白陽の下に水面を駆ける   作:なもなきなにか

1 / 6




彼無き日常

 

 

 

 ここは笹芽鎮守府。

 一週間前に建設された新築の鎮守府であり、所属人数は両手で数えられる程度の小規模な鎮守府だ。

 建築工事が終わり、鎮守府として使えるようになった四日後に新人提督が着任たことで機能し始めた。

 

 現在、所属している艦娘は、憲兵達の指導の下で道場にて訓練を行っている。

 

「遅いッ! もっと早く刀を振れ!!」

 

「はいッ!」

 

 指導を行っている彼の名はコクウ。

 この鎮守府に所属している特務憲兵で、本名は黒羽伊織(クロバネイオリ)。今は一時的に提督代行をしている。

 影を操る程度の能力を持つ元竜の青年だ。

 一方、現在コクウの訓練を受けている艦娘はこの鎮守府の初期艦である白露型の五月雨。

 知り合いからはサミちゃんと呼ばれることが多い。

 

コクウ「もっと早く! 鋭くッ! 正確に振れ!! この程度じゃまた誰かに襲われた時に抵抗できねぇぞ!!」

 

五月雨「分かってます!!」

 

「······なあ、あれどういう打ち合いしてるか見えるか?」

 

「ぜーんぜん見えないよ。······あれって遅いのかな? ボクには刀の動きすら全く見えないけどさ」

 

 質問をしたのは天龍。この鎮守府の二人目の艦娘で現在唯一の軽巡である。

 また天龍の質問に答えたのは皐月。鎮守府の三人目の艦娘であり、まだ実戦には出たことがない新人だ。

 二人もコクウの訓練を受けていて、今は休憩中なのだ。

 

天龍「オレも風切り音と弾かれたときの金属音くらいしか聞こえねぇ」

 

皐月「ボクもだよ。······そういえばさ、コクウは素手だよね? なのにサミさんの攻撃が弾かれて金属音が鳴るっておかしくない?」

 

天龍「ん······ああ、素手ならおかしい。

 だが、コクウは徒手空拳なだけで腕に竜鱗出してるからそこまでおかしくもねぇぞ?」

 

皐月「竜鱗? ······あの時に航空攻撃から守ってくれたときのやつ?」

 

天龍「多分な。あのときのやつを部分的に出してるんだと思う」

 

 そんな話をしていると道場内の一角にあるスピーカーから「お昼ごはんできましたよ〜」と声が響き、コクウが構えを解いた。

 

コクウ「よし。一旦訓練は終わりにして昼飯食いに行くぞ! 天龍達は先に行っててくれ。俺と五月雨は掃除と片付けしてから行く」

 

 「ありがとうございました」と互いに礼を交わして訓練を終わらせ、皐月達の方に歩きながらコクウは指示を出した。

 二人はコクウの指示に従って食堂へと向かうが、その途中「シャワー浴びてくる」とだけ言って天龍は皐月から離れていった。

 皐月は少し心細く感じながらもそのまま一人で真っ直ぐに食堂へ向かい、食堂の扉を開く。

 

「皐月ちゃんが一番乗りですね♪」

 

 厨房から皐月に声をかけたのはシエル。

 彼女は厨房担当の妖精さんではあるが人間の姿も持っていて基本的にそちらの姿で生活している。

 

皐月「そうなの!? 先に愛羅が来てると思ってたんだけど······珍しいね。あの人がご飯のときに一番じゃないって」

 

シエル「そうですねぇ〜。昨日調べてみたら大体の人が暴食のイメージを持っている赤城の適正持ってましたし······」

 

 そんな会話をしていると、後ろから「二番目かぁ〜」と残念そうな声と共にホクホクで食堂に入ってきたのが愛羅である。『噂をすればなんとやら』だ。

 本名は黒羽愛羅(クロバネ アイラ)。彼女もまた憲兵としてこの鎮守府に滞在している。苗字で察するとは思うが、コクウの妻で彼女もまた元竜である。

 光に溶け込む程度の能力を持っている基本ノーメイクの少女だ。

 

シエル「お疲れ様です愛羅さん。哨戒の結果はどうでした?」

 

愛羅「あー、またいたんだ〜。あの時と同じタイプのヌ級がさ」

 

皐月「あの時と同じタイプ?」

 

愛羅「そうそう。あの時のヌ級と同じ黒腕の個体」

 

シエル「ホクホクなのはヌ級と戦闘した際の汗を流しに?」

 

愛羅「それもあるけど、少しダメージ食らっちゃってさ〜血がベタつくから着替えるついでにこっち側のお風呂に入ってきたんだ〜。

 そしたら不思議な事に傷も治ったしね。······そういえば他三人は?」

 

皐月「コクウとサミさんは片付け。天龍はシャワー浴びに行ったよ。どっちのお風呂かによるけど、たぶん愛羅と入れ違いだと思う」

 

 皐月が答えると同時に、再び扉が開き三本の腕が付いた黒い球体が入ってきた。

 球体はペタペタと二本の腕で這う様に移動し、折り畳まれた紙を愛羅に手渡してペタペタとどこかへ去っていった。

 

皐月「······なに!?今の気持ち悪いの」

 

 球体がペタペタと食堂に入ってからフリーズしていた皐月が、パニック気味になりながら聞いた。

 

愛羅「あれはね、仔月光。とある世界の無人兵器技術をユウが模倣し(コピっ)て量産した物だよ〜。

 ······でもボクが持ってきた分は全部コクウに斬られた気がするんだけどな〜」

 

シエル「それは一旦置いておいて手紙の中身を見ましょうよ〜」

 

愛羅「······そうだね。まずは見てみようか」

 

 愛羅はゆっくりと破れないように紙を開いて中を見る。が中身を確認すると、一瞬で元の状態まで折り畳んで「ふーん。やっと来るんだー」とだけ呟いてポケットに仕舞った。

 

シエル「それで、なんて書いてあったんです?」

 

愛羅「······うん。すごく大事なことだからみんな集まってから話すよ。だからそれまでおあずけ!」

 

 愛羅の「おあずけ」に対し、二人は「ぶーぶー」と抗議の意を示すが、愛羅はプイッとそっぽを向いてから「後でね」と二人を嗜める。

 同時に皐月のお腹が「きゅ〜」と鳴り三人は「お腹空いたなぁ〜」と声を合わせて言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛羅が仔月光から紙を渡されてからどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 私的には三十分ほどだと思うが、正確には分からない。

 

 三人は空腹を紛らわせるためにそれぞれ何かをしていた。最も、先程までぐーぐーと空腹を主張していた三人のお腹はもう空腹を訴えることを諦めたかのように静かにしているので、現在は残り三人を待つための暇つぶしになっているわけなのだが······

 具体的に何してるかというと、シエルは人間体のまま『妖精さんぱわー』を使う練習として氷のナイフを創っては分解を繰り返しており、愛羅は一段上の座敷で瞑想。皐月は最初は愛羅を真似て瞑想していたが五分ほどで飽きたようで、それからは座敷でゴロゴロしたり再び食堂に来た仔月光を指でつついたり弾いたりして暇を潰していた。

 何度目かの仔月光弾きの時、いいところに当たったようで、仔月光が座敷から落ち、それに合わせて皐月が起き上がり口を開いた。

 

皐月「お昼ごはんそろそろ食べちゃ駄目かなぁ? お腹空いたな」

 

愛羅「ボク的にもそろそろ食べたいな〜この三人が集まってからもう三十五分も経ってるし······」

 

 ポツリとこぼれたその一言に薄っすらと目を開いて愛羅も同調する。

 

シエル「そうですよね。三十分もあれば皐月ちゃんもお風呂入れたくらいですし······もう食べちゃいましょうか!」

 

「「賛成〜」」

 

 といった感じで来ない人は放っといて食べ始めようと各々が席につく。

 

シエル「では、手を合わせて······

 

「「「いただきまー

 「ちょっと待てェい!!」

遅れるのが悪い(よ/です)!!」」」

 

 扉を開けて入ってきたのは片付けすると言って結局遅刻しているコクウである。

 三人は号令を邪魔されて······表情は三者三様だが······ちょっと怒っているようだ。

 

愛羅「遅刻理由! 短く!!」

 

コクウ「片付けしてたら謎に隔離されて遅れた!!」

 

シエル「隔離? どんな感じでですか?」

 

 そう聞いたところで「遅くなりました〜」と五月雨が食堂に入ってくる。

 

五月雨「あの〜······これはどういう状況ですか?」

 

コクウ「さっきあった事の説明を始めるとこだ」

 

五月雨「······はい。理解しました」

 

愛羅「で? どうして遅刻したの?」

 

 そう聞きながら愛羅は立ち上がり、コクウの前に仁王立ちした。

 コクウは座敷で正座させられており、それを見て皐月はいつかの説教の時のように「ヘビに睨まれたカエルかな?」と思った。

 

コクウ「信じられないと思うが、事実を話す。

 皐月達が道場を出てからすぐに掃除と片付けは終わったんだ。片付けが終わって倉庫から出ようとしたら扉が開かなくなってた」

 

愛羅「それで?」

 

コクウ「能力使ったり扉を壊そうとしたりといろいろな方法で脱出を試みたが全て失敗。倉庫の空間ごと隔離されてたと考えてる。

 で、その直後に入り口の扉に張り紙が出現し、それに書かれた指示に従ったらあっさりと出られた」

 

愛羅「······で? その張り紙に書かれてた内容は?」

 

コクウ「『〇〇〇〇しないと出られない部屋』とかいう系統のやつだ」

 

 それを聞いて愛羅の表情が無理矢理微笑む修羅のようなものに変化し、背中からはただならぬ殺気が発生していた。

 

愛羅「ふーん。そっかー。出られたなら良かったね」

 

 愛羅が瞳のハイライトを消し、明らかなほどに不機嫌になっているのを見てかコクウは補足を付け加える。

 

コクウ「······『〇〇〇〇』の所を変な方向に勘違いしてそうだから言っておくが、『〇〇〇〇』に当てはまるのは『おひるね』だった。

 ついでに言っとくと字形は幼稚園〜小学1、2年生くらいの子供が書くような字だったから多分イタズラ好きな妖精さんの仕業だと考えてる」

 

 その説明を聞いたことで愛羅から発生していた殺気は消え、表情もいつも通りのものに戻った。

 

愛羅「······そっか。良かった〜ボク捨てられちゃうのかと思ったよぉ〜もう!」

 

コクウ「何言ってんだお前は? 俺がお前を捨てるのは俺がまともじゃなくなった時だけだ!」

 

 瞳を潤ませてコクウをポカポカ叩いている愛羅とそんな愛羅を撫でながら当たり前のように断言するコクウ。

 それを外というか横で見てる皐月達は「あれ? なんの話してるんだっけ?」と首を傾げていた。

 

シエル「えー、話戻しますけどOK?」

 

 二人にそう問いかけるが、周囲にぽわぽわと花が漂うほどにイチャついていて聞こえないようだ。

 シエルは額にシワを寄せ「話。戻しますね?」と、氷のナイフを二人の首元に出現させた。瞬間、二人は飛びのきぽわぽわオーラも収まった。

 

コクウ「ッ! すまん。······確か遅れた理由だったか」

 

シエル「そうですね。でも理由はお二人から聞きましたからそれは大丈夫です」

 

愛羅「そっか。コクウとサミちゃんの言い分の差異を調べるんだっけ」

 

 そう言って二人は厨房側に行って情報交換を始めた。ちなみに五月雨はコクウが正座で話し始めたあたりから食堂の外に連行され、事情聴取を受けていた。

 

 ······五分程経って二人が厨房から出て来ると、シエルは少し怒っているようで頬を膨らませていた。

 

シエル「私達二人で話し合った結果を発表します」

 

コクウ「結果によっては何か変わるのか?」

 

愛羅「本当にそうだったか言い訳だったかによっては怒るよ〜。主にシエルが」

 

シエル「······まぁお二人の言い分はほぼ相違なかったのでコクウさんにはお咎めなしです。お二人で事前打ち合わせとかをしていない前定ですけど」

 

 コクウが許された? ことにより空気が少し緩み、思い出したかのように食堂に「きゅる〜」と可愛らしい音が響き、全員がその方向に顔を向けた。

 そこには先程と違い恥ずかしそうに顔を赤くしている皐月がいた。

 

皐月「······お腹が空いてるんだからしょうがないじゃないかぁ〜」

 

 何故か瞳が潤んでいる皐月を見て、全員からぽわぽわオーラが出るほどに和んでいた。みんなかわいいものは好きなので致し方なし。

 数秒ほどその空気のままだったが、シエルが咳払いをして口を開いた。

 

シエル「コホン! まぁそうですね。なんだかんだ皐月ちゃんが来てから四五分くらい経ってますしみんな集まってるので私の能力が切れる前に食べましょう!」

 

 その一言で全員が改めて席に着き、掌を合わせる。

 

シエル「それでは、いただきます!!」

 

「「「「いただきます!!」」」」

 

 号令を皮切りに、全員が食事にがっつき、あっという間に完食してしまった。

 

コクウ「ふぅ。今日も今日とで美味かった。······それにしてもさっきからなんか大事なことを忘れてる気がしてるんだよなぁ」

 

愛羅「大事なことなら早々忘れるなんてこと······あ、そうだ! これがあるの忘れてた!!」

 

 愛羅はポケットから先程仔月光に渡された手紙を取り出した。

 

コクウ「ん? なんだそれ」

 

愛羅「大本営のおじいちゃんからの手紙というか業務連絡というか······とりあえず判子は押されてるから正式なやつを仔月光が持ってきてくれたよ」

 

コクウ「仔月光? あの時斬ったやつ以外にも連れてきてたのか?」

 

愛羅「あの時の子たちで全部だよ? コクウが上手く一機だけ残してた訳じゃないの?」

 

コクウ「あの時は敵だと思ってたから全部真っ二つのはずだ」

 

愛羅「じゃあ大本営から手紙を届けに来た子だね。この仔月光」

 

コクウ「そうなるな。それで? 手紙の内容は?」

 

愛羅「あー、それに関しては『新しい提督決まったから準備しておけ』みたいな感じのことだったよ」

 

コクウ「やっとか! ······で? 日時とかそのへんは書いてあったか?」

 

愛羅「······三時」

 

コクウ「······は? 何日後だ?」

 

愛羅「うん。本日の十五時頃に来るみたいだよ」

 

コクウ「···········はぁ!? あのジジイもっと事前に連絡寄越せよ······まぁ、決まったことならしょうがないと割り切るか。

 あと二時間後だし各自準備しとけよ」

 

 コクウはそれだけ言って準備のためか食堂を出て行った。

 他の面々も各自の準備をしに動いて行った。

 

 

 

 そして二時間後、「提督が鎮守府に着任します」と鎮守府内に放送が流れ、全員がエントランスに集合、整列した。

 この時、艦娘達は『どんな人が来るのか』と胸を弾ませていた。

 

皐月「そういえば、二人はどんな人が来るか知ってるの?」

 

コクウ「ああ、知ってるぞ。軽く腐れ縁と言える程には。

 ······到着したみたいだな。姿勢は正しておけ」

 

 コクウの言葉で緊張が走り、全員が足を揃え、背筋を伸ばす。

 「気を張りすぎるなよ」と自然体のままのコクウは言うが、艦娘達は変わらず緊張している。

 

 コンコン

 

 扉がノックされた後ゆっくりと開き、提督と思われる人物が入ってくる。

 

 その直後「ギャァァァ」と悲鳴が響きエントランスに鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 

 




 ここまでが本編1話となります。
 着任前まで書こうと思ったら内容はスカスカなのに文字数が結構増えてしまいました。ひとまず次はこの先を書こうと考えています。
 それと、できれば色々とコメント欄でダメ出しなどして頂けると助かります。

 ついでに所々の補足を少々。
 1つ目。最初の訓練で五月雨が使っていたのはコクウの刀『龍刀黒鉄(クロガネ)』です。
 2つ目。コクウと五月雨は倉庫にあったマット(体育とかで使うやつ)で一緒にお昼寝してました。その光景を見ていた主犯妖精さんは「兄妹のようだった」と後に供述していたそうです。
 3つ目。シャワー浴びに行ってた天龍は、結局お風呂にも入りのぼせていたところを、偶然食後に汗を流しに来た皐月により救助されました。
 4つ目。コクウ達を倉庫に閉じ込めた妖精さんですが、食事後にシエルが長々と説教しました。2つ目の供述もこの時主犯が言ってたことです。
 以上4つが補足となります。
 他に不明な点は考えてある所なら質問して頂ければ答えます。
 では。また次回
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。