オーク力士ですが、なにか?   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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22 今の自分

 白が目にも留まらぬ超速で俺の周りを飛び回り、攻撃の隙を探している。

 俺はその場にどっしりと構えて待つ。

 やがて、その瞬間が訪れた。

 白が俺の背後で軌道を変え、大鎌を振りかざして首筋を狙ってくる。

 俺は危険感知のスキルの微弱な反応と、迷宮で生死を賭けて磨いた勝負勘によってそれを見切り、白が攻めに転じた瞬間に後ろへ振り返って一歩距離を詰めた。

 

 内側へ踏み込む事で大鎌の必殺の間合いから外れ、左腕で柄の部分を外側から掴んで威力を殺した上で、更に脇腹で挟んで封じ込める。

 変型片閂!

 大鎌をガッチリと封じられ、白はそれを手放すか否かの判断で一瞬迷った。

 近接戦闘では、その一瞬の遅れが致命的だ。

 

 俺は大鎌を左腕と脇腹で封じ込めると同時に、右手を白の蜘蛛型の側面へと伸ばし、掴んでぶん投げる。

 上手投げ!

 迷って動きが止まったせいで碌に踏ん張る事もできず、白の体は宙を舞って地面に叩きつけられた。

 更に、右手で蜘蛛型を掴んで捕まえたまま、投げられて地面に叩きつけられた事で緩んだ白の手から左手で大鎌を奪って後ろへ投げ捨て、空いた左手で張り手を白の顔面に叩きつける……直前で寸止めした。

 

「それまで! 士道くんの勝ち!」

 

 近くで行司をしていたアリエルさんによって、俺の勝ちが宣言される。

 白は無表情だが、どことなく悔しそうなオーラを出しながら立ち上がった。

 それもそうだろう。

 今日だけで既に俺の15勝0敗。

 大相撲だったら、白の全敗である。

 

『大鎌を封じられた時の判断の遅れが致命的だったな。あそこで躊躇なく手放すなり、逆に力を込めて押し込むなりしていれば違ったと思うぞ』

 

 アリエルさんに許可を貰って、外道耐性を伸ばす為に使う筈だったスキルポイントを100だけ使って取得した『念話』のスキルで、白に敗因を指摘しておく。

 白は憮然としながらもコクリと頷いた。

 

 何をしているのかと言うと、対ポティマスとやらを想定した魔法なしの模擬戦だ。

 なんでも、ポティマスというアリエルさんの宿敵だという男は、魔法もスキルも封じる結界のような技を使うらしい。

 それに対抗する為に、白は近接戦闘の技術を磨いていた。

 そこに、せっかくだから教えてやれと俺がアリエルさんに言われた事で、相手をしている訳だ。

 

 連日続ける内に敬語が取れていき、最初は若葉さんと呼んでいたんだが、今ではため口で白と呼ぶようになった。

 打ち解けられたのは素直に嬉しい。

 一度も勝ちを譲らないせいで段々白に嫌われてきてるような気もするが……。

 だが、手心を加えたところで何の為にもならない以上、そこは仕方のない事だろう。

 

 ちなみに、戦ってる時の俺の格好は、白達から貰った化粧まわしとしめ縄姿である。

 これは儀式用の装束であって戦闘用ではないのだが、白とパペットタラテクト四姉妹による「それ戦闘の時に着けないでいつ着けるんだ、ああん?」と言わんばかりの無言の圧力に屈して着ける事になった。

 まあ、送ってくれた人達の思いを第一に考えるのが人情ってものだろうと自分を納得させて。

 

 だが、なんだかんだ言っても、まわしを着けた事で気が引き締まったのか、アリエルさんのおかげで心の余裕を取り戻した事も相まって、俺は強くなっている。

 リハビリとして白やアリエルさんとの模擬戦を繰り返した今、俺の強さは既に、不遜の精神汚染に飲まれた事で至った偽りの全盛期に近い領域にまで戻った。

 

 あれは勝利の先に何もない忌むべき無道だったが、あれはあれで、エルロー大迷宮での戦いを通して完成した、一つの境地だった。

 正気を取り戻しても、あの時に感じた全能感のようなものは忘れていない。

 土俵の上に、戦いの場に立てば、俺の精神はスイッチが入ったかのように体が覚えている感覚に引っ張られて、迷宮時代の全盛期一歩手前くらいの状態にまで戻る。

 戦いにのめり込み、しかし僅かにそれ以外の感情が残っていた、あの頃に。

 

 そして、戦いの他に何もなかったあの頃と違って、今は土俵の外にアリエルさん達がいる。

 アリエルさんに感謝し、アリエルさんの為に戦えと言う俺がいる。

 その思いが背中を押し、俺をかつての全盛期に限りなく近い領域に届かせると同時に、暴走しそうな闘争心を抑制する手綱となった。

 

 土俵の上では、戦いに生きながらも、かつて振り回された強大な力を御する事に成功し。

 土俵の外では、恩人や新しい仲間達との絆を育む。

 土俵の内と外で、闘争と平穏が隣り合いながら共存している。

 これが今の俺だ。

 迷宮で磨いた強さと、平穏によって培われた安定をあわせ持った今の俺は、強い。

 

『ちょ!? や、やめなさいよ! 背中押さないで!?』

 

 ふと前を見ると、白が赤ん坊のソフィアの背中をぐいぐいと押して、俺の方に押し出していた。

 次はお前の番だと言わんばかりに。

 多分、自分だけ俺にボコボコにされるのが不公平だとでも思って、ソフィアを巻き込もうとしてるんだろう。

 最近体でぶつかり合う事で知ったが、白は意外と子供っぽい性格をしている。

 前世では気づかなかった一面だ。

 こういうのを知るのは、ちょっと楽しい。

 

『俺は構わないぞ。この世界での戦いを経験してきた先輩として、胸を貸してやろう』

『私が嫌なのよ! って、糸巻きつけないで!? 操り人形にしないで!? イーーーヤーーー!?』

 

 最終的に、白がソフィアを糸で操って俺に突撃させてきた。

 泣きじゃくりながら、赤ん坊の体には大きすぎる剣を振りかぶって突撃してくるソフィア。

 前の俺なら、闘争心に飲まれたまま、見向きもしない雑魚としてプチッと踏み潰していただろうが、今はちゃんと手加減できる冷静さを取り戻したから問題ない。

 では、はっけよい!

 

『あばばばばば!? 死ぬぅ!? 死んじゃうぅううう!?』

「アハハ……程々にねー」

 

 そんな俺達を見て、料理を作ってくれながら苦笑するアリエルさん。

 その傍で思い思いに遊ぶパペットタラテクト四姉妹。

 俺の張り手を食らって吹き飛んだソフィアに、「お嬢様ーーー!?」と叫びながら駆け寄るメラゾフィスさん。

 うむ。

 平和だ。

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