アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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天王寺璃奈番外編 5

 璃奈ちゃんのファーストソロライブのため、たくさんの提案がなされた――取りまとめるのは、生徒会長を務める中川菜々でお送りしようとしたときでした。

 

 ちょっと顔を貸して、と梨子さんに呼びとめられ中川……現在音楽室にいます。

 

 ……や、生徒会の仕事を菜々モードで取り組もうとしたら「その仕事だったら私たちに任せてください」と恋さんや雪穂さん(オトノキ元生徒会長) と言われたら、優先するべきは璃奈さん一択になります。

 

 ツバサさんから「あなたはやるべきことをやりなさい」と絵里さん入院後に言われ「確かに、生徒会の引き継ぎ作業もあるし、栞子さんにバトンタッチをするのだからこちらを優先」 との考えがあったのは間違いありません。

 

 ですが、決して蔑ろにしていたわけではなく、 すでにどの提案が「どれくらいの予算」「どれくらいの規模」「そして何よりどんな反応を受けるか」の想定を情報処理学科を通じてまとめてあります。

 

 梨子さんから「仲間と生徒会はどっちが大事なんだァ?」と胸ぐらを掴み上げられた時、とっさに「こういうことをしておりまして」とパブロフの犬のように反応しました。

 

 

「……やっぱりあなたは、言葉が足りないよ」

 

 すごく残念そうな表情をされてしまい、かなり戸惑いました――今までなら「違うって言ってんだろ!」と膝蹴りが飛んでくるとか「大事にすべきものは、失いたくないものだろう!」とフライパンで殴りかかってくるのか――驚きました「そうじゃないんだよ」とばかりに、悲しい表情をされるだけで、あ、私は間違えたのだ、と今まで以上に痛感するのです。

 

 ……そして何より、今までの態度が「大切なものに気がつくためのただの前フリでしかなかった」と驚いているのです。

 

「ラプンツェルは知ってる?」

「え、ええ」

「星の王子さまは?」

 

 もう一度頷きます――夏休みの課題か何かで、もしかしたらなんとか読んだことがあるかもしれない、内容はさほどを把握してない。

  前者は確か……グリム童話、短編だったと思う。

 

 後者は…… サンテグジュペリの作品だったかな?

 

「いい、大切なものは目に見えない。結果や、残してきたもの……そんなものより、過程や努力が重要なの」

 

 彼女はピアノの前に座り、静かに演奏を始める――彼女のピアノっていうのは……なんだろう、寂しさが胸に残る感じがする。

 追い求めているものがいつまで経っても手に入らない悔しさ……そんな気持ちも入っている気がする。

 

「見えるものばかりを大切にしていると、見えないものを失ってしまうよ」

「え?」

 

 正直、何を言っているのかわかりません――生徒会長として、はたまたスクールアイドルとして結果は残してきたと思います。

 感謝の気持ちを抱くことによって、家族の理解も得ることができました――私にとって、感謝の気持ち、お礼の気持ち、ファンのために頑張る気持ち、全てが大切です――見えないものをないがしろにしているわけでは。ないのではないでしょうか。

 

「かのんちゃんが泣いた事情を聞いたよ」

「……あれは」

「わからないでしょ、絶対にあなたにはわからないよ」

 

 断言されました――わからないのは本当です、中川菜々を大事にしなくてはだめ、言葉の意味は分かります。

 でも私にとって、優木せつ菜っていうのは理想であり、憧れの姿――スクールアイドルとして手本となるようなスーパーアイドル。

 

 そんな、誰もが憧れるような存在に、大好きを全世界に広げられるような強い力を持つアイドルに。

 

「そう……あなたは、唯一無二になろうとしている、大好きを広げる、みんなが笑っていられる世界……絵里ちゃんも素敵ねって言うでしょうし、ツバサさんも頑張りなさいって……まあ、素直には言わないけど」

「そうですか」

 

 ちょっと嬉しく感じました、みんなから大好きテロとか、大好きな押し付けとか、散々な言われようをしているので、私の考え自体を否定されているのかと思いましたが。

 

「ねえ、優木せつ菜だけが出来る事って何かある?」

「それ、難しいですね? ステージでは他にも優れた人はたくさんいますし、先輩方にも凄いパフォーマンスをする」

「そうね、絵里ちゃんもすごいわ、千歌ちゃんも、曜ちゃんも……聖良さんも、理亞ちゃんもね」

 

 スクールアイドルとして現在も評判になる方々は――それはもうすごいです、動きも、コンビネーションも、楽曲も……太刀打ちできないかな、追いつけないかもしれないな、そんな風に考えることもあります。

 

「もう一つ聞く」

「はい」

「大好きって何?」

 

 じっと、睨みつけられるように問いかけられ、正直たじろぎました――そんなこと私が聴きたい、と答えを持ってない訳じゃなく。

 常日頃から「みんなが大好きなことをはっきり言えるように」「キラキラしてて、楽しくて素敵な世界」と、説明していたし、梨子さんにも聞いていただけだと思ったんですが。

 

 ……と、言い訳してもしょうがないので、もう一度、熱意を持って「こういうことです」と語らせていただきました。

 

「素敵ね、何度も聞いているけど……私は……ううん、千歌ちゃんも、絵里ちゃんも……きっと、スクールアイドルなら、同意してくれると思う」

「し、しずくさんなどには、色々言われる機会が多いんですが」

 

 梨子さんが名前を挙げてくださった「千歌さん」にも「それって自分の大好きを押し付けるってこと?」と、言われたことがある。

 

 あれは、素直に反応するのが嫌だっただけで、心の中では賛同していたということ? しずくさんも「大好きテロを止めてください」と言っていたけど……?

 

「私ね、すみれちゃんの提案も、ランジュちゃんの提案も、果林ちゃんの提案も却下するつもりなの、正直な話、まともな案は何一つなかった」

 

 すみれさんの「璃奈さんの気持ちをはっきり示せるよう、背後にアニメーションを流しつつ、その前でパフォーマンスをする」案。

 果林さんの「璃奈さんのステージ及び、背後にアニメーション……そして同好会のメンバーが目立たないところでパフォーマンスをし、編集後ネットに流す」案。

 ランジュさんの「分かりにくいのなら、分かりやすくしてしまえばいい、一つ一つの感情をイラストにして、一つ一つ解説する」案。

 

 

 どれも素晴らしくて、すごく迷うとしか言いようがなかったのに――梨子さんはまともではない、と断言した。

 

「その上で問いかける、優木せつ菜……あなたの大好きは、どこにある? それは、目に見えるものなの? 大好きな気持ちは……目に見えるものだというの?」

 

 大好きな気持ちは……口にしてもらわないと分からない。

 

「あなたは……目に見える形のゴールを目指そうとしている」

「……」

「それは、あなた自身が大好きを侮辱している証拠よ……いいえ、あなたの価値観でしか、大好きであるかそうでないか認められていない証拠……世の中にはね、長く生きられない人もいる、ベッドの上から起き上がれない人、両手両足がない人も……感情表現が苦手な人も」

 

「目に見える形を【大好きな世界】と表現するのは、一生懸命生きている人たちの最大の侮辱よ、見えないかもしれない、聞こえないかもしれない、話せないかもしれない、気持ちが伝えられないかもしれない……それでも、気持ちを持つことはできる、意思を大事にできる」

 

「あなたの理想は素晴らしい、心の底からそう思うわ、大好きを大切にできる世界……誰もが、大好きな気持ちを抱ける世界、でもね、あなたが「こういう世界が大好きな世界」と目に見える形で提示するのは違うの」

 

「璃奈ちゃんにどうか伝えてほしい、私が言っては、意味がない……今のあなたなら託せる。大切なのは、璃奈ちゃんがどうしたいか……どのようなステージにしたいか、どのような方法でキモチを伝えるのか」

 

「見えないからといって否定してはだめ、天王寺璃奈がキモチを伝えられる方法を模索しないと駄目、いいわね?」

 

 それ以降、問いかけたい言葉はいっぱいあったのですが、梨子さんは目を閉じてピアノの演奏を続けるままでした。

 

 ――託されたんだ、勇気を出せ、優木せつ菜! 私ができること、目に見えるものだけでは……ないこと。

 

 璃奈さんが伝えたいものを――第一に!

 

 

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