「さて、と……魔王と打ち合わせも完了」
薫子さんに対しての絵里の信用度と私に対する疑いから、みんなの記憶の齟齬に対するフォローを彼女は受け入れてくれたけど。
私はゲーミングチェアに背中を預け天井を仰いだ……疑いって言葉は語弊があるか、何か事情を抱えているのを見通してあえて泳がせてくれている。
が、絵里に対する記憶の執着は根強いのか、各人、一度は「そうだよね」と言ってくれても、不意に「あの時こうだったなぁ?」と、思い出してしまう。
「本当に罪深いわね……私はわかっていたのに、どうして放っておいてしまったのかしら?」
……正確には、私”も”だ。
特にニコちゃんのダメージは深刻で、絵里の車椅子に釘付けは彼女の指示。
「絶対にそんなことないって思ってたのよ!」ってニコちゃんの悲鳴じみた言葉を否定なんかできなかった。
A-RISEのメンバーは意外にも……特にツバサさんは拍子抜けするくらい元気だ、表面的に装っているのかなとも考えたけど、びっくりするくらい通常運転だ。
海未もそれにならって……まあ、多少、絵里がきちんとノってくれているから許されてる部分もあるけど。
「今日は……ことりのフォローか」
いかんせん、ことりが忙しいものだから記憶に対する扱いも仕事を優先させてしまった。
そんなことがわからなくなるくらい集中していたのだから、おそらく問題はない。
それに……
「天才のくせに締め切り破りの常連じゃなかったない部分での信用、失ってしまったものね」
デザイナーとして極めて高い評価を誇る彼女の立ち位置を不動のものにしているのが、きちんと締め切りは守る点。
日本の有名な人には締め切り破りは追求の的だったけど、海外のセレブは一回で終わりだった。
フォローが上手だったのではなく、文化の違いもあるんだと思う。クリスマスに子どもを一人にすることについて、日本と海外で受け取られ方が違うってエピソードもあるしね。
「……花陽のフォローもしないといけないか」
エマや果林にはラブライブ公式サイトに動画をあげるから、とだまくらかし、優先順位の付け方を間違えるとこうなるって見本図を目に入れてもらった。
ふたりは東雲・藤黄の2つの高校でも、結ヶ丘にも顔が利くので、こういう風にしましょう、って言葉が影響を与える。
「物事の優先順位のつけ方には気をつけましょう……って、結論になるかとかって話だけどね」
二人の中で「将棋って面白い!」って感想で終わったら、ひとまず言葉をかけておくことにしましょう。
「しずくにも謝罪とフォローをしないと」
「絵里さんが一人でお説教を受けるなんてかわいそうじゃないですか」と、あの時になぜわざわざ説教の席についてきたのか理由を教えてもらって――ああ、悪いことしたな、と、気が付かなかったものだから、普段よりも一〇〇倍増しで怒ってしまって。
「……さて、英梨々サンが帰ってくる頃合いかな」
「なんか体を自由に利かなくなる装置とかないの?」と、絵里にいつもの通りに動かれたら困る私は「秋葉原のイベント早くやってよ~」と追求されるのにも飽きたのも手伝い提案。
「その状態の絵里なら勝てる」と言ったら、彼女ときたら「そうね! 痛い目に遭わせるチャンスだわ!」見事なフラグの立てっぷりだった。
いいところ引き分けどころか本調子ではないのに返り討ちに遭い「やっぱりこんな文明の星は滅ぼす!」と言いながらケンタッキーとモスバーガーを食べ、お腹がいっぱいになって満足したのか「滅亡は取りやめ」になったけど。
「今日もどうせ、一方的にフルボッコにされて帰るでしょ、ことりもいるし」
むしろデートの邪魔をされたことりが「二度と口を開けないように糸で縛り付けてあげようか?」とか言って地球滅亡の原因を作ったりしないよね? と不安にもなるけど……。
「この前はケンタッキーとモスにしたから……ピザーラにするかな……地球のデリバリー文化、宇宙人から見ると驚きみたいだし」
「ただいま~♪」
帰ってきた宇宙の帝王(疑わしい)は鼻歌でも歌いそうな機嫌の良さで、はたまたいいことでもあったみたいな笑顔でもあり。
あまりの恐怖に震えて笑みを浮かべるしかなかった――ではなさそうだから、事情を尋ねてみた。
「どうしたの? 何かいいことでもあった?」
「そうなのよ! 聞いて! ついにμ'sが9人揃うかもしれないの!」
9人が集まる機会を避けている――のは、なんかの都合でやってるんだろうな、とは考えていて、英梨々サンが「じゃあその都合を排除すればいいじゃない」と言ったけど「強制的に何とかしようとすると、どうにもならない事態になるわ」と。
人生訓でもある、他人の都合まで何とかして自分の願望を叶えようとすると、とんでもない目に遭ってしまう――因果応報ってやつかな。
人気があったのに業界でいつのまにか仕事がなくなっている人もたいていこれ、長い間人気があるのはすごくいい人ばっかり(仕事面では)
「私ね、真姫が絵里の身体の自由をうまく行かせないって、考えたの、バカなんじゃないかなって思ったんだけど」
「うん」
承知している。仕事をさせないためって、完全に自己満足でしかない、バカのやることだ。
それでも悲鳴じみた言葉を上げるニコちゃんを見ていられなくなったし、凛も花陽もかなりダメージを受けてる――二年生組は人生経験がかなり豊富だから、表面上は平気そうに見えるけど……。
希についてはあえて触れない、そこは絵里がきちんと忠告してくれると思う。
「私はあなただから、花陽の面倒を見るのを任せたのよ!?」
ってニコちゃんにも怒られていたし――や、なんで私が知っているのかは、知っているから知っているということで。
「絵里やニコが9人揃っての活動を避けている理由の排除の為だったのね! すごいわ!」
「……話が繋がらないのだけど」
μ'sが現在のスクールアイドルに影響与える……のは、目の前にいる宇宙の帝王さんにも多少問題がある。
いわばSDSを披露するイベントを彼女が望んでるわけで、μ'sが再び活躍する機会が訪れねば、あの時のことを英梨々サンの望み通りにやらなければいけない。
自分たちがプロではなくスクールアイドルだったからこそ面倒を見てくれる大人がいたけれども、今はそうではない、面倒な処理を全部人任せにはできない――それこそ絵里が放っておくわけがないし、僭越ながら自分も手伝うつもりだ、ニコちゃんも協力してくれるはず。
現実的な都合で「もうあの時のようにμ'sが揃って大きなイベントをするのは無理」なんだけども……。
「絵里がね! 体が動くうちにμ'sのみんなで集まって大きなイベントをやるのもいいかなって!」
「……え? あ、ニコちゃんは?」
「その姿を見たら、すごく元気になっちゃって! 信じられないわ、リア? だっけ、そいつも自分も頑張らなきゃ! とか」
――このまま時間も流れすぎて、あの頃はよかったねと、結論付け、後悔を携えながら生きていくのかと思っていたのに。
今の私はドキドキしている、問題はいっぱいあるし、何とかするためには努力がたくさん必要だ――もちろん、現役のスクールアイドルに与える影響もたくさんある。
「む、無理なはずなのに……都合なんてつかないと思うのに、踊っている未来の自分が見えるわ……」