本日のメニューの栄養価には自信がある――珍しく、レシピサイトを参考にしてみたので。
普段なら絶対にしないけれども、帰りが遅くなった妹に栄養をつけさせようと姉の親心みたいな。
妹の想定よりも豪華な食事だったんだと思う――嬉しそうに微笑んでみせたけれども、少し引きつったような笑みにも見えた。
時間的に食事をしてきたのかと不安になったけれども、料理を作る前に夕食は食べて来るか来ないかを聞いて、食べてこないとが来たから、私は妹を信じる。
たとえ思い違いでも、妹を信じない姉に価値などない――同意をするのはシスコン連中ばかり。
妹にばかり食べさせるのも悪い。
自らも食したけれど、なるほど確かに料理サイトにて高評価であるから、自分なんぞが作っても美味しい。
アレンジは加えてるけども、絢瀬姉妹にかなう味に調整しただけで、大まかなものはレシピのまま。
調整が難しいと料理が苦手なメンバーは言うけれども「自分の食べたい味にすればいいでしょう?」と、反論すれば、宇宙人を見るような目をする。
腑に落ちないながらも、食べたいものを作れば自分にとって美味しいものができるんじゃないの? と呟けば、さらにみんなが私を宇宙人扱い――なぜだか疑問。
食事をする妹が嬉しそうにしているし、和やかな表情も浮かべている。
時折思い出すように曇った表情をするのは気のせいだと信じたい。
このような癒しの時間は、定職にはついていないけれども、家事手伝い(笑)絢瀬絵里のモチベーションに関わる。
高校時代にμ'sのメンバーとして輝かしい活躍をした――今になって思えば、すごいメンバーについて行き、たまたま一員だったからこそ、もてはやされたと。
事実、高校を卒業した同じグループのメンバーは輝かしい活躍をしている――ついで扱いになるけど、μ'sに憧れてスクールアイドルをやり始めたAqoursもまた、高校卒業後に輝かしい活躍をしている。
つまり輝かしい活躍をしていないのは私一人で、大学を卒業していきなり能力が低くなるわけがなく――元から能力が低かったと考えるのが適切なんじゃないかと。
でも、能力が低いのは利点もある―μ'sのメンバーや、Aqoursのみんなから「ちょっと働いてくれません?」的に頼まれ事をすれば「お給料を弾んでくれれば行く」とホイホイと働きに出る。
「その道のプロには及ばないけど、アゴで使うなら適切」と抜群の評価を頂き、使いやすい人材として評判。
何をやらせてもそれなりにできる能力は随分と役に立たせてもらった。
後輩にまで顎で使われてしまわれるのは不本意だけれども、誰かの役に立つならば僥倖。
仕事を恵んでもらえていない時には、妹の世話をしたり、知人らに頼まれて「主婦」のマネごとをする。
お手伝いさんなどいくらでも呼べるのに、有名タレントの凛ときたら「お手伝いさんを雇うとお金を支払わなくちゃいけないじゃない、だったら、それなりの仕事でもいいから絵里ちゃんに頼んだ方がいいと思って」と。
同じような発言はことりにもされている「デザインをしている関係上、アイデアを盗まれたり、動かしてはいけないものを動かされたりすると困るから、絵里ちゃんなら自分のことを全部わかってるし、アイデアを盗んだところで活用できないから」と、抜群の評価。
この二人は有名人だし、数えるのが馬鹿らしいほどお金を稼いでいるから、お小遣いとしてお金をいただける。
そうなればやっぱり「都合のいい駒扱いされてるのではないか」との考えは見事に吹っ飛ぶ。
姉が都合のいい駒扱いをされていようとも、妹の学費や食費に賄われるのであれば、私の扱いはコマで十分。
「お姉ちゃんに言わないといけないことがあって」
亜里沙は穂むらの店員――破格の扱いを受けているとの噂もある。
妹が職場にいる日は売上が跳ね上がるそうなので、さすがは我が妹、立っているだけで客引きになると、姉としても鼻高々。
可愛らしさは姉と比ぶるべくもなく、癒し系としての素質は誰しもが認めるところ。
いつも癒されているが故に闘争心が失われ絢瀬絵里は定職に就けなくなった――との、悪評もあるけれど。
それは妹が悪いんじゃなくて、働く気のない姉が悪いので――もしも妹が悪いと結論つけようものならば、姉の拳が頬に叩き込まれるのでよろしく。
「お付き合いしている人がいるの」
飲んでいたお茶が変なところに行った――思わず咳き込み、悶絶するほど苦しい。
もちろん歓迎してないわけじゃない――むしろ歓迎している。
姉に縁がないのは仕方ないとしても、妹は天使のように可愛いから、引く手数多である。
姉がロクに付き合った経験がないから遠慮している――との評判が聞かれた際には、お付き合いしている人がいたらちゃんと報告しなさいと、言ったものだ。
シスコン仲間のダイヤちゃんには「妹にそのようなことを言うなんて、絵里さんは姉として立派ですわ」と、彼女もまたルビィちゃんに「お付き合いをされ……」と、同じことを言おうとした。
何度も何度も告げようとしたけれども、そこから先の言葉が出てこず、無理に口にしようとしたものだから、食べたものを戻しそうになってしまい――
戻しそうになったものが気管に詰まり、危うく死にかけた――今となっては笑い話だけれども、自分がよもや同じような体験をしようとは――これぞまさに因果応報。
「結婚を前提にお付き合いしてるの」
姉は咳き込むの落ち着かせようと水を飲み――見計らったわけではないだろうけど、妹は抜群のタイミングで爆弾発言をした。
もちろんそのような相手がいれば、付き合うが長くなるに従って、結婚も選択に上がってくる。
自分にそれような経験がないものだから想像でしかないし、仲間内で誰かと付き合った経験があるという人間がいないものだから、誰かの経験則ですらないけれども。
妹が考えるのであれば、姉はもちろん歓迎しなければいけない。
姉妹がこうして同居しているのは私のわがままでもある。
両親との関係は良好、年老いたら自分も面倒を見なければいけない、妹には出来るだけ負担をかけないようにしたい。
世話になるつもりはないと両親は言っているけれども、お世話しないつもりなど娘にはない。
なので妹にはしたいようにしてほしい。
もちろん自分といたいなら、歓迎するけれども。
「あなたが選んだ人だもの、もちろん歓迎するわ」
「ありがとうお姉ちゃん――それでね、生活費とか、いつか式を挙げるための資金とか、節約していかなければいけないの」
「未来のことをきちんと考えている人なのね――ますます歓迎したくなってしまうわ」
「あのね――彼の家に同居っていう話になってるんだけど」
自分の顔色がどんどん悪くなって行ってやしないかと――お付き合いしている人がいますと告げられるのは予測してたのよ。
でも、同居するつもりなの、結婚を前提にお付き合いしてるの――過程をすっ飛ばされるとは思わなかった。
妹が突拍子もない行動をするのは――自分にもそういうところがあるから、突き詰めると自分の首を絞めるだけ。
とはいえ、同居するのは、お付き合いした結果みたいな、愛の結晶みたいな――ことも結果としてあるわけで。
「二人で暮らしていくつもりなの」
「そういうことになるね」
「……生活はしていける? あなたにも仕事がある、恋人さんにも仕事があるかもしれない、今のようには行かないけれど」
「覚悟の上だよ」
「……あなたが決めたのなら、もちろん歓迎するわ――でも、ひとつだけわがままを言わせてくれないかしら」
妹が誰かと付き合うならば――と、前々から考えていたことでもある。
それは――彼女の生活を優先させて欲しいと。
同居するのは想定内――発表されたのが唐突だったっていうだけで、そう言われたらこう言おうとは前々から考えていた。
彼の仕事先が彼の住んでいるところから近いと言うのであれば、もちろん妹にも考えてもらうけれど、もしもそうでないのならば、彼のほうがこの家に来て欲しいと。
「お姉ちゃんはどうするつもりなの?」
「旅に出ることにするわ」
逃避行に出ようというわけじゃない、義理の姉になる人間の住んでいるところなどゴメンだと言われたら土下座する他ない――
旅とは言っているけれども、知り合いに「軒先でもいいから貸して」と土下座行脚する他なく、働けと言われれば「はいよろこんで~」と言うしかない、お願いする以上、私の人権は風の前の塵。
が、自分たちが同居することで姉の人権が塵になると言えば、妹だって「塵にするわけには行かない」と言うだろうし、言われないのであれば姉が悪い。
食事を進行しつつも、多くの友人たちの顔を想像しながら、亜里沙が信用していて軒先を貸してくれそうな聖人に「どうやって頼み込もう」と考える絢瀬絵里でした――。