アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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葉月恋ちゃん番外編

 ジェットコースターに乗ったことがありません――と、語ると「そ、そう」みたいな反応をされますが、家族関係が不仲とか、休日にどこかに出かける余裕もなかったわけではありません。

 

 かのんさんは少々誤解をされているようなので「実家が喫茶店ですけど、休日に出かける余裕はあるのですか?」と逆に問いかけてみる。

 彼女は困ったように左の人差し指で頬のあたりを撫で「が、学校を休んで連れて行ってもらったことはある」――自営業だと、一般的な休日は書き入れ時で仕方もなく。

 

「今は大きくなって友達と出かける余裕も……親の苦労も分かるようになってきたよ」

「かのんさんは喫茶店でめまぐるしく働いていて、Liella!にいる時もご活躍されてますが、違った一面も覗かれますね」

「普通だから、実家が自営業ってだけで、珍しいことじゃないから!」

 

 「まんまる」のあまりの可愛らしさに自営業――で、なくなりかけたそうですがことりさんが周りの方々に怒られたので、今もなお、オーナーはかのんさんのお母様ということになってます。

 

 この時は「でも、千砂都さんの失言で買収騒ぎが起こるかもしれませんね」と、冗談半分で言っていましたが、幼なじみのかのんさんですら「ちぃちゃんは思ったことを口に出しちゃうからね~」と苦笑いしたのが、よもやジェットコースターイベントに繋がろうとは……おそらく、神様でも分からなかったことでしょう。

 

 

 

 ピシリ、と空気が凍る音が聞こえた時、私はエマさんの太ももに頭を乗せてまどろんでいました――優木あんじゅさんが「そういえばツバサの太ももって硬そう」との発言から、誰がスクールアイドルで一番膝枕が上手か選手権が唐突に始まり。

 

 「そこの丸太よりマシ」と、相変わらずキレキレの悪口をツバサさんが理亞さんに投げつけ「ここが彼岸島じゃあ!!」と、飛び蹴りの応酬。

 「あ、この絵面は仮面ライダーで見たことある!」と絵里さんが囃し立て、何人か不戦敗になりましたが。

 

「言っておくけど負けるつもりはないわ」

 

 普段、ランジュさんはエマさんの膝枕で眠ることもあったり、大の仲良しではあるんですが、この時は「アタシは勝負となれば負けるつもりはないの」と、 フフン、と自信ありげに胸をそらしていました。

 

 膝枕が上手かそうでないかでスクールアイドルの優劣が決まるとは思いませんが、この、とにかく負けたくないとの思いがランジュさんの強さにも繋がるんでしょう。

 ただ、勝負は非情でした――ミアさんに「エマ」とあっけなく言われ、栞子さんにも「エマさん」と判定され、私が三人目の審査員でした。

 

 膝枕の優劣とは一体……と、胸の中に腑に落ちないものを抱えつつ、ランジュさんの太ももに頭を乗っけると、あ、これは素晴らしい、と実感しました。

 同い年かつ、同じスクールアイドル、ランジュさんのステージを見上げる機会も多くあります。

 パワフルなパフォーマンスと、他者を圧倒するようなカリスマ性、こちらを引っ張ってくれるような心の広さ。

 

 これでいて4月の少し前からスクールアイドルを始めた新人だから驚きます。

 実力の向上のコツを聞かれて「アタシは誰にも負けたくないから」と応じていましたけど、クオリティアップのスピードといい、才能という言葉が思い浮かびます。

 

 ……なんですけど、デメリットとしては学生として補習の常連になりつつある点、学園の理事長から「もう一度一年生やる?」と、夏休み前に言われています、明らかに目が本気でした。

 

 ――さて、そんな、もうすでに留年の危機に陥っているランジュさんの太ももに頭を乗っけて、エマさんの膝枕に頭を乗せると「あ、これが、枕の違いにこだわる大人のマインド!」と……正直、頭を乗せてからしばらくして意識が朦朧としました、気持ちが良すぎるのです。

 

 「あ、寝る、このままだと寝てしまいます……」とまどろんでいた最中、千砂都さんが「え? ってことは、海未さんもしかしてニートなんですか?」

 

 ことりさんにも「じゃあもうオバサンってことなんですか!?」とうっかり口から出してしまい「今度言ったら八つ裂きな」と脅迫されてましたが、 同じレベルの失言です。

 

 間違えてはなりませんが、海未さんは全世界レベルの作詞家でもあります。

 世界のヒットチャートに毎年のように名前を連ねる歌手が「何とかして、ウミ・ソノダに英語で曲を書かせろ」と言ったっていう都市伝説もあります。

 

 もちろん日舞の師範として指導をする機会にも恵まれ、弓道界ではいまだに「競技に復帰しませんか?」と誘いがかかる。

 二つに集中していないのは「頼むから作詞をしてくれ」と人が押し寄せるからだそうで、まかり間違って怪我でもしたら大変、と止められているとか。

 体を動かす機会を望んでいるみたいで、ツバサさんや絵里さんが「よし、なんかスポーツしよう!」と連れて出るイベントの出席率はほぼ100パーセント。

 

「千砂都、あなたはどうやら的の代わりになりたいみたいですね?」

 

 普段から家にいて作業をすることが多いという言葉を、ニートと表現されればさすがの海未さんも気分を害したようで、慌てて立ち上がった私と、幼なじみのかのんさんが「連帯責任! 連帯責任!」とLiella!で罰ゲームを受けることを約束し――このイベントに出席してなかった、後日にクゥクゥさんとすみれさんに恨みがましい目で見られてしまいました。

 

 

 

「どうも皆さん……何やら私とドライブに行きたいとか」

 

  集合させられた場所に登場したのは鹿角聖良さんでした――罰ゲームの内容はLiella!である私たちには伏せられ「どんなに恐ろしい内容が……」とクゥクゥさんが言い、すみれさんも「……」 とにこやかに微笑んでいました……そこはキャラ作りで「ギャラクシー云々」と言って欲しかったです。

   

 穏やかな調子ですが、憤懣やるかたない想いは抱えているのだ――と、一発でわかりました。

 

「最近、歩絵夢からもトラクター以外では運転禁止を言われてましたからね……腕が鳴りますよ」

 

 ちなみに聖良さんの運転の腕前は自分達も知るところ、本当かどうかはわかりませんが、カーブを曲がりきれずに崖から転落した――や、さすがに、それで五体満足でいるとは思いません。

 

 それが気になったのかかのんさんが「ちぃちゃん」と、声をかけ、千砂都さんは「ええ!?」 的な表情をされますが――誰のせいでこうなっているのか、疑問の余地がありますからね?

 

「あ、あの、崖から転落したって話を聞いたことがあるんですけど」

「ありますよ? 車が古かったですからね」

 

 誰しもが「車が古いかどうかは関係ない、腕前が良いか悪いかしか問題じゃない」と、頭に思い浮かびましたが。

 

「まあ、私たちは無事でしたからね」

「……私たちは?」

 

 車と運命を共にしていたら、もちろんこんな風に顔を合わせる機会はありません……なんてことはないふうに「落ちる前に妹を抱えて脱出しましたからね」とロボットもののパイロットみたいですが……。

 

 

 ――助手席は満場一致で千砂都さんに決定しました「死にたくないよ!」と彼女は言いましたが、私達だってそうです。

 

 車に乗り、シートベルトをつけて、名残惜しそうな調子ですみれさんが空を見上げているから「……どうしました?」と声をかけると「これが、最後に見上げる青空だったら後悔するから」と。

 

 話を聞く限り、最後の青空になる可能性もあります――もしかしたら、五人一緒に車と運命を共にして「結ばれた想い」とか、テロップで出てくる可能性もあります――斬新な演出です、勘弁してください。

 

「じゃあ、出発しますからね」

 

 鉄砲から弾丸が飛び出るみたいに勢いよく出発した車の中で、私たちは慣性の法則にしたがって、シートベルトに締め付けられました。

 

 この運転では周囲に車通りが多かろうが少なかろうが、まず間違いなくクラクションは鳴らされます。

 誰しもが危険を感じたのでしょう、ブブー!!! とテレビでしか聞かないような不愉快な音の連続です。

 

 しかし聖良さんは聞こえているのかいないのか、まるで意に介さず赤信号ですら突っ切って行きます、緊急車両ですらこんな運転はしません。

 

 「なんまいだぶなんまいだぶ……」「神様! 神様!」と、すみれさんとかのんさんが願い始めました、クゥクゥさんも中国語で何かを言っています――ごめんなさい、私には何を言っているのかさっぱり。

 

 千砂都さんは壊れ切ってしまったのか「しゃー!!! どんどん行けー!!」と、煽っています、あそこまで開き直れるといいのでしょうか。

 

 

 外の景色が自然が多くなっていき、急カーブが見えた時に嫌な予感がしました――あるじゃないですか、なんか、すごく危機的状況が迫っている時に、すごく冷静になってしまう瞬間。

 嫌な予感っていうのが、自分に起こる未来だと確実視してしまうみたいな……冷静に、あ、わたくし、死ぬんだ、ああ、なんてあっけない。

 

「イヤァ!? パパ!? ママ!? 助けて! 死ぬのなんて怖い! 死なんて来ちゃ嫌!!!」

 

 ――そう、叫んだ。

 

 

 

 

 

「……という、リアルな夢を見たんですよ」

「「「「……って! 夢なんかい!!!」」」」

 

 ここ最近に体験した怖い話、とのお題でトークを振られ、Liella!の皆さんに披露したエピソード……夏といえば怪談ですが、正直私はその手の話が苦手です。

 

 

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