンピュータは、すぐさま信号を送り、アムールトラを目覚めさせた。
長い眠りから目覚めたアムールトラは、瞬時にビースト化した。そして檻を破ると、そのまま結晶に強烈な一撃を加えた。
しかし結晶は相変わらず沈黙していて、全く効果が無かった。それに気付いた彼女はビースト化を解き、攻撃を諦めた。
それでも野生解放は止まらない。このままでは何もできずに動物に戻ってしまう。彼女は必死に考えた。
アムールトラ『どうしよう。何か、他にできることは…。』
その時、施設の外からセルリアンの気配がした。アムールトラは天井を突き破って表に飛び出すと、雄叫びを上げた。
するとそれを聞きつけて複数のセルリアンが集まって来た。アムールトラはその中へ飛び込むと、片っ端から蹴散らした。
そんな中、彼女の一撃を受けて吹き飛ばされたセルリアンの一体が、施設の壁に突っ込んで砕け散った。その風圧で、檻の中にあったスケッチブックが飛ばされて、セルリアンの結晶の上に落ちた。
さらに屋根の穴からサンドスターが転がり落ちてきて結晶に当たった。するとそこから2人の漆黒の羽を持ったフレンズが生まれた。
戦いが終わると、煌めくかけらの山の中にアムールトラが立っていた。周囲は竜巻が起きた後のようにめちゃくちゃだった。
これでけものプラズムが一気に失われ、そのまま動物に戻るかと思われたが、なんと彼女はセルリアンのかけらから輝きを取り込み、力を回復させた。長い休眠の結果飢餓状態に陥った彼女の体は、輝きを直接取り込んで、フレンズの体を維持出来るようになっていたのだ。
それからアムールトラは、セルリアンの気配を感じるたびに、そこへ駆け付けては戦って、輝きを取り込んだ。
輝きの効果は力の回復だけではなかった。
他人の輝き、すなわち楽しい思い出に触れる事で、戦いだけだった彼女の心にも徐々に穏やかな気持ちが芽生えてゆき、他の事にも関心を持つようになっていった。
また、これを繰り返すうちにペース配分が出来るようになり、活動できる時間が増えていった。
このようにセルリアンとの戦いは、アムールトラが生きてゆくために必要不可欠であり、彼女の雄叫びは、セルリアンを引きつけると同時にフレンズ達を危険から遠ざけ、被害が及ばないようにする合図だった。しかしそれに気付いてくれるフレンズはいなかった。
フレンズを救ったこともあったが、彼女の性質上、意図せず周囲を破壊してしまうため、分かってもらえなかった。
木から降りられなくなったフレンズを助けようとした時は、木を根こそぎ倒してしまったし、川に落ちたフレンズを助けようとした時は、飛び込んだ衝撃でその子を大量の水と一緒に岸まで吹っ飛ばしてしまった。川底には大穴が開き、まるで隕石でも落ちたかのような有様となった。
こうして、アムールトラはあちこちで雄叫びを上げて暴れ回る怖いフレンズだとされ、みんなから避けられるようになった。
◯ビーストダヨ
ある日、アムールトラは壊れたラッキービーストを見つけた。長い間放置されていたようで、あちこちに草が絡み付いている。体もすっかり色あせているが、わずかにオレンジ色が残っていた。
それは彼女に向かって、何度もこう話しかけてきた。
ラッキービースト「ハジメマシテ。…クハ……ビーストダヨ、ヨロシクネ。」
ところどころ音声が途切れている。
本来、ラッキービーストはフレンズへの干渉を避けるため、ヒトの緊急時以外会話ができないようプログラムされている。しかしこのラッキービーストは、壊れてその制限が失われたため、彼女に話しかけたのだった。
たまたまこの会話を耳にしたフレンズが、物陰から2人の様子をうかがっていた。その子はボス(ラッキービースト)が話せる事を知らなかったため、アムールトラがボスに自己紹介をしているのだと勘違いした。そしてその場を離れた後、見聞きした事をお友達たちに話して聞かせた。
フレンズ「見慣れないフレンズがボスに自分の名前を言ってたよ。ビーストって言うんだって。」
アムールトラは、しばらくラッキービーストの前に座っていたが、よく聞くとその声は、近くに落ちていた時計ほどの大きさの機械(本体)から出ていた。
本体「ハジメマシテ。……ビーストダヨ、ヨロシクネ。」
彼女はもう言葉を話す事も理解する事もできなかったが、それを聞いているうちに、この子も一人ぼっちで寂しいんだと思った。
アムールトラ「ガゥ…(一緒に来る?私も寂しかったんだ)。」
そう言うと彼女は、本体を拾ってその場を後にした。
形はフレンズと全然違うけれど、目が覚めてから初めてできたお友達だった。ようやく誰かがそばにいてくれるようになって、彼女はとても嬉しかった。
それから、アムールトラがパーク中を駆けまわっている間も、本体はたびたび同じ台詞を口にした。そして、それを耳にしたフレンズ達の間でも、ビーストという名前が広がっていった。
本体が完全に壊れて話をしなくなった頃、パークには『自己紹介をしながら暴れ回るフレンズがいる』という妙な噂が広まっていた。
いつしか彼女は、フレンズ達からビーストと呼ばれ、避けられるようになっていた。
本体がしゃべらなくなって、アムールトラはまた一人ぼっちになったと感じていた。それはとても寂しくて、恐ろしかった。
彼女はセルリアンと戦いながら、自分を受け入れてくれるお友達を必死に探した。戦って、避けられて、探して、また戦って…。
しかしお友達は見つからなかった。アムールトラはとても優しいフレンズだったのだが、会話ができず不器用で、それをうまく伝えられなかった。
やがて、避けられる事に疲れた彼女は、戦いの時以外はフレンズから身を隠して、ひっそりと暮らすようになった。
◯目覚め制作秘話
結晶にサンドスターが当たり、そこから現れたのは…、けものフレンズ2の知識のある方にはお馴染みのあの2人です。
当初は施設に突っ込んだセルリアンが弾ける際に飛び出したキラキラが、結晶に当たる事で生まれていました。
しかしこれにフレンズ化させる力はあるのかと悩んだ末、火山の噴火とともに噴き出したサンドスターに変えました。
サンドスターが窓や穴から飛び込んできていた時もありましたが、アムールトラの近くでフレンズ化すると見つかってしまうので、今の形となりました。
フレンズは感覚が鋭い子が多いので、気づかれない状況を作り出すのは、なかなか難しかったりします。
アムールトラが天井をぶち抜いて外に出るシーンは、ドラゴンボールの悟空がレッドリボン軍の本部に攻め込んだ時、エレベーターを知らないため天井を破って上の階に行った情景を思い浮かべながら書きました
◯ビーストダヨ制作秘話
アムールトラはなぜビーストと呼ばれているんだろう、そもそもビーストって言葉はどこから出てきたんだろう、と考えながら設定などを見返していたら、いましたラッキー「ビースト」が。メインキャラクターなのに、「野獣」のイメージからほど遠いので、なかなか気付きませんでした。まさに灯台下暗しです。
そうして出来上がったのがこのお話です。
アムールトラはもう覚えていませんが、このラッキービーストは昔、ずっと彼女のそばにいました。それだけでなく、あるものも受け継いでいます。それがなんなのかは、これからの物語を読んでいただければ分かります。
ボス(ラッキービースト)をアムールトラ(ビースト)へどう結びつけるかは意外とすんなり決まりましたが、アムールトラが目覚めた後、パークを駆け回りながら孤立してゆく姿を文章としてまとめるのが難しい。この辺りのお話は、いまだにこれでいいのか?と思っているので、いつか書き直すかもしれません。