アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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優木せつ菜は大好きを叫ぶ

 澁谷かのんが桜内梨子さんから呼び出しを食らった時「あ、自分の命日は今日なんだな」と、メッセージアプリに寄せられた文章を見て天を仰ぎました。

 隣にいたちぃちゃんも先日の顛末は把握しているので、怒り心頭を発した誰かしらから、幼なじみがフルボッコになっちゃう――とは、把握していたみたい。

 

「たこ焼きを持って行こう」

 

 どうやら一緒に地獄に落ちてはくれないようです――当たり前です、ちぃちゃんが地獄に落ちるくらいなら、自分一人で落ちます。

 幼なじみの提案は「満腹になったら怒る気も失せるんじゃないかな?」の意味合いが込められていて、確かに「お腹いっぱいの時に暴れようとは思わない」と同意する。

 

 人間は元々集団で狩りをする動物――なんでも空腹であるのがデフォルトで、満腹状態には慣れていないとかなんとか。

 つまりお腹がいっぱいの状態で動くっていうのは、人間の生体構造的に「今までになかった」状態らしく、脳が活動を制限するとかなんとかかんとか……簡単に言えば、お腹いっぱいで怒る人はそうそういない。

 

 クゥクゥちゃんには「お姉ちゃんの誕生日の準備で忙しいですが、食べ物ならこれをどうぞ」と「手土産の上海蟹」を渡され、すみれちゃんには「これをどうぞ、甘いものを食べたら怒る気も失せますから」とランジュちゃんとお出かけをした時に買ったお菓子をいただき、恋ちゃんは「必要なのは素直な気持ちです」と、お手紙をくれました――ちゃんと名義がLiella!になっていて「ご迷惑をかけてごめんなさい」的な内容がしたためられていました。

 

 

 そう、元々私は菜々さんの誕生日を祝うために「少しだけ時間を稼いでくれないかな?」と頼まれ「時間を潰すために」お話をし――感情が高ぶってえらいことになってしまった。

 夕食の後で執り行われるパーティーだったので、食べ物の数こそ少なかったのがせめてもの救いながら、時間を取ってくれた皆様には「また今度盛大なものを」と、フォローしてくれたけれども。

 

 メンバーの中に「怒ってるわ、笑顔なのが逆に怖いわ」な桜内梨子さんがいて「東京に住んでいる彼女一人ならまだ……」と、思っていた。

 そう――Aqoursの方々も時間を取って「優木せつ菜お誕生日記念」に集まってくれた……うん、元々優木せつ菜のお誕生日記念だったんだ。

 

  でも私はそれがおかしいと思った、そう考えて……本音だし、正しいんじゃないかって思うけど……だって、優木せつ菜=中川菜々の正体が明かせないから、わざわざ時間を遅くして誕生日パーティーの準備を始め、夕食の後にこそこそと時間を稼いだ。

 

 最初から、普段は生徒会長をやっているけど、スクールアイドルをする時には変貌するキャラで良かったんじゃないか――どういう事情で優木せつ菜になったかはまだわからないけど。

 

 

「ようこそ、虹ヶ咲学園の音楽室へ……あなた”も”調律してあげましょうか?」

 

 あ、死ぬ、と直感的に思いました――自分よりも梨子さんは背が高いですが、威圧感とオーラがボブ・サップの十倍はあります、シェンロンくらい大きく見えます……願い事を言え、と言ってくれるならいいですけど、潔く死ねの確率の方が高い。

 

 ピアノの前に座っているだけなのに、これからグランドピアノを持ち上げて武器にする、それほどに強そうに見える。

 人間がグランドピアノを持ち上げて振り回したら「あれはキングコングだ」と、少々人間をやめているスクールアイドルの先輩だって言うだろうし。

 

「お、また腕を上げている、冷めても美味しい粉ものなんて、なかなか作り上げることは出来ないのに」

 

 ひとまずこちらをどうぞ、とLiella!のメンバーから「せめてリーダーを殺さないでください」の賄賂を差し出すと、彼女は苦笑いしながら「お腹をいっぱいにさせても私は怒るわよ?」と、意図を一発で把握して……それでも、「くれるって言うんだったら貰う」と、むしゃむしゃと――もしかして次に私が食べられるんじゃないかなって、迫力で食べ尽くしていく。

 

「へえ、なかなか上手な字を書くのね……それにいい内容だ、恋ちゃんは作詞のセンスもありそう」

「……」

「でも、自分が悪いだなんて思ってないんでしょ?」

 

 気持ちを見透かされるように、じっと眺められて……逃げ出したいけど、私は両足に力を入れて、両手にも力を入れて……全力で握って、怖気つきそうになる自分に気合を入れながら。

 

「正しいか悪いかわかんないですけど」

「正しいか悪いかわからない? そんなあやふやな感情で気に障ることを言うの?」

 

 苛立ちを隠すような表情をしつつ、右の人差し指を唇ではむような仕草をして、ただ怒っているというよりも興味を向けている感じがする。

 言葉的には一歩間違えたらぶん殴られるくらいの勢いなのに、面白がっているようにも見える……こういう表情、A-RISEのツバサさんとか、Aqoursの千歌さんがよくしてる。

 

 ……なお、千歌さんに後日言ってみたら「余裕の差が段違いだけど、模倣してるのに気づかれたのは久しぶり」と苦笑いしながら言われた。

 おそらく同じグループのメンバーやμ'sを中心とする先輩たちには、指摘されたことがあるんだろうな。

 同年代では自分だけ、には少し誇らしくなってもいいかもしれない。

 

「迷うこともあって、不安になることもあって、怖いこともいくらでもあります……今の梨子さんを見てると、自分の住居の近くに巨大怪獣でもいるくらい怖いです」

「素晴らしい褒め言葉だ、恋ちゃんが作詞の才能があるって言葉は撤回する、Liella!の曲はあなたが作るべきね」

 

 誰が巨大怪獣だとグランドピアノを振り回されて、澁谷かのんはケチャップになることも覚悟したけど……彼女は笑いながら「今後とも作詞活動を頑張りなさい」と褒めてくれる。

 

 少々話がずれてしまったけど――。

 

「私はリーダーとして責任を持ちます……穂乃果さんみたいにはなれない、千歌さんみたいにもなれない……どのスクールアイドルのリーダーみたいにはなれない……だって私は澁谷かのんだから……澁谷かのんが理想とするLiella!のリーダーにしかなれやしないんだから」

 

「でも、口から出した言葉には責任を持って、自分が叶えたい夢にも責任を持ちます、叶えられないかもしれない、諦めちゃうかもしれない……なくなってしまうかもしれない。それでも……止まらない」

 

「私みたいな人から諦めた方がいいって言われちゃっても、変だって言われても……どんな言葉を言われたって、止まらない、進み続ける、叶う叶わないが問題なんじゃない、夢のあるなしが問題なんじゃない……優木せつ菜ってのは気に入らないんです」

「悔しいけど同意よ」

 

 どこにいたの絵里ちゃんと梨子さんが言い「え? 天井に張り付いていたの見えなかった?」と言ったら「ゴキブリかよ」と。

 けど、ちょっとした小休止を挟んで、絵里さんにも梨子さんにも続きを促されたから。

 

「優木せつ菜はポジティブで、理想的な事を言ってて、誰しもが胸に抱くようないいことを言ってる……なのに、彼女はそれを信じてないんです。誰かに叶えて欲しい願い事を口にしているだけなんです……言葉にしているだけで、叶える気がないんです」

 

 胸の中がモヤモヤして、吐き出したくなってしょうがなくなった――言葉にならないかもしれないけど、何を言っているのかと怒られるかもしれないけど。

 

 

「夢は自分で叶えるものだ!!! よっしゃあ!!!!!!!!」

 

 バーベル上げの選手みたいに両手を上げて、全身全霊で叫ぶと少々すっきりした。

 心地よくなったので「よし、これからぶん殴られるぞ!」と振り返ったら、何とも言えない表情をした優木せつ菜さんがそこにいて。

 先ほどまでいたはずの梨子さんと絵里さんは煙のごとく消え去っていました――スクールアイドルってのは忍者なの?

 

「後日、優木せつ菜のお誕生日会が開かれます、来ていただけますか? ……いえ、是非にも来ていただきたいんです」

「あれと同じ規模を準備するの大変だと思うんですけど」

「お披露目ライブのリハーサルですよ、まあ、本番をお楽しみに」

 

 本番が何を差すのか見当もつかないけど、自分の見た限り、彼女のライブで叫んだ言葉は本心であるように思われた。

 

「大好きな世界へ! 私は飛びます!!! みなさんもついて来てください!!!!」

 

 

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