アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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鹿角理亞は急いては事をし損じる

 正直な話、絵里さんやツバサさんの語られる失敗談は、自分ほどではないと思う。

 

 例えば、野球選手が160キロ越えの速球を打ち損じてファールにするのは失敗かそうではないか。

 

 ツバサさんが「バッセン行こうぜ!」と、絵里さんを中心に運動が得意な面々を集め「どうせなら一番速い球を打とう!」となったイベントがある。

 

 軽く人間をやめている二人がトスバッティングするみたいに打つんだろうな、と思いつつも「空振りするのが怖いんでしょ」と煽られ、スクールアイドル部の指導があったのにすっぽかし、ニコさんから「社会人になんだから考えなさい」とめちゃくちゃ怒られた。

 

 「はい、申し訳ありません、二度とやりません」と言ったら「ツバサさんの用事だったらそっちを優先するのが当たり前でしょ! 一言断ってから行きなさい!」と、微妙に釈然としない想いを抱きつつ、内心を悟られないように気をつけていたら「あなたは顔に出やすいわね」と、一目で不満を見抜かれた。

 

 ……このイベントでは、ニコさんの語るとおり「一言断ってから行けば良かったのか」「スクールアイドル部の指導を中心にすべきだったのか」「ツッコミどころがありませんか? と指摘をするべきだったのか」未だに判断がつかない――が、それは本題ではないので、ひとまずスルー。

 

「速い……」

 

 真昼間だったので、平日に仕事が休日な男性がちらほらと見える程度で、わいわいがやがやとおしゃべりしながら入った我々はさぞかしふざけて見えた――に、違いなく。

 

 小さいくせに偉そうなA-RISEのリーダーが「一番速いのはどこですか?」と営業スマイルで聞き出したら、アルバイトと思しき店員は実に嫌そうな顔をして、アチラです、と指を指した。

 

 が、この手の対応に手馴れているのか、ツバサさんはひとつも気分を害した様子もなく、海未さんもこめかみの辺りに青筋を立てながら微笑み、曜さんも「ストレス解消に行くでありますよ」と、エアボクシングで対応した――今まで、あまり表情を変えることがなかった彼女がはっきり感情を出すようになったのは、デザインに集中するようになったからかな。

 

 ともあれ、絵里さんが「とりあえず見てこい」と言われ、ヘルメットをかぶり、バットを構え180キロを体感することに。

 

 感想は、上記の通り「速い」の一言しかなく、 ピッチャーの映像が流れる画面があるところから「ガコン!!」と大きな音が聞こえた瞬間に、絵里さんの後ろの金属部分にボールが当たった。

 

「へえ」

 

 絵里さんが何かを言ったのか分かったけど、私の耳に入ったのはツバサさんの感心するような囁きだった。

 あまりの速さにたじろいだ様子の海未さんは「手を怪我するといけません、レベルを落としましょう」と曜さんを誘って、120キロのゲージに入って行った――

 

 120キロをかっこんかっこんゴルフの打ちっ放しをするみたいに遠くへ飛ばし、曜さんはその後に140キロに挑戦、二人してギャラリーを集めて盛り上がってた。

 

 誰一人我々の近くに寄って来なかったのは、無理からぬことだと思う。

 詳細は以下に記す……私にとっては恥ずかしいエピソードではあるんだけど。

 

 二球目のボールをバットを微動だにさせずに見送り、三球目をバットに当てた、後ろの金属がガシャン! と先ほどよりも大きな音を立てて、遠くのギャラリーから「オォォォ!」どよめきが起こる。

 

 近づいてはこないけど見られているのは知っていた「アレ、綺羅ツバサじゃね?」「本物よりちっちゃくね?」と、会話をしていた二人組は死んだなって勝手に思ってるけど。

 

 十球のうち前に飛ばせたのは最後の一球だけで、実に不満ありありな表情を浮かべたまま「まあ、上々」とつぶやく、声には怒気が含まれていて、お手洗いに行きたくなった。

 この時素直にお手洗いに行っておけば、後々、あの三人の中では自分が一番出来が悪い、と自覚せずに済んだのに。

 

「……へぇ」

 

 ツバサさんは初球から当てた、素振りの時点で「あの人って元アイドルなんだよな?」と、スカウトも惚れ惚れしそうな速さのスイングだった。

 

 ケド、私が耳にした絵里さんの小さな声が底冷えするような恐ろしさで、明らかに悔しがっているのがわかった――「やっぱりアレ綺羅ツバサじゃねえよ」「そうだな」と言っていた二人組の気持ちは痛いほどよくわかる。

 

 が、前に打球が飛んでいかない、空振りをしない時点でおかしいんだけど、 六球目くらいから絵里さんが楽しそうになってきた、ツバサさんに焦りの表情も見えた。

 

 九球目に打球が前に飛び、最後にバントを決め「前に打球が飛んだ回数は私の勝ちね!」と、胸を張る、トップアイドルとは思えないずるっこだけど、絵里さんは「私の負け」と素直に賞賛していた。

 

 ……正直な話「うわぁ、セコいな!」と思ったし、アレでいいなら、私も三回くらいバントすればいいんだよな、と。

 

 そんな余裕は素振りを何回かして、よし、と思った瞬間にボールが通り過ぎて崩壊した。

 

「あ?」

 

 人生の中で弾丸が自分の横を通り過ぎた経験はないけど、似てるのかなって思った。

 かすっただけでどよめきが起こるんだ、コレは、それくらい当てるのが難しいってコト。

 

 こんなのを絵里さんが打っている間にタイミングを計り、初球からかすったツバサさんは人間をやめている。

 前に飛ばすだけでもおかしい、加えてバントをきちんと決めるのだっておかしい――私がやったら、バントをする姿勢のまま、ガシャン! って金属が大きな音を立てるだけ。

 

 目をつぶって振ったら一球くらい当たらないかな、と、十回振ったけどかすりもしなかった、恨めしそうに地面に転がった球をにらみつけることしかできなかった。

 

「まあ、鹿角理亞ならこんなものよね」

 

 と、ツバサさんに言われ、

 負け惜しみで「ゴリラだから前に飛ばせるんじゃないですか?」と返答――そんなイベントを、絵里さんが倒れてから無気力になり、仕事も放棄して昼寝ばっかり繰り返してたある日――絵里さんが退院してことりさんと学園の選挙活動の様子を見に行った日に思い出した。

 

「アレは……もしかして期待していたの?」

 

 私ならやってくれるんじゃないか、海未さんや曜さん相手には「怪我しないように」と声をかけていたし。

 素直な言葉じゃない、耳に入れて簡単に理解できる言葉じゃない、それでも取るに足らない相手なら「そんなものよね」の発言すら出てこない。

 

 そうだ――少なくとも、μ'sのメンバーで「そんなものよね」「それくらいよね」と煽るのは絵里さん相手だけで、他の人をそんなふうに言っているのは聞いたことがない。

 

「何やってるんだ私は! やらなきゃ! 失敗すらできないじゃないか!」

 

 布団から飛び出し――髪の毛を整え、荒れていた部分は化粧でカバー、服装を整え、それなりに見える格好をする。

 人から見られた時にどう感じるかを意識するのは久しぶりだ、ここ数年来なかったと思う……スクールアイドルをやってた時以来だし。

 

 どんな感じに見えるか――考えている間に暗くなり電気をつけ、ああでもないこうでもない一人で悩んでいると、姉さまが天井から振ってきた。

 

「……何をしてたんです?」

「姉の必須スキルです」

 

 何らかの経路から私の部屋に入り、天井に張り付きながら様子を伺い、タイミングが合ったから降ってきたということ?

 

「あなたは失敗に気がつきました、それでようやく……失敗をしたことに意味ができます」

「姉さま」

 

 感極まって涙がこみ上げてくる、ずっとずっと自分が失敗に気がつくのを待っていてくれたのだ――

 

「何度でも失敗しなさい、私も失敗します、なんてことはありません、失敗など取るに足らないのです――失敗を恐れて何もしないことこそが、失敗にくじけて何もかもやめてしまうのが……何よりもやってはいけない失敗なのです――いいですね?」

 

 頷く――そしてお腹が空いていたことに気がつく、最近、食べているのかいないのか、現実世界が夢現みたいなところがあったし。

 

「なんだか騒がしいですね?」

「はい、何かあったんでしょうか?」

「理亞が可愛らしくなった……と、言っているのならば、姉として胸を張れるんですけど」

「姉さまはいつも綺麗なので、私はいつも自慢できます」

 

 と、姉妹でほのぼのとしている時間はあっという間に終了した――絵里さんが「もう一度μ'sやる」と発言し、皆が色めき立ってるのを観て、 姉さまは……とても辛そうな表情で、私の視線に首を振りました。

 

 

 

 ――なんて話で切なく終われば、 私はおそらくA-RISEに喧嘩を売らずに済んだはずでした。

 

「あなたねえ! 九人で活動するなんて誰が許したと思ってるのよ!」

 

 ニコさんがめっちゃ嬉しそうな表情のまま、絵里さんに怒鳴りつけている、死ぬほど説得力がない。

 

「許可を取らなくてもやってくれると思って」

「穂乃果か!!!」

 

 今までスクールアイドル部の指導をサボっていた私を見ても、一瞥すらせずに「許可なんてもらえると思ってないでしょう!!」と、言いながら笑っている、顔だけ見てると許可を出したとしか思えない。

 

「まだ誰にも許可とってないでしょ!」

「ことりは許してくれたわ」

「あんたねえ!!!!」

「え~? だってぇ、九人が二度と揃わないまま絵里ちゃんがくたばったら嫌じゃん~♪」

 

 あれは二の句を継げない、ニコさんが「ぐっ!?」と、アゴに竹刀を突きつけられたみたいに急停止する。 

 

「許さない! 絶対に許さないからね!」

「まあまあ」

「ええい触るんじゃない!」

 

  あそこだけ見てると高校生の集団みたいだ、誰も彼も異様に若さを保っているから、そう見えるのも仕方がない。

 

 と、そんな元μ'sのからみをボーッとした調子で眺めていたツバサさんが私たちに気がつき、面白そうなものでも見たと言うがごとくに目を細め、ゾワゾワと背中が震えた。

 

「ねえ、μ'sの皆さん」

「あら、A-RISEのリーダーさん、どうかしました?」

 

 ちなみにツバサさんは「元A-RISE」とか「元A-RISEのリーダー」って呼ぶと怒る「元じゃない、今もなおA-RISEはここにいる」と、めっちゃ怒る、怖いくらい怒る。

 

 だいたいみんなツバサさんって呼んで済ませてしまうけど、絵里さんはちゃんと「A-RISEのリーダー」って呼ぶし、なんなら薫子さんも「神様」として敬ってもいる。

 

「私、その人と結婚することにするから」

 

 その人、と指差された人が一番驚いてた、だけどさすがは絵里さん、いつもと変わらぬ調子で。

 

「分かりました、では日程は追々」

「ええ、返事が遅れてごめんなさいね?」

「いいえ、促したことなかったし……酒の席での話だったから、冗談として受け取ったかなって」

「一世一代の愛の告白の返事を保留していた私が悪いのよ」

 

 めっちゃ”返事”を強調していた、お前らの出る幕じゃねえんだよ、と。

 

「ピィヤァァァァァァァ!!!!!」

 

 ことりさんのホイッスルボイスであたりは混沌に包まれた――誰も彼も、日本では同性婚は許可されてないとツッコミを入れることすらできなかった。

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