せつ菜さんがやって来たのは、愛さんに「どれがいい?」と問いかけられている時だった。
取りまとめ役の大遅刻――忍者みたいな動きをしたしずくちゃんが「梨子さんに捕まってます」と、沈痛な面持ちで告げた時、同好会や競合する部のメンバーも「笑顔が素敵な子でした」と、祈りを捧げようとした。
と、小ボケはともかくとして「生徒会の仕事もあるし」と、まとめ役の遅刻は「取るに足らない」「忙しいのはいつものこと」なんて、梨子さんに触れずに会議は進み、私の中でも――どれを選んでいいのか。
愛さんの言葉通りに悩んでいました……悩んでいた最中に「みなさん!! おまたせしました!!!!」とドアの近くにいたミアちゃんがピクリと体を跳ね上げ「~~~~~」と、英語で何かを言ったけど、何を言ったか分かる「エマさん」「ランジュちゃん」のお二人は、キョロキョロと周囲を見回していた。
……うん、海未さんが近くにいないかどうか確認していたんだね? そんなひどいこと言ったんだね?
天王寺璃奈の初ソロライブについては「私たちは介入しない」と、ニコさんから言われて作詞から暗礁に乗り上げた。
誰かしらが「協力しないわけないじゃん~」と言うかと思いきや、本当に「協力しないわけじゃない」くらい。
いくらかアドバイスをくれるだけで、ステージ場所の確保から、アナウンス、プログラム……今まで顧問の先生(コーチは鹿角理亞さん)にも「他の部の面倒を見るのに忙しいから」と、忙しそうに言われ、本当に生徒会及び同好会や部――学生一丸になって、ソロライブイベントをやる……のだけは決まった。
「どれだけアタシたちが大人を頼っていたかよくわかった」と曇った表情で愛さんは言い、果林さんも「日頃から感謝が足りなかった」と、協力を得られなかった理由を推測したけど。
私としては……そういう感じじゃない気がして、梨子さんにせつ菜さんが捕まったのも「何か理由があるんじゃないか」と疑っていた。
だから。
「皆さんの提案は却下です!!!!」
と、壇上から「立てよ国民! ジークジオン!」って、叫ぶみたいに、両足を広げて、天高く腕を突き上げたせつ菜さんに……我々は押し黙った、正直なんて言葉を発したらいいのかわからなかった。
さすがに「どれかを選ぶ」は決定事項だろうと思っていた同好会や部のみんなは「梨子さんに捕まったせつ菜さん」を観て、何か指摘があるんだろうな、とは考えていた――果林さんとランジュちゃんも「どちらの案が選ばれるか勝負!」的に視線をぶつけていたし。
……なお、Liella!のみんなはこの場にはいない、恋ちゃんも「ここに来るのがクセになってました!?」と先導はしたは良いものの困り果て、雪穂さんに「生徒会長の何たるか」を教えてもらってるみたい。
そりゃ、大人でもない限り他校の業務までは手が回らないよね、せつ菜さんはおそらく気づいてない。
そして、気づいていたとしても、ここまでの全力疾走で全部抜け落ちてしまったに違いない。
「……尋ねたいんだけど」
「はい!!!!」
「理由を教えてちょうだい」
提案者で一番年上だったのが果林さんなので、彼女も「まあまあ、話くらいは聞こうや」的な内心に怒りを含めてるみたいな、苦笑いを携えて静かに問いかける。
「言うことはできません!!!!」
さっきから異様にテンションが高い――誰しもからネタだと言われている「調律」を受けた結果? 強化しすぎてしまった……?
ケド、尋ねられたのをかわされた果林さんではなく、意外と手が速い彼方さんと、対話の前に一発殴ってからなしずくちゃんがシャドーボクシングを始めている。
かすみちゃんもあからさまに唇を尖らせ、スクールアイドル部のみんなも「何言ってんだ」とばかりに表情を変えている。
……私はどうだろう? 愛さんは読み取ってくれるけど。
だから反応が遅れた――愛さんが。
せつ菜さんの発言に表情を曇らせた「気付いていたと言わんばかり」に。
「璃奈さんのやるソロライブの内容は、璃奈さんが決めなければ意味がありません!! どれが良いではありません! 何をやるかは璃奈さんが決めなければならないんです!!!」
しずくちゃんとかすみちゃんが真っ先に反応を示した――二人同時に、がくりと膝を落とし「なんてこと……」と呟いて表情を曇らせ、エマさんも彼方さんも手で顔を覆っている。
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の中で、スクールアイドル部を含めても、初ライブのコンセプト、及び、アナウンス、そして何より「何をやりたいか」を含めて、 最初から単独でやってのけたのは「優木せつ菜」ただひとりだった。
「……なんてことなの、スクールアイドルとして初めてやったライブを人任せにした部分があった」
目を閉じて首を振る果林さんは本当に悔しそうで、私も……言葉すら出なかった。
「さあ、璃奈さん!! ここには、たくさんのソロライブ経験者がいますよ!!! ……せっかくの初めてです、璃奈さんがこだわり抜きましょうよ!!!」
伸ばされる手、私はその手を受け取るしかなかった――こだわるしかなかった。
そしてここに、侑さんと歩夢さんがいなかったのは「音楽科の編入試験に集中するため」そして何より、歩夢さんには侑さんがしきりに「歩夢がやりたいようにやりなよ」と声をかけていた。
聞いていたはずなのに――でも私は、私はまだやり直せる。
こだわってみせる――私だけのライブ、天王寺璃奈がファンに届けられる最高のライブ。
「ぜんぶやる」
今まで「表情が読み取りづらいから怖い」と思って、一歩踏み出すことが出来なかった。
でも、絵里さんがLiella!のために一生懸命になって倒れ、普段はあれだけ「ポンコツ」とか「前世がゴリラだったんでしょ」とか「アゴで使える便利な先輩」とネタにしている人たちが我先と病院に直行し、ことりさん以外は会えなかったものだから、みんながみんなやつれた表情で帰ってきて。
凛さんが「後悔なんてしたくないのに」って、本気で嘆いてるのを見て「怖がってどうするんだ」って。
「案を全部取り入れる、ひとつだけなんて選べないから」
「大変ですよ? 素敵な案というのは、多くの苦労でできているんです――協力もありましたが、だいたい一人でやってた私は分かります」
「後悔したくない……あの時やっておけばよかった、あの時、こうしていればよかった、後悔をしたくない……絶対にしたくない」
しちゃうかもしれない、だって、後悔ってのは、 やった後にしかわからないから。
「みんなとツナガルためのライブは、みんなと作らなくちゃだめ……もっともっと頭を下げる、絵里さん以外の、皆さんにも、協力してもらう――最高のライブにする」
こうして天王寺璃奈のソロライブは今までにないくらい豪華なメンバーで曲を作られ、参加もさせられ――
後日に退院した絵里さんに「後悔が増えちゃったな」と、苦笑いして言われ。
「絵里さん、苦しい時も笑顔……璃奈ちゃんボード【にっこりん♪】」
「いいわね、私も絵里ちゃんボードでも作ろうかしら?」
スケッチブックを渡してから「あ、絵里さんの腕前って画伯」と思い出した私は自分の行動に後悔したけど、サラサラと描き上げられた絵里ちゃんボードは素敵な笑顔だった。
「ボードの書き手としてクレジットしておいて」
こんな素敵な絵を書いてもらって、内緒にしなきゃ――と思っていたんだけど、ツバサさんに「楽しそうね」と内心ウキウキだったのがバレ、 私の持っているスケッチブックには「ツバサちゃんボードにっこりん」等、たくさんのスクールアイドルの笑顔が描かれた。
ダイヤさんに描いてもらった時に「お金に困ったら引き取りますわ」と冗談で言われ――
「とりあえずキャリーバッグに1兆円ほど詰めれば譲っていただけますよね?」
……冗談なんですよね?