アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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A-RISEのリーダーがここまでヘタレだとは……

 統堂英玲奈にこれでも飲め、とばかりに差し出されたのがバナナセーキだった。

 突然の呼び出しに「はて、A-RISE再結成のご相談かな?」の期待があったのは隠さない。

 絵里相手には「ささくれができたので痛い」レベルの用事でも呼び出す英玲奈だけど、綺羅ツバサに陳情がある時には自身が来訪するから、御自ら呼び出しをするに期待をするのも無理からぬこと。

 

「この私を呼び出すんだから、呼び出すレベルの用事があったんでしょうね?」

 

 期待半分、不安半分のセリフだった――これが英玲奈やあんじゅの場合「商店街のくじ引きでティッシュが当たったから憂さ晴らしを手伝え」でも呼び出す可能性がある。

 絵里がそんな些細な用事で呼び出したならば「よし、地獄に落ちる準備はいいな?」で、顔面にローリングソバット喰らわせる自信がある。

 

 たとえエマさんが近くにいても「しょうがないよね」と匙を投げ出すに違いない――まあ、絵里はそんな用事で呼び出さないけど。

 

「友人なのに理由がなければ呼び出してはいけないのか?」

「……意外ね? あなたの価値観って、妹とそれ以外くらいしか無いんだと思っていたわ」

「大事なものに関してはそうだな、妹レベルかそうでないかの違いだ」

 

 冗談まじりに言ってみたら、彼女に思いのほかな真剣な口調で咎められ、こちらは意味も無く差し出された飲み物を飲んだ。

 甘ったるい、別に甘いものは苦手じゃないけど、牛乳の代わりに練乳をぶち込みましたぐらいの糖度だ。

 

 正直な話、休日に健康ランドに行くレベルの大したことない内容だと思ってたけど、本当に呼び出してまで何か言いたいことがあったみたいね。

 

「元気そうだな?」

「おかげさまで、絵里よりは元気だと思うわ」

「意外だな、私が元気づけるまではなさそうだ」

「私がへこんでいる時に元気づけてくれたことなんかあった?」

「お前は何でも一人でやってしまう女だよ、つまらん」

 

 結ヶ丘女子高等学校に誕生したスクールアイドル存続のために一生懸命になった結果、年齢に見合わぬレベルで頑張りすぎたがために、長期間の入院を要した。

 

 一度は意識を取り戻してことりさんと会話をしたような……気がするし、一生懸命駆け込んでみたはいいものの退院が決定するまで顔を合わせなかった気もする。

 

 些細なことだ、どちらにせよ結女にスクールアイドルが存続し、部には新しいライバルが増えた。 

 

「いいのか?」

「……言いたいことははっきりと明確に言いなさい、ニュータイプでもない限り、言葉にしなければ相手には伝わらないわ」

「把握している人間の言うことか」

 

 英玲奈が言いたいことは理解している、何を言うかまではわからないけど。

 このままでいいのか、と。

 

 スクールアイドル部の現状が、ではあるまい。

 ではμ'sや切磋琢磨を続けてきた元スクールアイドルが、でもない。

 

 絢瀬絵里と綺羅ツバサとの関係がである。

 

「お前は昔、自分と対等になれるヤツとしか見ていなかったはずだ、どうして恋愛感情を抱いた」

「なに、ここ修学旅行の部屋なの? UTXの修学旅行は海外だったわね?」

「話をそらすんじゃない」

 

 飲み物を口に含む――相変わらず甘い、甘すぎてしょうがない。

 やっぱりこれ牛乳の代わりに練乳が入ってるんじゃないの? 糖度の高さが果物に求められがちだけど、高すぎて砂糖をかじってるような気分だわ。

 

「……A-RISEに憧れて、UTXの入学希望者が増えたのは知ってるでしょ?」

「そうだな、ヒナを見限ってから入学希望者は右肩下がりだ」

「それもある……や、UTXに限ってはそうなのかな?」

 

 スクールアイドル全盛時代――自分達も貢献していると思うし、絵里や穂乃果さんが褒めてくれるほど、全てがそうとは言わない。

 

 スクールアイドルといったらUTXの価値観が鹿角理亞っていう一人の女の子に覆された。

 自分だってできるかどうかわからないレベルの偉業、ラブライブに個人で優勝を果たす。

 第一回目のラブライブ予選なら東京代表にも一人でなれたかもしれないけど、二回目にはμ'sか……もっと前に敗戦したと思うし。

 

 理亞さんにとって幸運だったのがAqoursの頃には予算の関係上、ラブライブが一年に一回になったってこと。

 ……や、UTXがヒナに恩を仇で返すような所業をしなければ、一年に二回のままだったかもしれないけど。

 

「私は……スクールアイドルに憧れるんだったら、A-RISEに憧れるんだって思っていたし、その自負もあったわ、それだけのことをしてきたと思っている」

「何を当たり前の事を言っている? 数が減っただけだ」

 

 そう、数が減った、ナンバーワンではなくなったっていうのが、私はとても許せなかった――その上、もうスクールアイドルではないからその評価は覆せそうにもない。

 

「……どうして私が、絵里に執着していたか知らないでしょう?」

「自分と対等になれるやつだからじゃないのか?」

「それだけなら、あなたもあんじゅも含まれるわ。あまり自分のことを謙遜しないでくれる? よく思っている私が恥ずかしい」

「……すまないな」

 

 スクールアイドルといったらUTX――もちろん、その評価は理亞さんが出てくるまで覆されなかったけど、もっと前からUTXの入学希望者は微増に留まっていた。

 A-RISEが卒業したからとお偉いさんは考えていたようだけど、多くのCMと広告で「微増」を保っていたに過ぎない。

 

 μ'sに憧れる生徒は――まあ、そこそこいる。雪穂さんや亜里沙さんに憧れる人も、以降にオトノキで結構いいところまで行く人にも……UTXよりもオトノキの世代交代は順調に進んでいる。

 

 ニコさんの弟さんが入学してUTXは盛り返す兆しが出てきてるけど、あのグループでラブライブの優勝は出来ない。

 

「許せなかったわ、A-RISEは三年間一生懸命頑張ったのに、ポッと出のμ'sがスクールアイドルといえば、と称されることが」

「お前は意外とひがみ根性があるな」

「知ってる」

 

 人様から言われるほど優等生はやっていないつもり、心の中では意外と嫌な事も考えている。

  

「さらには、単独でラブライブ優勝ですって? ……正直ね、自分のやってきたことは何だったんだ、って思った」

「SaintSnowがいた高校には、まだ入学希望者が押し寄せてくるそうだな、結構なことだ」

 

 甘いバナナセーキのおかわりが来た、頼んでもないのに来たのは、マスターからのサービスらしい。

 どこの世界にサングラスをつけてスーツを羽織って腕を組みながら接客に赴く人間がいるのよ、もうちょっと巧妙に化けなさいよ。

 

 絵里のときはちゃんと女の子の店員がいたって聞いたわよ? ダイヤさん手を抜いてるんじゃないの?

 

「一人で酒を飲んでた、函館の高校に入学希望者が殺到してるって聞いてから、いてもたってもいられなくなった」

「そうだな……私は正直、その時にA-RISEは解散するべきだろうなと思っていたよ」

「活動休止よ……間違えないでちょうだい」

 

 ホテルの一室にお酒を大量に持ち込んで、アテをつけるでもなく、とにかく飲んでいるその時だった。

 

「ほら、ホテルの上階って自殺防止だか何だか知らないけど、開けられないようになってるじゃない」

「そうだな」

「外から開けて入ってきたのよ、絵里が」

 

 英玲奈が怪訝そうな表情をするけど嘘は言ってない、嘘みたいな出来事なのは百も承知だ。

 ホテルを巻き込んでのドッキリも考えたし、カメラがどこかにないかも探して――絵里は一緒に探してくれた、オマエのせいじゃないかとツッコむ余裕もなかった。  

 

「寂しそうにしてると思って……バカじゃないの?」

「あいつはやっぱり人間をやめているな、そういうエピソードが枚挙にいとまないんだが……」

 

 ことりさんが海外で困ったことになっていると聞きつけた時も「わかった、ちょっと行ってくる」と飛び出していったし、真姫さんに泣きつかれた時も「わかった、やってみる!」と言うし。

 

 ニコさんは知らないけど、UTXに彼女が講師として呼ばれたのは、私と絵里で「もしも彼女が芸能界を引退する機会があったらよろしくお願いします」と頭を下げた結果……だと思うし。

 

「その時にね、思い切って言ってみたわ。A-RISEって……綺羅ツバサってなんだったのかなって」

「言いたくなければ構わないが……何と言った?」

「ナンバーワンだって」

 

  英玲奈もあんじゅも一緒のA-RISEがやっぱりナンバーワンにふさわしいと思う。

 

「あなたたちはナンバーワンで唯一無二、ただ一人の替えのない存在、そしてA-RISEはラブライブの歴史の中で一番最初に記される……私たちやAqoursやSaintSnowの名前がなくなったとしても、A-RISEは始祖として残り続ける……羨ましい」

「ハハっ、バカなことを言う女だ……そうか……私たちが羨ましいか……アホなやつだ」

 

 前置きがちょっと長かったけど、絵里から「羨ましい」と言われた瞬間に「私は馬鹿なことを考えてた」と気がついた。

 

「それで、羨ましいと言われた瞬間に、あーこのひとちゅきーに、なったわけか単純な女だな」

「悪い?」

「いいんじゃないか、少なくとも……私らに言えない言葉だ……それで、綺羅ツバサに関しては?」

「……言わなくちゃだめ?」

「いや、もちろん、言いたくなければ構わないぞ、思い出にしたいこともあるだろう?」

 

  英玲奈は何か誤解をしている――や、その想定はないって、話なのか。

 

「……あなたが一生隣にいてくれれば、人生で飽きが来なくて済むわね」

「おい」

「……答えは待って欲しいって言っちゃった」

 

 英玲奈は私の飲んでいた飲み物をひったくり、グビグビと勢いよく飲みをしてから。

 

「甘すぎるわ!!!!」

 

 ――ええ、絵里が未だに答えを待ってくれているのも含めて、つくづく甘い女だと思う。

 

 

 絵里が退院してから落ち着いたように見えるのは……こういった事情もあるのかもしれない。

 相手の告白を受けようかどうしようか迷っていたら、その相手が生死の淵をさまよい、へたをしたら一生そばにいられなくなることにも。

 

 だから、退路は断たれた……だって、へたをしたらそばにいられなくなるかもしれないんだもの、だったら覚悟を決めるしかない。

 

 ――英玲奈に呼び出された時には、そう、決意していたんだけども。

 

「あー、やっぱり好きすぎて口にするのが怖いわ……」

 

 絶対オーケーくれると思うと余裕も出てくる――穂乃果さんから「余裕がありませんか?」と言われるのも、その辺りから来てる。

 

 でも口にするのは怖い、何かイベントでもあれば……。

 

 

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