志満ねえが「お土産の試作品を作ったから~」と、お客様を見送っている私に包装された――軽いものを手渡すので「え?」首をかしげて、その様子を見た内浦でも有名な元トップ(何のトップかは言わない)は「もう察しが悪いわね~」と、軽い調子で言い放ち。
現役時代さながらの「凶悪な眼光とオーラで」
「虹ヶ咲学園に行って、毒味役に毒味をさせて来い」
メンチを切るであるように、志満ねえったら妹を軽く震え上がらせて、現役時代ってのは、いったい何のことであるのか――賢明な、高海千歌は一言たりとも漏らそうと思わないんです。
――ダイヤちゃんはAqoursのメンバーとしてでも有名なんですが、ネット上でも、私の周囲でも絵里さんを推していることで有名です。
全宇宙でもナンバーワンのスピードを誇ると自称し「バータかよ」と、ツッコミを入れられることもしばしば……スクールアイドル時代は、どちらかと言うと運動ができる方ではなかったけど……。
彼女に金髪のカツラをつけさせて「絵里さんみたいに試食して」といえば「どんとこいですわ」と、ある程度は絵里さん的な反応して、志満ねえも1日か2日はごまかせる――ケド、田舎の情報網を侮っちゃいけない。
高海千歌が静岡を出ていないとなれば、誰かの口から特攻……や、学生時代にヤンチャしてた姉に噂が届き、木刀を片手に持った志満ねえが、お坊さんが木魚を叩くみたいに私をボコボコにして、Aqoursのリーダーは人生が終わってしまうかもしれない。
亜里沙さんやルビィちゃんあたりの妹ズに聞かれれば「姉に叩かれて一生が終わってもいいのでは?」と、すっとぼけたこと言うかもしれないけど、私はできればどんな相手であろうと殴られたくはない。
できれば私も人を殴るようなことしたくないし、人から殴られるようなミスもしたくはない――残念だけど、そう考えていたところで失敗しない生き物なんていないんだよなあ。
歩いてたら果南ちゃんと顔が合い「虹ヶ咲学園まで泳いでいけない?」と軽い調子でいったら「カメかっ!」とチョップを頂いた――私は、志満ねえから連絡が入ったのだとその一発で察し、抵抗を諦めて学園まで向かうことにした――カメっていうのは出発が遅いってことね?
「めっちゃ遠いわ……タクシー借りるんだった……」
ちなみにタクシーっていうのは、瞬間移動できる便利な神様のことで、一般的な道路を走行する存在とは別物――もちろん、内浦から遠路はるばる虹ヶ咲まで行くことだって可能だけど、無駄金など使おうものなら、美渡ねえにも「採算が合わねえなあ」と嫌味を言われる。
絵里さんに「上の二人が妹使いが荒いんです」と相談したらきっと「分かったわ、なんとかしましょうね!」と意気揚々と十千万まで乗り込んでくるけど。
姉二人よりも腕力が強くて、かつ気に入らないことがあるとすぐに殴りかかってくる面々が「絵里に何をやらせてるんだ」と、武器を片手に高海千歌に襲いかかってくるのが容易に想像できるので。
そんなことをされれば私だって人生が終わる――あんまり絵里さんの調子も良くなさそうだし。
「確か……Liella!のリーダーの子だよね?」
心ここにあらず、みたいな感じで踊っている姿が気になり、こんな感じかな、と監督みたいに立っていたら、どうやらその姿が気になったみたいで、彼女のほうから近づいてきてくれた。
誰かしらが同行するかなって思ったけど、こちらに会釈して練習に戻って行くので「なるほどなー」と意図を察しつつ、日陰まで移動することにした――いかんせん、真夏の太陽はギラギラと暑く、水の名前を冠するグループのリーダーとは相性が悪い。
「それ……もしかして、絵里さんへのお土産ですか?」
どうにも、以前も穂乃果さんが試作品を持ってきたらしく、志満ねえもそのエピソードを耳にして、私に使いっぱしりを頼んだみたいだ――デビルイヤーじゃあるまいし。
ヤンチャをしていた時代のメイクはデビルマンみたいだったけど……あ、でも、一発で昏倒させてくれるから天使でしたって舎弟……ええと、部下の人もいるから。
「私がどうしてAqoursのリーダーかって?」
「はい、リーダーってどういう人なのか聞いてみたくて」
心ここにあらずだったのは、穂乃果さんから色々と聞いたからだったみたいで……私としても、こちらに先に聞いて欲しかったな……と。
穂乃果さんは自分のリーダーとしての資質を自覚してるからいいけど、私はそれがない。
ダイヤちゃんあたりに聞いたほうが「千歌というのは~」と語ってくれると思う。
「ごめんね、本当に分からない」
「分からないんですか?」
「教えてあげないとかそういうんじゃなくてね? 本当に私は……リーダーとして、とかよくわからないんだ」
ラブライブで優勝したときにAqoursのリーダーとしてとか、色々聞かれたけど……何か答えた記憶はあるけど、私自身は覚えてない――正直な話、Aqoursがラブライブで優勝したことすら記憶が危うくて、その後のバタバタのおかげで、エピソードとかを聞かれるのも嫌だったくらいだけど。
落ち着いてから、ラブライブで優勝した瞬間の自分を切り取った写真が一枚もないことに気がつき。
「ああ、亜里沙さんが見せてくれたやつ!?」と、考えが至る頃には「過去の諸々を聞かれることすら嫌だった時」の記憶が浮かび「あの時の写真を~」とは言えないと感づいた。
態度にはおくびにも出してなかったつもりなのに、梨子ちゃんが四方八方から手を回して写真を入手しようとした、とか、曜ちゃんが「何とかしてアニメで場面を再現できないか」と掛け合ってくれたり、とか。
随分と迷惑をかけてしまった――んだけど、そんな二人のことを知りながら、だんまりを貫いていた三年生にはちょっと含むところあるよ? ドッキリには協力したけど……あ、でも、ダイヤちゃんはスポンサーとしてアニメに口出ししてくれたから許す。
「だからだと思う」
「え?」
「μ'sは3年生の卒業で活動を終わらせたけど……Aqoursは、花丸ちゃんたちが卒業するまでAqoursだったよ」
史上初の同グループ三連覇がかかった最後の年度に、よもやの理亞ちゃん覚醒で阻まれ、ネットが良い方向にも悪い方向にも盛り上がったっていうのは、聖良ちゃんから聞いて知っている。
「私が卒業しても……AqoursはAqoursだったから……何て言うか、自分がリーダーって言われると……首を傾げる部分はあるんだ」
「……」
「でもね、Aqoursのリーダーは私だと思うよ?」
リーダーっていうのが、どういう存在か私は分からないし、グループの終了まで残っていたわけじゃない。
人がどう思うかは知らないけど……自分自身が首を傾げる部分もあるけど……Aqoursのリーダーは自分しかいないと思うし、他のメンバーも認めてくれると思う。
「Aqoursのリーダーとしてとか、人の上に立つ人間としてとか、そういうのはわかんないし……でもね、私も、周りも、私のことをリーダーとして認めてくれてる……そこは譲れないんだよ、もしもね、自分にリーダーとしての資質とかがあるとしたら、周りも何より自分も……譲れない思いがあるってことかな?」
わかんないけど周りが認めてくれてるからオッケー、それにつられて自分も認めてる……くらいの感じだけど。
何よりも大切な仲間が認めてくれてるんだから、そこはリーダーとして譲れないのかなって思う。
あやふやだし、漠然としてるし、作詞をしているのに言葉にできてない――あんまりいいお手本じゃないけど、かのんちゃんは「譲れない思い」「周囲も自分も認める……」と難しい表情で考え出した。
そのままだと熱中症になってしまうので「考えてるぐらいなら体を動かす!」と背中を押した。
その姿を見送っていると、がさがさ! と、物陰から何かが飛び出してきて、なんだなんだ! と視線を向けると、聖良ちゃんが「私はクールで沈着冷静なんです」みたいな、ドヤ顔をして直立していた。
その姿は惚れ惚れするくらいかっこいいんだけど、盗み聞きをするんだったら草陰に忍ばなくてもいいと思うんだけど……。
「高校時代にラブライブでAqoursと対戦していたら、SaintSnowは負けていたでしょうね」
「……そんなこと微塵も思ってないくせに」
「はは、勝っていたとしても、私の功績ではない……や、もしも勝っていたとしたら、それを認めることはなかったでしょうけど」
わかるような気がする――聖良ちゃんがもしもツバサさんみたいな、常勝人生を歩んでいた(疑問符はつく)ら、負けを経験した瞬間に急下降するかもしれないし。
「負けてよかった?」
「そんなわけはありません、学校の期待を背負っていたんですよ? みんなのためにも勝たなければしょうがありません」
「はは、そうだね」
「……スクールアイドルとしては負けたくありませんでしたが、個人的な事情で言えば、負けて良かったですよ」
SaintSnowにそんなイメージがないのか、それとも……
「本当に良かったですよ、スクールアイドルが活躍したとしても……それは、自分の功績じゃないと気が付くことができて……もしも気が付いてなかったら、調子に乗って、芸能界でアイドルでもしていたかもしれないですね?」
「A-RISEの皆さんに潰されてました」
「ええ、個人の事情で動く人間は……なんだかよく分からない真理みたいなものに潰されちゃうんですよ、仲間でライバルか……いずれ、この学園の生徒にも教えてあげなくてはいけません」
ちなみに聖良ちゃん――梨子ちゃんに先を越されてしまいました。