虹ヶ咲学園では、現在、いたるところに選挙ポスターが貼られている。
会長候補が二名いるだけではなく、副会長、書記、及び会計――候補者のバーゲンセール。
なぜこんなことになっているのか、きっかけは中川菜々会長の壇上での言葉がきっかけだった。
――なお、自分がその場にいるのは「生徒の監視の目」で金髪が働かないようにの考えもあろうし、もしかしたら海未の言葉通り「その車椅子の上から立ち上がったら、即刻取り押さえて、あなたをカーリングのストーン代わりにして遊びますから」の目的もあるかもしれない。
傷病者介助用に備え付けられている車椅子が、私が座ったがためにストーン代わりにされてはたまらない。
理事長にも重々「外聞が悪いので車椅子で遊ばないように」と、忠告された――海未ではなく、なぜか私が。
「虹ヶ咲学園の皆さんおはようございます。生徒会長の中川菜々です――もうすぐ生徒会選挙も近いですが」
と、あの子が放課後になるとスクールアイドルをやり、カラオケに行けばアニソンを歌い倒す――優木せつ菜が理想のアイドルの姿とか、素直になれる自分の姿とか、色々理由付けをしてるけど、目的の一つとして「日頃の鬱憤の解消」の目的もあろうな。
カッコ悪いとか、人から観てよく思われなさそうだな、とか、羞恥心から表には出さないけど、正直何が悪いのか分からない。
と、私の真ん中の考えを察したのか、鹿角聖良ちゃんは車輪の部分を軽く蹴飛ばす――扱いは丁重にお願いしたい、この車椅子は私よりも活躍の機会が多い。
ちなみに聖良ちゃんが甲斐甲斐しいメイドさんのように、絢瀬絵里を介護しているのかといえば「ミルクちゃんが学園でパフォーマンスしたい」そうで。
ツバサから「理事長の許可が下れば」と言われたのをいいことに、意気揚々と理事長に「ミルクちゃんのライブ」を提案したら「学生の健全な成長の阻害になるので」と「遠回しにドスケベだからやめてください」とそっけなく断られ、綱を引くように食い下がると「通報しますよ?」
虹ヶ咲学園は国家権力とズブズブじゃないけど、自分の姿が思春期の学生に猥褻な感情を呼び起こすのは知っているので、通報されたらどうなるかミル……聖良ちゃんは気がついたらしい。
アホな提案をした罰の名目で私の介護をやらされてる――ちなみに、車椅子に座る必要があるほどやつれてはいない。
本調子ではないのは確かだけど。
「これから学園を……日本一……いや、世界一の学園にするために!!! 生徒会の人員をさらに募集……皆様の協力を私は望んでいます!!」
多少、優木せつ菜が漏れてしまったけど、学生の歓声で「んなアホな」の聖良ちゃんの独り言は生徒に届かなかった。
アホ、が、誰に向けられた言葉であるのかは一考の余地があるけど、中川菜々会長は「生徒会を増強し」「新しく誕生する三船栞子生徒会長」のために活動しようというのだ。
……日本一になるかもしれないし、はたまた世界一になるかもしれないけど、発言している当人が「口にした事実を全く信じていない」ので、ああいう絵空事を言えるんだろうな。
「でも、ああいうおためごかしの発言を信じてしまえるのが、若さなんじゃないの?」
「あえて訂正するつもりはありませんが、あの生徒会長候補は、どうやって選挙に落ちるつもりなんでしょうね?」
「人気も実力もある生徒会長が、信用を失墜させ、生徒達から総スカンされる討論でもやってのけてくれるんでしょう?」
「生徒会長なんて、人のやりたくないことをボランティアでやる筆頭ではありませんか、生徒会、生徒の自治の名のもとに、日夜無給で仕事に取り組む……それを一年やってこなし、未だにこうして歓声で迎えられる。
正直、壇上での一回の討論で評価が覆されるなど、ご都合主義の小説でもない限り、ありえないのではないかと」
「事実は小説より奇なり、蓋を開けてみれば、そんな……ありえない結果が生まれるかもしれないわ」
ちなみに書記の二人は「中川会長が来期も」とまだ諦めていないし、副会長さんは「生徒会業務にも髪を引かれますが、私は優木せつ菜ちゃんファンクラブの団長として邁進していかなければいけません」と選挙に出ない。
それでも「日本一」とか「世界一」の学園にするため「我こそは」と名乗る生徒の多さ……すごいな、優木せつ菜ってのは、まるで高坂穂乃果みたいじゃないか。
自覚がないってのを含めて、私はそう思う。